第06話:祓い屋と女子校生、ついに幽霊を目撃する
★前回までのハラジョ★
いや待てこれじゃ東狂の波羅宿の女みたいだな!!
まぁそれはともかく。
謎の無人島『游外島』に出る幽霊の除霊をボビー・タイラーに頼まれた清と葉子であったが……なんと島に住まう幽霊の謎の攻撃により強烈な眠気に襲われる!!
必死に抗う清達。
そしてその最中……清は偶然にも幽霊のトンデモない陰謀を知ってしまう!!
それはかつてこの世に降臨し、殺戮の限りを尽くした超絶怒涛にして究極絶対にして天上天下唯我独尊にしてラブリーチャーミーな敵役たる伝説の超越魔神アブソリュートライデンエクストリームヒエンタットリートゲッコーを復活させるためにエロエロ大魔人たる葛原葉子の生き血を使用するという、恐ろしいモノだった!!
果たして祓い屋達は幽霊の陰謀を阻止し、この国を魔神の手から救えるのか!?
COMING SOON!! 魔神なだけに!!
★ ★
「――いやそういう話じゃないどころか、別の作品に出そうなキャラの話みたいに見える、けどッ……見てみたい気がしなくもないッ」
「阿倍野よ、いったい何を言っているんだ?」
変な光景を見て思わずツッコんだ清に、横からボビーがツッコんだ。
するとそこでようやく、清は現状を把握できた。
そこは時たま清が世話になる空間によく似た空間――病院の入院患者用の相部屋のベッドの上だった。ちなみにボビーは、清が寝ているベッドの隣のベッドの上で寝ている。
「え、いや……変な夢を見ましてね」
アハハ、と苦笑しながら清はこれまでの記憶を手繰った。
確か自分は幽霊による攻撃を受けて、船が岩場に激突しかけて、どうにかそれを回避したと思ったら砂場に座礁して……そのまま気を失ったのか。
「変な夢? 最近流行りの、ツッコまないツッコミっぽい言葉が聞こえたのだが、いったいどんな夢なんだ?」
「いや、そこは深く訊かないでください」
清は苦笑した。だがすぐに、表情を険しくした。
いい加減ギャグに走っている場合ではない。先に目覚めていたであろうボビーにそろそろ、あれから何があったのかを訊かねばなるまい。
「タイラーさん、あの後、何が?」
「どうやら我々は、幽霊の〝子守歌〟を聞いて昏倒したようだ」
「こ、子守歌?」
まさかの返答だったため、清は思わず眉根を寄せた。
「相手はまさか、子育てをする幽霊なんですか?」
日の本には、子育てをする幽霊の民話がいくつか存在する。
原典はおそらく大陸に存在する『餅を買う女』というタイトルの怪談で、それが日の本に伝わり、和尚の説教や落語の題材になる過程で、様々な変化を遂げて各地に広がった……と思われる民話だ。
ちなみにこの民話、某地獄先生の作中でも、テーマとして取り上げられているのだが……まさかあの島にも同じタイプの幽霊がいるというのか。
「それは分からん。だが昏倒した者――ウチの常盤と、今回船を出してくれた津積波江さんは子守歌らしき歌声を聞いたと証言している。ちなみに君の助手の葛原君は……まだ眠っているため証言は聞けていないが、おそらく彼女も聞いただろう」
グッスリ眠っている事がその証拠だ、とついでにボビーは付け足した。
それを聞いた清は、葉子に幽霊からの攻撃にセルフで抵抗するための術を教えておくべきだったかと酷く悩んだ。少なくとも彼女は霊力を使えるのだから、教えておいて損はないハズだ。というか抵抗しようとすらしなかったなんて。上司としてちょっと恥ずかしい。確かに人間は、苦痛には耐えられても快楽には耐えられない生き物ではあるが、それでも静でさえ抵抗していたのになんだこの差は。人徳か? ボビーの人徳によるモノか? なら、ちょっとでもいいから分けて――。
「女性だけ? 男性は一人も聞いていないんですか?」
――そんな心中の事は表に出さず、というか必死に抑えつけながら清は訊いた。
「ああ。もしかすると幽霊が発している歌声は、女性のみが聞き取れるよう意図的に調整された特殊な周波数の歌声なのかもしれない。もしくはたまたま女性にだけ聞こえるタイプなのか。とにかく、その子守歌のおかげで、我々の乗っていた船は岩場に激突しそうになったが、船男さんの操縦テクのおかげで、無事に砂浜に座礁させる事ができた。まぁその衝撃で我々の体が吹っ飛び、砂浜に落ちたりしたが、幸いにも気絶程度で済んだ。だが幽霊の攻撃を受けたのだ。一応今日の午前中は、この本土の病院で身体検査だ」
それを聞いた清は、ちょっとブルーな気持ちになった。
いろいろあって、というか遭って葉子を雇ってはいるものの、彼女はまだ中学生である。親の庇護下にある存在である。今は長期休み中だから、解決まで長い時間を要するかもしれない依頼をこうして共にこなしているが、何かあれば清が責任を取らねばならない。
断じて、葉子の言うそっち系の〝責任〟ではない。
「さて、こうしてこれまでの事は話したが……これからどうする、阿倍野よ?」
ブルーな気持ちになったせいか、顔までちょっと青ざめてきた清を見て、ボビーは心配になったが、だからと言って先延ばしにできない問題があるため、すぐに清を呼んで、現実へと無理やり戻す。
「葛原君には、一時的にリタイアしてもらうか? まさか、相手を眠らせるような特殊な声を放つ幽霊とは思わなかった。リタイアさせるなら今しかないと思うが」
「……そうですね」
清は顎に手を当て考えた。
上司としては、部下を、未知数の危険に巻き込むのは躊躇われる。
今まで葉子とこなした依頼は全て、葉子の霊的素質や身体能力や除霊アイテムをうまく組み合わせれば必ず乗り越えられるレヴェルのモノだ。だが今回のように、歌声という、結界で防げるかどうか、その時点から怪しい攻撃手段を持つ相手と対峙するのは初めてである。勝てるかどうかすら、まるで分からない。無論その身の安全を確保できるかどうかも不明だ。
しかし葉子をリタイアさせたとして、いったい誰が清と共に游外島に入り、幽霊と対決するというのか。あの島は男女のペアでなければ入る事すらできないだろうに。東西の魔女は乗り気ではない。他に清の知り合いで、霊力が強めの女性は……こうなったら、葉子の通う学校の体育教師・石神京子に頼るしかないか?
「……あの子には、できるだけ離れて視ていてもらいます。あくまで保険です」
最終的に清は、葉子を連れていく事に決めた。
なぜならば、葉子の通う学校で出会った石神京子も確かに霊力が強いのだが……現場はボビーの部下も含めて何人も出入りしている游外島だ。清だけならまだしも人の出入りが激しいあの島で、石神先生に……彼女独自の霊力上昇のための房中術らしき何かをさせるのは酷だと思ったのだ。いやあの教師ならそれでも承諾しかねない気もするが、そこまで清の頭は回らなかった。まだ寝ぼけているのか。
「それに、相手が歌で攻撃してくるのであれば……こっちにも対抗策はあります」
しかしそんな頭であっても、清は何か思いついたようだ。
彼は得意げに笑いながら、ボビーに新たに、いろいろと注文をした。
※
ニンニンニンニン (ニャンニャンニャンニャン)
ニンニンニンニン (ニャンニャンニャンニャン)
ニンニンニンニン (ニャンニャンニャンニャン)
ニンニンニンニン (ニャンニャンニャンニャン)
YEAH!!
さてさてみニャさんご存知ですか?
我ら異賀忍者の歴史は 実は神代まで遡るニャン
神社の神代文字 あれを
我ら異賀忍者は 秘密の
暗号として やり取りしてたニャン
それはまるで 秘密の文通
恋敵には絶対 知られないニャ
夜忍ぶ 忍者だって恋忍ぶ
分かってください 私の気持ちを
我が主君 愛しの主君
たとえ火の中水の中だって
どんなに危険でも 護り抜きます
必ず お供するニャン♡
たとえ ふ♡と♡んの中でも
※
「…………何だ、この曲?」
「え、先生知らないんですか!? 最近、血葉県で流行っているローカルアイドル『ニャン恋ズ』の『異賀にも私は八取ニャン蔵♡』ですよ!?」
「いやどこに八取家の要素が!?」
「なるほど。聞くとテンションが高くなる曲で子守歌に対抗か。阿倍野よ、面白い作戦を考えたな」
「あ、これアニソンですよね? CMで聞いた事あります。……なんか聞いているだけで恥ずかしくなります」
「学生だった頃、よくこういう歌を聞いていましたねぇジイさん」
「そうじゃったのぉバアさん」
その日の夜。
清達は再び游外島を周回する船の上にいた。
船はもちろん、津積船男・波江夫妻が操縦する物だ。
船に乗る六人は、清の指示でボビーが用意したヘッドホンを頭に装着していた。
そのスピーカーからは、清の指示で葉子が厳選した〝テンションが上がる曲〟が流れている。互いの声がかろうじて聞き取れるくらいの、大音量で。
なるほど。
確かにマトモに子守唄を聞かなければ、眠る確率は減るかもしれない。
そして改めて、幽霊の捜索は始まった。
ドアが見つかった場所でのゴミ収集・分別・処理作業が未だに続いているのを、清達は何度も見て……そして、ついに、
「ッ!! 先生!! 見つけました!!」
葉子が最初に幽霊を発見した。
「なにっ!? どこだ!?」
「ドアがある所の奥の方!! 小山の中腹辺りです!!」
「…………あれか」
清はついに、幽霊の姿を捉えた。
遠くてどんな表情をしているのかは分からない。だが遠目からでも、袖なしの、高そうなドレスを着ているのは分かった。色は分からない。光さえ幽霊に当たれば分かるかもしれないが、それは自分達の存在を知らせる事に繋がる。そしてそれが不測の事態を招く可能性があるため光は当てられない。その前にまずは、遠くからできる限り霊視し情報を集めねば。
「ッ!! 本当だ。確かにいるぞ」
清が霊視を始めるのとほぼ同時、ボビーの目が幽霊を捉える。
「あ、本当だ!! 私も確認しました!!」
そして最後に静も、ついに幽霊の姿を捉えた……次の瞬間だった。
――幽霊の顔が、清達が立つ船の上へと、ギギギ……ッと向けられた。
【聖母の子守歌】
ランク:C
種別:対軍宝具
レンジ:1~99
最大捕捉:1000
由来:彼女の唯一にして十八番な歌
概要:かつて彼女が得意だった歌が宝具化したモノ。有効範囲内の生命体を問答無用で眠らせる効果があるが、霊能力を持っていれば抵抗できる確率は上がる。使用者が女性であるためか、女性に先に効果が出る。
その曲の起源は、古代肘川文明にあると言われており、最初にその曲を歌った者は、大陸より渡ってきた呪術師であるラ・ラバイであるとされている。なお西洋において子守歌はララバイと言われているが、その由来がこのラ・ラバイである事を知る者はこの世にごくわずかである。
大蔵大蔵著 タイラー出版刊『歌う呪術‐その活用法‐』より




