第19話:癒しの勇者、黙らせる
「あわわわわ……ありえない……こ、こんなのデタラメだ! カイト・アルノエルは何か不正をしたんだ!」
カースはブルブルと震えながら俺を指差して叫んだ。
「不正でもなんでもないが……」
「いや、何か特殊なことをしたんだ! こんなの、人間にできるわけがない! ふっ、おかしいと思ってたんだ。入学からずっと落ちこぼれだったやつが突然超人的な魔法技能を身につけられるわけがない!」
癒しの勇者への転生の代償として、成長にストッパーがかけられていたのが原因でしかないのだが、そんなことを言ってもデタラメだ! って言うだけだろうな。
放っておいてもいいが、嘘つき呼ばわりされたままというのも気分が悪いな。
もう一発魔法をぶっ放して今度は火の雨を降らしてみようか?
そんな物騒なことを考えていると——
「つまり、カイト以外にもこれができれば、不正はなかったって証明できるってことですよね? カース先生」
レミリアが震えるカースに問いかけた。
ミーナもうんうんとうなづいている。
「それは……そ、その通りだ! だがこんなことをできるやつは一人もいない! なぜならデタラメだからだ!」
「できますけど? 私と、ミーナとか。カイトの他に二人もできるのにデタラメというにはおかしくないですか?」
俺が黙っていると、なかなか面白い展開になってきたじゃないか。
「そんなはずはない! できるというなら今、この場でやってみせろ!」
カースは腕を組み、「できるはずがないだろう」とでも言いたげな顔でレミリアを睨んだ。
「わかりました。この場でやってみせます。まだ壊れていない向こうの方に向けて撃ちますけど、許可をもらえますか? カース先生」
「できるものならやってみろと言ったはずだあああっ!」
「その言葉が欲しかっただけです」
そう言って、レミリアは右手を天に挙げた。
空中に、俺の時よりも若干小ぶりだが魔力が集中していく——。
カースが可哀想になってきたな。
レミリアとミーナは間違いなくできる。俺が保証しよう。
二人が昨日、一昨日の間に覚えた魔法は、この魔法を下敷きにしているのだ。
詳細は教えていなかったが、この魔法よりも難易度が高い魔法を既に習得している。
俺が先ほど放った魔法——これはめちゃくちゃシンプルな構造をしている。
ただ単に自然の魔力を集めてコントロールするだけだからな。
一目見れば、今の二人ならできると確信しただろう。
「このくらいにしておくわ!」
火球が落とされ、地面に直撃。
その瞬間——爆散し大きなクレーターが出来上がる。
火力も十分なようで、他の生徒とカースが見る分には、俺の魔法をコピーしたと胸を張って言えるレベルに仕上がっている。
まあ、俺の目から見ればまだまだお粗末なものだったけどな。
火球のような単純な術式でなければ、制御を失って霧散していた可能性が高い。
あと発動速度もまだ遅い。この程度の魔法に5秒はかけすぎだ。
「どうですか? これでもデタラメと言い張りますか?」
「はわわわわわわ……こ、ここにもバケモノが! こんなの、絶対におかしい! 教官より強い生徒などいてはならないのだ!」
「現実を見ましょうよ」
「うるさい! 俺はこんなの認めねえからな!」
「じゃあミーナも見せたほうがいい?」
「や、やめろ! 絶対にやめろ! 無許可でこんなデタラメな魔法使ったら退学にしてやるからな!」
オロオロと頭を抱えて右往左往するカース。
もはや偉そうにしていた教官の姿は塵も残っていない。
「カース先生かっこわるーい」
「いい加減認めなよー」
「不正じゃないのに不正扱いしてたってこと? 言い訳?」
だんだんと生徒側からもカースへの指摘が現れ始める。
かなりナメられてしまったようだ。
「うるさい! お前ら一回黙れ!」
だが、威厳を失った教官の言うことを誰も聞かない。
もともと人望はなかったからな。仕方ない。
強さだけで尊敬されていたのに、強さを失えばその辺のおっさんだ。いや、人望のないおっさんだ。
カースが耳を塞ぐ中、一人の生徒が提案した。
「じゃあカイトと一対一で正式に決闘して白黒つけたらいいんじゃないですかー?」
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