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第05話 やとうなかまを きめました


「じゃーん! ここが傭兵管理登録センターだよ」


宿を出て約2時間。

俺達は傭兵管理登録センターに到着した。


本来であれば、10分ぐらいで到着する距離なのだが、ユクロヴァーさんがまだこの街に来たばかりとの事なので、街の皆が集まる大きな居酒屋から街を一望できる高台まで、ありとあらゆる場所を案内していた為に、こんなに時間がかかってしまったのだ。






「へぇ、これが傭兵管理登録センターか……何か思っていたのと違うな」


“傭兵管理”と言うぐらいだから、禍々しい雰囲気の建物を想像していたのだが––––


「そうですね。私も物騒な所だと思っていたんですけど……別にそんな感じではないですね」


––––ユクロヴァーさんの言うように、傭兵管理登録センターは極々普通のどこにでもありそうな白塗りの建物であった。



ここ、傭兵管理登録センターには、雇ってくれる人やパーティーを探しているフリーの冒険者の名前や職業や経歴等のプロフィールが登録されており、もしその中に雇いたい人がいれば紹介料をここの主に払う事で、その人の住んでいる部屋(センター内に宿のような個室があり、お金を払って泊まっているらしい)を教えて貰い、本人と会って直接雇用条件を話し合って上手くまとまれば無事契約となるんだとか。


ちなみに、もし契約が上手くいかずに破談となってしまった場合にはちゃんと紹介料は返ってくるらしい。

当たり前の制度なのかもしれないが、手持ちが少ない俺にはとても助かる話である。



なぜ、そんな場所に俺達が来ているのかというと……もちろんギルドで冒険者を雇う為である。


エリアス曰く、ギルドには大きく分けて二種類あるらしく、一つはモン○ンなどでお馴染みの「依頼人と受注人の仲介役を担う」のタイプ。

そしてもう一つが「ギルドがパーティーを雇い、そのパーティーに依頼人からの依頼を受けさせる」タイプ…………なんだそうだ。

後者のタイプは初耳である。




当然、前者後者共にメリット デメリットは存在し、前者のメリットは「受注人への報酬金を自由に決める事ができる為、利益を得やすい」点。デメリットは「もし依頼があったとしても受注人が必ず現れるとは限らないないので、収入が不安定である」点。

また、後者のメリットは「受注人が常にいる状態なので、収入が安定する」点。逆にデメリットは「月給制なので、依頼がなくても必ず給料を払わなければいけない」点。


基本的にどこのギルドもこの二つのタイプを採用し、お互いのデメリットを軽減しあっているんだとか。


いやー、社会ってうまい事できてるよな、ホント。




などと、今更ながら社会の仕組みに感心しつつ、俺は建物の中に入って行くのであった。








「え~っと……誰を雇えばいいんだ?」


受付にいたおじさんに冒険者のプロフィールやその人の似顔絵等が書かれたファイルを渡された訳なのだが……。

正直言って、どんな種族のどんな職業についている人を何人ぐらい雇えばいいのかさっぱりわからない。


種族は置いておくにしても……職業はベタに剣士 魔法使い 僧侶と言ったところか?

それとも人数削減の為に、剣士と魔法使いの代わりとして魔法剣士を雇えばいいんだろうか? でも、魔法剣士は器用貧乏だしなぁ……あくまでも地球にいた頃によくやったRPGゲームでの話だけど。


ゲームとは違って、こっちは俺とユクロヴァーさんの生活が掛かっているからな……慎重に選ばないと……。



と、一生懸命にファイルを読み込んでいると––––


「あの~、コウノイケレンさん。この人とかどうですか? 物凄く強そうですよ」


––––ユクロヴァーさんが自分の持っていたファイルのとあるページをこちらに見せてきた。


「ん? どれどれ……? ああ、確かに強そうだね」


そのページで紹介されていたのは、キーンツルさんと同じ狼男だった。

どこか優しげで愛嬌のあったキーンツルさんとは違い、その人の似顔絵はいかにも「狼」と言った感じの鋭く冷たく尖った雰囲気を醸し出している。一匹狼ってまさにこういう雰囲気の人の事を言うんだろうな。


それにしても……狼男って体全体毛むくじゃらだし、表情も読み取りにくいから、外見だけで見分けなんてつかないと思っていたが……意外とそうでもないんだなぁ。



…………って、そんな事を考えている場合じゃなかった。

この狼男を雇う事で、ギルドにとってプラスに作用するかどうか、真剣に考えなければ……。



「ちょっと借りるね」


「はい。どうぞ」



俺はユクロヴァーさんからファイルを借り、その狼男のプロフィール等を読み始める。


「えーっと……名前はバルトロメウ・ディアス。剣士。歳は26。メッテルニヒ生まれ。18歳の時にゲルフ軍事学校を卒業。そのまま軍で………………あー……」


途中まで読み、ファイルから顔を上げる俺。


そうだった。すっかり忘れていた。

俺、この世界の事––––特に地理系を未だによく理解してないんだった。


だからこのゲルフ軍事学校っていうのが凄い所なのかどうかさっぱりわからないし、そもそもメッテルニヒがどこなのかもわからない。国内である事は薄々予想はつくんだがな……。



当然、こんな調子では評価なんて全く下せない訳で……。



「なあ、エリアス。この人、ギルドで雇うのに相応しいかな?」


結局、エリアスに聞くはめになってしまった。うう、情けない。



今はこれでいいかもしれないが、エリアスがいなくなったら完全に立ち行かなくなるぞ……。ちゃんと勉強しなくちゃな。



「ん? この……えーっと、バルトロメウさんって人?」


「そうそう。この人」


「ん〜……ゲルフ出身かぁ……。だったらなかなかの腕利きだと思うよ。でもね、レン」


「うん?」


「いきなり亜人を雇う必要はないと思うな。基本的に亜人との契約金や紹介料は人間と比べて高いからね」


「どれどれ……うわっ、本当だ。高っ!」


前のページに載っていた人間の剣士と見比べてみると、狼男の方が人間よりも紹介料が倍以上高かった。

まあ、この人間の剣士が大して凄くないから紹介料の差が広がっているのかもしれないが、亜人が別格である事は確かだ。……亜人、恐るべし。



「でしょ? そんなにお金に余裕がある訳じゃないんだから、人間でいいと思うよ」


「なるほどなぁ。ついでに聞くけど、どんな職業の人を何人ぐらい雇えばいいと思う?」


「魔法使いが1人いれば十分だと思うよ」


「1人?」


1人で十分って……まさか……1人で湖に向かわせるつもりか?


いやいやいやいや。

いくら資金が少ないからと言って、しわ寄せを人に押し付けるようなブラック企業を運営するつもりはこれっぽっちもないぞ?




「うん。だって、もう既にメンバーが3人そろってるんだよ? 1人で十分じゃん」


「3人? それって、もしかしなくても……」


エリアスの言葉を聞き、背中に嫌な汗がつーっと流れる。

3人って……もう、何だか嫌な予感しかしないぞ。



「うん。もしかしなくても、ボクとレンとユクロヴァーさんだよ」


「いやいやいやいやいやいやいや! ちょっと待ってよ!」



俺は慌ててエリアスに詰め寄る。

いや、予想はしていたけどさ……。


どうして俺がそんな危険な事をしなくちゃいけないんだ!

エリアスはレイピアの扱いに長けているし、ユクロヴァーさんは何らかの魔法が使えるからまだしも……。

俺はどこにでもいる至って平凡な人間である。地球からこっちの世界に飛ばされて来たからと言って、別に特別な能力がある訳でもない(もしかして……と思い、スライムが出る近くの森に武器を片手に行ってみた所、見事にこてんぱんにされた)。


2人について行ったところで、足を引っ張り回してしまうのは目に見えている。

それに自分の身を守れるかどうかすら危ういのだ。




「ん? どうしたんだい? レン。……ああ、大丈夫。ボクは報酬はいらないよ。この件に関してはボランティアで––––」


「いや、そこじゃないから。確かにその心遣いは嬉しいけど、そこじゃないから」


「じゃあ何だって言うんだい?」


「いやいやいや。どうして俺が当たり前のようにメンバーに入っているんだよ」


「そりゃあ、節約の為だよ」


「まあ、確かに節約は大切な事だけど……俺が行く必要はないんじゃないか? 行ったところで、邪魔になるだけだと思うんだが……」


「大丈夫大丈夫。とりあえず今回は実際に現地に行って、情報収集。あわよくばついでに解決しちゃおう––––みたいな感じだからさ。邪魔になる事はないよ。まあ、最悪の場合は壁か囮になって貰うけど」


「壁に……囮って……」


それに依頼解決に向けての方針もしっかりと決めちゃってるし……いくら俺が無知であるから仕方ないとはいえ、これじゃあ完全にエリアスがギルドマスターじゃないか。しっかりしろ、俺。



「それは流石に冗談だけど、情報を集めるのに人が多くて悪い事はないからさ。頼むよ」


「まあ……それもそうだよな。よし、俺もついて行くよ」


それに仮にも俺はギルドマスターなんだから。みんなの命を預かる事になる身なんだから。

みんなをグイグイと引っ張って行くぐらいの気持ちを常に持っておかないとダメだよな。



「ほんと? よかったー、レンが自分から行くって言ってくれて。もし、レンが行かないって言っていたら…………ふふっ。ふふふふふっ」


どこからともなくレイピアを取り出し、先程までの朗らかな笑みとは打って変わって真っ黒な笑みを浮かべるエリアス。


「あー……そうだー。人間の魔法使いを探さなきゃー」


そんなエリアス(黒) を横目で見ながら、俺はこっそり距離を置き、ファイル読みを再開させるのであった。







「えーっと。人間の魔法使い……人間の魔法使いは……この辺か」


探してみると、人間の魔法使いは意外と多く、ざっと20人近くが登録されていた。


さて、どうやってここから1人選び出そうか?


何かレベル判断の基準みたいな物があったらいいんだけどな……。



「なあ、エリアス。この国のトップの魔導学校ってどこだ?」


「うーん、そうだね……。この国のトップは間違いなくツァーリ魔導学校なんだけど……あそこの卒業生は、だいたいそのまま国営の魔法研究開発局だったり、王宮を守る魔法衛兵だったりになったりするから、ここに登録されてる事はまずないだろうね」


「まあ、そうだよな。よっぽどの物好きじゃない限り、エリート中のエリートがこんな仕事には就こうとは…………ん?」


適当にパラパラとページをめくり、流し読みをしていた俺であったが、とあるページのプロフィールの履歴欄が目に入り、手を止めた。




「どうしたの? レン。もしかしてタイプの女の子でもいた?」


からかうかのように笑いながらそんな事を言ってくるエリアス。

いつもなら、ふざけた答えを返すだろうが……“これ”を見つけてしまった今、そんな事をする余裕はなかった。



「いや……そうじゃない。いたんだよ」


「え? いた? いたって…………まさか……」


先程までの話の流れから、俺の言いたい事を理解したのだろう。

エリアスは驚いたように目を見開いた。


「ああ……ツァーリ魔導学校出身の魔法使いがいたんだよ。しかも首席だ」


「……それ、本当なの?」


「俺の見た限りでは、な。でも、怪しい部分もちらほら……いや、がっつりと見受けられるんだ」


「と言うと?」


「あ〜、俺が説明するよりも見た方が早いな。ほら」


「ん、ありがと」


俺からファイルを受け取ったエリアスは、いつになく真剣な顔でそのページを読み始めた。


エリアスの後ろから覗き込んでいるユクロヴァーさんの顔も、これまた真剣そのものである。





「…………確かにレンの言う通りだね。この人、怪しすぎるよ。首席で卒業というのは本当みたいだけど」


プロフィールを読み終え、再び顔を上げたエリアスの顔には困惑の表情が浮かんでいた。


「そうですね。名前もフルネームではありませんし似顔絵も載っていませんし……」


ユクロヴァーさんもエリアスと同じように何とも言えない顔をしている。



そうなのだ。

この人のプロフィールは穴が多すぎるのだ。

名前の欄には「フェリシアナ」としか記されてないし、似顔絵もない。履歴の欄にもツァーリ魔導学校首席卒業としか書いていない。


まともに載っているものといえば性別ぐらいである。

怪しいと思わない方がおかしい。



「それにしても、エリアスは何でこれが本物だと断言できるんだ?」


こんな穴だらけのプロフィールを見たところで、この人が首席である事が事実であるかどうかわからないぞ?


でも、エリアスはこういう真面目な場面で嘘をつくような人間ではないし……。



「ここにさ、印が押されてるでしょ?」


そう言って、エリアスはページの右下を指差した。


「ん? どれどれ……あ……本当だ」


そこにはエリアスの言う通り、変な模様(もしかしたら文字なのかもしれないが、俺には読めない)の印が押されてあった。


これがどうかしたんだろうか?



「これはね、ツァーリ魔導学校を首席で卒業した者にしか与えられない判子で押されたものなんだよ」


「へぇ……ちなみに偽物って可能性は?」


判子だったらいくらでも偽物が作れてしまいそうだし……。

そもそもこの人自体、相当怪しいのだ。この印が偽物であっても全然おかしくない。むしろその方が自然である。



「いや、それはないね。その押されている印から溢れる魔力が何よりの証拠だよ。こんな強力な魔力を物に付与させる事ができるのは伝説級の魔法使い––––例えば国の中でトップを誇るの魔導学校の校長とかぐらいだからね」


「私にはこの印がどれだけ凄い物なのかは知りませんが、確かに凄い魔力ですね。こんな魔力を付与させるのは普通の人間には不可能です」


「魔力ねぇ……」


この世界の人間ではない俺にはこの印から魔力という物が全く感じられないから、何とも言えないのだが……。この2人の反応からするに、この人が首席で卒業したのは間違いなさそうだ。


紹介料も先程の狼男みたいに馬鹿高くないみたいだし、この人にしよう。


「俺はこの人にしようと思うんだが、2人はどう?」


「ボクはこの人でいいと思うよ。怪しさは拭えないけどね。ここで登録されているって事はとりあえず安全って事だし」


「私もこの人でいいですよ。どうやら女性の方みたいですし」


「じゃあ早速……」


俺はファイルを片手に、受付のおじさんの元へ向かう。




「すいません。この人を紹介して頂きたいのですが」


「はい、まいど。では紹介料を…………っと、一応確認しておくけど君、本当にこれでいいのかい? 後悔はしない?」


にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべていたおじさんであったが、俺がファイルを見せると笑顔を引っ込め、心配そうにそう尋ねて来た。

……どうしてそんなにしつこく尋ねてくるのだろうか?



何だか不思議な気がしないでもないが…………そうやって事前にしっかりと確認するのが決まりなのだろう、多分。




「はい。もちろんです」


そう言って、俺は紹介料を受付のおじさんに渡した。

今の所持金と照らし合わせると、

結構な出費ではあるが、物凄く有能な魔法使いを雇える(まだ、はっきりと決まった訳ではないが)のだ。そう考えれば安いものである。



「よし、確かにちょうど受け取ったよ。じゃあ住んでいる所を今から言うからメモを取るなりなんなりしてね」


「えっ? メモ?」


住んでいる所? メモ? どういう事だ?

エリアスの話では、紹介料を払えばその冒険者がいる部屋へ連れて行ってくれるはずなんだが……。



「あれ? 知らないの? すっかり彼女の事を知っていると思ったよ。実はね、この人は––––––––」



おじさんの話を聞き、俺はこの魔法使いが異常な程に曲者である事を知るのであった。



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