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【10】追放者ギルド<1>

 メガミとの会話を終えて、数分ほど経った頃。


「いやあ、お待たせして申し訳ない」


ノックとともにそう言って入ってきたのは、白い髭をたくわえた体格のいいベスト姿の男性であった。

 彼もまた冒険者でもあるのだろう。シャツとベストは筋肉ではちきれそうになっていて、顔にはやはり大小さまざまな古傷が刻まれている。先ほどのチンピラもそうだが、事前知識なしに見たら完全にヤバい筋の人間だ。

 俺の側までやってきて手を差し出すと、彼はその強面ににこやかな笑みを浮かべながら髭に埋もれた口を開く。


「ようこそお越し頂きました、ウォーレスさん。私がこのレギンブルク支局の局長代理をしております、ノルドと申します」


「ウォーレスだ、よろしく。……って、代理? 局長さんは?」


「ひと月前に逃げました」


 早速聞かなきゃよかったようなことをさらりと言ってきたぞ。

 若干嫌な予感を覚えつつも差し出された手を軽く握った後、俺とノルド氏は向かい合わせにソファに座る。

 案内人の女性局員が紅茶のカップを卓上に置くと、ノルド氏が口を開いた。


「いやはや、高名なウォーレスさんをお迎えするというのに大したもてなしもできず、申し訳ない。なにぶん懐事情が寂しいものでしてね」


「いや、それは構わないんだが……意外だな。冒険者ギルドにも経営難とかあるのか」


「ギルドの名の通り、我々はあくまで地域ごとの冒険者同士の互助組織に過ぎません。各地に支局として展開していますし、情報網などもある程度は共有していますが――運営状況は支局ごとに独立しているんです」


 苦笑まじりにそう話すノルド氏。人の良さそうな笑顔だが、よくよく見ると灰色の髪には白髪も多く混じっていて、表情にも疲れを感じさせる。


「十年前の魔王戦役の頃は、この支局にも多くの冒険者さんがたが登録していて専属として仕事を受けてくれていたんですが……平和になってからは皆さん安定したお仕事に就く方も多くて。いや、平和なのはいいことなんですがね」


 冒険者の中にもエレンたちのようにどこのギルドにも所属せずに各地を旅するタイプと、各地のギルド支局に登録してそこを中心にクエスト依頼などをこなしていくタイプとがある。

 一般的に「冒険者」という単語が指していたのは本来前者なのだが、稼業としては地域に定住して定期的にクエストをこなし、そこで名声を上げていくほうがプラスになりやすいため、後者のような冒険者も増えたのだ。


「登録冒険者の数が減れば、クエストの依頼も減っていきます。そうなると仲介をする我々も、先細るばかりで……そこで、ウォーレスさんみたいな方にぜひとも、うちの登録冒険者として依頼をこなして頂ければと」


「なるほどな……」


 この支局に限らず、各地の冒険者ギルド支局でも「名物冒険者」を看板に掲げているところはちらほらある。そういう広告塔がいたほうが、冒険者ギルドとしても依頼を集めやすいというわけなのだろう。

 ノルド氏の話にうなずきながら、俺はしかし「うーむ」と唸る。


「事情は分かったが……俺でいいのか? 聞いてると思うが、俺は……勇者のパーティから追放されたんだぞ」


 そう言って俺は、これまでの事情を正直に話す。……メガミの話などは、さすがにぼかしておいたが。

 ひととおりの話を聞き終えると、ノルド氏はふむ、とゆっくり頷いて口を開いた。


「あの【極限】ウォーレスのステータスが全て1だった、と……。なるほど、それはなかなかに驚きですな」


「だろう。今の俺は一応こんなステータスになってはいるが、とはいえこのよく分からん装備品のおかげで強くなってるだけだ。俺自身の力じゃない。ひょっとしたら急にまたこの腕輪が効果を失って、元のステータスに戻っちまうかもしれない――そんな奴を雇っても、あんたらだって困るだろう」


 我ながら卑屈だな、と思いつつもそう告げると、ノルド氏は目を閉じ黙考する。もともとのいかつさもあって、とんでもなく怖い。

 ややしばらくそうした後、ノルド氏は重々しく、その口を開いた。


「…………まあ、いいのでは?」


「へ?」


 思わず気の抜けた声を返す俺に、ノルド氏は紅茶をすすりながらあっけらかんとした様子で続ける。


「ウォーレスさんがおっしゃった通りなら、たしかに得体の知れない力ではあるのでしょうが……とはいえそれも含めて、今のウォーレスさんの力ということでよろしいでしょう。我々としてはその力がなんであれ、ウォーレスさんがどんどんクエストをこなして下されば言うことはありません」


「そういうもんか……」


「そういうもんですよ」


 なかなかに商売人気質がキマった御仁である。拍子抜けしそうになるが、俺はしかしなぜか妙な意地を張って、さらに言葉を重ねた。


「……けどよ、それでいいとしても、勇者パーティを追放されたやつなんて拾って、ギルドの評判に傷がつくんじゃないか?」


「心配性ですなぁ、ウォーレスさん。それも大丈夫です……というよりはむしろ、その方が都合がいいくらいですよ」


「え?」


 どういうことかと首を傾げる俺に、ノルド氏はにこやかな笑みのままこう告げた。


「実はですね、ウォーレスさん。このレギンブルク支部は――パーティを追放された冒険者ばかりが集まったギルド、いわば『追放者ギルド』なんです」

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― 新着の感想 ―
[一言] それが自分の力でないならダンジョンで拾った装備を付けていることも駄目と言う事になる。
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