2-4-24.
ディード君視点に戻りますー
ep.124 2-4-22. の続きになります。
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「?」
想いを言葉にしきる前に。視界に影が掛かって、顔を上げた。
最後だし、ブレトのことをよく見ておこうかと、目を開いていたところだったから。
僕の大好きな人の顔が視界一杯に広がって、唇が、なにか厚みのあるもので塞がれた。
近すぎて、何がなにやら何もわからない。
頬をくすぐっているのが何かもよくわからなかった。途中でわかった。閉じた瞼を縁取るまつげだった。いつもきれいに撫でつけられるようになったブレトの前髪は、今やすっかり乱れてしまっていて、僕のおでこを掠めたり、視界に入ってきたり、する。
混乱しきった頭で分かるのは、ブレトの手が僕の頬を掴んでいることと、僕の唇が、なにか濡れた熱いもので舐められている、ということだけだ。
そうだ。舐められている。──ブレトの、舌に。
一番最初。強引に唇を重ねた時にガツンという音がして切れた僕の唇の傷を、ブレトの舌が優しく撫でていく。
それを理解した時、頭の中が、燃えるようにカーッと熱くなった。
最初こそ傷口を労わるように優しかった舌の動きが、段々強引になってきて慌てる。
唇へ割り込み、切れた唇の裏側までも確かめるように蠢く。
食いしばっていた歯の間へ入りたいというように動き回るやわらかなそれを噛んでしまうのが怖くて、ぎこちなく歯を開けた。
そこから先は、もっとなにがなんだか分からなくなった。
口の中の全部を舐められたんじゃないだろうか。
舌の上も下も。付け根まで。
ただ、ひたすら熱い。
重ね合わせ、擦り合わせ、捏ね合わせる。
唇の端から飲み込むことのできない唾液がだらだらと溢れていく。
身体の奥に知らない熱が生まれ溜まっていく。
溜まり続けて僕のすべてを燃やし尽くそうとする熱に、ただただ翻弄された。
「窒息しちゃうかと思った」
もう無理ってなった僕が必死に叩く手にブレトがようやく気が付いてくれて、離してくれた時にはかなりギリギリだった。
息が上がって苦しいほどだった。平気でいるブレトが信じられない。
「すみません。止まらなくなっちゃって」
「ブレトは息が長く続いて凄いな。さすが近衛だね。鍛え方が違うのかな」
くちづけって、言葉の通りに口をくっつけるだけだと思っていた僕には驚きの連続だった。それともあれはくちづけじゃなくて、もっと他のエッチななにかなんだろうか。閨教育でやったかな。記憶にない。あとで勉強し直さなくちゃ駄目かも。
いいや、その前に。息が続かないことを何とかしないと駄目だ。身体強化魔法じゃ駄目だった。これは新しい魔法を考えるべきかな。
え、でもそれって、ブレトとこういうことを沢山するために新しい魔法を考えちゃうってこと?! それってなんかエッチすぎかな。別に身体目当てとかそういうのじゃないけど。でもまたしたいし。ううん。
馬鹿なことを悩んでいたのがバレてしまったのかもしれない。
ブレトがククッと喉の奥で笑った。
「肉欲から始めようというお誘いも悪くないんですけど、すでに俺の心の真ん中にはディード様がいるので。今はただ俺の心を受け取ってくださいませんか」
「!!」
本当に、って聞いてみたくなったけど。
口には出さなかった。
そんなの必要ないって分かったから。
まっすぐなブレトの視線に、嘘や誤魔化しを感じられない。
「一緒に、愛に育てていって下さるのでしょう?」
はにかんだ笑顔が眩しい。
蕩けるような瞳が、僕を見つめていた。
ブレトが笑いかけてくれるだけで、胸の奥がぎゅうっとなった。
まだ頬に添えられたままでいる手へ頬を寄せ、その上から手を重ねた。
ぐりぐりぐりって。顔を擦りつけて。手のひらへ、くちづける。
「ディ、ディード様」
おまけとして、ぺろりと舐めてから、焦っているブレトと視線を合わせた。
「ああ。生涯をかけて。決して枯れさせないと誓うよ」
ついに手に入れた、僕だけの“好き”。
たぶんきっとこれからも僕は、ブレトのためなら何でもできちゃう気がした。
リリア山での一件のように。ブレトが傍にいてくれるなら、不可能を可能にすることもできるし、君と暮らしていくこの国を護ることだって誓う。
「ブレトが傍にいてくれるなら、僕は無敵だからね」
何をもにも代えがたいこの想いを。
心から、捧ぐ。




