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【14】おじさんは遅れてやってくる<1>

 分割その1です。

 森の奥の奥にある、薄暗い自然の洞窟。

 その奥までかつぎ込まれて、私――ソラスは、必死にもがいていました。


「むー、むー!!」


 口に猿ぐつわを噛まされているせいで、満足に助けを呼ぶことすらできません。もっとも、こんな奥地では声が出せたところで大差ないでしょうが。

 手首を後ろ手に縛られて、むき出しの土の上に乱雑に転がされながら――私はどうにか拘束を解けないかと身をよじりつつ、私をここに運んできた連中を睨みます。


「おお、こえーこえー」


 そう言ってせせら笑うのは、よれよれの革鎧を着た人相の悪い男たち、数にして8人。ウォーレスさんの様子を見守っていた私を彼らが急に背後から襲ってきて……抵抗する間もなく連れてこられてしまったのです。

彼らの明らかにガラの悪そうな雰囲気を見て取って、私はすぐに直感しました。

 最近、街の周辺でたちの悪い野盗が根城を構えているという噂があるのです。……こいつらが、恐らくはその。


「いやぁ、最近はあのデカブツのせいで街の外にのこのこ出てくる間抜けが減っちまったから、俺らも困ってたんだよなぁ。運がいいぜ」


「しかもこいつ、ガキですけどなかなか上玉だぜ。変態の貴族どもにでも売りつければ、そこそこの額になるだろ」


 あの見た目だけチンピラなギルド局員たちとは違って、どうやら彼らは正真正銘その手の悪どいお仕事に手を染めている輩のようです。


「なんか言いたいのかな? どら、外してやるか」


 私を見下ろしてにやにやと嫌な笑みを浮かべながら、一人が私の猿ぐつわを面白がって外しました。

……チャンスです。これでも初歩的な魔術の手ほどきは受けていますから、声さえ出せれば――


「【沈黙サイレント】」


 喉を震わせようとして、けれど私の口からは何ひとつ、言葉が出ませんでした。

 野盗のうちの一人――奥のほうに座っていた薄汚れたローブの男が掛けた【沈黙】の魔法のせいです。


「……そのガキは詠唱職キャスターのようだ。余計なことをするな」


「んだよ、面白くねぇなぁ」


 ちっ、と舌打ちしながら、野盗は私の側にしゃがみ込んで――顎を乱暴に掴んできます。


「っ――」


「ああでも、こうした方が顔がよく見えるな……。いいねェ、可愛いじゃん。何もせずに売っぱらっちまうのもちょいと惜しいな」


「お、じゃあ俺らで先に味見しちゃう?」


「んだよお前ら、ガキに興奮するとか変態か?」


「しょうがねえだろ、最近はロクに女もさらえてなかったんだからよ。こんなガキでも使い物にはなるさ」


 私の頭上で、そんなぞっとするような言葉が飛び交って。否応なしに、自分がどんな目に遭わされるのかということを強制的に聞かされて――こらえきれず、目に涙が浮かんできました。


「おいおい、泣いちゃったじゃん」


「なーに、すぐ愉しくなってくるから安心しろよ、お嬢ちゃん?」


 そう言って下卑た笑みを浮かべて、野盗の一人が私に手を伸ばしてきます。

 イヤだ。怖い。

 何で私が、こんな目に。


 ……誰か。


 誰か、お願いだから、助け――


「よう。何してんだ、あんたら」


 その時のことでした。洞窟の中に響いたそんな声に、野盗たちは動きを止めて一斉に入り口の方へと振り返ります。


 けれどそこには、誰もいませんでした。


「……あぁ? 何だ、今の――」


「そっちじゃねえよ。こっちだ、こっち」


 呆れたようにそう返すその声は、私の傍らから聞こえていて。

 そしてそこにいたのは――


「よっ」


 そう言って人懐っこい笑みを浮かべてみせる、無精髭と少し伸びた黒髪が申し訳程度に特徴的な宿泊客。ウォーレスさんでした。


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