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283 最初から

 ズンッと何かが体を貫く感覚に一瞬息を止めたコスモスは、ぼんやりとしながら核に突き刺さる白銀の刃を見つめる。

 鎧が傷をつけたんだと教えてくれた箇所に刺さった刃はキラキラと煌いて綺麗だ。

 別に驚くことはない。いつかはこうなるような気がしていた。

 それが自分の杞憂であることを願っていただけだ。

(油断してたなー)

「マスター!」

 アジュールの悲鳴を聞きながら、コスモスは薄れゆく意識の中で目を瞑った。

 こんな所で終わるのは悔しいが、どうしようもない。

 鎧の演技力を褒めながらコスモスは動きを止める。

 ぴたり、と停止したコスモスとの繋がりが薄れていくのを感じてアジュールは鎧に飛びかかる。

「なーんて、最後の演出としてはこっちの方がいいと思うけど無理ね。耐えられなかったわ」

「ははは。演技派じゃないか」

 鎧に体当たりをするもびくともしない彼に目を鋭くさせたアジュールは、大きく伸びをするコスモスに動きを止めた。

 彼女はけろっとした表情でその場でくるりと回る。

 身を貫く刃など気にした様子もなく鎧を見上げると、溜息をついた。

「びっくりしたけどね。オールトの研究所で私に無理矢理突っ込んだヤツでしょ。最初から利用してたわけだ」

「でもほら、コスモスに害はないって分かってたし核だってちゃんと破壊されてるからね。ね?」

 狂喜の人物との再会でうやむやになってしまっていたが、コスモスは鎧が自分の中に隠したそれをきちんと解析して保管していた。

 フォンセからも、そのままにしている方がいいだろうと言われたからだ。

「それでもマスターごと核を破壊することはないだろう!」

「邪神の核っていうのはとても厄介で、女神の祝福と加護を受けたものでしか傷つけられないんだ」

「だからと言って!」

「ありがとう、アジュール。でもこの通り私は大丈夫だから」

「はぁ。だとしても、マスターはもう少し自分を大切にしてくれ」

(あ、そうね。私に何かあればアジュールも危険なわけだ)

 その時は契約を解くまでだろう。

 さすがにそこまで彼を道連れにしようとは思っていない。

「ちゃんと破壊された?」

「されてるよ。砕け散って消えただろう?」

「この場も消えそうだがな」

「そうだね」

 復活や再生はないよね、と念入りに確認しながらコスモスは鎧を見つめる。

 いつの間にか彼女を貫いていた剣は消え、ゴゴゴゴという響きと共に崩壊していく内部にアジュールは駆け出す。

 それを追うようにコスモスを左手に乗せた鎧が続くが、来た道は塞がっていたりして他の道を探すしかなかった。

 内部がドロドロと溶けていくので移動しづらいというのもある。

「これ、帰り道どうするの?」

「最終的には落ちるしかないだろうね」

「私とマスターは構わんが、お前は無理じゃないか?」

「さすがにこの高さからの落下は避けたいなぁ」

(だから爽やかに笑ってる場合じゃないでしょうよ)

 何の予告も相談も無しにいきなり自分の体ごと貫く鎧のことだ。何か考えがあるんだろう、とコスモスは彼の手の上で降って来る瓦礫を燃やす。



「で、中央のメランを模した人型の額にあった魔石を奪って衝撃を和らげて着地したってこと?」

「説明ありがとうございます」

「コスモスとアジュールはいいとして、照れてんじゃないわよ! 褒めてないっていうの!!」

 腕を組んだノアに睨まれているというのに鎧は動じない。それが気に入らないのか、ノアはダンダンッと地面を蹴った。

 彼女にしては珍しいその言動に、傍にいた弟子はノアと鎧を交互に見比べながら困惑している。

「ルーチェ達は何してるの?」

「せっかくだからと、落ちた邪神だったものから何か剥ぎ取れないかと探してるようです」

「逞しいわね」

「気持ち悪い見た目ですけど、取れる素材は一級品だそうですよ」

 説明してくれる弟子に頷きながら、コスモスは白く変色してしまった肉塊だったものを見つめる。

「それにしても、よく邪神の核を破壊できたわね」

「私ごと刺して破壊したからね」

「はぁ? ちょっと、鎧。あんた、何してくれてるわけ?」

 ノアとしては内部に侵入できたとしても核を破壊できるかどうかは五分五分だったのだろう。

 私のお陰、とばかりにコスモスが二人の間に割って入れば綺麗なノアの顔が冷たく恐ろしい表情へと変化していく。

 ヒッと引き攣ったような悲鳴を上げる弟子の声を聞きながらコスモスはその時のことを詳しく説明した。

「はあぁ。用意周到じゃない。女神の雫をコスモスの中に保管して邪神の核を破壊する道具として扱ったわけね」

「そうです」

「え、コスモスだって何となく気付いてただろう?」

 大きく息を吐いて睨みつけるノアの周囲は他より温度が低い。

 ぶるぶると小刻みに震える弟子は息を殺すように口を両手で覆っていた。

(あれが、果敢に戦闘してた人物だとは思えないわよね)

「刺されてからね。痛覚遮断できて、ダメージもそれほどないってあの時確認してたんだなって思ったけど、ショックだったわよ」

「それは……ごめん。でも、失敗できなかったから」

 あの時というのは、オールトの研究所跡でコスモスが鎧に腕を突っ込まれた時のことである。

 その時に室長が隠していた“女神の雫”を入れられたのだ。

「はぁ。コスモスは女神の加護と祝福を受けているし、女神の雫まであったら邪神の核だって無効化できるわよね。大精霊様達の力を分けてもらってなかったら消失してたって理解してる?」

「まぁ、その時はその時かなぁ」

「何でのん気なのよ!」

 自分が邪神の核を消滅させるための消費アイテムだったとしても、バックに女神がいるから何とかなるだろうと彼女は思っていた。

 その時はもう二度とこちらの世界に来ることは無いだろうが、生きていればそれでいい。

「ちなみに、女神の雫が無かった場合は? 破壊できないの?」

「そうね。邪神の核も、一応神ではあるからそう簡単に傷つけられないわ。邪神と相反する存在である女神の力を利用して防御を無効化した隙に破壊するしかないの」

 女神から聞いていないのかと聞かれてコスモスは頭を左右に振る。

 そんな大事な話は聞いていないが、フォンセとしては女神の雫まで所持してるなら大丈夫だろうと思って言わなかったのかもしれない。

(どっちにしろ、女神様にも利用されてるって話だけどね。今さらですけど)

「鎧がつけた傷って……」

「あれは剣が女神様の祝福を受けているからね。それでもあの程度の傷しか作れなかったけど」

「とにかく。女神の祝福と加護を受けて女神の雫を所持したコスモスを、女神の祝福を受けた剣で貫いて核を刺したんだからそれは壊れるでしょうよ」

 誰もそんな事考え付かないわ、と歯軋りをするノアを見つめながらコスモスは「なるほど」と呟いた。

 背後ではルーチェやジャックの賑やかな声が聞こえている。

「何回も傷つけてればいつかは破壊できるんじゃないんだ?」

「無理ね。一度傷つけられれば修復と共に防御のレベルが上がるわ。打開策を探しているうちに、逃げられて終わりよ」

「逃げるの!?」

「逃げるわよ。核自体では何もできないから器は必要だけど、自己修復と防御だけは強化されるのよね」

「安全な場所で回復するために、逃げちゃうんだよ。例えば、亜空間とかね」


「封印されたんじゃ……」

「逃げ込んだ先が亜空間だったから、閉じただけでしょ。それでも閉じられたのは女神様のお陰だけどね」

 感謝しているようには思えないノアの表情に、コスモスはこっそりと会話を聞いているだろうフォンセが心配になった。

「主犯であるシュヴァルツを教会本部地下に封じ込めて楔にすれば完了よ」

「あっさり逃げてたけどね」

「時間経過と共に緩んだんでしょうね。完璧に消滅させてればいいのに、女神の愛しい子だからってそのままにして」

(邪神を吸収したメランにあっさり取り込まれてたのは、自分で望んでたからなのかしら?)

 てっきり、邪神の核を倒しても高笑いと共に新たな脅威が出てくると思っていたコスモスは拍子抜けしていた。

 シュヴァルツが取り込まれた形跡は肉塊内にもあり、メランもそう言っていたので間違いないだろう。

「後は城に帰ってからゆっくり話しましょう。処理しなきゃいけないことはたくさんあるのだし」

「そうだね」

「それに、彼らばっかりに貴重な素材を持っていかれるわけにはいかないもの」

「あはは」

 弟子を連れて素材剥ぎに参戦するノアを見ながら、コスモスもその後についていく。

 彼女に合わせるようにして歩く鎧は、手を伸ばすとスッと避けるコスモスに動きを止めた。

「コスモス、やっぱり怒って……」

 呼びかける鎧には答えず彼女は速度を上げ皆の元へと向かう。

 鎧の影に潜んで様子を見ていたアジュールが、のそりと姿を現し溜息をついた。




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