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【47】強く、なりたい

 俺たちが乗り込んでからほどなくして、走り出した馬車の客車内。

 向かい合って座る俺たちに、アリアライトは変わらぬ気弱そうな笑みを浮かべてみせた。


「え、へへ……。お久しぶり、です」


「びっくりしました。お迎えって、アリアライトさんだったんですね……」


「……ん? でも君、確か王立騎士団の分隊所属って言ってなかったか」


 俺の言葉に、こくんと頷くアリアライト。


「アリアたちの騎士団……『鉄鹿騎士団』は、今はガードリー伯爵の指揮下に委託されてるの。それでウォーレスさんと知り合いだからって、私がお迎えに選ばれたの……」


「なるほどな……。ま、知った顔のほうがこっちも安心するってもんだ」


 そんな俺の言葉にアリアは少し表情を柔らかくした後、再びしゅんと肩を落とす。


「……ウォーレスさんたちのこと、聞いた。あのダンジョン、ウォーレスさんたちが頑張って再封印してくれたん、だよね。……ごめんなさい。アリアも一緒に参加できなくて……」


「気にするな、騎士団の方の事情も分かるさ。……それに、結果的に上手く行ったんだから君が気に病むことはない」


 そんな俺の答えに、アリアライトはゆっくりと頷く。


「……ありがとう、ウォーレスさん」


 そう告げて微笑む彼女に、隣のソラスもまた頷いて口を開いた。


「その代わりに今回、ご案内頂ければ十分ですよ。ね、ウォーレスさん?」


「君が仕切るのはなんか違う気がするが……ま、そのとおりだ。よろしく頼むぜ、アリアライト」


「うん……アリア、がんばる」


 ひとまずその話に一区切りついたところで、俺は窓の外を眺めながらぽつりと口を開いた。


「それで、アリアライト。今回はただ招待されたってくらいしか聞かされてないんだが……具体的には俺たち、その伯爵のお屋敷に行ってどうしていればいいんだ?」


 右から左に出発してしまったので、正直向こうにどのくらい滞在する予定になっているのかも定かではない。

 そんな俺の問いに、アリアライトは「ええと」と言葉を挟んで、


「予定では、2,3日の滞在になる……みたい。向こうに着いたら伯爵様に会って、それから騎士団――アリアたちの『鉄鹿騎士団』や伯爵の騎士団に、戦術の指導なんかもしてもらえればって」


「戦術の指導? 俺が?」


 半眼で問う俺に、こくりと頷くアリアライト。


「ウォーレスさんが冒険者ギルドの局員を育てたおかげであのダンジョン攻略が上手く行ったって、評判になってるから。その指導を是非……って」


 そうは言っても、指導もへったくれもないただのパワーレベリングもどきなのだが……と言ったところで仕方がない。


「これは、次はウォーレス”騎士団長”かもしれませんね?」


「微妙に洒落にならない気がするからやめてくれ……」


 笑えない冗談を口にするソラスに苦々しく返すと、アリアライトが首を傾げる。


「ウォーレスさんは……えらく、なりたくない?」


「分不相応なもんでね。これ以上厄介事に巻き込まれずに、なるべくスローライフを送りたいもんさ。……アリアライト、君はどうなんだ?」


 訊き返した俺に、アリアライトは少し虚を突かれた様子で口をつぐんだ後、


「…………私は、えらくならなくてもいいけど、強くはなりたい、かな。クロムちゃんの足を、引っ張りたくないから」


 ややうつむいて、小さな声でそう呟く。

 そんな彼女の言葉に、ソラスが目をぱちくりさせながら口を開いた。


「以前から気になっていたのですが、クロム……さん? というのは?」


「アリアの、妹……。『鉄鹿騎士団』の、団長をやってるの」


「…………妹、さんが?」


「うん」


 こくりと頷いて、アリアライトは視線を伏せながら続ける。


「クロムちゃんは、とっても頭もよくて、強くて。……アリアはお姉さんなのに、全然ダメで。だけどクロムちゃんは、いつもアリアのこと、応援してくれるの。だから――アリアも、もっともっと頑張らないと」


 そう言ってぎゅっと拳を握ると、彼女は俺をじっと見つめて続ける。


「……ウォーレス、さん。アリアもウォーレスさんみたいに、強くなれるかな」


 そんな彼女の真っ直ぐな問いに、俺は。


「……ならないほうが、いいと思うぜ。俺なんかみたいにはさ」


 ぽつりとそう返して、窓の外、遠くの空を眺める。


――。

 そうして馬車に揺られ続けて、およそ半日ほどすると進行方向に大きな街が見えてくる。

 周囲を防壁で守られたその都市の中央部、そこには遠目から見ても分かるような尖塔群――頑強そうな造りの城が見えた。


「……でっか……」


 そんなソラスの驚きの声に応えるように、アリアライトが頷き告げる。


「……着いた。あれが、ガードリー伯爵の住むお屋敷……というか、お城」


 外壁の門をくぐり、大通りを通って近づくにつれて、俺もまた圧倒されながら生唾を飲む。

 ……これはまた、思ったよりもとんでもないところに来てしまったんじゃないのか?


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