第01話:祓い屋と女子校生、無人島に向かう
本作は暮伊豆さん原作の
『金が欲しい祓い屋と欲望に忠実な女子校生』と
『ドブスでいじめられっ子の私が学校1のイケメンに告白されたから罰ゲームかも知れないけどとりあえず付き合ってみる話』
のクロスオーバー作品です。
ちなみに『ドブスでいじめられっ子の私が学校1のイケメンに告白されたから罰ゲームかも知れないけどとりあえず付き合ってみる話』
の方はリ・イマジネーションされています。
倭禍山県・游外島。
本州から船で、三十分程度で到着するほどの距離にある無人島。
百年以上前に、とあるアニメ映画の舞台に似ている事で一時期注目を浴び、多い時で年間七万人もの観光客が訪れた事がある有名な島だ。
しかしいくらアニメの人気による聖地巡礼に訪れる者がいようとも、それは一時的なモノであり、熱が冷めれば閑散とするのが世の理。
それからのその島は、歴代の倭禍山県知事の意向により、しばらく誰も近寄らない無人島と化したり、風景の良さを売りとした宿泊施設を造られたりしたのだが、現在はその宿泊施設で起きたガス爆発の影響で、再び無人島になっている――。
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「――で、その無人島をまた観光地にしようという計画が持ち上がったはいいが、そのための島の視察の時、海岸に漂着したゴミを漁っている幽霊を見たと」
邪魔口県を拠点に活動する霊能力者・阿倍野清は、バラバラバラバラとけたたましい音がする中で渡された報告書を読みながら、己と対面する形で備えつけられた椅子に座る、まるでライオンの如き静かなる圧力を放つ男性に確認を取った。
「ああ。それが私の知り合いからの報告だ」
清の目の前に座る男性は、己がチャーターをし、現在移動に使っているヘリの音など気にもせず……それとは異なる問題に対する険しい表情で返事をした。
彼の名は、ボビー・タイラー。
邪魔口県に住まう一部の魑魅魍魎に顔が利く、西日本を代表する企業タイラー・コーポレーションの総帥の孫……つまりハイパーVIPである。
「相当不気味な幽霊らしくてな。その幽霊を見世物にしようとかいう馬鹿げた案も出たらしいが……結局は顔が不気味すぎて話にならん、という理由で除霊する事になり、その知り合いの傘下に当たる会社の人事部が、いろんな霊能者に声をかけたらしいが……結果は報告書の通りだ」
「あらゆる術が、弾かれた……? 信じられませんね。中には名高い霊能者の方もいらっしゃ……え、あの加藤さんも出張ったんですか?」
呼ばれた霊能力者のリストに掲載された一人を見て、清は目を丸くした。
加藤。
フルネームは加藤真人というその霊能力者は、二百年以上前に賀茂家に師事し、一時期賀茂家よりも強い呪術を身に付けたりしたらしいが、三代目が西洋由来の術やら何やらミックスした独自の術式を開発・実験した事でその土地の霊脈が乱れに乱れ、その責任を負って賀茂家から破門され、さらには当時の日の本の霊能力者業界の根回しで国外に追放されたという一族の今代当主である。
総合的なスペックは、霊能力者業界では『東の魔女』という異名で知られている葛葉会長や『西の魔女』という異名で知られているレアリーと、どっこいどっこいだと言われているが、果たして実際の実力は……?
「ああ。大金を払って、しかも密入国をさせてまで呼んだらしいが、彼曰く『おいおい、アレをどうにかしろと? 大金積まれても現時点での我には除霊不可能だ』と言われたらしい。ちなみに金に関しては、交通費以外受け取っていないそうだ」
「彼が断るなんて、規格外な霊なんですね。ですが、それならなんで俺と、それにウチの助手まで呼ばれたんですか?」
清は自分が座る椅子の隣の、備えつけの椅子に座る助手・葛原葉子を指差した。
葉子は、腰まで伸びた艶のある黒髪と、ジュニアアイドル並みに整った顔つきが目を惹く女子中学生(ただし貧乳)である。しかし現在、笑顔であれば大抵の男子が注目しそうなその顔は険しかった。
その視線は、彼女の正面――つまりボビーの座る椅子の隣に備えつけられている椅子に座る美女に注がれている。
注がれた相手の美女はアハハ、と苦笑するしかなかった。
彼女の名前は常盤静。ボビーの専属秘書であり、モデル並みに整った顔つきと、抜群のプロポーションを持つというハイパーオフィスレディーである。
「せんせぇ、なんでまたこの乳お化けが一緒なんですかぁ~~?」
葉子は未だに静をガン見しながら言った。
彼女は幼少の頃に魑魅魍魎関連の事件に遭い、その時に清に助けられて以来、彼を暴走気味に慕っている。そしてそれ故に、彼に近づく女性には過敏に反応するのである。
たとえ、清が誤って火星に行ってしまうという、ロー・ファンタジーらしくない事件が発生した時に顔を合わせた知人だとしても。
というか某スイーパー共だって月までしか行ってないぞ!?(ォィ
「なぜ君まで一緒に呼ばれたか。その事も踏まえて、説明しよう」
葉子の質問に、ボビーは険しい表情のまま答えた。
すると、静に失礼な事をし続ける助手に、いい加減アイアンクローを決めていた清は「へっ?」と間抜けな声を上げた。
「まさか、理由があるんですか?」
ギリギリギリと、助手にアイアンクローを決めながら清は訊いた。葉子は「あ、せ、せんせぇ……も、っとぉ……」と、へニャリと顔を蕩けさせ、呟きながらも、耳はちゃんとそばだてた。
「実は、霊能者を呼んでいた人事部が後になって気づいたらしいんだが……どうも島に上陸するには〝ある条件〟のクリアが必要らしくてな」
「……えっと、話が見えないんですが」
というか、なぜ上陸の段階から〝条件〟のクリアを必要とするのか。清には見当もつかなかった。
「報告書の十七ページを見てくれ」
ボビーにそう言われ、清は素直に、報告書がまとめられたファイルの十七ページ目を、器用に片手だけで開いてみた。
そのページにあったのは、游外島に出入りした、もしくは入ろうとしたが入れなかった人達のリストだ。
清はその人達を、とりあえず一人ひとり確認していき……途中でまさか、と苦笑しながらある仮説に思い至った。
「まさか、男女比率が五対五の状態の集団だけしか入れないんですか?」
「その通りだ」
ボビーは溜め息をつきながら即答した。
「そしてその条件を満たさない集団は、島に入る直前に突然の体調不良に襲われている。島に現れる幽霊の仕業かどうかは現時点では不明だが、な。さらに言えば、その事に気づいた時には、すでにほとんどの霊能者の耳に、加藤の、游外島の第一印象が入っていてな。途中からはどの霊能者も引き受けてくれなくなった。東西の魔女さえもだ。というワケで、より人脈が広い私へと泣きつかれ、こうして阿倍野にご足労願ったというワケだ」
「……俺の耳に入るの、遅かったのか」
謎しかない案件の予感がして、清は心の中で渋い顔をしつつ小声で呟いた。いや金になるのであれば、彼はある程度の面倒にも目を瞑るが、さすがに高名な霊能力者が依頼を断るような案件は、嫌な予感しかしなかった。
「阿倍野が、この游外島の事をまだ知らなくてよかった。なにせ私が連絡を取り、そして最後の最後でようやくヒットした凄腕の霊能者だからな」
「え、最後?」
その言葉を聞いた途端、まさか、まだボビーの中で自分は、そこまで信頼されていないのか、と清はちょっと心配になった。
「私が知る中では、阿倍野は切り札級の人材だからな。最後の最後に電話をかけるのは当然だ」
清の心中を顔から察したのか、ボビーはすぐに補足した。
「た、タイラーさん」
その言葉に、清はちょっと感動した。
次に依頼してきた時は十万円くらいまけてもいいかもと思えるほどだ。
「ですよね!! 先生は凄いんですよ!!」
未だにアイアンクローを受けている状態で葉子が自慢を口にしたが、清は聞いていなかった。
「と言っても、男女のペアで事務所を経営している霊能者限定での連絡だが」
ボビーは、ついでとばかりに補足した。
「……なるほど」
そこまで言われると、さすがの清もボビーの考えを理解した。
「俺とタイラーさんでは島に上陸できない。だからもう二人、女性が必要だったんですね。それも……魑魅魍魎関連の事件に関わった経験が、ある程度ある女性が」
「そういう事だ。今日からよろしく頼む」
「ええ。そこまで信頼されているなら……どこまでやれるか分かりませんが、全力を尽くしましょう」




