第02話:祓い屋と女子校生、無人島に上陸する
興奮冷めやらぬ状態だったため、また書きました(ぇ
それから数分後。
清達の乗るヘリは游外島に着陸した。
游外島は上空から見た限り、砂と岩しかない無人島だ。ヘリはそこの、安定した岩場に着陸すると、そのままエンジンを停止させた。おそらく除霊に何日かかかるだろう、という事で、これからの拠点となる倭禍山県の宿泊施設に、清達を夕方に送り届けるのに必要な、燃料の節約のためだ。
「うわぁ!! すっごい綺麗な景色ですねせんせぇ!!」
上陸するなり、葉子はその景観に目を輝かせた。
上空から見た島は、確かに砂と岩しかないような寂しい場所だ。しかし一時期は宿泊施設が建っていたほど、島から見える周囲の絶景は圧巻だった。
まず、海が綺麗だ。
透明度が高く、海底の砂まで見える。
そのおかげか、この地に降り注ぐ青の光だけをうまく反射して、素晴らしいオーシャンブルーを清達に見せていた。まるで海外の海に来たかのようだ。いや、その海外の海の中にも汚い場所はあるが(ォィ
游外島の周囲にある他の無人島には、この海の青――この惑星の自然の、本来の美しさを助長するかの如く、美しい木々が連なっている。おそらく、人の手が一切入っていないのだろう。海の青と空の青、そして無人島の木々の青……三種の青が奏でるコントラストが、とても目に優しい。
しかもこの游外島の魅力は海と絶景だけではなかった。
清達……ボビーと静さえも上陸して初めて気がついたが、なんと砂がキュキュッと音を出す。現代の海では珍しい鳴き砂である。それだけこの游外島の砂が綺麗なのか。いや確か、海流の関係で漂着物が浜にあったと報告にあったハズだが……?
「先生!! 私、新婚旅行はこんな絶景が見られる場所がいいです!!」
「ああ。確かに凄い絶景だけど、仕事で来た事は忘れないでねー」
「や、やだなぁ!! わ、忘れてないですよ先生!!」
ハシャぎまくって、その衝動に任せて靴と靴下を脱ぎ、さらには鳴き砂を鳴らしつつ海までダッシュしかけていた葉子は、慌てて清達のもとへと戻った。
とりあえず今から清達がする事は、島の現状の調査である。
とにかく何でもいいから、その幽霊に関する手がかりを見つけるためだ。
うまく正体に迫れれば、術が弾かれる、という理不尽な現象の正体を掴めるかもしれない。
もしかするとその最中に、あの加藤でさえも除霊を渋った幽霊と遭遇する可能性があるが、報告書によると、その幽霊と遭遇するのは夜である場合が多いため……まだ大丈夫だろう。
「しかし鳴き砂なんて珍しいですね」
鳴き砂の音を聞ける綺麗な砂浜の場所をあまり知らない清は、ちょっとした感動を覚えながら歩いた。
「ああ。鳴き砂を取り戻そうとする活動が、今も主に……それぞれの地域の自治体主導で行われているが、ゴミ問題の方がまだ解決しきれていないからな。なかなかかつての砂浜を取り戻せないと聞いた」
ボビーも、鳴き砂の心地良い音に耳を傾けながら歩いた。
「ところで先生、鳴き砂って、どうして音がするんですか?」
葉子は清の隣に並んで歩きながら訊ねた。
鳴き砂の事は知っていても、その原理は知らないようだ。
「砂同士が擦れて、あのような音が出るんですよ」
しかし答えたのは清ではなく、ボビーの隣を歩く静だった。
「もっとも、音が鳴るのは煙草の灰などの不純物がついていない砂限定ですけど」
「そ、そうなんですか」
葉子は心中で『先生から答え聞きたかった』と不貞腐れながら言った。
「そういえば」
清は急に立ち止まると、手で足元の鳴き砂を掬いながら訊いた。
「報告書によれば、海流の関係で漂着物が多いと書いてあったのに……なんでその漂着物はなく、しかも鳴き砂を聞けるほどに砂浜が綺麗なんでしょう?」
「その幽霊が、掃除したんでしょうか?」
立ち止まりながら、静は言った。
「ゴミを漁っていたという報告がありますし」
「う~~む……可能性がなくはないな」
ボビーはなぜか、険しい顔をしながら立ち止まった。
「人的被害も、上陸の条件に当て嵌まらなかった者達の体調不良しか今のところはない。無害の霊の可能性もある。だがそうなると……相手の幽霊はいったいどんな未練を残してこの世に留まっているんだ? ゴミ掃除をしてくれるなど」
いやむしろ、掃除をしてない不浄な場所ほど幽霊は現れやすいらしいのだが……それほど幽霊は善性の存在なのか。
「う~~ん……掃除好きな幽霊なんですかね? くっそぉ! 生きてる間にもっと掃除したかった……みたいな?」
葉子は立ち止まりながら、憶測を口にした。
確かに世の中には、そういう綺麗好きな人もいるかもしれないが……。
「もしそうなら、もっとゴミが多い本州の方にすでに渡ってるかもしれないけど、面白い説だね」
「え、面白かったですか先生!? もっと褒めてください私やる気もヤる気も出しますから!!」
「じゃあその意気で、今度はあの小山にでも登ってみようか」
砂浜の方はあらかた見て回れた。
というか游外島には、ビーチとして使用できそうな砂浜が三割程度しかない。他は岩場や断崖絶壁になっている。行けない事はないが……今の装備のままでは海流の関係で岩と岩の間に吸い込まれ、溺死する可能性がある。なので今度は島の中心部にして、その断崖絶壁である小山の調査だ。
「私に入ってきた報告によれば、最初に宿泊施設が建っていた場所でもある、砂浜からほど近い麓の部分に、新たな宿泊施設を建てる予定だったらしい」
そう説明しながらボビーは、その麓に置かれていた測量に使う道具を指差した。幽霊を目撃した集団の一つである測量士達の忘れ物だろうか。
それから一行は、さほど高くはない小山を頂上まで登ったが……手がかりらしきモノは何も見つからなかった。
「まさか幽霊が漁っていたというゴミすら見つからないとは」
さすがの清も困った顔をしたまま下山した。
やはり夜に幽霊と対峙して、その正体を見極めるしか方法がないのか。あらゆる術を弾くという、その幽霊の正体に迫れる手がかりによる予習もなしに。
「除霊するにしても成仏させるにしても……相手の正体に迫れないとどうしようもありませんよ?」
「私としては、無害そうなら……阿倍野には穏便に成仏させてほしいところだが」
ボビーも、より険しい表情をしながら下山した。
「手がかりなし、のところまで報告書の通りだとは思わなかった。まさか阿倍野でさえもそれらしき手がかりを視つけられないとは」
霊能力者と常人とでは、視える世界が違う。
ボビーは清の、そこのところを主に頼りにしていたのだ。
「え、昔の記録とか辿れないんですか?」
下山しながら、葉子は訊ねた。
「一応この島の歴史から、周辺の有人島の出身者のデータまで、全てを調べはしましたが、その幽霊の容姿に該当する人物は存在しませんでした」
静は下山しながら答えた。
「も、もしかして妖怪って事は……って、痛ぁ!?」
人間のデータにないなら、魑魅魍魎の類。
確かにそのセンもあるかもしれない……だが、その推測を語る途中、どうした事か葉子は右足を慌てて上げて手で押さえた。
「ッ!? どうしたんですか葛はrブベシッ!!!?」
まさかの異常事態に、静は咄嗟に反応した……のだがその直後。
なんと彼女はその場ですっ転び……顔から地面に口づけをした。
「「ッッッッ!!!!」」
男二人は、二重の意味合いでの異常事態に目を丸くした。
葉子だけならまだいい。まさかハイパーオフィスレディーたる静がすっ転ぶとは……いったい何が起こったのか。
幸か不幸か下着は見えなかったが、それでももはやキャラ崩壊が起きている!!
「いったいどうした、常盤……ん? この地面……」
「せ、せんせぇ!! ここの地面、何か突き出てる!!」
静に駆け寄ったボビーが何かに気づく。
それとほぼ同時に、葉子は涙目で清に報告した。
二人の様子からして、地面に何かあるのは間違いない。
とりあえずその事だけは分かった清は、ボビーと共に、静を助け起こし、彼女が転び葉子が何かを蹴ってしまった地面を調査した。
軽く砂を払いのける。
するとなんと、錆びついたドアが現れた。
それもドアノブが取れ、歪んだ角芯が飛び出ているドアだ。
おそらく葉子はこの角芯に指をぶつけ、そして静はドアがある事により生まれた段差に躓いたのだ。
「これは……まさか最初に建てられた宿泊施設の物か?」
ボビーは目を丸くしながら、そのドアを眺めた。
「地下階。そうでなくとも地下倉庫への入口ですね」
清は苦笑しながら言った。
地下室へのドアが見つかったという報告はされていなかった。
もしかすると測量士達は、見つける前に幽霊に遭遇したのかもしれない。
とにかく、こうして新たな発見をしたという事は……。
――幽霊の正体に繋がる手がかりが、中にあるかもしれない。
そう考えた清とボビーは同時に顔を見合わせ……専門業者による、ドアの向こうにある空間の調査が、さっそく執り行われる事となった。
密室は、破れました(ォィ




