13話 6歳の行商
さて、いよいよ出発だ。
まずは熱田神宮の門前町へ立ち寄る事にする。
俺がいよいよ明日旅立つと言うと、寺の先生が助言をくれたのだ。
「分かりました。どうしても行商に出ると言うのでしたら、三河に向かう途中、熱田に立ち寄って連雀商人の仲間に入れてもらいなさい」
「連雀商人?」
「ええ、行商人の集まりのことです。旅路の安全の為に護衛を雇って、集団で行商する人達です」
へえ。戦国時代にそんな組織があったんだ。知らなかった。
テレビの大河ドラマとか見てる限りでは行商って一人でやってるもんだと思ってたなぁ。先入観って怖いな。
「いくらヤスケが賢いと言ってもまだ子供です。しかも行商人だったらお金や商品を持っていると簡単に推測されてしまう。強盗や人攫いの格好の餌食になってしまいますからね」
おおう…おっしゃる通りです。
そうだよ、ここは戦国時代なんだ。食うか食われるかでみんな生きているんだ。暗くなる前に早めに人目に付かない所に隠れて寝ればいいや、くらいに思ってたが、目を付けられてこっそりストーカーされたらどうにも出来ないな。
まだまだ俺も認識が甘いと言わざるを得ない。平和ボケ現代人気質は中々抜けないもんだ…。
「有益な情報をありがとうございます、先生!ご助言通り、出発したらまずは熱田に向かいます」
「そうしてください。尾張~三河間の行商を生業としている連雀商人の知り合いに紹介状を書きますから、それを持って行くといいですよ」
という訳で、最初の目的地は熱田となったのだ。
・・・・・
二刻ほど歩いて、熱田へ到着した。
熱田の町はずいぶんと栄えていた。熱田神宮の門前町として発達したということで、たくさんの人が行き交い、商人や客が入り乱れてとても活気のある様子だった。なんだか久しぶりに「人混み」を見てとても懐かしい気持ちになった。
おっと、感傷に浸っている場合じゃないな。さっさと先生の教えてくれた連雀商人の御用達の宿へ行く。
宿の旦那に先生の手紙を見せると、あっさりと先生の知り合いという商人が見つかった。
その商人はここの連雀商人達の取りまとめをしているリーダーのようだった。
「…なるほどな。親父を戦で無くして、行商することにしたということか」
「はい。一人で行商するのは危険だということで、先生にこちらをご紹介いただきました」
「ふむ…。あの僧の頼みとあらば断るわけにはいかんだろうな…。おい!弥七郎いるか?」
「はい!」
商人に呼ばれて入ってきたのは、一人の少年であった。歳の頃は12~3歳くらいだろうか。なかなかのイケメンだ。平成の世だったら、ジャ●ーズJr.に居そうなさわやか少年だ。
「弥七郎、しばらくこの小僧の面倒を見てやれ」
「はい」
こうして俺は無事に連雀商人の仲間に入れてもらえることになった。
「おまえ、名は?」
弥七郎と呼ばれた少年が話しかけてきた。
「えっと、弥助と言います。よろしくお願いします」
「そっか。俺は弥七郎だ。こちらこそよろしくな」
おお。なんか良さそうな人だ。
「お前、そんなに小さいのに行商に出るなんて、ずいぶん根性あるなぁ」
「父が亡くなってしまい、田畑だけでは食べていけず…」
「そうか。まあ、俺も同じようなもんだな。とーちゃんは生きてるけど、うちは貧乏だから長男の俺もここで修業しながら働いてんだ。貧乏人の小倅同士って訳だな。仲良くやろうぜ」
弥七郎とは行商の間にも色々な話をした。
弥七郎は俺が年下でも下っ端扱いせずに、ちゃんと対等の友達として接してくれた。俺もそんな弥七郎が大好きになった。青臭い感じだが将来の話とかもお互い真面目に話たりした。
「俺はここである程度金を稼いだら、尾張の国に戻って武士になるのが夢なんだ。お前は何になりたいんだ、弥助?」
「僕は…うーん…まだ考えてないけど、武士になるのはちょっと怖いなぁ」
「はは!一人で行商人になろうとした割に、武士になるのは怖いのか?変な奴だなぁ」
そういって弥七郎は笑っていた。
俺は、この時代の少年はやっぱり武士に憧れるもんなんだなぁ…と改めて思った。
戦とか怖くないのか?…いや、戦に行かなくても巻き込まれる可能性があるもんな。だったら攻められる方より攻める方に居た方が良いのか?うーん、割と究極の選択だなぁ。やっぱ大変な時代だ。早く平和になって欲しいもんだ。そんなことを取りとめもなく考えた。
弥七郎は俺が上手くやっていける様に、連雀商人仲間内での約束事や規則、心構えのようなものを色々と教えてくれた。
この弥七郎の指南のお陰と、「小さな子供が父親を亡くし、家族のために頑張って行商している」ということが美談として商人達の酒の話でされるようになったことも相まって、俺は多くの商人仲間達にかわいがられるようになっていった。
商売の方もいたって順調だった。
一太の爺さんが作る木綿針は中々評判が良く、時折指名買いも出てくるようになってきた。これはチャンスと言うことで、爺さんとも相談してブランド名をつけることにした。
その名も『丸一印の木綿針』。
俺達を繋いでくれた一太に感謝の気持ちを込めてブランド名に一を入れることにしたのだ。
ブランドロゴはシンプルに丸の中に漢数字の一を入れたものにする。これを旗印にして行商をするようになると、『丸一印の木綿針』の知名度上昇と相まってグングンと売り上げが伸びるようになっていった。
うんうん。なかなか幸先良さそうだぞ。
そんな感じで、俺が連雀商人の一員として、熱田から三河までの往復を何度か繰り返している内に季節はいつの間にか夏になっていた。
ある日、何回目かの行商が終わって熱田の定宿に戻った時であった。宿の旦那が俺宛の手紙を預かってくれていた。・・・それはトモから届いたものだった。
手紙を送ってくるなんて…ウチで何かあったのか??
ドキドキしながら、手紙を開く。急いで中を読んでいくうちにほぅっと安心で力が抜けた…。
手紙は「ナカが無事に出産をした」という内容だった。
生まれたのは妹で「旭」と名付けたらしい。
旭は元気いっぱいに育っているということで、時間が取れれば一度会いに戻ってきてはどうか、と書かれていた。小竹も俺に会いたがっているらしい。
…よし、しばらく帰ってなかったし、一度中々村へ戻ることにしよう。
そうと決まれば、善は急げだ!
さっそく俺は、連雀商人のリーダーと弥七郎に一旦故郷に帰る旨を伝え、手紙をもらった次の日の朝に早々に出発したのだった。
「旭、か」
妹の名前を思い浮かべながら、ウキウキと熱田でお土産を買い求め、ウキウキと中々村へ向かう。
弟の小竹があんなに可愛いんだ。妹ってだけでもう浮かれた気分が止まらない。妹と言えば『妹萌え』という一大文化を巻き起こす存在だ。はっきり言って、前世からチョー憧れていた。おにいたまと呼んでもらおう。・・・暴走する思考が止まらない。
やっと中々村に到着すると、一目散に実家へと走って行った。
家の前に小竹が居る!小竹は俺に気が付くと「にーたーん!」と行って、トテトテと走ってくる。
おお!愛い奴よのぉ!!小竹を抱き上げ、家に入るとナカとトモが驚いていた。
「ただいま!!!」




