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 最終話:終わらない旅を、愛しき君と

サカキ「暮伊豆氏。五話程度で終わると言ったな……あれは嘘だ」


 ガチャ ツーツーツー


暮伊豆「いや、今さらそんなこと言われても!!」

 彼女が行方不明になって、いったいどれだけの時間が流れただろう。


 一年二年どころじゃない。

 途中から数えるのを(あきら)めるくらい……俺は彼女を捜し続けてきた。


 御前静香。


 俺の……大切な人。


     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰


 彼女との出会いは、高校生の時。

 入学式で最初に見た時は……正直、妖怪かと思った。


 妖怪には学校も試験もないんじゃなかったのか……とさえ思った。


 でも彼女は普通に人間で。

 ただ顔が恐ろしいほどドブスなだけで。


 その(しょう)()は……俺の周りの誰よりも、美しかった。


 それに気づいたのは、クソ兄貴共の嫌がらせで彼女と付き合った時だ。

 そしてそんな彼女の本質に気づくキッカケとなったその嫌がらせも……今では、受けてよかったとも思う。クソ兄貴共のおかげだとは死んでも言いたくはないが。


 俺は彼女と話す(たび)に、自分と彼女の境遇を、無意識の内に比べてしまい……どれだけ自分が弱いかを思い知った。そしていつしか、彼女のように……強くありたいと思うようになった。


 さらに、その(あこが)れは……彼女への本当の恋心に変わっていった。






 そしてそこから、()()()()()()()()()()()()()






 そんな形で始まった俺達の交際は、想像以上に困難な道のりだった。

 まず俺のクソ兄貴共や、兄貴共とつるんでいる、報酬をチラつかせただけでそれが(なん)であれやってしまうような、薄っぺらい連中の嫌がらせが、俺と静香を何度も襲った。アスリートを目指していた俺の脚が折られたり、静香が強姦されかけたりした事もあった。


 でも世の中、捨てたモンじゃなかった。

 脚を折られた時は、通りすがりの男性が暴漢(ぼうかん)を一撃で『休場』にした。

 なにせ相撲(すもう)の構えで、暴漢を『突き出し』でノビさせたのだから……この表現が合っていると思う。


 というかあの人、何者だったんだろう。

 すぐに近くの総合病院まで(かつ)いでくれた事は今でも感謝しているけど……なぜ、そのお返しに、近場のおいしい飲食店を紹介してくれだなんて。


 謎だ。

 まったく謎だ。


 ちなみに飲食店は、駅前のドナを紹介しといた。


 静香の方も。

 どうも彼女のお父さん……今の俺の義父(とう)さんがいろいろ手を回してくれたらしくすんでのところで助け出す事ができたらしい。


 それからもいろいろ嫌がらせは受けたけど。

 夏休み。なんと静香が、俺の脚を治してくれたフリーランスの医師・西(にし)(じょう)先生のオペで……本来なるハズだった顔になった事で状況は変わった。


 二学期以降。


 イジメる理由が消えてしまったためか。


 彼女をイジメる者がいなくなったのだ。


 代わりに俺のクソ兄貴共の、俺に対する嫌がらせが頻発(ひんぱつ)し始めたけど……それも静香の関係者のみなさんが裏でいろいろしてくれたおかげで、すぐになくなった。


 そして俺達は。

 高校を無事に卒業した。


 静香は地元の大学に(かよ)い。

 俺は義父さんの会社で働きつつ、その会社の社会人チームで活躍した。

 かつて折られた脚の調子は良い。あの時すぐに俺を総合病院に運んでくれた謎の男性と、俺の脚を治してくれた西条先生には感謝しかない。


 そして、静香が大学を卒業した(あと)

 俺達は、ようやくゴールインする事ができた。


 彼女の弟君は(いま)だに不服そうな顔をしていたけど……俺の背中を押してくれた。俺は素敵な妻と、良い義弟(おとうと)を持って幸せだ。


 でもその幸せは……長くは続かなかった。

 俺と静香の間に娘の舞華が生まれて、そして俺が名誉の負傷をした(あと)の事だ。


 俺と静香に、同窓会の招待状が届いた。

 静香はとても怪しいと思っていた。でも、先生も来るだろうという事で、一応、舞華を義母(かあ)さんに(あず)けて……彼女は同窓会に出かけた。


 その時、俺は……彼女を全力で止めるべきだった。


 そして次の日……静香が行方不明になったと、俺は義父さんから聞いた。

 同時に。この国が戦争に巻き込まれるかもしれない、瀬戸際に立たされた事も。


 それからの義父さんは大忙しだった。

 静香の捜索と、彼女が向かったという、同窓会の会場である倭禍山の宿泊施設に爆弾を落とした相手を突き止めるために動き回った。俺も退院するや否や義父さんを手伝った。


 静香の事だ。

 機転を()かせて爆撃から(のが)れているに違いない。


 俺と義父さん、義母さん、義弟君は……そう信じて静香を捜した。

 途中で、静香の幼稚園の時の親友だという郷美さんなども加わって、彼女の捜索は続けられた……けど、結局彼女は見つからなかった。


 そして、一人……また一人と、静香が死んだ可能性を考えるようになった。

 でも俺と、義父さん義母さん……義弟君は(あきら)めなかった。たとえその(あと)に静香の葬式が始まっても。絶対に、彼女と会えると信じて……寿命を終えるまで、彼女を捜し続けた。


     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰


 でも結局、死ぬまでに静香を見つける事はできなかった。

 俺は、舞華が自立した頃に体に限界が来て……あっさりと死んだ。


 あと現世に残っているのは……義弟君と郷美さんくらいか。

 でもこれだけ時間をかけても見つけられなかったのに……あの二人だけで静香を見つけられるだろうか。死んだ(あと)、ちょっと不安になった。


 でも不安なだけで、この世に(とど)まり続けたら……義父さんが生前に語っていた、祓い屋なる存在が俺を消しに来るかもしれないから……来世に、賭ける事にした。


 考えたくはないけど……もしかすると、静香もすでに死んでいて……来世でまた出逢えるかもしれなかったから。


     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰


 ――……でも、結局。


 俺は、彼女と再会できなかった。

 何度転生しても。何度、世界を回っても。


 これはさすがに、おかしいと思った。

 そしてこの俺の意見に、先に亡くなっていた義父さんと義母さん、そして俺の(あと)に亡くなった義弟君と、郷美さんとその関係者は……あの世で同意した。


 まさかあの爆発で魂が崩壊したんじゃないか、という恐ろしい憶測を立てるヤツがその時いたが……とりあえず殴っておき、いったい静香がどこに逝ってしまったのかをみんなで話し合った。


 すると今度は、遠い星、もしくは異世界に逝っちまったんじゃないかという憶測を誰かが立てたが……笑えなかった。その可能性もあると、同意する者さえいた。でなければ、これまで一度も出会わないなどおかしいと、みんな思っていたのだ。


 そして俺は。

 遠い星や異世界へと捜しに行った彼らとは違い、この地球上を何度も何度も捜しまくっていた。地球にまだ静香がいた場合を考え、義父さんと義母さんに、残れと言われたためだ。


     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰


 それから俺は。

 長い間、この地球を旅した。


 でも、相変わらず静香の気配はどこからも感じなかった。

 静香が行方不明になった游外島とかいう島にも何度も行った。()()()()()()()()()()()()()()()()()


「…………もう、限界か」


 そして俺は。

 何度目かの死を迎えようとしていた。


 この時代での親の反対を押しきり、俺は強引に世界に飛び出して……もう、五十年近くは()ったか。俺は、親不孝者だ。たった一人の、運命の人と出逢うために、俺はいったい……何人泣かせたのだろうか。


「…………ああ……こんな、俺は……静香に…………会って、いいんだろうか?」


 今さらながら、そんな疑問を抱く。

 彼女に会うためなら、どんな犠牲だって払うと……彼女の葬式の時に、(ちか)ったというのに。俺は、まだ……静香ほど、強くないのかもしれない。






〝そんな事 ないよ〟






「ッ!?」


 とその時だった。


 死の間際の幻聴なのか。

 俺は静香の声を、聞いたような気がした。


「……ああ、でも――」


 ――こんな最期も……悪くは、ない…………。


     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰     ♰


 気がついたら、俺は……静香に抱き締められていた。


 何度も何度も、夢にまで見た彼女が。

 ずっとずっと捜し続けていた、俺の最愛の人が……今。


 死んだ俺のすぐそばにいた。


「…………やっと、会えた……城くん」


 俺は、信じられない気持ちで彼女を見て、聴いて、感じた。


「ごめんね。ずっとずっと……心配させて」


 ああ……彼女だ。

 姿形が似た偽者ではない。


 俺が、俺達が捜していた……正真正銘の御前静香だ、と。


「……俺こそ、ゴメンな」

 だから俺は、ずっとずっと、彼女に言いたかった事を……彼女を強く強く、抱き締め返しながら言った。


「ずっと一緒にいようって、約束してたのに……ずっと、(ひと)りにして」


 彼女が今までどこにいたかは分からない。

 でも、俺達に見つけられない場所にいたのは確かだろう。そしてその時の静香はどれだけ心細かっただろう。そう考えると……俺は、とても悲しくなった。


「ううん。もう、いいよ。だって私は――」


 ――城くんがくれた、この温かさがあったから……私でいられたんだもの。


 その言葉の意味は、俺には分からなかった。

 でも、俺との思い出があったからこそ今がある……というのは分かった。


「それよりもね、城くん……私、現世で自分の子孫に――」


 そして、静香は何かを言おうとするのだが、その瞬間……俺は思い出した。


「そうだった!! 静香!! (じつ)はお前を捜して、義父さんや義母さんや義弟君や郷美さんが今、M78星雲やイスカンダル……とにかく、すんごい遠い所にいるんだよ!!」


「…………え、ええええええッッッッ!!!!?」


「早く静香が見つかった事を知らせなきゃ!! 向こうで変なのに絡まれたりする前に!! 積もる話はその道中で!!」


 再び、出逢えた事は嬉しい。

 でもその気持ちは……みんなが集合してから改めて噛み締めたい。


 だから俺は、彼女の手を引いて……再び旅に出る。


 今度は、二人で一緒に。

 大切な人と一緒に……星々や異世界を巡る旅に。

 とうとう完結です!!

 読んでくださったみなさま、誠にありがとうございます!!


 ちなみに作中登場した、静香ちゃんの幼稚園の時の親友たる郷美ちゃん。

 いずれは他の二次創作で本格的に書く予定ですので……くれぐれも、ね?(ォィ

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)はい、かなり壮大かつコアなSF作品と言いましょうかね。でも親しみやすい雰囲気がずっと続いていて……不思議な感覚だったんですけど、良作じゃないでしょうか。御前静香というキャラクターが凄…
[一言] 関係おめでとうございます! 感動しました!! とても二次創作とは思えないくらい、壮大なお話でしたよ!!w 城と静香ちゃんもお幸せに♪
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