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最終話 レーヴァテイン夫妻は空で踊る

 ヘンリーは飛行魔法による前進を止め、夜空に静止していた。




 遥か眼下には、聖都ミラディア。


 魔法灯の明かりが、所々に輝いている。




「あの時は、考えもしなかったよ。まさか自分が聖騎士団を率いて、リスコル公爵領を攻める側になるとは……。いま話した通り、私は公爵領で何かが起こる可能性を耳にしていたのだ。それなのに……。公爵の反乱を、止められなかった」


「それは、旦那様が責任を感じる必要のないことです。聖女様の情報収集能力にも、限界があったのでしょう。やはり娘であるわたしにこそ、父を止める責任が……」


(きみ)はお父上の反乱を止められなかったことに、測り知れないほど心の痛みを抱えているのだな」




 図星だった。


 今でもリコリスは、夜中に泣きながら飛び起きることがある。


 後悔と自責の念に、押し潰されそうになって。




「私もレオンを失った心の痛みは、癒えきってはいない。だから……」




 ヘンリーはリコリスを横抱きに抱えたまま、クルクルと空中でターンを決めた。




「痛みは2人で分かち合おう。そうすれば、苦しさは半分で済む」




 リコリスを覆っていた、聖騎士のマントが()かれた。


 もう高速飛行を()めているので、メイド服だけでもさほど寒くはない。


 ヘンリーはマントを、自分の背中へと戻した。


 そしてリコリスの手を取り、腰に手を回す。


 空の上で、ダンスが始まった。




「楽しいことは、2人で(いっ)(しょ)に体験しよう。そうすれば、幸せは2倍だ」




 「幸せ2倍悲しみ半分」は、平民達の間でよく語られる慣用句。


 実際にそういう気持ちになれる夫婦ばかりではないが、ヘンリーは本気でリコリスの幸せを2倍以上に――


 悲しみを、半分以下にするつもりでいた。




 2人っきりの夜空の舞踏会は、続いてゆく。


 飛行魔法を使えるのは、ヘンリーの(ほう)だけ。


 なのでリコリスは、(いっ)(ぽう)(てき)にリードされるがままだ。


 それでもヘンリーのリードは巧みなので、まるで彼女も意志を持って飛行しているかのよう。


 中天の床で、華麗なステップを踏む。




「わたし、幸せになってもよいのでしょうか?」


「違うな。なってよいのではなく、幸せになる義務がある。それは、生き残った者の使命だ」




 リスコル公爵。


 剣聖レオン。


 反乱軍・聖騎士団の戦死者達。


 戦禍に巻き込まれて亡くなった、公爵領の人々。




 死んでいった者達の分も幸せにならなければならないと、ヘンリーはリコリスに諭す。




「生きている者達も、きっと私達を祝福してくれる。君はレーヴァテイン家で働いている間、そういう人々と出会ってきたはずだ」






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『メイドにしとくのは、もったいないアル! アタシの弟子になって、(いち)(りゅう)料理人を目指すアルよ!』




 最初に思い出したのは、キッチンでお世話になった専属コックだ。


 弟子にすると言い出すほど、リコリスのことを買ってくれていたコック。


 涙もろい彼のこと。


 ヘンリーと結婚すると言えば、号泣しながら祝福してくれることだろう。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






『リコリスちゃん! 助かったぜ! 細かくゴーレムの位置を調整してくれるもんだから、普通に脚立を使うより、何倍も早く仕事が終わっちまった。お前さんはホント、大した娘だよ』




 次に思い出したのは、庭師のおじさん。


 ベテランの職人から仕事を褒められるというのは、本当に嬉しかった。


 ゴーレムを操る能力など、公爵令嬢時代はもちろんメイドとしても不要なもの。


 興味本位で取得したものの、周囲からの評価は冷ややかだった。


 そう思っていた技術を絶賛されて、リコリスは錬金術師としての自分に誇りを持てたのだ。


 彼もきっと、祝福してくれるはず。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






『リっちゃん! いつか絶対、図書室勤務に戻って来て~』




 涙ながらに自分を引きとめてくれた先輩、ジニー。


 彼女の推しカプはヘンリー×レオンなので、果たして祝福してくれるだろうか?




 しかし、大丈夫だろう。


 「2次元と3次元は別物なのよ!」と、日頃から力説していたジニーである。


 素直にリコリスとヘンリーのことを、祝福してくれるに違いない。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






『リコリス……。わたくしも旦那様も、あなたには期待しているのですよ』




 いつも、仕事に厳しい人だった。


 だがいつも、リコリスの身を本気で心配してくれる人だった。


 「ゾーンイーターくん」が暴走した時には、汗だくになりながら走って追いかけてきてくれた人。


 彼女が――サディーナが祝福してくれる姿は――あまり想像できない。


 眼鏡を光らせながら鞭を片手に、


「今度はメイドではなく、夫人としての教育をしてあげましょう」


 ぐらいは言いそうだ。




 でもきっと、心の中では1番祝福してくれるに違いない。


 わざわざ、養子に迎え入れてくれたぐらいなのだから。






■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□






 上半身を大きく後ろに逸らしたポーズで、ダンスのフィニッシュを決めたリコリス。


 そんな彼女にヘンリーは、ぶつかりそうなほど顔を近づけた。


 普段から(もう)(きん)(るい)を思わせる顔立ちだが、今の彼はまさに獲物を捉えた(わし)


 表情はあくまで冷静、落ち着いたもの。


 だが黒い瞳の中には、「絶対に逃がさない」という強い意志が垣間見える。




「もういちど言おう。私の妻となりなさい、リコリス・レーヴァテイン」




 ずいぶん強引で、(いっ)(ぽう)(てき)なプロポーズの言葉といえるだろう。


 勝手に、家名まで変えて呼んでいる。


 だがそれでも、リコリスの返事は――




「はい! よろこんで!」




 満面の笑みを浮かべ、彼女は叫んだ。




 リコリスは、幼き頃より憧れた騎士様を――


 ヘンリーは、葛藤から自分を救ってくれた天使を――


 2人は互いに、強く抱きしめ合った。




 そのまま急降下した後、ヘンリーの飛行魔法で減速してフワリと着地する。


 場所は、レーヴァテイン家の庭だった。




 もう、時刻は夜中。


 泊まり込みの男性使用人以外は、全員帰宅しているはずの時間である。




「みなさんには、ご心配をおかけしてしまいました。明日、謝らなくては……」


「リコリス。謝るなら、早い方がいい。今にしなさい」


「へっ? ですがもう、住み込みの方々以外は全員帰宅して……」


 リコリスが言いかけた瞬間、玄関の大扉が勢いよく開け放たれた。


 そこから、大勢の人々が流れ出してくる。


 先頭は、メイド服のスカートをひるがえして駆けてきたジニーだ。




「リっぢゃぁ~ん! どうじで黙っでいなぐなっぢゃうのよ~。心配した! 心配しだんだがらぁ~」




 彼女はリコリスの腰に(すが)りつき、泣きじゃくった。


 あっという間にジニーの涙と鼻水が、リコリスのメイド服を貫通する。


 お腹にひんやりした感覚を味わいながらも、リコリスの心は温かい気持ちで満たされていった。




「ごめんなさい、ジニー先輩。わたしはもう、どこにも行きませんから……。ずっと、この家にいますから」


 そう約束したのに、ジニーはリコリスの腰に巻きついたままなかなか離れてくれない。




 次に寄って来たのは、専属コック、庭師――

 よぼよぼの高齢執事までいる。


 彼らも口々に無事な帰還を喜び、リコリスの方も心配をかけたことに対して深々と頭を下げた。


 まだジニーは、腰に巻き付いたままだ。




 リコリスにとって意外だったのは、通いのメイド達もほとんどが残っていたこと。


 掃除係時代にお世話になった、真面目なベテランメイド達がいるのは分からなくもない。


 彼女達は、リコリスのことを気に入ってくれていた。


 だがリコリスをバカにして(あざ)(わら)っていた、下位貴族令嬢メイドや商家の娘メイド達まで、こんな夜遅くに残っていたのだ。


 そのうちの1人が、歩み寄ってくる。


 キッチンで()()騒ぎを起こした時、リコリスが鞭でお尻を叩かれそうになっていたのを嬉々として見物しようとしていた先輩だ。


 「ゾーンイーターくん」暴走事件の時も、公開尻叩きの刑を受けるリコリスを楽しそうに見ていた人物である。




「あ……あんたがいなくなっちゃったら、ドタバタと間抜けに騒ぐ姿が見られなくてつまらないじゃない! 今日のお屋敷は、お葬式みたいに暗いムードだったんだから。ちゃんとあんたらしく、お屋敷にいてドタバタしなさいよ!」


 顔を赤らめ、目を逸らしながらぶっきらぼうに言う先輩メイド。


 彼女に対して、リコリスはクスリと笑った。




「先輩、まさかのツンデレですか?」


「つ! つ! つ! ツンデレ!? 何言っているの!? あんたなんかあたし達に心配かけた罰として、サディーナ様から厳しくお仕置きされるといいんだわ!」




 ツンデレ先輩メイドの台詞に応えるかのように人垣が割れ、鬼のメイド長が姿を現した。


 今回彼女が手に持っているのは、平たくて大きな木の板。


 懲罰用のパドルである。


 しかも小さい穴がいくつか開いていて、空気抵抗を減らしスイングスピードを上げるよう改造(チューン)された凶悪モデルだ。


 こんなもので叩かれては、お尻が真っ赤に腫れあがってしまうことだろう。


 しばらくは、椅子に座れなくなるかもしれない。




 リコリスもジニーもツンデレ先輩メイドも、同時に「ヒッ!」と悲鳴を上げた。


 サディーナから厳しいお仕置きが宣言されると思い、身を縮こまらせたリコリス。


 だがサディーナは、手に持っていたパドルを放り投げた。


 (かたわ)らにいたツンデレ先輩メイドが、慌てて両手でキャッチする。


 サディーナは自由になった両手で、リコリスを抱きしめた。




「リコリス……。あなたという娘は……心配ばかりかけて……」


「ごめんなさい、サディーナ様……。いえ、お()()様……」


「ふふふ……。まだ、養子縁組の書類は提出していないのですよ? 気が早いわ。でも、義理の娘ができたことは嬉しい。わたくしはずっと、娘が欲しかったのです。ある野望達成のために」


「野望……?」


「旦那様の……ヘンリー・レーヴァテインの元へ、(とつ)がせること」


 周囲の誰にも聞こえないよう、サディーナはリコリスの耳元でそっと(ささや)く。


 彼女の口からは、衝撃的な真実が語られた。


 まだ10代のころから、サディーナは年下のヘンリーに憧れていたこと。


 レーヴァテイン家の人手が足りないことにかこつけて、貴族令嬢でありながらメイドとして潜り込む手口は自分が1番最初にやり始めたこと。


 ヘンリーからは女性として、全然意識されなかったこと。


 その間に縁があったスギモンヌ伯爵と結婚し、男の子を出産したこと。




「自分が見向きもされなかった腹いせに、娘を嫁がせてやろうと思っていたの。旦那様が娘にゾッコンになれば、わたくしが勝ったようなものです」


「なんの勝負なのですか……。わたしは養女ですから、サディーナ様の血が入っているわけでもないですし……」


「いいのです。わたくしの勝ちと言ったら勝ちなのです。あとはリコリス、あなたがトドメを刺しなさい。わたくしの分まで、ヘンリー・レーヴァテインと幸せになることによって」


「ありがとう、お義母様……。おかあさま……。お母様……」


 リコリスは何度もサディーナのことを、「おかあさま」と繰り返し呼んだ。


 これまで言えなかった分も、サディーナに聞いてもらおうと。


 それは幼くして実の母を病で失ったリコリスにとって、あまり声に出す機会がなかった言葉――




「さあ、リコリスの無事な姿を見れて、皆も安心しただろう。通いの者は、すぐに帰宅しなさい。夜も遅いので、門番の若者や男性使用人達に送らせよう。住み込みの男性使用人諸君も、女性陣を送り終えたら早く寝てしまうように」


 ヘンリーの号令で、皆が散り散りになってゆく。


 リコリスはというと、彼から横抱きにかかえ上げられてしまった。


 向かう先は、リコリスの私室ではない。


 ヘンリーの寝室だ。




「あ……あの……旦那様? いくらプロポーズをお受けしたとはいえ、いきなりその日に婚前交渉とは……」


 せめて事前に、お風呂に入らせて欲しい。


 着替えもしたい。


 ひょっとしたらヘンリーは、メイド服のまま事に及ぶのが好きなのか?


 そういう経験は皆無だが、知識だけはやたら豊富なリコリス。


 ヘンリーがマニアックな要求をしてきても、できるだけ応えたいとは思っている。


 だがせめて、最初だけはロマンチックに――


 スタンダードな手法で――




 そんなことを考え、赤くなっていたリコリス。


 しかしヘンリーからは、予想外の台詞が飛んできた。




「婚前交渉? 何を言っているのだ? 私や皆に散々心配をかけた君に待ち受けているのは、コレに決まっているだろう?」


 ベッドに腰を下ろしたヘンリーが、自らの膝をポンポンと叩く。


 「ここに乗って、お尻を出しなさい」のサインだ。




「ええ~っ!! お仕置きなのですか!? せっかくプロポーズされて、ムードも盛り上がっているのに!? このタイミングで!?」


「むしろ、どうしてお仕置きされないと思った? これだけのことを、やらかしておきながら」


「ううっ、それはその……ゴメンなさい……」


 この状況になってしまったら、ゴネてももう無駄だ。




 リコリスは粛々と主人の膝上に乗り、尻に降り(そそ)ぐ平手打ちを受け入れた。




(まさか結婚してからもずっと、こうやってお尻を()たれ続けるのかしら……?)




 (でん)()に痛みと熱。


 胸に猛烈な恥ずかしさを覚えながら、リコリスはこれからの結婚生活に対し不安を覚えるのだった。






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 ミラディース教会聖騎士団団長、ヘンリー・レーヴァテインには妻がいる。


 年の離れた、大変可憐なご夫人だとの評判だ。


 しかしなぜか騎士団長は、人前に妻を連れて出ない。


 本人が恥ずかしがり屋なのだとか、何やら複雑な事情があるのだとか、噂ばかりが先行している。




 ある日のことだ。


 騎士団長執務室で、副団長はヘンリーの異変に気付き声をかけた。




「団長。その右手は、どうなされたのです? 腫れているではありませんか」


「うむ、ちょっとな……。年々。頑丈になっていく気がするのだ。剣を万全の状態で握れぬとは、騎士失格だな」


「いいえ! 御立派だと思います! 団長は前線に立つことが少なくなっているのに、修行を怠らないのですね。感動しました!」




 2人の会話は、完全に噛み合っていなかった。


 副団長はヘンリーの手が痺れているのを、「激しい剣の修行で腫れてしまった」と思い込んでいるのだ。


 まさか妻の尻を平手打ちして、反動で大ダメージを受けたなどとは言えない。




 先日リコリスは夫に無断で、マサキゴッド商会の開発した軍事用ミスリルゴーレムをこっそり購入したのだ。


 軍事用なので、目玉が飛び出るような金額だった。




「うわ~ん! ちゃんと、レーヴァテイン商会の経費で落としたのに~!」


 と、リコリスは膝の上で泣き叫んでいた。




 国内で最強のゴーレム使いである彼女が本気でミスリル合金製のゴーレムを操ると、巨大(エルダー)ドラゴンでも討伐できてしまう。


 お金の問題だけでなく、軍事的・政治的にも色々マズいのだ。


 なので「ヤスカワくんmark(マーク)(ツー)」と名付けられたミスリルゴーレムは、レーヴァテイン家の地下倉庫にひっそり封印されることとなった。






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 その後もレーヴァテイン夫妻には、様々な出来事が起こった。




 隣国より「地の魔王竜」と呼ばれた竜人族(ドラゴニュート)が襲来した時、ヘンリーは多くの部下を失った。


 当時は神聖国東側の魔獣討伐が、忙しい時期。


 なのに東の国境近くにあるフリードタウンの冒険者ギルドが、突如教会に対して非協力的になったのである。


 ギルドマスターの剣鬼オーヤン(いわ)く、


「アタシ達の聖女ちゃんを追放したおバカ教会に、協力してやる義理はないのよぉ」


 だそうだ。


 これはレオンの妻アナスタシアではなく、その娘で聖女後継者だったヴェリーナのことを指している。


 そんな経緯で教会聖騎士団の意識が東側に向いていた時、西側で翼竜(ワイバーン)大量発生の報がもたらされたのだ。


 飛行魔法が使えるヘンリーは単独で西へと飛び、短期間でワイバーン掃討を成し遂げた。


 帰還して対面したのが、原形をとどめないほどに押し潰された部下達の遺体である。


 地の魔王竜が操る、強力無比な重力魔法によるものだ。




「私が、魔王竜迎撃の指揮を取っていれば……」


 多くの部下達の無残な死に、ヘンリーは苦悩した。


 (いち)()は聖騎士団辞任どころか、自殺すら考えた。


 そんな彼を救ってくれたのは、やはり妻であるリコリスだった。




「違う! あなたのせいじゃない! 誰にも、どうすることもできなかった!」


「リコリス……しかし……」


「しっかりして下さい、ヘンリー・レーヴァテイン! あなたのミスリルソードは、まだまだこれからも人々を守り続けなければならない。あなたの苦しみは、わたしも(いっ)(しょ)に背負います。だから……」


「リコリス……。ありがとう、リコリス……」




 やがてリコリスのお腹には、第1子が宿っていることが分かった。


 ヘンリーはもう、自ら命を断とうなどとは考えなくなっていた。






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 ヘンリー・レーヴァテイン騎士団長が最も危機に陥った戦場といえば、死の草原地帯ローラステップにおける「邪竜戦役」である。


 全てを焼き尽くす邪竜の黒き炎の前に、ミラディア神聖国どころか世界が滅ぶ可能性すらあった。


 ヘンリー・レーヴァテインは、自ら聖騎士団の先頭に立って戦った。


 相手はただの巨竜ではない。


 リコリスの故郷を滅びへと導いた者が、作り出した存在だったからだ。


 許すことのできない相手だった。




 剣鬼オーヤン・モテギや、(のち)に大聖女と呼ばれるヴェリーナ・ノートゥングなど、歴史に名を刻む英雄達とも共闘した。


 だが最もヘンリーの心を震わせた援軍は、彼らではない。


 機械仕掛けのゴーレムに乗って駆けつけた、産後間もないリコリス・レーヴァテインだった。


 隣国の技術が詰め込まれた、マシンゴーレムと呼ばれる操縦者搭乗型のゴーレム。


 「ヤスカワくんmark(マーク)(スリー)」と名付けられたそれはリコリスの操縦で自在に空を駆け、ヘンリーと共に邪竜を翻弄した。




『レーヴァテイン夫妻は(そら)で踊る』




 後世には、こう語り継がれている。






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 世界が平和を取り戻した後、レーヴァテイン夫妻の物語はジニーの手により本として出版された。


 リコリスの父リスコル公爵が反乱を起こすよう操られていた経緯や、陰謀に関わっていた者達の名も暴露されたのだ。


 これにより、リスコル(いち)(ぞく)の名誉も少しは回復することができた。


 この本は大人気となり、ミラディア神聖国だけではなく多くの国々で読まれることとなった。




 もちろん、レーヴァテイン邸の図書室にも置かれている。




「ねえジニー。また、おとうさまとおかあさまのごほんをよんで~」




 相変わらず図書室を管理しているジニーの元に集まっていたのは、リコリスとヘンリーの子供達だ。


 夫妻は、4人もの子宝に恵まれた。



 

 せがまれたジニーは、ちょっと困った表情で了承する。




「本当は図書室では静かにしないといけないのですが、今は他に利用者がいないので読み聞かせてもいいでしょう。特別ですよ?」


「やった~! ジニー、大好き!」


 子供達の笑顔は、リコリスと本当にそっくりだ。


 「ジニー先輩大好きです!」と、言ってくれた時の笑顔と。




「……とは言っても、この図書室にあるリっちゃんと旦那様の本は、ほとんど読み尽くしてしまったのよね。……そうだ! 本に書かれていないエピソードを、私が話してあげます」


 良いことを思いついたとばかりに、ジニーはポンと手を叩いた。





「まずは怪しげな魔道具の起動実験に失敗して、お屋敷の半分を吹き飛ばしたお話。あの時は旦那様もカンカンで、真っ赤になるまでリっちゃんのお尻を……」


「ジニー先輩~!! 子供達に、母親の恥ずかしいエピソードをバラさないで~!!」




 騒々しく図書室に乱入してくるリコリスの姿は、いつも通り変わらぬものだった。




「リコリス、図書室では静かにしなさい。子供達の見ている前ですよ?」




 後から入ってきて、静かにリコリスを(たしな)めるサディーナの姿もまた――






【処刑されたはずの公爵令嬢、ドジっ子メイドへの華麗なる転身】




――――――完――――――







ご愛読、ありがとうございました。

物語はこれにて完結となります。


リコリス嬢の元ネタになった人と、それに賛同した方々にあおられて書いた本作ですが、最後は作者自身ノリノリで書いておりました。


リコリス嬢とヘンリーの物語を綴るのはここまでですが、本作のスピンオフ元となった、


【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~


という長編も存在します。


この作品から興味を持たれた方が、読んで下さると幸いです。

広告下のリンクからどうぞ。

本作にもちょっとだけ登場した、レオン・ノートゥングの忘れ形見ヴェリーナが暴れます。

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本作のスピンオフ元。剣聖レオンの娘が主人公。怪力聖女が大暴れしながら、イケメン魔道士に愛されちゃう
【聖女はドラゴンスレイヤー】~回復魔法が弱いので教会を追放されましたが、冒険者として成り上がりますのでお構いなく。巨竜を素手でボコれる程度には、腕力に自信がありましてよ? 魔王の番として溺愛されます~

スピンオフ元である【聖ドラ】に頂いた、イラストやファンアートの置き場。リスコ・リスコル嬢のイラストも奉納されています
【聖ドラ】イラスト大聖堂

― 新着の感想 ―
[良い点] 茂木 多弥 様 が以前に活動報告であげられていたカラーイラストが可愛くて拝読しました♪ お尻ペンペンで異世界恋愛の物語が成立することに驚きました。主人公の無自覚な能力の高さとド天然な性格が…
[良い点] 遅れてしまいましたが、完結おめでとうございます!!! 個人的な推しキャラは、ジニーと…サディーナ・スギモンヌさん、貴方です! ジニーとは、一生本語りしていたいです! あ、仕事しないとサディ…
[良い点] 素晴らしいハッピーエンドでした! なんと四人も! なんたるリア充! これはもう末永く爆発案件ですよ! おもしろかったです!
感想一覧
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