小話 半兵衛
――世の中、つまらない人間ばかりだと思っていた。
血筋だけで偉そうな顔をして威張るだけのヤツ。
上役におもねるばかりのヤツ。
弱い立場の者を虐めるだけのヤツ。
くだらないことに汲々としているつまらない人間ばかりだ。このくだらない環境に甘んじている自分も含めて。
父の跡を継ぎ、斎藤義龍に仕えるようになってからずっとそう思ってきた。
しかし、一度は敵対した父を許し、臣下に加えてくれた斎藤義龍には恩がある。その恩があるからこそ斎藤義龍には精一杯仕えてきたつもりだ。
ただ、義龍の息子の龍興にそこまでする義理はあるのだろうか? 私が少し考えて、実行した作戦でこんなにも簡単に城を明け渡してしまうような小者にこれ以上仕える必要はあるのだろうか?
――そんな事を悩んでいるときに、彼は颯爽と現れた。
「織田尾張守様の使いで参りました、木下藤吉郎と申します」
織田家の使者の対応なんてめんどくさい。怒って帰ってくれればいいと思って、一刻も待たせてみたのに彼は全然怒っていないようだった。
それどころか、私の能力を高く評価し活用してくれると言った。私が斎藤家で軽視されていることを残念に思ってくれた。私に可能性があることを教えてくれた。
しかも、彼はなぜかとても親身になって私を誘ってくれていたような気がする。
悶々と悩んでいることがくだらなく思えるほど、あっけらかんと大きなこころざしを口にする、人を引き付ける不思議な魅力を持つ人。
私には、彼が他の誰とも違う場所を目指しているように思えてならない。
彼の目指す先にはどういう世の中が待っているのだろうか?
『命を奪われる心配なく、誰でも自由に色々なことに挑戦できる国にしたい』と彼は言っていた。まるで自分がこの国を作り直す気でいるかのように……。
彼の夢見る国は一体どういう国なのだろうか? 考えると不思議と心が高揚してくる。久しく感じていなかった気持ちだ。
私は織田信長に仕えるのは嫌だ。信長は人の意見を聞かない性格だ。おそらく私が信長に仕えたら、いずれ意見の相違が発生して私は斬られるか、切腹させられるかのどちらかだろう。
しかし、木下藤吉郎と名乗るあの人の目指す世の中は見てみたい……。
私は今、初めて自らの意思で仕えたいと思える人に出会えた。彼の手伝いがしたい。このくだらない世の中を一緒に変えてみたい!
世の中、つまらない人間だけではないかもしれない……。
私は、彼と出会って少しだけそう思いはじめていた――。




