四章七幕=安堵=
「!?」
そんな動揺する俺の考えを知ってか知らずか、十秒ほどそのまま唇を重ねられたあとに解放される。ただ俺の心臓はばくばくとしているし、なんなら顔もかなり真っ赤だ。
「な、なななな」
「……私も接吻って初めてだけどけっこう恥ずかしいものね」
対する響さんも顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっており、さっと着物で顔を隠す。というか、響さんも初めてだったのか。
「き、急に何を……」
「だーかーら! 好きでもない、大切でもない男にこんなことをしてあげるわけないんだから
恥ずかしい、と言って響さんはゴロゴロとその場で悶え始める。
え、えっと……なんというか、その。
「ひび姉だけずるいです……」
「千代さん? そりゃどうい……んむ!?」
不意打ち気味に千代さんからも唇を奪われた。
信じられない体験が二度続けて行われたことによって、俺の脳みそがオーバーヒートをおこしそうになっている。
「えっと、二人ともどうして急に……」
「二度も同じこと言わせないでくれる!? 龍臥くんが大事だし好きだからよ!」
「私もひび姉と、その……いえ、隠さずにゆえば主人様に恋慕の感情をいだいておりまして……」
響さんはさらに「もーこの鈍感やだー!」と叫び、ぽ、と千代さんは顔を赤らめる。
「え、えと……その……あ、ありがとう?」
「なんで疑問系なのよ! 素直にありがとうだけでいいのよ!」
「は、はい!」
思わず背筋を伸ばして返事をする。
……どうにもこうにも、俺のテンポが狂わされる。
なんなんだ、この人たちは。こんなに優しくされるなんて、俺は……こんなに幸せを味わっていいのだろうか?
「いいのよ。誰しも幸福になる権利はあるし、それを邪魔する権利もない。というか、龍臥くんはここまでの過程で不幸が多すぎたのよ。少しは贅沢を求めても文句なんて言わないし、言わせないわよ」
「響さん……」
「それには私も同感です。主人様の過去は私たちの想像を上回る辛さがあったと思われます。だから、報われてもいいではありませんか」
千代さんもボロボロ泣きながらギュッと俺の服を握る。
……この子は忍者だというのにこんなに感情が豊かでいいのだろうか、と思う同時に嬉しくも思う。
「果報者だな、俺は」
「そうよ。自覚できたようで何よりだわ」
「ありがとう、響さん。千代さん」
少しだけだが、自信を持って前に進める気がした。
二人を抱きしめ、嬉しさから自然と目からは涙がこぼれていた。
「泣き虫ね、二人とも」
嬉しそうに言う響さんの声が、耳に残った。




