第04話:祓い屋と女子校生、予想外の事実を知る
名古屋弁に関しては、適当です(ぇ
「あー。確かにその島については、俺っちが一番詳しいだぎゃ」
清達は倭禍山県の魑魅魍魎の主の紹介で、同県内の棲餓裏町へとやってきた。
この地に古くから住まう魑魅魍魎から、游外島やそこに住まう幽霊に関する情報を聞くためだ。
そしてその魑魅魍魎とは、海を拠点にしている……魑魅魍魎の主曰く、游外島の事を知っているやもしれない唯一の存在だった。
その者はまるで海女――それも上はともかく下はふんどしという、どこか扇情的なタイプの格好をした女性だ。一人称は俺っちであるが。
おかげで、さすがの清とボビーも目のやり場に困り、極力、彼女を見ないために笑顔という名のカモフラージュで誤魔化しつつ目を瞑った。
一方で、同性の静の場合は、赤面しながらも、相手に失礼がないよう、なんとか彼女の目だけを見ていた。しかし同じく同性の葉子は赤面しつつ……なぜか彼女の服装をガン見していた。
(…………ふんどし……海女ちゃん……なるほど。この服装だったら……仮に貧乳でも先生を籠絡できるかも…………ブツブツブツブツ」
いつもの葉子ちゃんの脳内劇場であった。
というか葉子ちゃん、さすがにそれは着た時点で事案だ。
「と言っても、俺っち自身は、昔は頻繁に行ったけんど今は行っでねぇ。近づいた事はあっけど、嫌な予感がして、すぐ引き返しただぎゃ」
海女の格好をした妖怪は苦笑しつつ、問題の游外島の事を頭に思い浮かべた。
「それでも構いません」
清は営業スマイルを維持しつつ言った。
「知っている範囲で教えてくださいませんか? どんな結末になるにせよ、事件が終わった後には必ず報告とお礼をさせていただきますので」
「……んじゃ、哀知県のなーごーちん。昔、向こうに行った時に、おっかぁに食べさせてもらった事があるだぎゃ。久しぶりに食べたい」
「なーごーちんですね。承知しました」
清は営業スマイルで承諾した。
もっとも、必要経費はボビーが払ってくれるのだが。
そして海女の格好をした妖怪は、己が知る限りの游外島の事を話してくれた。
「俺っちが知るあの島は、普通に景観が良い、自然豊かな島だぎゃ。小さい頃は、あの島で仲間と遊んだ事がある。少なくともその頃は、幽霊はいなかっただぎゃ。でもってその島で遊んだりして数年後のある日の夜。異変が起きた。どういうワケだかおっかぁが慌ててて、それで島の異変に気づいた。俺っち自身は、それを確認しなかったけど、おっかぁが言うには、なんでも、島が爆発した。というか空気が薄い。霊脈が乱れたって。それから俺っちは別荘がある哀知県などに移って生活をしてただぎゃ。十年ほど前に、風の噂で霊脈がある程度回復したって聞いて、またここで生活し始めたけど……さっきも言ったけど、あの島にだけは行きだくはねぇだぎゃ。嫌な予感がするんだぎゃ。それが島にいるっていう幽霊のせいってんなら早くなんとかしてほしいだぎゃ」
「……なるほど。つまり幽霊が現れたのかもしれないのは、その爆発の前後くらいだと?」
「おそらくそうだぎゃ」
「お話しくださりありがとうございます。これでこれからの方針を決められます」
「おお。そうかそうか。そんじゃ、お礼、期待しているだぎゃ」
「ええ。期待していてくださいね」
※
こうして聞き込みは、あっさりと終了した。
と同時に清は、魑魅魍魎の主の口からも出た爆発こそが、全ての謎の鍵を握るのではないかと推測した。
「まさか、その爆発で亡くなった方なのか?」
ボビーが予約している温泉旅館『凪咲』へと歩きながら清は言った。
「だとすると、地元の新聞にその者の名が載っているやもしれん。私の部下にすぐ調べさせよう」
「ええ。お願いします」
初日から歩きまくり、しかも游外島にいる間、ずっと霊視をし続けていたため、さすがの清も心身共に非常に疲れていた。なので清はこれからの、幽霊の正体や島で見つかったドアの中の調査をボビーの部下による人海戦術に一任する事にした。
本来であれば清のやるべき事なのかもしれないが、さすがにそこまでするほどの心身の余裕は、今の彼にはなかった。というかボビーの手を借りるという選択肢を使わずに全てを一人でこなせるほど清はスーパーマンではない。
いやそれ以前にこの案件は、清と葉子とボビーと静だけで解決できるほど簡単ではあるまい。なにせあらゆる霊能力者の除霊術が幽霊に弾かれるほどなのだから。
※
幽霊が主に出るという夜の游外島の調査に備え、清達は早めに夕食を済ませる事にした。と言っても、その幽霊とついに対峙するのではない。いったいどういう幽霊なのか、遠くから霊視できないかと試すための調査である。
四人が並ぶテーブルに次々と、温泉旅館『凪咲』の女将と若女将、仲居さんが料理を運んでくる。今夜のメニューはボンタン鍋スペシャルである。
「もしかして、ですけど」
自分の鍋をつつきながら、清は言った。
「島がああなってたのって、その爆発のせいだったりするんですかね?」
「そういえば、報告書によれば……昔あの島は百年以上前に上映されたアニメ映画に登場する舞台にそっくりな場所だった、らしいな。ならばその可能性はあるやもしれん」
おかずである刺身をワサビ入りのしょう油につけながら、ボビーは言った。
「何てタイトルの映画だったんでしょうか?」
ボビーの向かいの席で、肉を鍋の中に入れていた静が訊いてきた。
「そこまで報告書には書いてなかったですけど……」
「自然豊かな場所が出る映画……『モンスター・プリンセス』に『聖空の牙城』に『ミヨリンの星』に『神隠しは朝食のあとに』……数えたらキリがないな」
ボビーは苦笑した。
この国には名作アニメ映画が多すぎるのだ。
「あっ! 聖空の牙城なら私、知ってます!」
するとその時、ハイハーイと手を上げながら葉子が口を挟んだ。
というか箸を持ちながらそんなはしたない事をするのはやめなさい。
「世界で一番有名な『落下系ヒロイン』が出てくるアニメですよね!? 小学生の時に道徳の授業で見ました!」
その時、この場にいた大人三人は『まさか……百年以上も前の映画が残っているとは!!』と心の中で同時に驚いた。
「私も先生に、あんな感じでお姫様抱っことかされたいです、デュヘヘヘヘ……」
「あー。顔ならいくらでも抱っこしてあげるから、早く食べなさい。冷めるよ?」
「愛ですか!? 愛が冷めるんですか!?」
「夕食だよ」
しかしその驚きは、いつものノリのせいかすぐに収まった。
というか収まったおかげで、ボビーと静は、清と葉子のやり取りを見て、思わず顔を綻ばせた。
「相変わらず、面白いな阿倍野達は」
「そうですね。なんだかこっちまで幸せになれます」
「え、いやそう言われましても……」
まさかの反応に、清はどう反応していいのか一瞬分からなくなった。
というか今回のように、四人で一緒に行動する機会が今までなかったため、どう受け答えをすればいいのか……改めて、分からない。
「ところで阿倍野よ、顔を、抱っこ……? それはさすがに事案では?」
「いや、あのタイラーさん? 中学生に対してハグをしているとか、そういう認識でいらっしゃいます? だったら誤解です」
「ええーーっ!? せんせぇ、私との関係は遊びだったんでsグメェ!?」
「 き み は ……これ以上話を引っかき回さないでくれるかな?」
またしても清のアイアンクローが炸裂した。
「デュヘヘヘ……せんせぇ、もっろおねがいひまふぅ……」
そしてまたしても、葉子は恍惚とした表情となった。
「…………あ、顔を抱っこって、そういう事ですか」
ようやく静も、事の真相を理解できた。
「いや、理解してもらってもそれはそれで困りますよ常盤さん」
清は困った顔をした。
すると、その時だった。
ボビーの携帯電話がバイブレーションを起こした。
どうやら彼の部下がなんらかの発見をしたようだ。
すぐにボビーは通話ボタンを押すと「私だ」と答えた。
それを聞く度に清は『私私詐欺みたいだな』と思うのだが、ボビーとの今の関係性が壊れるかもしれないので敢えて言わない。大人だから。
「なに? ……分かった。後で確認する。ああ。ちゃんと防護服を着てな」
そう言うなりボビーは、通話を切った。
顔がいつになく険しい。まさか結果が芳しくないのか。
「…………阿倍野よ。游外島のドアだが……開けれたは開けれた。だが」
そこまで言うとボビーは、言葉を詰まらせた。
まさかドアの向こうには何もなかったのか……と清は推測した。
しかし、実際はその逆だった。
「中にあったのは、幽霊が今まで集めたであろう……大量の漂着物だけだ」
ある意味では……知りたくもない報告だった。
登場した魑魅魍魎の格好についてですが、普通じゃ面白くないんであんな格好になっていただきました。というか、参考になるイラストがない(ぇぇぇ




