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好きを取り上げられた王子様は  作者: 喜楽直人
第三部 側近ブレト・バーン
96/128

2-3-27.



「だっせぇ! ださすぎんだろ、現人神サマよぅ。人間の教育係に粗食を強要されて成長できませんでした、なんてさぁ。冗談にもほどがあると思ったのに。なんとまぁ、事実だったって知った時にゃ、これはもうそのだっせえ王太子いまの内にぶっ殺してすまし込んだこの国の王族どもに一泡吹かせてやろうってね。そりゃなるでしょ。ならない方がおかしい!!」


 料理長。けれど、あの男に罪人の証を刻んだのは父王だ。

 父王を上回る魔力をもって解除しなければ、あの事件に関してだけではなく、何も喋れるはずはないのに。どうして。


 そんな僕の疑問に、男はすぐに答えをくれた。


「あの罪人、さすが王宮料理人だよなぁ。料理の腕が良すぎたんだ。罪人の証を刻まれて国外追放された口の利けない一流の料理人。そりゃー興味を引かれるってもんだろ。だからさ、ウチの魔術師や研究者総出で最後は王様まで引き込んで解除したんだよ。そしたらビンゴ☆ 今は嬉しそうにお前の悪口を言いながらウチの国で料理人してるよ。王城内の、罪人用のだけどな。くっそ安い材料ですっげー旨そうなマズい飯を作って楽しそうに暮らしてるさ!」


 それは……この国での毎日とあまり変わってない生活を送っているということでいいのかな。

 一生口が利けないモノと覚悟していたのにそれから解放されたというなら、どんな質問に対しても口も軽くなるというものだろう。しかも追放された国に対する敬意も何も無いのは当然か。納得した。


「だからさ、王太子様。捕虜として一緒にウチの国に来てもらいますよ。そうして、存分にその王太子って価値を骨の髄までしゃぶりつくして、この国を蹂躙するのに使い倒してやるよ。ひゃっはっは。んで、最後はお約束だしな。奴隷に堕とすのもいいかもなぁ?」


 にたりと気持ちの悪い笑顔になった男が、わざとらしく舌なめずりをしてみせた。

 その手は、腰にぶら下げていた金属の首輪と腕枷を持ち上げている。

 もう片方の手を挙げ、周囲に指示を出すと足元で輝いていた魔法陣が足元へと集約していく。


「っ!!」


 苦しい。身体から魔力が抜けていく感覚が強くなる。頭痛と眩暈がしてくる。

 多分これが、話に聞いていた魔力切れが近付いている感覚というものなのだろう。

 病気の時とも違う。初めての不快な感覚だ。苦しい。


「くくくっ。さぁ、大人しくこの魔封じの枷にすべての魔力を吸い尽くされて、ただ寝転がることしかできない子供になり下がるがいい」


 今この状態だって、苦しい。心だって苦しくて堪らない。


 そんな僕の首元へ、男が手にした首輪を嵌めようと、近付いてくる。


 こわい。ただでさえ魔力を吸い取られて苦しいのに。あれを嵌められたら、きっと本当に何も抵抗できなくなる。


 頭の中が苦しいというだけで埋め尽くされて、思考すらままならなくなってしまうだろう。


 首を振ることも、瞬きすることも、何もできない。


 自分があまりにも無力な子供であることが、情けなかった。

 王族として皆を助ける義務があるのに。

 その力があるという自負だって持っていた。つい、さっきまだは、だけれど。


「いいねいいね。まーったく動かせない身体の癖に、金色なんて人っぽくない色下瞳は、動揺してんのは伝わってくるね。嗜虐心がそそられるぅ」


 このまま敵国の手に堕ちるくらいなら、自決した方がマシだ。でもそれすら叶わない。悔しさで泣きたくなった。


 動かない唇を動かして、その名前を呼びたかった。呼んで、すがりたかった。



 ブレト


 最後に、君に、会いたい。


 声を聴けるだけでもいい。ひと言だけでも。


 ……ううん、ちがう。


 ぼくは、ブレトに、あなたが好きだと、伝えたい。


 



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― 新着の感想 ―
美味しい料理を作って食べた人を笑顔にする、それがプロの料理人なら彼はもう料理人じゃないし、作った物は料理じゃない。王宮料理人にまでなったのに、ドランさんは本当に酷い事をしたなぁ… それはそれとして、な…
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