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268 新しい仲間??

 女神の要請に答えて各地の魔物退治をしていたコスモスだったが、シュヴァルツ側の動きが掴めなくて少し焦っていた。

(これだけ派手に暴れてれば嫌でも出てくるかと思ってたけど、反応ないのよね)

 あったのはいきなりコスモスの精神世界に干渉し邪神が現れた時くらいだ。

 あれはシュヴァルツ関係なく邪神が勝手に押しかけてきたように思えて彼女は小さく唸る。

(邪神よりシュヴァルツが危険だと女神様も言っていたけど、彼が何考えてるか分からないから困るのよね)

 そのままずっと大人しくしていてくれればいいが、それはないだろう。

 あの男のことだから、機会を窺っているに違いないとコスモスは眉を寄せた。

(私達が世界を飛び回って魔物退治してる姿をニコニコして見てそうなのよね)

 寧ろ面白がって意図的に魔物を強化しているまである。そう思いながらコスモスは城内の改築に勤しむ鎧たちを眺めていた。

(それにしても、そんなに楽しいことかしら? まぁ、物件眺めるのは嫌いじゃないけど)

 ボロボロで人が住むに適さない北の廃城は、鎧と精霊達の働きによって見違えるように綺麗になっていた。

「そんなに楽しいものかしらね?」

「押しかけてきてそれ言うんだ」

「コスモスが心配だったからよ。それに、アレの修行にもいいでしょう」

「修行ねぇ」

 ノアが椅子に座って優雅にお茶を飲みながら、忙しなく動き回っている弟子や精霊達へと目を向ける。

(まるで城主のような佇まいだけど、ここの主は私なのよねぇ)

「鎧とは知り合いなのね」

「……なぜ?」

 ガチャン、とカップをソーサーにぶつける音が響く。珍しい動揺のしかただとコスモスは不思議そうにノアを見た。

 美しい少女は怒っているような表情でじっとコスモスを見つめる。

「なぜって……。お互いに「初めまして」とは言ってたけど、あからさまに何かありましたっていう雰囲気だったもの」

「……」

「過去に何かがあったのかとか、別に探ったりしないから心配しないで」

 気にならないと言えば嘘になるが、面倒なことが待っていそうだと思えば見なかったことにすればいいだけだ。

(二人の問題に部外者の私が介入する隙なんてないだろうし、よけいに拗れたりしたら大変だもの)

「ただ、私が鎧と一緒にいると分かってるはずなのにこうして出てきたんだから、何か理由があるんでしょう?」

「人を引きこもりみたいに言わないでちょうだい」

「似たようなものじゃない」

 ムッとした表情をするノアを眺めながらコスモスは笑う。

「戦力が増えるのは助かるから、ありがたく利用させてもらうけど」

「私の方が貴方達を利用して、捨てるかもしれないわよ?」

「うーん。前の私(・・・)にならそれをしたかもしれないけど、今の私(・・・)には無理でしょ。分かってると思うけど」

「……可愛げがなくなったわね」

 へへへ、と笑うコスモスにノアはため息をついた。

 球状になったり人型になったりところころ姿を変えるコスモスは、楽しそうな声を上げてノアの正面に座る。

(前の私だったとしても、ノアがそんなことをするわけないと思うけど)

「可愛げだけじゃ生きていけないからね。その才能はないのよ」

「はぁ。そういうことじゃないんだけど」

「あ、邪神の信者達が死後蝶に変化するのは知ってるよね? ノアは黒い蝶を操れるし、弟子くんも黒い蝶になれたりするけどそれも邪神関係?」

「……」

「もしかして、邪神の巫女とかだったりするの?」

 コスモスが聞いている内容はぎょっとするようなものだが、当の本人の声は楽しげだ。

 キラキラした目で興味深く自分を見つめているのだろうなと思ったノアは、再度ため息をついた。

「仮にそうだとしたら、のんきにお茶してる場合じゃないわね」

「いやぁ、私に接触した時点で離反してるのかなと思って。でも、弟子くんが黒い蝶になれたりするのはメラン関係かな」

「メラン関係だとしても、分裂する前に邪神と接触して感化されてなかったら無理でしょうね。それに、私が邪神の巫女かもしれないですって? そんなものあるのか知らないけど、冗談でもやめてもらいたいわ。気持ち悪い」

「あ、はい。すみませんでした」

 汚物を見るような目を向けられ、コスモスは萎縮し怯えながらすぐに謝罪する。

「蝶ってこれのことね」

「そう、それ」

「魔力を変換させて使ってるだけよ。貴方も知っての通り、この蝶は攻撃力も低く一般人でも振り払えるわ。ただ、群れると撃退するのも難しい」

「あれは、鬱陶しいわ」

 全身に纏わりつかれたら身動きも取れなくなる。

 食べても無味無臭で特に害はなかったはずだ。

「そう。その程度。でも、邪神関係の黒い蝶は死体が溶けて変化することが多いのよね?」

「そうですね」

「魔力を変換させて黒い蝶を操作してるのは、私やあの子くらいだわ」

「そうなると、それ以外は全て邪神関係?」

「そうなるわね」

 しかしよほどの人でなければ見分けなどつかない。

 ノアや弟子が黒い蝶を扱っている姿を見れば、悲鳴を上げて逃げていくだろう。

(否定したところで邪神の関係者だと思われるでしょうね)

「昔は魔力を蝶に変換して利用してた人は多いのよ? 今ではそれも少なくなって、嫌な奴等の象徴みたいになってるけど」

「幸福の蝶の偽物としか思ってなかったわ」

「そうよね。今はそれで有名になったものだから迂闊に人前で蝶を出せないのよね」

 ノアの話を聞けば、魔法が使える人物であれば誰でも魔力を蝶に変換できるらしい。

 それにはコントロールとどうやって魔力を変換させるかの勉強が必要のようだが。

「他にも鳥だったりアジュールみたいな獣だったり、人によって色々よ」

「へぇ」

「シュヴァルツが完全に教会を裏切ってからの登場とは、怪しいけれどね」

「気の済むまで調べたらいいわ。別に抵抗はしないわよ」

 勉強すれば自分もそんなことができるんだろうか、とコスモスは自分の掌を見つめた。

 気配なく近づいてきた鎧がいつもと変わらぬ口調でそう言うが、ノアは淡々と返す。

「調べは済んでるよ。コスモスを味方につけて、自分達の信用を得ようなんて考えたね。感心するよ」

「それはどうも。コスモスには色々と世話になっているし、女神様から状況も聞いているわ。人手が足りなくて困ってるだろうから出てきただけよ」

「そう」

 ピリピリと空気がヒリつくがコスモスは二人を交互に見て気配を薄くさせた。

 自分のことは空気だと思ってくれれば、と先ほど確認した女神からの手紙を読む。

 新しい通知はなく、これからどうしたものかと考える。

(結局、自発的に動くより女神様からの連絡待った方がいいのよね。予定外のこともあったけど)

「だったらさっそく手伝ってもらったらどうかな?」

「え」

 鎧から急に話を振られたコスモスが間の抜けた声を上げれば、それと同時に新着メッセージの通知音が鳴る。

 タイミングが良すぎではと怪しみながらコスモスはメッセージを読む。

「……レサンタの火山でドラゴンが暴れてるって」

「はぁ。それで、私達がそこに行けばいいの?」

「ううん。ノア達にはエステル様のところに行ってほしい」

 やってやるわよ、と呟いたノアの動きが止まる。

 コスモスはヘルメの祠周辺での魔物の活性化と結界のことが気になっていた。

 女神からも注意するようにと書かれているが、優先しろとは言われていない。

「火山でドラゴン退治するわよ?」

「ううん。ヘルメの祠に向かって脅威があれば取り除いてほしい。火山には私達が行くから」

「逆でも良くない?」

 ノアとその弟子の実力を理解しているコスモスは、そっちの方がいいと呟いた。

 眉を寄せたノアに鎧は軽く笑って腰に手を当てる。

「諦めたどうだい? コスモスの頼みは君達がエステル様の手助けをすることだ。嫌なら嫌だと言えばいい」

「べ、別に嫌とは言ってないわよ」

「では、よろしくお願いします」

 コスモスが言おうとしたことを鎧が先に言ってしまう。

 その爽やかな声にノアは眉間の皺を濃くしながら「うっ」と呻いた。

「分かったわよ。やればいいんでしょう」

「あー、無理ならいいよ?」

「無理なんて言ってないんだけど」

 腕を組んで怒ったように言われたコスモスは、困った顔をして鎧を見上げた。

 二人の間に何があったのかは知らないが、変に煽ってノアが機嫌を損ねるのも困る。

(せっかく二人が手伝ってくれるって言うんだから、変に刺激しないでほしいんだけど)

「ノア?」

「行くわ」

「もう?」

「女神様から連絡が来たんだから当然でしょう」

 そうは言うものの、一刻も早くこの場からいなくなりたいというのがその態度に表れていてコスモスは弟子を呼ぶ彼女の背を見つめた。

 はぁ、とため息をついて鎧を見上げるコスモスに彼は知らんぷりだ。

(痴話喧嘩ならよそでやってほしいわ)



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