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「いいな。自分が手を取るべき相手がその人だって分かるのって」
この国の歴代の王には、魔力の相性が良い相手を娶っている者も少なくない。元の何倍にもなるほどの相乗効果を得られるほどではなくとも、伴にいるだけで常より強い魔法が発動できるようになる程度も含めると、過半数を超える。
魔力の相性が良い相手と結婚して生まれた子供が、魔力の相性の良い相手を伴侶としていくことで血筋を繋いできたからこそ、こうして膨大な魔力を誇るようになったのかまでは分からない。
けれど、そんな風にお互いを高め合うことができる相手が傍にいたなら、その人を好きになってしまうのは当然なのかもしれない。
手を放したくないと、どんな努力だってしたくなってしまうものなのだろう。
たとえ自分の身体の作りを変えてでも、相手の一番傍に立つ存在になりたいと思えるほど。
「それほど誰かを求める気持ちっていうのは、僕には分からないけどね」
父と母の魔力は相性が悪くない、という程度だったらしい。
それでもふたりが治めるこの国は平和な治世を保っている。
「僕と魔法の相性が良い相手は、どこかにいるのかな」
そんな人がいるならば、決して手を離さないのに。
「まぁ、無理か。父上と母上だって、違うのに」
一生涯、見つからない事も多いという運命の相手を探すより、摘み取られた薔薇を見つけ出す方がよほど現実的だと、首を振って浮かれた妄想を頭から追い出した。
「とにかく、認識阻害は使えるようになった」
変な噂に上らないよう気を付けながらここまで実験を重ねてきた。
どうすれば使えるのか、なにをすると解けてしまうのかもようやく分かってきた。
「声を上げなければ、見つからないっぽいかな。ほとんどの人には、だけど」
何度か確かめてみたけれど、声だけは駄目だった。唱えた呪文が切れてしまうのかもしれない。
「切れたら即唱えてみてもいいんだけれど、それはそれで、いた筈の僕が突然見えなくなっても怖いよねぇ」
興味はあるけれど、ただの興味本位ですべてを台無しにすることはできない。
せめてこの検証は摘み取られた薔薇に辿り着いた後にしなくちゃ駄目だ。
摘み取られた薔薇の賢者“ロザチャン様”に会いに行く時は、絶対に声を上げないようにしないといけない。
「でも。ひとりだけ、どうにもなんないんだよなぁ」
僕はその人を思い浮かべて頭を抱えた。
ただひとり。
ブレト・バーン近衛隊長。彼だけは、どんなに意識を高めて認識阻害を使っても、黙っていようが、じっとしていようが、何をしようが僕を見つけてしまうのだ。
それも、ごくごくあっさりと。
最初は、ドラン師にも通用したことで自信を持った僕が、情報収集する為に自室から出ていこうとした時だった。
「どうかなさいましたか、殿下」
普通に声を掛けられて吃驚した。
「いや、ちょっとその、身体を動かそうかなーって」
「そうですか。ではお供いたしますね」
にこやかに笑うブレト卿を、あんなに憎らしく思ったのはあの時が初めてだった。
たまたまかと思ったけれど、その後、何度チャレンジしても、条件を変えてみてもブレト卿にだけは認識阻害が効かなかった。
ので、諦めた。
近衛は朝晩で交代する。つまり、ブレト・バーンが付いていない時に、情報収集をすればいいということだ。
そう割り切って考えることにはしてみたものの、納得がいった訳じゃない。
「もう“ブレト卿”なんて敬意を込めた呼び方なんてしてやらない。これからずっとバーン隊長って呼んでやるんだ」
仕返しにすらならない、くだらない事しか思いつかなかった。
「ひとりだけそんな呼び方されたら、どんな顔するかな」
全然気付かれなかったらムカつく気がする。
「でも、ちょっとは狼狽えてくれるんじゃないかな」
そんな想像したら、ちょっとだけスッキリした。




