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転生からの・・・下剋上!!  作者: 緒方理
第三章

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72話 親孝行をしたい

永禄八年も暮れが近付いてきた頃、旭から手紙が届いた。


以前、俺が旭に依頼していた『猿楽の大家』を誰か紹介して欲しい、という手紙に対する返答だった。


松平元康の伝手(つて)で『観世元頼』という観世流の人を紹介してもらえることになったということだった。『観世元頼』は脇之仕手という主役を補佐する二番手役者的な立ち位置の人物で、重要な立場にある人だ、と推薦文が書かれていた。


へー、旭もずいぶん上流階級的な手紙を書けるようになったもんだなぁ……と、変な所で感心する。


それにしても、そんな重鎮を紹介してもらえるとは、今度松平元康に会ったらちゃんとお礼を言わないとだな。


なんて考えながら、更に手紙を読み進めると、最後に驚愕の報告が書いてあった。


――元康様とのお子を授かったようです。


がーん……!! ……いやいや、ここは兄として『おめでとう』と言わなくてはならないところだった。危ない危ない……。おのれ、松平元康め。……いやいや、ここは兄として~以下略


ようやく落ち着きを取り戻せたのは、半刻後くらいだった。


一応、このおめでたい話題をかーちゃんと寧々にも伝える。


かーちゃんは大喜びしつつも、


「知り合いも居ない土地で旭は一人で赤子を生めるかねぇ」


と心配そうに言った。


「大丈夫ですよ。三河のお殿様の御子ですもの。きっと万全な態勢で準備してもらえますよ」


と寧々がかーちゃんを元気づけてくれる。いい嫁だなぁ。


「無事に生まれたらみんなでお祝いに行こうな」


俺はそんなやりとりを見ながら声を掛ける。そうだよな。かーちゃんもここんとこしばらく旭に会えてないから、心配なんだろうな。今度絶対に三河に連れて行ってあげよう、と心の中で決意する。


と同時に、最近忙し過ぎてかーちゃんのこともずいぶん放置しちゃってたなぁ、と改めて反省する。


しかも引っ越しが多いから、色々と環境が変わったし、昔からの知り合いもいないし。……結構、俺が思う以上に負担の多い生活をかーちゃんにおくらせてしまっているかもしれない。


息子たちは仕事であまり帰ってこないし、娘たちは偉い人のお嫁に行っちゃってなかなか会えないし。


寧々と又左衞門の嫁のまつが色々と話し相手になってくれているようだけど、かーちゃんにはここんとこ随分寂しい思いをさせちゃってたかもしれないな……と思う。


よし、この年末年始は親孝行の期間にしよう! 


そう決めると、俺はまず小一郎に「年末年始は岐阜の家に戻ってくるように」と手紙を書いて送った。


そのあと、すぐに七郎左衛門の経営する呉服の店に行く。


「七郎左衛門はいるか?」


おれは店先で声を掛けた。


「これはこれは、木下様……」


奉公人の男が出てきた。そして申し訳なさそうに言う。


「あいにく旦那は今、堺へ行っておりまして……」


「堺?? ……そっか。いや、まあ七郎左衛門じゃなくてもいいんだ。あとで反物をいくつか届けて欲しいんだが。40代くらいの女の人用と10代後半の女の人用が欲しいんだ。あ、今、流行りのやつで頼む」


俺はその奉公人に用事だけ伝え、外に出る。


次は、七郎左衛門の経営する料亭に向かう。以前、寧々と行った小牧山城下町にあった料亭の姉妹店だ。ここ岐阜でも人気のお店としてすでに有名になっていた。


七郎左衛門は堺だって? ……一体、何しに行ったんだろうか。歩きながら考える。


いつの間にか、七郎左衛門はその商才をいかんなく発揮して、織田家の御用商人としての地位を確立していた。その勢いは津島の大橋家、熱田の加藤家を凌ぐほどであった。


噂では俺と姻戚関係であるということもなんだか上手いこと使っているようで、織田家の領地内の各城下町で手広く商売を行っており、今ではかなりの豪商っぷりを発揮していた。


「よお! 藤吉郎。めずらしいな、どうしたんだ?」


七郎左衛門の経営する料亭に入ると、噂の七郎左衛門が突っ立っていた。


「あれ? 堺に行ってたんじゃないのか?」


俺が驚いて聞くと、七郎左衛門がニヤッと笑った。


「ちょうど、今帰ってきたんだよ」


「何しに行ってたんだ?」


俺はちょっと興味をそそられて聞いてみる。


「お、聞きたいか? ふっふん。堺の今井宗久殿に茶の湯を習いに行ってたのだ」


七郎左衛門が得意そうに述べた。


むむ。堺の今井宗久とは、七郎左衛門め侮れんな。


実は先日、信長が堺を直轄地にした後、すぐに信長に贈り物を持って挨拶に来たのが、堺の豪商である今井宗久だったのだ。そのことがあったので俺も名前を覚えていた。


商人でもあり、茶人でもある宗久は『松島の葉茶壺』『紹鴎茄子』と呼ばれる有名な茶器を手土産に信長に面会し、茶の湯好きな信長の心をばっちりと捕らえ、その歓心を買ったのだった。その早さと手並みは見事なものだった。


このことは信長の家臣でもまだ一部しか知らないので、まさかその話を聞いて習いに行ったってはずはないよな?


「なんで、今井宗久殿なんだ? 他にも有名な茶人はたくさんいるだろうに」


俺は七郎左衛門がなぜ今井宗久を選んだのか、俄然知りたくなった。


「それはな……」


七郎左衛門が声をひそめたので、耳を寄せる。


「おそらく堺で一番商売上手だと思うからだ」


へー。見る目あるな! 七郎左衛門!! すごいな。


「実は先日、殿が堺を直轄地として足利将軍から貰い受けたんだ」


俺がそう言うと、七郎左衛門は「おお、知ってるぞ」と頷いた。


「その時に、堺の有力商人の中で一番はじめに挨拶に来て殿に気にいられたのが、今井宗久殿だ」


俺は七郎左衛門に教えてやった。


「本当か!? いや、でもそうだな! あの人ならそれぐらいやってのけるだろうな」


七郎左衛門は嬉しそうに言った。


「あ、だからか!」


急に思いついたように七郎左衛門はぽんと手を叩いた。


「実は、宗久殿が正月に岐阜に来ると言ってたから、ぜひウチで茶会を開いてほしいと頼んだんだ。もしかして、織田の殿様に年始の挨拶にでも来るってことなのかな」


ああー、そうかもしれない。


ってか、今井宗久が岐阜城に来るんなら、きっと信長主催の茶会もあるはずだ!!絶対に急に参加しろって言ってくる!! ヤバい!!


「七郎左衛門!!! 俺にも今すぐ今井殿の茶の湯の作法を教えてくれ!!」


俺は急遽、七郎左衛門に茶の湯レッスンを依頼する羽目になった――。


うう、なかなか親孝行出来ない……。




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