二百一回目:二度目
「ふぅ……二百一回目か……」
前回の二百回目でイレギュラーが発生したから最高記録の五回目のエリアボスどころか一回目のエリアボスで死んでしまった。
でも今回は前回のようにイレギュラーはないはずだ。そもそも新しいことではなくイレギュラー自体が初めてだ。
今回は初めからステータスを確認しておく。
『南時雨
Lv:1
HP:G
MP:G
STR:G
VIT:G
AGI:G
DEX:G
INT:G
RES:G
LUK:G
魔法
影の御手
スキル
強くてニューゲーム/死感/デッドストロング/器用貧乏/暗殺/ショートスリーパー/実物変化』
ちゃんと魔法も引き継がれている。スキル『デッドストロング』は死ぬたびにステータス補正がかかるものだが微々たるものだ。ないよりかはマシだけど。
「ふぅ……買い物に行こう」
前回の買い物がマックスで残っているが食料や水はいくらあってもいい。それに異空間は時間の流れが無くて腐るという概念がない。
前にデジタル時計を入れてみれば時間がずれていたし腐りやすいものを入れても全く問題なかったのは検証済みだ。
俺はこの世界で質量をどんどんと増やしているわけだがいいのだろうか。まあ俺が死んだ世界線が続いているのだからそちらでなくなっているだけか。
「行ってきます」
今はやれることを一歩ずつやろう。
いつもの売買をしつつ次はどの魔法もしくはスキルを取得しようか考えるが、それを考えるにあたって前回の反省点をあげないといけない。
まあイレギュラーに対応できていなかったというのが原因か。ステータスの変化。それに伴って主人公くんが獲得するはずであった一番の権利を奪取。
ただ分かっていてもイレギュラーに対応できるかという問題が出てくる。そのための魔法とスキルの獲得だ。
影の御手の選択肢は良かっただろう。これは使い勝手がいい。エリアボスも動きを止めることができた。
あの場に俺と主人公くんだけなら勝てただろうか。……勝てた、と思いたい。それなら俺と主人公くんと亡霊騎士だけの空間なら勝てるか?
移動魔法か結界魔法があればどうだ。……それなら行けそう。でも結局は消費MP次第だな。強くても消費MPが多ければすぐに終わってしまう。
……俺と主人公くんと亡霊騎士を隔離させて戦わせることに成功しても影の御手が使えなければ意味がない。
他にいい魔法がないか考えていると見知った顔を発見した。
金髪をサイドで団子にしているギャルな女子生徒が制服を着てキョロキョロとしていた。
一見すれば補導されかねない感じであるが彼女は同じ学校の先輩で西野美月、ギャルっぽいけど学校での素行は優等生の部類に入る女の子だ。
彼女もまたヒロインズの一人であるけど……素行がいいのにどうして学校が始まっているのにこんなところにいるんだろうか。いつもなら学校にいるはずなのに。
……考えても分からないから今は買い物を続ける。どうせ向こうは俺のことを知らないのだから。
「ま、待って!」
西野先輩の声が聞こえてくるがやっぱり誰かを探していたのだろうか。
……強くてニューゲームを続けていくとエリアボスとかモンスターの動きはそのままなんだが人間の動きは少し変わってくる。乱数か? 量子もつれ?
「待ってって言ってるし!」
「へ?」
俺の肩を強くつかまれて強く引っ張られ振り返れば西野先輩が必死な顔をしていた。
「な、なにか……?」
「……な、名前は……?」
自信はなさそうだがどこか確信を秘めた言葉で俺の名前を聞いてくる西野先輩。
「……南です」
「それが名前? 苗字?」
「……苗字です」
「名前は?」
「……時雨です」
「南、時雨くん……うん、何だか……キミをほっとけないかな」
どういうことだ!? 俺はモブで西野先輩にこんなことを言われたことはない。それなのにどうしてほっとけないとか言われるんだ!?
いや、今はこんなことをしている暇はない。
「すみません、急いでいるので」
早々にその場から立ち去ろうとするが西野先輩が俺の腕をつかんで止めてくる。
「……まだなにか」
「えっ!? あ、な、何でつかんだんだろ……? ご、ごめんね」
「いえ。ではこれで」
一体何なんだ。強くてニューゲームをして何かが変になっているのか?
次のスーパーに向けて歩いているが……すぐ後ろでずっと西野先輩がついてきているんだが。
「あの……どうしましたか?」
「えっ、えーっと……き、キミは高校生?」
「大学生です」
「ウソだー。絶対にあたしより年下でしょ。もう学校は始まってるよ? サボり?」
「……そういうそっちはどうなんですか?」
「あたしはモヤモヤすることがあったからブラブラしてたんだけどもうスッキリした!」
要領を得ないな。まあ話を広げることもない。
「もうついてこないでもらえますか」
「どうして? もしかしてやましいことでもするのかなぁ?」
ニヤニヤとしながら俺をからかってくるが本当に勘弁してほしい。知られてもいいけど無駄な疑惑は向けられたくない。
三度ほど疑惑を受けて人の手で殺されたからな。
「サボりの時点でやましくはあると思いますよ」
「可愛げがないなぁ……ついていってもいい?」
このまま問答をしていても時間の無駄だ。というか制服で来るのはやめてほしいんだけど。あっ、それでいいか。
「無駄に目立ちたくないのでまずその制服をどうにかしてもらってもいいですか?」
「えー、いいじゃんこれで」
「目立つから無理です」
「言うほど目立たないと思うよ? 他の人は気にしない」
「目立ちますよ。西野先輩は可愛いですから」
「か、かわいい……」
えっ、なにその反応。モブにそんなことを言われてもありがとうで済むでしょう。いや何も考えるな。もう何も考えない。
「……ん? 何であたしの名前を知ってるの?」
「あっ……」
しまった。でも学校の先輩で知っていることにしよう。一回目は知らなかったけど。
「お、同じ学校なので」
「そうなんだ。じゃあいいじゃん、一緒にサボろ」
どこがいいじゃんなのか分からないし一人でやることがあるんだ。
「……本当に急いでいるんです」
「それなら行こうよ。邪魔はしないから」
……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ! ふぅ、これ以上時間を浪費するわけにはいかない。
それによく考えればこの人少しおバカなところがあるから一人にしたら何をされるか分からない。
「……分かりました。でも質問は後でお願いします」
「よく分からないけどオッケー!」
今は亡霊騎士のことで頭がいっぱいなんだ。もう西野先輩と一緒に行こう。それで何か言われても後で適当に説明しよう。
西野先輩と絡まれてもまだ問題ない。まだ調理器具とかは買ってあるからそこを削って食料と水に回せば時間の短縮にはなる。
「どうしてこんなに買ってるわけ?」
「質問は後です」
「そうは言われても気になるなー……」
「……欲しいものがあるならどうぞ」
「マジ? やったー!」
こんなことだろうと思った。子供っぽいところがあるからな西野先輩は。
西野先輩が知育菓子やら駄菓子を容赦なく持ってきてから会計を済ませる。西野先輩がこんなにと言っていたが一般的な主婦の買い物とほぼ変わらない。
買い物袋二つにパンパンに入れてスーパーから出る。
西野先輩はお菓子の入った袋をもって嬉しそうにしているが、さすがにこのタイミングでも異空間に入れればバレるよな。
「次に行きましょう」
「……買い物したよね? 荷物は?」
「質問は後です。今は時間がないですから」
「……分かった」
納得してくれた西野先輩を引き連れて次のスーパーに向かう。
西野先輩に色々と俺のことについて聞かれながら買い物を終わらせた。時刻は十二時三十四分。
もう少し早くに終わらせれたのに西野先輩にお昼にマックに行こうと言われてマックに行っていた。まあこれから起こることに備えて英気を養ってもらわないといけないから無駄ではない。
「いつ質問していいの? 時雨くん」
「どうせ分かることです」
「それならどうして学校に向かっているの?」
「俺がそうしないといけないからです」
「むー……もう話してくれもいいじゃん……!」
どうせ話しても信じてはくれないからな。それなら体感してもらった方が早い。
俺たちが通う学校にたどり着く前に公園のトイレで制服に着替えておいた。前回は急いでいたから私服のままで行ったが何も起こっていない時に私服で行けば時間を食うからな。
「じゃあ俺は教室に行きます。ここでひとまずお別れですね」
「あっ……」
どうせ世界が終わった後合流するだろうなぁ。
西野先輩と別れて歩き始めようとしたが後ろから腕をつかまれた。もちろんそんなことができるのは西野先輩以外にいない。
「……どうしま――」
俺が振り替えれば西野先輩は涙を流していた。
「ど、どうしたんですか!?」
どういうことだ。どうして西野先輩は泣いているんだ。分からない。
「あれ? ど、どうしてだろ……? でも……時雨くんと、離れたくない……」
離れたくないって言われてもな……あの死地に西野先輩を向かわせるわけにはいかない。
どうしてこんなことを俺は言われているのかマジで分からない。でもここで西野先輩を放置しておくのもできない。……うーん、どうすればいいんだ?
守る対象が増えたら俺は対応できないぞ。俺はモブだ。主人公みたいにカッコよくはできない。身の程を分かっていないと生き残れない。
「西野先輩。少しだけですからどうにかなりませんか?」
「……分かんない」
「西野先輩、これから大きなことが起こります。俺が行く場所は少し厄介なところなので西野先輩が行けばややこしくなるんです。すべてが終われば俺の教室に来てください」
「……危なくない?」
「大丈夫です。何とかしますから」
「……絶対、無事でいる?」
「絶対です」
「……ん」
納得してくれた西野先輩は俺の手を放してくれた。
本当にどうなっているんだ? 今までこんなことを西野先輩に言われることはなかったのに。とりあえず亡霊騎士をどうにかしないとな。
2Bの教室に入ってもモブである俺は気にされない。影が薄いわけではないがいるかどうか気にされないのは影が薄いのと一緒か。
自身の席に座ってスマホの時計を見れば十二時五十五分。もう少しで亡霊騎士と戦うわけだが取得する魔法を早く選ばないといけないしそれによって戦い方が変わってくるから今は頭を冴えさせることだ。
魔法を即座に選び、即座に亡霊騎士と戦う。これが俺のやるべきこと。下手に選ぶことに躊躇すれば亡霊騎士の剣の餌食になる。
何の心構えもなかったのによくすぐに選べたな、主人公くん。そういう反射神経とか動体視力とかはデッドストロングで増えたりはしてくれないんですか。
「い、今いいか!?」
「ッ!? えっ、うん」
横から急に声をかけられて誰か分からず思わず了承してしまったがこの声はまさか。
「同じクラスなのにこうして話すのは初めて……だよな? わ、私は千虎涼子。キミは……?」
えっ、どうして話しかけてくるんだ? 俺と千虎は一切話したことがないし亡霊騎士をゾーンを抜けてからも話すことは最初はなかった。
前回の最後の時と言い西野先輩と言い何が起こっているんだ……? いやどうせ分からないんだ。考えるだけ無駄だ。
「南時雨」
「南時雨か……。うん、時雨と呼ぼう。これからよろしく頼む、時雨」
「まあ……うん」
意味が分からない。こんなことはなかったのにどうしてこうなっているんだ。精神統一をしようとしたのに頭がパニックだ。
「同じクラスで二ヶ月以上経っているのにこうして話しかけるのは中々緊張した」
「……どうして話しかけてきたんだ?」
「そうだな……心がざわついたから、かな」
そう言えば西野先輩もふわふわなことを言っていたな。
でも別に仲良くすること自体は悪くない。これからのことで信頼関係を築けるから。でもその理由が不明だとモヤモヤする。
「ざわついたか……」
「む、バカにしているのか?」
「そんなわけがないよ。ざわついた時がないから気になっただけ」
「私もこうしてざわついたのは初めてだ。……何だか時雨から目が離せない」
またそれか。これについても考えないといけないのか……。
「……もう少しか」
「十三時になれば何かあるのか?」
「……ちょっと教室の外に出ているといいよ」
「どうしてだ?」
「生存率が上がるから」
「何と戦っているんだ?」
俺だけじゃないんだよなと思った瞬間に十三時になり世界の終わりが始まった。
俺以外のすべての生き物がステータスを付与される感覚に襲われる。それは隣にいる千虎もそうだ。
「な、何だこれは!?」
「大丈夫、落ち着いて」
パニックになりかけていた千虎に話しかける。そんな千虎が手を伸ばしてきたから俺はそっとその手を握った。
初回は経験したけど二回目以降は朝からステータスが付与された状態だったからこの苦しさはもう体験しなくていいのがいい点だ。
『あなたは救世主です。そんなあなたには魔法かスキルを授けます』
そして俺の目の前には再び文字が現れた。ここからが本番だ。すぐに見つけないと数秒後には亡霊騎士が来る。
そして俺が予め考えていた魔法候補の二つを見つけた。
『刹那の最果て(消費MPC)』『神々の箱庭(消費MPC)』
どっちだ!? どっちにすればいい!? 消費MPはどちらも同じC。影の御手よりは消費MPは多いだろうが連発するわけではない。
消費MPのアルファベット表記は少ない順にS、A、B、C、D、Eと六段階になっている。影の御手がAなのは消費MPが少ないと言える。
逆にCだとまあまあ魔力を使うことになるらしい。俺が今まで魔法を使ったことがないから消費MPがどれくらいのものかは聞いた話だけになるが。
刹那の最果ては詠唱があるようだけど……神々の箱庭は普通に使う分には詠唱が必要ないみたいだ。……それなら守れることも加味して、結界魔法か。よし、神々の箱庭に決定だ。
動けるようになったくらいで千虎もステータス付与が終わったようだ。
「大丈夫?」
「……うん、大丈夫だ。……今のは一体……?」
周りの人たちもステータス付与が終わってざわついているが俺は教壇を見る。
突如として空間が引き裂かれ空間の亀裂から亡霊騎士が悠々と出てきた。
「な、何だあいつは……?」
千虎を含めたクラスメイトが亡霊騎士を見て驚いている中で、その亡霊騎士は剣を振り下ろして衝撃波を教室中に振り撒いて机や椅子が吹き飛んだ。吹き飛ぶ机や椅子を影の御手で教室の端によけた。
この吹き飛ぶ机とかでも運悪く頭に当たって死んだとかあったな……しかもそれで動けなくなるとか。
机や椅子を除けばこの衝撃波自体は何ら問題はない。まあ初回は困惑したけど。
だけどこの後が問題だ。全体に飛ぶ斬撃を振りまこうとする。
前回の俺の死因の一端を担った横一閃に放たれる強攻撃とは違う。これは絶対に弱者を殺そうとする無制限の斬撃。
強攻撃は二度目を放つ時は時間がかかるけどこれは違う。これを初見で避けることはほぼ不可能だから俺はこれで初手何回も死んでいた。しかも机や椅子が吹き飛んできた後だから避けにくかった。
そしてこの教室の中では主要人物以外は死に絶えてしまう。でも一人でも多く生き残るために俺たちを囲うように神々の箱庭を展開する。
斬撃は結界により弱者に届くことはなかった。そして初めて消費MPCがどれくらい魔力を消費なのか理解した。まあそこそこ消費するな。
とはいえ弱攻撃とは言え亡霊騎士の攻撃を防げるのもいいな。ただ……これで影の御手を使えば魔力消費がえぐいことになるんだろうな……でもそんなこと気にしていられない。
俺が結界を張ったことを分かっている亡霊騎士はさすがと言うべきか。すぐさま俺に斬りかかってきた。
この攻撃を結界が防げるかは分からないから下がろうとするが俺の前に千虎が出てきた。
「やらせない!」
最強の盾を持っている千虎でも最初はそれを上手く使いこなせないはずだ。しかも訳も分からないはずなのにどうして俺の前に出たんだ……?
亡霊騎士は易々と神々の箱庭を破り立ちはだかった千虎に斬りかかる。だが防ぐように出していた両腕に当たった瞬間にピタリと剣が止まった。
千虎のスキルは『体を動かさないほどダメージを受けない』というものだ。一切体を動かさなければ一切ダメージを受けない。
だが少しでも動けばその動きの大きさによってダメージ軽減は低くなる。
でも今は一切動いていないからダメージを一切受けていない。少しも体を動かさないことをすぐにできるのは千虎だけだろう。
刹那とは言え絶好のチャンスを見逃す主人公くんではない。横から亡霊騎士に殴りかかる。
だけど亡霊騎士がそれを素直に受けるはずがなく避けようとするが影の御手でその場に体を縫い付け主人公くんの攻撃を無防備に受けた。
影の御手の拘束を破ってその場から離れる亡霊騎士。
「大丈夫? 千虎」
「あぁ、この通り平気だ。スキルのおかげだ」
俺は知っているが千虎にそう確認する。そうしないとどうして知っているのか怪しまれるしそういう時のムーブを俺はできない。
「ならお前が前に出て動きを止めろ。その間に俺が攻撃する」
「物の言い方があるだろう。もう少しマシな言い方はできないのか?」
「これ以外にどう言うんだ」
あれ、何だかかなり嫌悪な雰囲気なんだけど。この二人はこの戦いを経て仲良くなるはずなんだけどな。
少しだけ主人公くんの雰囲気が刺々しいし……いや今は亡霊騎士に集中だ。
「俺と千虎が隙を作る。だから見逃さずに攻撃してほしい」
「あぁ」
俺が何ができるのか聞かずにそう頷いてくれる主人公くん。
「千虎は無理なくスキルを発動してね」
「あの訳も分からない相手に無理せずは無理だろう。……時雨は私が守る」
よし、頭が混乱しているが今は放置だ。
それよりもだ、この場にいる残り二人の主要人物は動いてくれないのかな。一人は動かなくてもいいけどもう一人は動いてくれれば確実性が増す。
まあ気まぐれだからどうしようもない。
今、亡霊騎士が誰を狙っているのかすぐに分かった。俺だ。この場にいるクラスメイトは分かっていないだろうが神々の箱庭と影の御手を俺が使っていることを亡霊騎士は分かっている。だから俺を最優先で狙っている。
亡霊騎士に最優先で狙われることはなかった。他のエリアボスならあったけど。
何度死地に立ってもこの感覚は慣れない。でもそれで動きを鈍くはしない。こいつを倒す。ただそれだけを考える。
俺は意を決して影の御手で亡霊騎士を捕らえようとする。だけどそれを警戒している亡霊騎士は斬ろうとするが意味はなく再び亡霊騎士を拘束した。
主人公くんはそれを見逃さず拳を叩き込んだ。
前回の時に効果があった仕掛けは俺しか分からない。だから回が変われば絶対に攻撃を通せる手順を踏むことができるのも強くてニューゲームの強いところだ。
もしかしなくてもこれ、影の御手だけでも大丈夫なのか? 結界を使わなくていいのは魔力節約になる。
主人公くんが亡霊騎士を倒すために必要な打撃数は九回~十三回。回数が変わるのは毎回倍加されるダメージ量が違うのだろうと予測。
前回俺の命をとして倒せたが打撃数は十回だった。今回が十三回の場合は手数が足りないが今までの経験で何とかしてみせる。
一番倒したい俺を狙おうとしても俺の前には千虎が立ちはだかっている。
今の千虎に亡霊騎士の剣をすべて止めることはできない。一切動いていなければダメージを受けないが動かなければ俺を守れない。
レベルが上がってステータスが上がればできるのだろうが初期のステータスでは動きに追い付かない。だから俺がサポートする。
ダメな部分は結界と影で何とかして受け止めれる攻撃は千虎に任せた。
「ふははっ! 息ピッタリだな!」
そりゃ俺が合わせているからな。
そしてこちらにつきっきりになっていれば主人公くんが攻撃を仕掛けてくれる。
主人公くんの十一回目の攻撃を受け、いつまでも決定打を出せない亡霊騎士は前回の強攻撃を仕掛けようとしてきた。これは神々の箱庭でもどうすることもできなさそう。
またみんなに頭を下げろって言いながら影の御手を使うしかないのか? いや今回は生き残っている人数が多いからそれをすれば次の影の御手が間に合わない。
どうする。どうすればいいんだ……いや迷うな。最初に思いついた神々の箱庭を魔力フルでやるしかない。
神々の箱庭を展開するのは亡霊騎士を囲うようにする。そうしないと無駄に結界を広げることになる。
「全体攻撃! 頭を下げて! 俺が防ぐ!」
周りに攻撃が来ることを伝えて万が一防げなかった時用に主人公くんだけは頭を下げさせておく。
いざ亡霊騎士が横一閃の全体攻撃を仕掛ける瞬間に全力で神々の箱庭を展開する。
「ッ!」
結界が斬られる! と思ったが何とか結界は耐えてくれた。だけどその代わり俺の魔力はほぼ空になった。あと数回分くらいしか影の御手を使えない。
さらにここから亡霊騎士の怒涛の攻撃が待っている。死が俺と千虎がすぐに迫っていることを理解できた。
「動かないで。そのまま」
「あぁ、任せておけ!」
このままなら千虎に死は来ない。でもどうする。ここから一撃入れるのは俺が決死の覚悟じゃないと無理だ。
いややるしかない。迷ったら全員死ぬ。思いついた最善であろう策でやるしかない。
俺は千虎の前に出て亡霊騎士に向かっていく。手には俺が使い慣れているダンジョンの素材で作った短剣を異空間から出している。
主人公くんと同じくらいのステータスを持っているのだから攻めても問題はない。死感があるから避けれるし。それに器用貧乏でそれなりに剣は使える。
でも決定打がないというのが俺の弱点でもある。だからサポートに徹するのが俺の役割だ。
亡霊騎士の攻撃を何とか避け亡霊騎士に一太刀喰らわせる。だけどきいている様子はない。やっぱり主人公くんの攻撃しか意味ないな。
まあどうせ俺はすべてにおいて陽動だ。俺に攻撃手段があってお前を殺せるぞと思わせることができれば御の字だ。
死を避けた先には主人公くんがいた。
「あのまま続けていれば良かっただろ。どうして前に出てきた」
「それができれば苦労しないんだよね。大丈夫、ちゃんと役に立つよ」
素直に頷いてくれる主人公くん。これで主人公くんは信じて突っ込んでくれるだろう。
やっぱり俺が使っているから上手くいかないんだろうな……いや反省は死ぬか終わってからだ。
あと数回しかできない影の御手を使い亡霊騎士に殴りかかる主人公くんをサポートする。これで影の御手も警戒してくれるだろう。
でも初見殺しはすべて使い果たしたから今は陽動のための陽動。
俺が普段使っているスキルは三つ。器用貧乏と暗殺と実物変化。しかし暗殺だけは人やレベル上げのための雑魚モンスターを殺す時にしか使っていない。
エリアボスを暗殺で倒せるわけがないし俺のATKでは役に立たない。でも今は役に立ちそうだ。
亡霊騎士がほんの少しこちらに死を向けない瞬間に俺は暗殺を使って亡霊騎士の背後に気配を消して回った。
暗殺は攻撃をする瞬間も気配を消しているが俺はわざと気配を解き放った。
そのことですぐさま亡霊騎士は背後にいる俺に剣を振るってきた。もちろんそれを避けることも防御することもできずに胴体を切り裂かれる。
だが真っ二つになる前に最後の一発残していた影の御手を全開で使い一瞬だけ亡霊騎士を拘束したことで前回と同じように亡霊騎士は主人公くんに殴り殺された。
あぁ……ホントにどうしよ……。




