第03話:祓い屋と女子校生、倭禍山の陰の実力者に会う
またまた新キャラ登場です。
加藤やこの話で出る子、本編でも登場しないかしら(苦笑
ボビーが電話で呼び出した、ドア破りの専門業者による地下へのドアの解体には時間がかかるようだった。ボビーへ入った専門業者からの報告によれば、ドアが、耐熱性がある上に頑丈である事で有名なヒートメターリカタージャドルヒッハークフレイミウム超合金で作られているためだという。
清には初耳な合金であったが、ボビーは知っていたのだろう。
事件解決に繋がるかもしれないドアの発見で緩みかけていたその表情が、合金の名を聞いた途端に再び険しくなった。
「少なくとも、爆破も切断も不可能。溶かすしか方法はない……が、それでも王水以上に強力な液体でなければ溶かせないと聞いた事がある。すぐにドアを開くのは不可能に近い。西の魔女に頼めば一撃で破壊できるやもしれないが」
その西の魔女が乗り気ではないのだからどうしようもない。
という事で清達は、別の方向から幽霊の正体を探ってみる事にした。倭禍山県にいるという魑魅魍魎に、游外島の情報を訊くのである。
人間と違い、彼らの中には千年以上長生きする者もいる。
しかも時間の概念が異なるせいか、それとも単に記憶力が良いのか……昔の事を昨日の事のようにすぐに思い出せる者もいる。昔の情報を訊ねるにはうってつけの存在なのだ。
しかしここで問題が起きた。
この場に、倭禍山を拠点にする魑魅魍魎とのパイプを持つ者がいないのだ。
さすがの阿倍野清も邪魔口県の魑魅魍魎以外の魑魅魍魎とはあまり知り合わない……というか知り合う機会があまりない。
なぜならば、現在の日の本の首都は邪魔口県であり……そして首都であるが故にビッグマネーを手にする機会が渦巻いているのだから。
「タイラーさん、この倭禍山における……自分みたいに魑魅魍魎との交渉が得意な霊能者を知りませんか?」
倭禍山県の県庁の屋上へと着陸したヘリから降りつつ、清は前を歩くボビーへと訊ねた。
「知っている」
彼は即答した。
「噂でだが……阿倍野のように除霊をするような霊能者ではないが、この倭禍山に住まうほとんどの魑魅魍魎を統べる妖怪に見初められた人間がいると」
「なるほど。つまりその人は、己を見初めた魑魅魍魎の主の……人脈ならぬ妖脈を使えるんですね。充分です。まずはその方に会いに行きましょう」
※
「…………わたし、オバケのおよめさんになるなんて言ってない」
一人の女の子が、清達をジト目で見つめながら言った。
ピンク色のランドセルを背負う、まだ小学生の女の子だ。
おそらく外国人の血が入っているのだろう。
その海の如く碧い瞳と、太陽のように明るい金髪が、少女に日本人離れした魅力を与えている。
「いえいえ、妖怪のお嫁さんになるならないの問題ではなくてですね」
そんな女の子に、静は苦笑しながら交渉していた。
どうやらこの少女こそが、清達が会わねばならない人物だったようだ。
「…………あの、タイラーさん」
「何だ?」
「……相手、小学生だったんですか?」
清は目を点にしながらボビーに訊ねた。
「前に阿倍野には、西の魔女の事で驚かされたからな。そのお返しだ」
ボビーは少々顔を綻ばせた。
イタズラが成功した子供のような心境なのだろう。
「しかし先生、まさかお化けに見初められる子がいるなんて……雪女の旦那さんや安倍晴明のお父さんみたいですね!!」
するとその時、葉子が会話に入ってきた。
確かに葉子が例として出した二人の男性は、それぞれ妖怪に見初められ、霊力が高い子供を授かった……という伝説を残している。
「種族の差を超えた愛……素晴らしいと思います!! 私もいつか先生と、年齢差を超えt「だから私は、オバケのおよめさんになるとは言ってない!!」
しかしいつもの葉子ちゃんの脳内劇場は、少女の怒声によって遮られた。
「そもそも私は救世主教徒です! そして将来は、修道女になるのが夢なんです! だからこの身は純潔でなければいけません! な、なのにあのオバケったら、わ、私の前にイケメンな顔で現れて……あぁもう悪魔だったら祓ってやりたいですけどこの国のオバケを祓う方法なんて聞いてない!!」
「…………か、可愛いクセに……面倒臭いですねこのkグヘッ!?」
葉子は失礼な事を言いきりそうになったが、途中で、清のアイアンクローが炸裂した。
それからしばらくの間、静は少女と交渉を重ねて……なんとか少女を見初めたという魑魅魍魎の主に会う手筈……というよりは、少女からその魑魅魍魎の主がいる場所の情報と、彼女の名を出す許可を貰っただけだが、とにかく清達は、なんとかその魑魅魍魎の主に会いに行けるようになった。
※
少女がくれた相手の魑魅魍魎の情報によると……どうやら相手は木々を循環する〝力〟が妖怪化したモノ……ようはアイヌ神話で言うところのチキサニカムイや、西洋に伝わるニンフのような存在らしい。なるほど、イケメンなワケである。
彼がいるのは主に、倭禍山県の山中の頂上のようだ。
清達は、彼の怒りに触れないように、木々や自分達の周囲にいる小動物の動きにまで配慮して山中を進む。
ちなみに葉子は、幼少の頃に友人の一人がお山の怒りに触れたせいでエラい目に遭わされた過去があるため、彼らの中では一番慎重だった。ちなみに、その事件のおかげで清に逢えたのだが……それでも少々複雑な気持ちだ。
しばらく進むと、ようやく山の頂上の……開けた場所に着いた。
少女の情報によれば、ここで少女はその魑魅魍魎の主に出会ったという。
ほとんどの魑魅魍魎は、人間が認識できない領域『結界』を生み出すなどして隠れているのだが、今回の相手は山の木々の化身と言うべき存在。わざわざ『結界』など作るまでもなく、普段は山の木々と同化していれば隠れられる……いや、山の木々が本体と言うのであれば、普段からその身を晒しているも同然だが。
しかしだからと言って、道中で彼を呼んで出てくれる保証はない。
そして自分達以外誰もいない道中で延々と相手を呼ぶなんて恥ずかしい真似など清はまっぴら御免なので、わざわざ少女が魑魅魍魎の主と出会った、この山頂までやってきたのだ。
「すみませーーん! エミリー・アマガイさんのご紹介で来たのですがーー!」
清は頂上の、何もない空間へと呼びかける。
自分が霊能力者である事の証明として、わざわざ霊力を込めた声で。
紹介してくれた者の名前と、霊力。この二つの要素があれば、とりあえず大抵の魑魅魍魎は何事かと姿を現す。少なくとも清のこれまでの経験では十中八九、この作戦は成功していた。
そして、今回もその作戦は成功した。
清達の目の前で、ついに魑魅魍魎の主は顕現する。
赤い瞳と、まるで西の魔女のような緑色の髪が特徴の、柔和な顔をしたイケメンの少年がそこにいた。
「せ、先生は先生でイケメンだけど……こ、こっちはこっちでイケメンだぁ!?」
まさかの二大イケメンの対峙に、葉子はビックリして腰を抜かしそうになった。
いや、腰を抜かしそうになったのは清も同じだった。
今まで様々な魑魅魍魎と知り合った清でさえも、ここまで人間離れした……いやそもそも人間ではないが、とにかく凄まじいイケメンに会ったのは初めてだ。
「君達は、何者だ?」
一方で、そんな清達の事は気にしていないのか。相手は顕現するなり、さっそく事情を訊いてきた。
すると、その一言でようやく清は我に返り……改めて、彼は倭禍山の魑魅魍魎の主へ事情を説明した。
「…………なるほど。今のあの島には幽霊がいるのか」
事情を訊くなり、相手のイケメンは顎に手をやった。
「で、君達はその幽霊の正体を知りたいと……なるほど。確かにその情報を持っていそうなヤツを探すには吾に会うしかあるまい」
「その方を、ご紹介してくださいませんでしょうか?」
清が魑魅魍魎の主へと訊ねる。
彼のその口ぶりからして、彼自身は幽霊の情報を持っていないのか……と心中で落胆しながら。
すると魑魅魍魎の主は、フンと鼻を鳴らすと、
「まぁ君達は、ひと昔前の人間とは違って、この山をどうこうしようとするようなヤツらではないし、エミリーの紹介だから、特別に対価なしで紹介しよう。だが、気をつけろ?」
なぜか難しい顔をして、彼は改めて清達に忠告した。
「吾もこの山から、あの島の様子を時々眺めていたが……お前達がガス爆発と言う爆発は……本当にガス爆発だったのか?」
「へっ?」
清は耳を疑った。
「もしかすると、あの島には……トンデモない過去があるんじゃないのか?」
幽霊に関する情報ではなく、新たな謎を手に入れたのだから当然か。




