表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

84/87

【84】追放と、気ままな未来

本日完結予定・分割で夜ごろ最終話投稿予定です。

予定が狂ったら明日に持ち越すかもしれませんが、どうにか。

 ――馬車置き場へとたどり着くと、丁度そこには、エレンがいた。

 どうやら荷物の積み込みの最中で、一息ついていたらしい。馬車から少し離れたところで木箱に腰掛けていた彼女は、俺に気付いた様子で表情を変える。

そんなエレンに俺は、手を軽く掲げながら冗談めかしてこう告げた。


「また、黙って行っちまうのか?」


「……ウォーレス」


 やや少し驚いた顔になった後で、エレンはすぐにその表情を取り繕ってむすっとする。


「何で来たの」


「何でって、そりゃあ……。……また会えたんだ、今度は挨拶くらいしてから、別れたいだろ」


 そんな俺の答えに彼女は複雑そうな表情を浮かべて。そんなエレンの向こうで、積み荷を馬車の荷台に担ぎ込んでいたゴウライが声を上げた。


「おお、ウォーレス殿。すまんな、我々としてはお主にも挨拶のひとつくらいしてからと言ったのだが……勇者殿は口下手だからな。まだウォーレス殿に引け目を感じているようで、黙って出ていくと聞かなかったのだ」


「うっさいわよ、ゴウライ!」


 豪快に笑うゴウライに、顔を少し赤くしながら声を荒げるエレン。

 そんなやり取りに気付いてか、少し離れたところからラーイールとルインの二人が小走りでこちらに駆けてきた。


「ウォーレスさん!」


「よう、二人とも。元気そうでよかった。……体の調子は、大丈夫か?」


 一応、彼女らは皆一度死んでいる身である。

 ソラスが唱えた蘇生魔法によって復活できたものの、そもそも蘇生なんてまだ術式としても未完成のもので、未解明の部分も多いのだ――と以前ラーイールも言っていた。

 そんな俺に、ルインが仏頂面で頷いて。


「なんともない」


 そんな彼女の簡潔な返事に苦笑しながら、ラーイールが言葉を添えた。


「今のところ、私も皆さんも、異変はなさそうです。多分、蘇生を受けたタイミングが早かったのが良かったんじゃないかなと」


「なるほどな。ソラスの【詠唱短縮】に感謝だ」


「ええ、どうかお礼をお伝えください」


「また調子に乗るだろうから、ほどほどに伝えとくよ」


 そう返した後で、俺はラーイールに「ところで」と続ける。


「君たちは、これからどうするんだ?」


 魔王の復活を阻止するため、封印の調査のために編成された「勇者パーティ」。

 だが今回の一件で、その復活を阻止すべき魔王当人が討滅されたのだ。そうなると、彼女たちの旅の目的というのもなくなってしまうことになる。

 そんな俺の問いに、答えたのはゴウライだった。


「我々は一度、王都に戻って諸々を報告する予定だ。その後は……まあ、また国王陛下から何かしらの面倒事を頼まれるやもしれんし、あるいは用済みとなって解散になるかも分からんが。その時はその時だ」


 魔王の脅威が去ったとはいえ、勇者の称号を授けられた彼女とその仲間たちである。その力を借りたいと願う者も、依然として少なくはないだろう。

 解散、なんて言ってはいるが、世間がそれを許しはしまい。


「勇者パーティはまだまだ大忙し、ってとこかね。だとすりゃ当分は顔を見ることもなさそうか。……少し名残惜しいな」


「なに、そんな寂しいことを言うなウォーレス殿。またそう遠くないうち、貴公の滞在している街……レギンブルクと言ったか。あそこにも顔を見せるさ」


「そりゃ嬉しいハナシだ。なら、その時のために旨い酒でも用意しておくとしようか」


「ほう、それは楽しみだ」


 そんなやり取りを俺とゴウライが交わしていると、その横でラーイールが黙っていたエレンへと視線を向けた。


「……あの、エレンさん。折角ウォーレスさんが来てくれたんですし、あのこと、お伝えしてみてはどうでしょうか?」


「なっ……。いいわよ、別に……」


「よくないです。だって――次にウォーレスさんにお会いできるのなんて、いつになるか分からないんですよ。なら、ちゃんと言っておいたほうがいいと思います」


 いつになく強い口調で告げたラーイールに、エレンは珍しくたじろいで。

 それから奥歯をぎり、と噛みしめると、真剣な表情で俺に向き直った。


「……ウォーレス」


「……な、何だ」


 こちらに向けられた刃のような視線が、すごく怖い。

 並の達人程度であればすくみ上がって動けなくなりそうなほどの覇気をたれ流しにしながら、エレンは勢いよく俺に向かって指をさして……こう続けた。


「ウォーレス。その……もう一度、私たちと一緒に来てほしいの」


「……へ?」


 ぽかんとする俺に、エレンはその剣呑な表情をだんだん真っ赤にして。

 それから何か言いたげなのをこらえながら、彼女はつとめて淡々と、言葉を続ける。


「……虫のいいハナシだってのは、わかってるわよ。でも……今回の一件で、やっぱり思った。私たちには貴方が必要なんだって」


「エレン……」


「言っておくけれど。別に貴方が強くなったからとか、そういうわけじゃない。……ううん、連れ回しても危なくないって意味じゃ、そこも理由のひとつではあるけど。でも……そうじゃない」


 そう言って、彼女はそこで言葉を選びながら、俺を真っ直ぐに見つめて告げる。


「私が……貴方と、これからも一緒にいたいの」


 そんな、ひたすらに直球すぎるその言葉に、ゴウライやラーイール、ルインまでもが目を丸くして。

 そして何より一番驚いていたのは俺と――そんな俺の反応に気付いた、エレン自身でもあった。


「……一緒にって。その言い方だとお前、それ……」


「…………!! あ゛っ、違うの! そうじゃなくてっ……いや、そうじゃないわけじゃないんだけど、そういう意味じゃなくて!!」


「えええエレンさん、待って下さい、そんな……抜け駆けですっ!!」


「お前まで何言ってんだよラーイール!?」


 なんだか混沌としながら、勝手に自爆して顔を真っ赤にしている二人であった。

 耐えきれずといった様子で顔を赤くしたまましゃがみ込んだエレンに、俺は頬をかきながら、答えるべき言葉を選んで。

 やがて――迷った末に、こう返した。


「……すまん、エレン。悪いが、そいつは無理だ」


「……そうよね。そりゃあ、一度あんなことをして、貴方を裏切ったものね」


「違う。そんなのは、理由のうちに入らねえよ」


 自嘲気味に呟くエレンの言葉を遮って、俺は小さく笑みを浮かべながら、こう続けた。


「また君の無茶に振り回されてみるのも、悪くはない。けど……せっかく一度、立ち止まったから。もう少しこうやって立ち止まりながら、のんびり気ままに生きてみるってのも悪くないなって、そう思うんだ」


 そんな俺の返事に、彼女は怒るでもなくただ、冷静さを取り戻した顔でじっと俺を見返して。


「……そっか」


 それだけ呟くとエレンははぁ、と大きなため息を吐き出しながら、空を仰いだ。


「……だから、顔合わせないで別れたかったのに。顔合わせたらきっとこんなバカなことを言っちゃうし、きっと貴方もこう答えるだろうって、わかってたんだから」


 そう言って目元を軽く拭った後。再びこちらを見返した彼女のその表情には、つきものの落ちたようなすっきりとした笑みが浮かんでいた。


「それじゃ、せいぜい勝手にしなさい。今までのは仮追放だったけど……そんな怠け者、今度こそ正式に追放よ追放」


「ああ、そうかい」


 そう言い合って、俺とエレンは静かに向かい合って、どちらともなく再び笑みをこぼす。


「……じゃあな、エレン。もう死ぬんじゃねえぞ」


「当たり前でしょう。それを言うなら、貴方の方こそ。もうゴブリンのしょぼい毒にでもあたって死にかけたりしないでよ」


「ま、そうならないよう努力はするさ」


 そんな俺の言葉を最後に、エレンはその場で踵を返して馬車へと向かい。

 俺もまたゴウライやラーイール、ルインへと手を振って別れを告げると――やはり同じように背を向けて。

エレンとは逆の方向へと、次の一歩を踏み出すことにした。



 それからその翌日、俺とソラスはキースの手配した馬車に乗り込み、城を後にする。

 砦のような壁に囲まれた街を出て、どこまでも広がっているかのような広大な平原を通り抜け。

 およそ半日ほども馬車に揺られているうちに、ようやく俺たちの目の前には、もはや懐かしさすら感じる街並みが広がっていた。


「……やっと帰ってこれたな。最初は2,3日くらいの予定が、ずいぶんと延びちまった」


「でも魔王を倒して、大手柄での凱旋です。またウォーレスさんの武勇伝がいっこ追加ですよ、ノルドさんも喜ばれるでしょう」


「あんまり有名になるのも、色々と面倒を抱えそうだから勘弁してほしいもんだがな……」


 長手袋をはめた左腕に視線を落とすと、俺は苦笑混じりにそう呟いて、


「……”帰ってこれた”、か」


どこか感慨深いものを感じながら、もう一度――進行方向に広がるレギンブルクの街を、ただ静かに眺め続けるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ