2-2-11.
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「ブレト・バーン。休暇中だというのに朝早くから呼び立てて済まない」
尊き国王陛下から直接お声を掛けられて、俺は弾かれたようにその場で片膝をついて頭を深く下げた。
「我がクランディエの太陽、 国王陛下へ。忠実なる臣ブレト・バーンがお目通りいたします」
まさか先に小謁見室でお待ちしていらっしゃると思わなかった。
てっきり俺が先に入室し騎士の礼をとって陛下のおいでをお待ちするのだとばかり思っていたので、お待たせしてしまったという衝撃に身体が震えた。
それだけ、ディード様の身に起こったことについてお心を痛めているということだろう。
緊張からか、朝食が胃からせり上がってきそうになったが、さすがにそんな不始末をしでかしてしまう訳にはいかない。なんとか意志の力で抑え込む。
これほど間近で陛下と接近したのは、デビュタントの挨拶の時以来だ。
だがあの時は階上になった玉座の下で挨拶の口上を述べ、それに頷いて貰う形式的な謁見だけだったので、ある意味ノーカンだろう。
そして騎士の資格を授与された時は騎士団長からだったので、そもそもお会いしていない。
近衛隊の任命式の時は騎士団が整列する前に、近衛隊に配属される者が一堂一列になって拝命したので、デビュタントの時より遠かった。
なにより実際に名前を読み上げたのは時の宰相だったし、両陛下と王子王女が並ばれている壇上に向かって、一斉に剣を捧げた。見上げた先にいる王族の顔は誰の顔もまったく分からなかったけれど、この美しい方々に直接仕えることになるのだと思うと、感無量で胸がいっぱいになったものだ。
「緊張する必要はない。そのような場所で膝をつかなくていい。この場では、直答を許可する」
真っ白な大理石でできた小謁見室に、陛下の玲瓏たるお声で許された。
けれど、無理。
反射的に手と首を勢いよく横に振ってしまいたくなったけれど、なんとか堪える。
陛下の後ろへ立っている陛下付きの近衛の方へ助けを求めるように視線を動かすと、ちいさく頷かれた。それを確認してから、ゆっくりと立ち上がった。
ぎこちない動きに、後ろにいるサーフェス副団長辺りから笑われている気はする。だが、それは無視することに決め、もう一度騎士の礼を取ってから直立した。
でもやっぱり、陛下の真正面を見上げるのは無理だ。
目を眇めて更に少しずれた場所へ視線を固定する。俺にはそれが精一杯だ。
顔を直視することはできない。神々しすぎる。無理っ。
目線が合っていないことに気が付いたのだろう。陛下がくすりと笑った。
「まずは息子ディードリクを連れ帰ってきてくれたことに感謝する」
「はっ」
畏れ多過ぎてずっと伏して拝聴だけしていたくなるけれど、こんなところでヘタレている場合ではない。下腹に力を入れて返答する。
「勿体なきお言葉。私の休暇は、昨夜あの瞬間、王太子殿下と出会う為のモノだったのでしょう」
「うむ。運命、というものなのかもしれないな」
それだけ言うと、陛下は黙り込んでしまった。
不思議な間が生まれる。
黙ってお言葉の続きを待っていると、陛下はハッとした様子で咳払いをされた。
「ごほん。昨夜からの聴き取り調査の報告書、今朝提出された補足分も含めて読ませて貰った。だがもう一度、ブレト卿自身の言葉でディードリクに起きたことを語って欲しい」
無理って叫び返したかった。けれど。
「畏まりました」
深く頭を下げて、受け入れる。
ここからが勝負だ。ディード様のプライドを傷つけないように、摘み取られた薔薇のロザちゃんについての説明を乗り切ってみせる。
さーふぇす「絶対に今のアイツの頭の中、『無理無理っ無理!!』でいっぱいだな(ククク」




