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「……何か、気が付かないか?」
「はい?」
えっと、何かって、何だろう。
父上が何を言いたいのか分からなくて、困惑する。
「何も気付かないか」
そうか、参ったなと呟くと、父上はまた黙ってしまった。
不思議な沈黙が落ちる。
「情報を整理しよう。まず、お前が王太子として不適格だとドランが判断したのは、魔法が不安定にしか発動できないことが原因だった」
口を挟まない方がいい気がしたので黙って頷く。
「世間では、ドランが指示した食事が成長期のお前には少なすぎたから成長が阻害されたせいだと言われているようだが、それだと少しおかしいことになる」
父上が言いたい意味が分からなくて、首を傾げた。
「ドランは指導を始めてすぐに私に対してお前の魔法が不安定だと進言してきていた。つまり、ドランがお前を栄養不足に陥らせる前から、ディードリク、お前の魔法の発動は不安定だったということだ」
栄養状態は、魔法発動の乱れの原因とは成りえない。そう噛んで含めるように説明されて、ようやく僕の頭にも父上の言葉の意味が沁み込んできた。
「で、では僕はやはり本当に王太子として不適格だった、と」
先走る僕の言葉を、父上が手で制した。
口を噤んで、続きの言葉を待つことにする。
けれど、頭の中は、先ほどの父上の言葉でいっぱいだった。
抑え込もうとしても身体が震えてしまって止めることができない。
「なぁ、ディードリク。共通点を見つけることは、できたか」
「共通点、ですか」
父上が最初に並んで上げたのは、僕がドランから王太子として不適格だと判断を下された「魔法の発動が不安定」だったということと、「先日の魔法陣に対してブレトが窮地に陥るまで魔法を発動できなかった」ということ。
ふたつの、僕の魔法発動の不安定さ。不甲斐ない自分を突き付けられているということ以外に何も思い浮かばなくて、項垂れる。
「お前は、ブレト・バーンの前でしか、魔法を最大限に扱えていない」
「!」
父上の言葉に、弾かれるように顔を上げた。
「全然気が付いていなかったか。まぁ、そうだろうな。私も指摘されるまでまるで思い至らなかった。魔力の相性が良い相手というのは、異性間のみではないと知っていたのに」
「え、あ。ぼくと、ぶれと、が?」
「サーフェスが言っていたが、ブレト・バーンという男は優秀ではあるものの、どちらかというとすぐに『無理だ』と手を放してしまうことが多い性格なのだそうだな。そんな男が必死になるのは、いつだってお前のことだけだ」
これもサーフェスが言っていたことだ、と父上が笑う。
「お前が、夜のギョルマクへと王城を抜け出した時、その行き先が娼館であったことを公式の記録に残さないで欲しいと泣きながら進言してきたブレト・バーンの姿を見て、サーフェスと医師長が疑問を持ったのが最初だ。それからずっと、私達はお前たちがそうなのではないかと慎重に見守ってきた」
「そんなに、前から、ですか」
「魔力の相性が良い相手とはそうそう巡り合えるものでもない。そもそも絶対数が少ないので、確定できるような決め手というもの分かってない。ただ、その相手と傍にいるかいないかで、それまでできなかったことも楽にできるようになるという漠然としたものしかない」
「でも、ブレトはずっと僕付きの近衛として傍にいてくれました」
「しかし近衛隊内での当番制だからな。我が国は近衛であろうと定期的に休暇を取れるようにしている。それにドランは授業中に遮蔽障壁で外部に王太子教育の内容を隠すことがあったようだな。突然、ブレトと障壁で遮られてしまったことで不安定になったのではないか」
そう言われれば、そんなこともあった。
それまで訓練場で調子が良かったのに、障壁に囲まれた瞬間に、身体が重くなった気がしたことを思い出す。
「僕とブレトが、魔法の相性がいい相手同士?」
その言葉を口にしただけで、頬が熱くなるのが分かる。胸が高鳴った。
父上の言葉に思い当たることが幾つも頭に思い浮かぶ。
単純にも表情が明るくなっていく僕を、父上が呆れた顔をしていた。
そんなに分かり易かったかな、と恥ずかしくなって表情を引き締めた。




