24 間違い探し
アイテム収集は欠かせない。
この世界でありふれたものだとしてもコスモスには新鮮で面白い。
どこでもよく見る薬草は大した価値にならないとウルマスに言われたが、関係ないと彼女はパサランに詰め込んでいた。
売るのが目的なのではない。自分の蒐集欲を満たす為、後でゆっくりと並べて眺め一つ一つ手にとっては悦に浸るためだ。
彼女が新しい物を見つけるたびにウルマスが説明してくれるのもありがたい。
「これは?」
「あぁ、それはマジックマッシュルームだね。それも調合して薬になる物だよ。軽度だけど胞子には幻覚作用があるから気をつけて」
(名前からしてもしかしてとは思ったけれど)
白くて美味しそうなキノコだが、食用ではないとウルマスに言われてコスモスは少々残念な気持ちになる。
こんなに真っ白で肉厚なマッシュルームが口に出来ないとは何とも惜しいと、ケサランも鳴く。
「食べると頭の中お花畑になれるよ?」
「……よし、探索を続けましょう」
にっこりと可愛らしい笑顔を浮かべて見下ろしてくるウルマスに彼女は持っていたキノコをパサランに投げた。その様子を眺めているクオークは首を傾げながらウルマスの視線を辿る。
コスモスがどこにいるのかは会話をしているウルマスの視線を辿れば判ると思ったのだが、彼は時折何かを探すように周囲を見回す事がある。
そう言えば、彼は声しか聞こえないのだったという事を思い出してクオークは「ふむ」と頷いた。
「マジックマッシュルームは使用法さえ間違えなければ高度な調合の素材にもなりますから、中々使えるものですよ」
「調合って素人じゃできないよね? 勉強すれば誰でもできるかな?」
「うーん……そうだね。素材に詳しくて、調合方法も作成するものによって色々変わるから。普通に店でも売ってるような傷薬や軟膏なら初心者程度でもできるけど、買った方が安いから作る人はあまりいないかもしれないなぁ」
魔法の壷や釜に素材を入れれば、ドドーンと調合できてしまうような便利な道具があればいいのにとコスモスは天井を見つめ、眉を寄せた。
キラキラと輝くものが洞窟の天井にこびりついている。
鉱石かと近づいてみれば何かが擦れたような跡で、触れば消えてしまった。仄かに感じる魔力の気配に魔物が近くにいるのかとウルマスに問えば、気配はしないと首を横に振られた。
「どうかしたの? 姉様」
「んー、天井にナメクジ這った跡みたいなのがあるんだよね。魔力の気配がするような、しないような」
「ナメクジ?」
(あ、そっか。こっちの世界にナメクジっていないのか。なんて説明しようか)
何かに例えるとしてもこちらの世界にそれが無かったら、また面倒な事になってしまう。
カタツムリの殻の無いやつ、と言いたかったコスモスはカタツムリはいるのかと首を傾げて低く唸った。
「うーんと、体が細長くて触覚が二つあって、ぬるぬるしてる生き物なんだけど。塩かけると溶ける」
「ナメクジ。以前どこかで聞いた事があるような……」
「細長くて触覚……ぬるぬるした生き物ねぇ。うーん、スライムみたいな感じかなぁ?」
「とにかく、そんな感じのものが天井を這ってる痕があるのよ。見える?」
眉を寄せてナメクジという単語を繰り返すクオークと、きょろきょろと周囲を見回して何が起こっているのかさっぱり判らない兵士を他所にコスモスとウルマスは会話を続ける。
顔を上げて天井を見たウルマスだが、彼女が言う何かが這ったような跡は見当たらない。逆さまに蝙蝠が数匹ぶら下がっているのが見えるくらいだ。
彼が同じように天井を見上げている兵士に「見える?」と聞けば、無言で首を横に振る。
「ごめん姉様。悪いけど見えないよ。ちょっとここからじゃ遠過ぎるっていうのもあるかもしれないけど。それ、どこかに続いてるの?」
「そうみたいだけど。んー、無駄かもしれないけど一応行ってみる?」
「そうだね。何もないかもしれないけど、行くだけいってみようか」
新種の魔物と出会うかもしれないと考えると身震いがするが、ウルマスが暢気な声でそう言って笑うのでコスモスは仕方なく彼らを先導しながらキラキラとした跡を追いかけていった。
途中でぶら下がる蝙蝠にぶつかったり、天井を這う大きなムカデに可愛げのない悲鳴を上げてはウルマスを心配させたが生理的に好きになれないものはどうしようもない。
すり抜ける癖にどうして驚くのかと自分でも思うのだが、それを認識してしまうのが嫌だとコスモスはケサランを盾にするように進んでいった。
虫だろうがコウモリだろうが魔物だろうが動じない彼は、ちょっと誇らしげにコスモスの前を進む。
時折、コスモスの頭上で「バリバリ」だの「モキュモキュ」だの聞きたくない音が聞こえるが、彼女は何も聞かなかったことにして天井に残る跡に集中した。
「あれ? 何だここ。隠し通路?」
跡が途切れている場所で周囲に何か無いか探っていると、天井がふわりと抜けて驚いた。その周囲は硬い抵抗があるのに一箇所だけ何の抵抗も無い。
コスモスがすり抜けようと思えば洞窟の天井もすり抜けられるのだろうが、こういう怪しい部分は何があるか分からないので無闇に頭を突っ込むのは気が引けた。
「よし、ケサランさんお願いします」
頭を下げてケサランの返事を聞く前に彼女は両手で掴んだ彼を上に向かって投げる。
通常ならば洞窟の天井に当たって落ちてくるのだが、彼はあっさり天井を突き抜けてどこかへ行ってしまった。
ビシッと敬礼しながらケサランが戻ってくるのを待つ。
天井に怪しい箇所があったから探っていると言う彼女に、どんな方法で探っているのかと尋ねたクオーク。
(精霊を投げ入れました、なんて正直に言えるわけがよね)
それは秘密です、とウルマスに伝えればクオークは天井を睨むように見つめていた。
どんな方法を使ったのか気にならないのかとコスモスがウルマスに聞くと、彼は「言いたくないんでしょ?」とウインクしてくる。
こんな弟が欲しかった、としみじみ思っていればキュルルと鳴いてケサランが戻ってきた。
球体の端から何か出ているので引っ張ってみれば、出てきたのは幸福の蝶。
「あ、違う。これ、黒い蝶だ」
「え! いたの? 姉様っ!?」
「何ですか? 何がいたんですか? 蝶ですか? どこですか!?」
弾かれたように反応したクオークが鋭い眼差しで天井を見つめる。
コスモスはケサランが食べていたらしい黒い蝶をウルマスの掌に乗せると「見えるかどうか判らないけど」と心配そうに呟いた。
自分に見えているものでも、他人に見えない事が多いから何が見えて何が見えないのかよく分からないのだ。
「あ! これだ! この蝶だよあの時襲ってきたのは」
「なっ! こ、これは……そうですね。あの時すぐに避難してしまいましたから良く見る事ができなかったのですが、これは確かに幸福の蝶と良く似ている。あぁ、あの時私だけでもあの場に留まればこんな手間はかからなかったと言うのに!」
触りたくて仕方がないと言った表情で、ウルマスの手に乗っている蝶を見つめていたクオークは儀式の事を思い出したのだろう。
頭を抱えて絶叫に近い声で叫ぶと近くの岩に頭をぶつけ始めた。
(この程度でそんなことして大丈夫なのかな? 頭、頭から血!)
「姉様これ、天井から?」
「うん。天井の怪しい箇所から」
「怪しいって抜けてるとか言う?」
「そう。見た目は普通だから触らないと分からないけど。隠し通路みたいな?」
天井に隠し通路とはまた考えたものだと感心してしまう。
通常ならば壁、地面など比較的入りやすい場所だろう。
隠しているのだから入りにくくして当然なのかもしれない。最初からあったものでなければ誰かが作ったという事になるが。
「天井とかって、隠し通路作ってたりするのかな? ここの洞窟」
「ねぇ、この洞窟に隠し通路あるって噂聞いたことある?」
「いいえ。そんなものがあったら、冒険者が踏破していると思いますよ」
「だよねぇ」
コスモスからの質問をウルマスが兵士に伝える。彼は首を傾げながら天井を見つめると苦笑しながら答えた。
そのやり取りを聞いていたコスモスもまた、その通りだと頷いてしまう。
王都であるミストラルにも冒険者ギルドというものが存在し、常時在籍している冒険者の数は少ないものの旅をしている手練の冒険者たちは必ず立ち寄る場所だという。
確かに、自分が冒険者の立場だったら王都という大きな都市には必ず寄るだろう。道具補充や装備品の手入れ、情報収集に路銀稼ぎも大きな都市であればあるほど豊富だ。
そうなれば近くのダンジョンは探索し尽されていると言っても過言ではないはず。
ミストラル周辺は比較的穏やかで弱い魔物が多い。攻撃をされない限り、自分よりも強い者に襲い掛かるということは滅多にないとマザーの言葉を思い出したコスモスは「うむむ」と唸った。
儀式後にここを訪れた冒険者が黒い蝶を見かけて押しかけたが、何も発見できずに終わったらしい。
(まさか誰も天井に抜け道があるなんて気づけないからなぁ。いや、軽く魔力で蓋をしてあるけど微弱だから魔物に掻き消されるのかな?)
「儀式後にここを探索した冒険者もいたのよね?」
「あぁ、そんな事言ってたね。儀式後ここを訪れた冒険者は?」
「黒い蝶らしきものを目撃したという人達ですね。たしか単身者二名とパーティ一組です」
冒険者と言えば調査に同行していた魔術師の事をコスモスは思い出す。
彼の力は中の上。
魔術も色々と系統があるらしく、彼が何に長けているのかは知らないがあのくらいのレベルでも感知できないとしたら他の冒険者たちも気づけないだろう。
もし、気づいていたら兵士の言う通り踏破されているはずである。
「その……」
「黒い蝶を目撃したのは儀式後だけではありません。儀式前にも行商人や木こりが幸福の蝶らしき蝶の姿を目撃しているという情報が入っています」
(黒い蝶が目撃されたのは、儀式後だけじゃないのか)
冒険者について兵士から詳しく聞こうと思っていたウルマスは、言葉を途中で遮られて軽くクオークを睨んだ。小さく溜息をつくウルマスに気づいていないクオークはジッと天井を見つめているが、彼の視線の先にはただの天井があるだけだ。
(通り抜けできる箇所はもっと前の方なのよね。見えないんだからしょうがないけど)
「儀式前にも? 僕が聞いた話では儀式後だけのはずですけど?」
「目撃者は少数でしたから儀式前に見た蝶は、幸福の蝶ではないかということで後回しにされていたのですよ。妹君の儀式を祝福するように街中に蝶の姿がありましたからね」
「……あなたも目撃していたのでは?」
「残念ながら、私は研究所に暫く篭っておりましたのでその話を聞いたのは当日だったのです」
しかし幸福の蝶と黒い蝶を見分けられるというクオークが、あれだけたくさんいた黒い蝶を幸福の蝶だと見間違えるのだろうか。
コスモスは不思議に思って、目を鋭くさせるウルマスに問いかける。
「詳しそうなクオークさんでも偽物だって分からなかったのかな?」
確かに黒い蝶はソフィーアの成人の儀を狙うようにして急襲した。だが、クオークの言葉に嫌味は無いとコスモスは思う。彼はただ、事実を述べたまでだ。
それは当然ウルマスも判っているはずなのだが、それでも気に入らないのだろう。コスモスの疑問に彼の可愛らしい顔立ちが少々歪んで怖くなっている。
(ウルマス、クオークさんのことあんまり好きじゃないみたいだな)
「アクシオン氏ともあろう方が、黒い蝶と幸福の蝶の区別もつかなかったのですか?」
にっこり、とそれはそれは可愛らしい笑みで美少年が微笑む。
妹であるソフィーアと並べばきっと彼も女の子と見間違われるのではないかと思えるほどの天使の微笑だった。
(あ、これ悪魔だ。悪魔がいる)
自分に向けられた笑顔ではないと判ってはいるものの、見ているだけで寒気がする。ケサランも何かを察知したかのように瞬時にコスモスの背後に隠れた。
頭上のパサランも小さく身を震わせて鳴く。
「ええ、非常にお恥ずかしい話です。幸福の蝶だと騒がれていたので、私もてっきりそうだと思ってしまいました。あまりの群れに感動して興奮したので覚えていないのですよ」
(照れながら言われても困るんですけど)
「……」
妹が非常に大変な目に遭ったウルマスにとっては思い出したくもない光景だ。
それを目の前の研究者は感動したのだという。
ここで声を荒げてはいけないと思う彼だが、ふつふつと湧く怒りは体を震わせた。
「黒い蝶と言えど見た目は幸福の蝶と変わりはありません。Dr.ウィルならば瞬時に見分けがついたのでしょうが、私はそれ程知識が深くないので先入観でそう思い込んでしまったのでしょうね。あの美しさ、それと同時に感じる底知れぬ恐ろしさが何とも言えず素晴らしいのですが、撒き散らす鱗粉も本物と大して変わらないなんてどういう生態なのか興味があります。それに見ましたか? あの群れですよ! あの群れ! 蝶がまるで意思を持っているかのように動き、一糸乱れず鮮やかに編隊を変える。素晴らしい! 素晴らしいとしか言いようが無い!! 偽物だとしても関係はないのです! できるだけ多く採取し、早速本国へ帰って詳しい研究をしなければ。あぁ、しかしあの時避難などしなければ良かったのに私は何故……」
(……興奮しすぎ)
クオークの目は大きく見開き、鼻息は荒く、頬は紅潮している。
研究所で本物の幸福の蝶を追いかけていた時と同じような状況に、強く拳を握り締め怒りを抑えていたウルマスも冷めた瞳で彼を見つめる。
頭がおかしいとしか思えないクオークの様子に、怒りは消えて呆れたように溜息をついた。
兵士はぽかんと口を開けて、ポカポカと自分の頭を叩いているクオークを見つめている。
クオークの額から出血しているのは先ほど壁に頭をぶつけていたせいだろう。さらにそこへ拳で打撃を加えたものだから止まった血が再び滲んでいた。
「アクシオン様!」
それを見て硬直を解いた兵士が慌てて彼に駆け寄り頭を叩く腕を拘束しようとしている。
一人ではどうにもならなかったのか、ウルマスに助けを求めているが彼は生返事で中々動こうとはしなかった。
(めんどくさい)
個性があって、面白いですねと笑って言えたらどれだけいいだろう。
そんなことよりも早く探索の続きをしたいとコスモスは溜息をついた。
(しょうがない、か)
彼女は背後に隠れていたケサランを軽く掴むと、クオークを指差す。投擲されない事を不思議に思いながらケサランは頷くように飛び跳ねる。
そしてコスモスの手からクオークの鳩尾目掛けて勢いよく飛んでいった。
「カハッ!」
「……姉様」
「大丈夫。ただの気付けよ」
ウルマスの声にコスモスは余裕をもった口調でそう答えた。
確かにイストに与えた衝撃に比べれば甘い。しかし、飛んでいったケサランが心配そうに鳴くのでコスモスは目を逸らした。
荒い呼吸をしながら胸部に手を当て、深呼吸を繰り返しているクオークの背中を兵士がさすっている。仕事とは言え大変だと同情しながら、原因を作ったのは自分で最悪国家間の問題に発展しかねないのかとコスモスは首を傾げた。
(いや、軽傷だし。霊的活力にも揺らぎはあるけど問題ないから大丈夫。うん。大丈夫)
「姉様、通り抜けた先に何があるのか見て来れない?」
「……え?」
何が出るか分からないから怖くてお断りしたいのだが、正直にそうも言えず彼女は沈黙する。自分が行けば手っ取り早いのは分かっているが、何かあったときどう対処すればいいのだろう。
人魂だからカウントに入っていないのか。もうちょっと丁重に扱ってくれても良いだろう、これでもマザーの娘だぞとコスモスが思っていると、キュルキュルとケサランが鳴いた。
彼女の頭上ではパサランが軽く飛び跳ねてる。
(ん? 協力してくれるの? 私は嬉しいけど)
「よし、分かった。敵らしきものと会ったら即行逃げるから。戦わないよ?」
というよりも、どうやって戦えばいいのか分からない。
いざとなれば儀式の時のように精霊に手伝ってもらえばいいだろうが、あまりやりたくなかった。
儀式以降に力を使う練習は全くしていないからだ。
「うん。お願い。姉様に見てきてもらうけど、いいよね?」
「はっ! 是非お願いします。それならば、これを使ってマーキングをお願いしたいのですが」
蹲ったまま言葉を発せぬクオークの傍で兵士が腰にぶら下げていた小さなカバンから何かを取り出す。白くて短い棒状のものを受け取ったウルマスが、それを何も無い空間に向かって差し出すように腕を上げた。
コスモスが受け取る前にケサランがそれを回収して、天井の抜け道がある部分に何やら良く判らない落書きをし始めた。
あれでいいのかと思ったコスモスだが、ウルマスたちが何も言わないのでそれでいいのだろう。
楽しそうに書き終わったケサランは残ったチョークをボリボリと食べ始める。返さないと駄目だろうと無理矢理取り出そうと格闘していれば「返さなくていいって。大丈夫だってさ」とウルマスの声が聞こえる。
天井に描かれた落書きを見上げているクオークは冷静さを取り戻したのか、口元に笑みを浮かべてそれを見つめる。兵士はホッと息を吐くと彼の邪魔にならないように少し離れた。
「御息女が行かれるのですか? それはあまりにも危険では?」
「そんなこと言われなくても分かってる。だから、ただ偵察してもらうだけ。危ないと思ったらすぐに帰ってきてもらうよ」
「しかし、仮にもマザーの御息女ですよ?」
万が一の事があれば、とクオークは言いたいのだろう。
コスモスに何かがあった時に誰が責任を取るのかと。
(強い魔力の気配はないし、そんなことにはならないと思うけど……って油断したら危ないか)
「それは……そうだけど」
「大丈夫だよウルマス。精霊は無事に帰ってきたんだし、何かあったらすぐ逃げるから大丈夫。ちょっと見てくるわ」
先に放り投げたケサランは何事もなく帰ってきたので大したことはない。
油断しないのが一番だが、相手を安心させるためにコスモスは明るく笑う。
「うん。気をつけてね、姉様」
(じゃあ先頭はケサランで。うん、よろしく)
「キュル!」
ケサランを先導させてその後に続こうとコスモスは彼と軽い話し合いをしていた。嫌がると思っていたケサランは機嫌が良いのかピョンピョン跳ねてその提案に乗る。
「あ、姉様これ……」
ベルトに下げていた携帯ランタンを外そうとしたウルマスにクオークが待ったをかけた。
「何かがいるのであれば、ソレに気づかれる恐れがあります。暗闇が広がるならば、明かりは無い方が良いかと」
「でも、だったら何も見えないよね?」
「んー。精霊がいるから、何とかなるかな。視覚塞がれても聴覚あるし」
とりあえず、軽い下見程度だからと付け足してコスモスはのんびりとした口調でそう答えた。
怖いとか、嫌だとかそんな感情を全て抑えて余裕がある振りをする。
「じゃ、ちょっと行って来るから」
早く来いとばかりに天井で待機するケサランに、コスモスはいつもと同じような口調でそう告げるとウルマスに聞こえぬよう溜息をついた。
躊躇いなくぴょんと飛び込むケサランに、深呼吸を一つ。
オバケが出ませんようにと祈りながらコスモスは天井に突っ込んで行った。




