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いえ、私はただの人魂です。  作者: esora
聖炎の守護者
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116 目的不明

 外から儀式の部屋へと意識を戻したコスモスは、全身を襲う倦怠感に大きく息を吐き出す。一瞬呼吸の仕方を忘れてしまったが、クリアになる視界に気分が爽快になった。

 あぁ、自分は人魂だから呼吸なんて本当は必要ないのかなんてことを思いながら彼女は神殿の上空を飛ぶ一羽の蝶を見つけて噛み砕くように口を動かした。

 今まで無味無臭だった黒い蝶だが、その蝶だけは微かに甘い味がして彼女は首を傾げる。クセになりそうな甘さに他に蝶はいないかと周囲を見回したところで、名前を呼ばれてハッと我に返った。


『コスモス!』

『すみません。ちょっと、夢見てました』

『トランス状態になるにしても場を考えよ。まぁ、集中していたせいもあるかもしれんが』


 溜息をつきながらそう言うエステルに笑いながら謝罪する。先ほどまでの倦怠感は嘘のように消えて、彼女の頭に何かの一場面のような映像が映って消えた。

 エステルにもそれが見えたのだろうが、瞬間的に通り過ぎた映像にたまにあるノイズだから気にするなと告げる。

 覚えていた方がいいのかと思ったコスモスはその言葉に素直に頷き、忘れることにした。


『外は終わったみたいですけど、儀式はどうなりました?』

『特に滞りなく終了したぞ。大精霊の加護を受けたとあれば、城内も少しは落ち着くであろうな』

『エステル様が後ろ盾であれば、文句を言う人もいなくなるのでは?』

『そう簡単にすめば良いが、そうはいかぬのがヒトというものよ』


 加護を授かったフランを見れば、確かに彼のオーラの色が変化している。いつも彼の傍にいる精霊も心なしかパワーアップしているような気がして、これが加護の力かとコスモスは大精霊へと視線を移した。

 廃鉱山の奥で会った時にはそれほど感じてはいなかったが、改めて見るとすごい存在なのだと分かる。

 エステルの気配がするから手加減をしてくれただけであって、エステルと一緒でなければ消し炭にされていたかもしれない。

(うん。やっぱりオールソン氏は私を消したいんじゃないの?)

 もし大精霊に攻撃されたとしても何となく生き残れる気はするが、体に戻る前に寿命が減ることは避けたい。

「加護は授けた。城へ戻るが良い。今頃王都は騒ぎになってるだろうからな。お主の姿を見れば民も安心するだろう」

「王都が?」

「神殿に攻撃してきた輩のことよ。もっとも、こっちは囮で守りが手薄になった王都を落としたかったようだけど」

 大精霊の言葉にフランが軽く目を見開く。一体何が起こったのかと彼が問う前に、戻ってきたココがそう説明した。

 険しい顔になるグレンと口を開いたライツを軽く目で制してココは溜息をつく。

「確かに多少の混乱はあったけれど、今は落ち着いているわ。私が張った結界にも異常はないし。混乱に乗じて暴れた者はいるみたいだけど、すぐに鎮圧されている。どうやら王都に滞在していた賞金稼ぎハンターも協力してくれたみたいね」

「そうですか。良かった」

「しかし、フラン様がここにいるのを良いことに王都を落とすのが狙いだったとすれば見事に失敗したわけですよね?」

 グレンは納得いかないといった様子で眉を寄せる。その言葉にココはあっさりと頷いて紙を束ねる赤いリボンの位置を直す。

「そうね。王都に出現したのが本命なら、落ちてもおかしくない状態よね。いくら私の結界が完璧だと言っても、限界はあるわ」

「国を落としたければ、私を狙うのが一番良いと思うのですが」

 王位継承者が不在となれば、次の王を決めるまで内紛が起こりやすい。様々な勢力が台頭してきて収拾がつかなくなるだろう。

 火の神殿の守りが万全で、国一番の魔女がついているとはいえ本命がくるならこちらだろうとフランは不思議そうに首を傾げた。

「そうなのよね。私も敵の狙いが分からなくて。ただちょっかいかけに来ただけって気もするけど」

「はた迷惑ですね」

「……脅しのようなものでしょうか。いつでも狙っているから覚悟しろというような」

 どこでどんな輩から恨みを買っているかなんて把握しようが無い。存在するだけで相手にとっては目障りで消してしまいたいということだってある。

 しかし、王の魔物化に時間を経ずこの襲撃とあれば関連性があるのではないかと思ってしまうもの。


『コスモス、お主は外でのココと敵の戦いを見ていたのだろう? どう感じた?』

『どうと言われても……。まぁ、相手は少年みたいな見た目でしたけど、中身は底知れない感じで。結局ココさんが言うように本体じゃなく黒い蝶の塊だったので、虚ろ病と何か関連ありそうだなぁくらいですかね』

『ふむ。他には?』

『他に……楽しそうでしたね。殺意を持って襲うというよりは、楽しくて仕方がないって感じで。うん、遊んでいるみたいな』


 だからあの少年が気まぐれに襲撃してきたとしても不思議ではない。アレス王に取り入った占い師関連であればこちらとしても助かるのだがそう上手く繋がるはずもないだろう。

 どこぞの勢力が雇った者にしても、それを調査するのはコスモスの役目ではない。

(竜になって行方不明になったアレス王。その王に贔屓されていた謎の占い師も現在行方不明。王が不在、王子が大精霊の加護を授かりに来た所での襲撃)

 国を混乱させたいのなら目的はほぼ達成しているだろう。しかし、王ですら遠ざけたかったココが国にいるというのに襲撃してきた理由がよく分からなかった。

「また来たらその時にはきちんと聞き出さないとね」

「師匠、物騒なこと言わないでください」

「とにかく、早く城へ戻って対策を練らなければいけないでしょう」

 対処することが多すぎてフランが背負うには重すぎることばかりだ。しかし、彼はそれを背負っていくと決めた。

 王も王妃もいなくなった後で、必死に自分の国を守ろうとしている姿にコスモスは素直に凄いなと思う。

 彼の倍は生きている自分など、嫌なことや辛いことが起こると逃げたり見なかったふりをしてしまうのに。

 ぬくぬくとした環境で育ち過ごしている身がどれほど恵まれていたのかを痛感させられた。


『エステル様、できるだけ協力したいですね』

『ふふふ。お主がそう言うのであればそうすれば良い。私も幼き王子に全て背負わせようと思うほど非道ではないぞ』

『エステル様がいれば安心ですね』

『ハッハッハ。そう褒めるでない』


 優先事項は何があっても変わらないが、親しくなった人物に力を貸すくらいならばマザーも反対しないだろう。

 中途半端に色々なところに首を突っ込んでいるだけのような気もするが、旅とはそういうものだと無理矢理自分を納得させる。

 大体自分が何を考えているか察しているだろうアジュールも何も言わないので、愚痴を言ったり批判したりしながらも付き合ってくれるのだろうと解釈するコスモスだった。


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