21話 再会
俺と小竹は岩竜丸を連れて那古野城に来ていた。
本当は俺一人で連れていこうと思ったのだが、小竹がどうしても一緒に行くと言ってきかなかった。小竹なりに最後まで責任を果たしたかったのかもしれない。
中々村から那古野城までは四半刻もかからない距離だ。途中追手に見つかることもなく、城まで無事にたどり着くことができた。それに智が事前に知らせておいたお陰で城内にもすんなりと案内された。
「ふー」
俺と小竹は城内の小さな部屋へ案内されていた。城内に入ってすぐの場所にある、飾り気のないシンプルな小部屋だ。待合室みたいな場所なのかな?
岩竜丸は信長と謁見するということで、城内に入ってからは別々に分かれたのだった。機密情報もあるだろうし、俺達を同席させる訳にはいかないよな。
岩竜丸はさすがに緊張した面持ちで、信長との謁見に向かって行った。父親を殺され、家を追われた名家の子供が、単独で「うつけ」と呼ばれている家来に助けを請わなければならない状況…。
中学生になったかならないかの子供が直面するには中々重いミッションだと思う。
「あの子大丈夫かな・・・?」
小竹が心配そうに聞いてくる。
「まあ、仮にも尾張守護家の子供だからな。あの男の人が「織田上総介様の所に連れて行って欲しい」って言ってるからには助けてもらえる見込みがあるからだろうし。いきなり殺されるとかは無いと思うけど…」
少し言葉を濁す…。希望的観測だ。もちろん岩竜丸どうなるか、俺に分かるはずもない。悪い方へ考えれば信長が信友と結託している可能性だってゼロじゃない。
けれど、今それを小竹に話したところで余計な心配をさせるだけだ。俺は小竹の頭をポンポンとして、
「大丈夫だって。そんなに心配するな」
と笑って見せた。
そんな事を話しながら、半刻ほど経っただろうか。俺達はいつまでここに居ればいいんだろう…と少し不安になった頃だった。
ガラリ!!
勢いよく襖が開いて、突然誰かが入ってきた。
「よう!ヤスケ!!久しぶりだな!!」
ニヤリと笑う特徴的な笑顔。尊大な態度。小さな頃に会った時の印象そのままで、三郎…いや、織田信長が入ってきたのだった。
ちょ、前置きなく入ってくるかよ!!いや、この人らしいっちゃらしい気はするが…。慌てて、正座に座りなおす。
「は、はい!」
なんと言っていいのか咄嗟に思いつかず、とりあえず返事だけしておく。信長がズカズカと部屋に入ってきて、ドカッと俺の前に腰を下ろす。
「ヤスケ。お前もう松下家は辞めたんだろ?俺の下で働け」
「は、はい…」
単刀直入すぎて!!!断れない!!!あわわ・・・「はい」って言っちゃったよ!!!
「それと、此度の働きは見事だったぞ。知ってたか?岩竜丸は斯波家の嫡男だ。つまりアイツの親父が死んだ今、アイツが尾張斯波氏の当主だ」
「当主!?…ですか?」
「そういうことだ。アイツが俺の手元に来たのはでかいぞ!大手柄だ!さっそくお前に褒美をくれてやる」
そういって信長は持ってきた紙束に何かを書きつけた。後で貰った書面を確認したところ、ざっと以下のような内容が書かれていた。
・今回の褒美として、俺を専任の『足軽』として登用すること
・給料は年に15貫文
・城下の長屋を住居として割り当てること
等々、いわゆる労働条件通知書みたいなものだと思う。
条件がいいのか悪いのか俺には判断できなかった…けど、きちんと書面で渡してくれたところになんだか誠意を感じた。
「今後もしっかり励めよ!!」
そう言って、書面を俺に渡すとそのまま嵐の様に信長は立ち去って行った。
あ・・・また短刀返すの忘れた・・・(実は念のため持ってきていたんだけど)
「…兄ちゃん。侍になるの?」
小竹が呆気に取られたように、書面を見ながら呟く。
「はは。そうなっちゃったみたいだな…はぁ」
なんだか今日は色んなことがあり過ぎて疲れたな。とりあえず、そろそろ中々村に戻ろうかな。と考えたときに、岩竜丸が戻ってきた。
「この度はそなたらのお陰で本当に助かった。今は身一つ故、礼を言うことしか出来ぬが、いずれ何かしら恩返しはさせていただきたい」
そう言って岩竜丸が頭を下げた。おお。超セレブな坊っちゃんなのに俺たちに頭を下げるとは。なんだかんだ苦労してるんだな、この子も。
「恩返しなんていいですよ。無事にお連れ出来て良かったです」
そう言うと、岩竜丸は悲しげに笑った。
「そうか…。そうだ、お主達の名も聞いていなかったな。名はなんと申すのだ?」
「私は木下藤吉郎です。こっちが弟の小竹です」
「うむ。そなたたちの名は忘れぬぞ。…小竹。色々とすまなかったな。お主のお陰で勇気づけられたぞ」
最後に岩竜丸はそう言って、部屋を立ち去って行った。
那古野城に向かう途中も小竹と岩竜丸の二人で何か話してたもんな。何を話してたかは知らんが、同年代同士お互い思うところがあったのかね。
「さてと、小竹。俺達もそろそろ村に帰ろうか」
「…うん!」
那古野城の小部屋から出て、城の門を出ようとした時だった。
「おーい!!弥助!!おーい!!ちょっと待ってくれ!」
と誰かが俺を呼ぶ声がした。振り返ると遠くから一太が走ってくるところだった。
「あー良かった。間に合った!お前、上総介様の下で働くことになったんだって?動きが早いな~。俺が上総介様に紹介しようと思ったのにさ」
あ、そう言えば智に言われてた。信長の下で働くんなら一太経由で…みたいな話してたっけな。
「すまないな。行きがかり上、こんな流れになっちゃって」
「ま、いいってことよ。で、何の仕事をするんだ?」
一太に聞かれたので、さっき貰った書状を渡す。
「…え!?お前、いきなり専任の足軽かよ!!普通、小者からだろ!?俺なんてこの間やっと小者頭になったのに!!!しかも給金15貫文かよ!」
あれ?結構いい条件なのか?そのまま見せたのはまずかったかな?
「色々あって、斯波家の若様をここに連れて来ることになったんだよ。その褒美だって…」
慌てて理由を説明する。
「そういうことかー。いきなり手柄を立てたって訳か。羨ましいな、この野郎!けど、上総介様は手柄を立てればちゃんと期待以上の褒美をくれるからな!そこがいいところなんだよな!!」
と、一太は何やら一人で納得していた。
「そうだ、城下の長屋も支給されたんならさ。俺も今そこに住んでるから、明日案内してやるよ!弥助!」
「おお。それはありがたい。…って、ちなみに俺、松下家に居る頃に一応元服して「藤吉郎」って名前に変えたんだ。こんどから藤吉郎って呼んでくれるか。一太」
「お、そうか!すまんな藤吉郎!ちなみに俺も元服して「一若」って名前に変えたんだ!俺のこともよろしくな!」
お互い幼名で呼んでたことを認識し、二人で顔を見合わせて笑う。くだらない事で笑いあえる。やっぱ幼馴染はいいな。
さてと、じゃあ中々村に帰ろうか。日はすっかり西に傾いていた。長い一日だったな・・・。




