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テシオから誘われた件

書籍版の三巻とコミックの一巻が11月10日同時発売です。

よろしくお願いします!

 僕とディートは完成したショッピングモールの建物の前に立っていた。


「凄いわね。トオルのアイディアが本当に実現されるなんて……。100年ぐらいこのダンジョン周りで生活しているけどここ数ヶ月が一番変化したかも。地下街がどんどん綺麗になっていくし」

「日本人の僕からしたらダンジョンの地下一階がスラム街になってるなんて思わなかったよ。しかも非合法のギルドが勢力争いをしてるなんて」

「それは最近のことなんだけどね。それまではもっとカオスだったわよ」

「最近って」

「30年ぐらい前かしら」


 エルフの寿命は人間の10倍だから30年前も3年前ぐらいの時間感覚なんだろうか。

 うん? 3年前を最近って言うかな。まあいいや。


「ともかく入ってみようよ」

「うんっ!」

 

 入り口ではきちんとした制服を来た人が立っていた。

 どことなく見たことがある人だ。彼も盗賊ギルド員なのだろう。

 馬子にも衣装なのか盗賊ギルド員には見えない。


「それ武器ですよね? お預かりします」

「はいはい」


 ピッケルを受付に預ける。

 もちろん武器は持ち込み禁止だ。建物のなかは地下街と違って完全に治安を保っている。

 僕達は地下街の入り口からモールの地下階に入っているが、もちろん街から入れる地上階からもダンジョンの地下階にもいける。

 地下階はダンジョンで採取される貴重な素材やアーティファクトも売られているし、歓楽街としても優れていた。

 今や冒険者ではなくてもそれらを安全に楽しむことが出来るのだ。

 本当はピンクな店のほうに行きたい気持ちもあるのだが、最近の僕とミリィとノエラさんには出歩く際には護衛としてリアかディートが同行することになっている。

 せっかくノエラさんがいくつかタダで遊べるお店を作ってくれているのに全く行けそうにない。


「トオル! お客さんも一杯だよ! やったねっ!」

「そうだね」


 ディートが僕の腕に抱きつく。

 二の腕にふわふわとするものが当たっていた。

 エルフのお店もあるけど、こんなに可愛いエルフはいない……やっぱり……


「ディートだな!」

「ん? なに?」


 機嫌が良い時のディートは最高なのでつい口にしてしまった。


「あ、いや。どの店も込んでるね。あっちにも行ってみようよ」


 どの店も想像以上の大入りのようだ。

 しかし、ディートが急に顔色を変える。話を変えるためにパッと思いついたことを言ったのが失敗だった。


「あっちは商人ギルドが出してる店があるほうね……」


 モールの地下階は、三大ギルドの協定によって綺麗に三等分され、盗賊ギルドが使える面積は三分の一になってしまった。

 最初は盗賊ギルドが半分で商人ギルドと傭兵ギルドが四分の一づつだったのだが、傭兵ギルドのソロッツォが納得いかないと口にする度に商人ギルドのテシオが間に入って妥協案を提示して、結局こうなってしまった形だ。

 

「もうっ! 悔しいわね。こんなにお客さんが入ってるのに半分以上は商人ギルドと傭兵ギルドの店に行ってるんでしょう?」

「まあまあ、せっかく建物ができたんだから楽しもうよ」


 怒るディートをなだめる。

 ディートの性格を考えれば、無理もない。


「とりあえず、無事に完成してお客さんが来てるんだからいいじゃないか」

「そうだけど~せっかくトオルが考えてみんなで頑張ってきたのに」

「あ、そうだ。ノエラさんの話だと盗賊ギルドの店にディートの好きなルーレットもあるみたいよ。行こうよ」


 ディートに掴まれた腕で方向転換をすると悪いことに目の前から渦中の人物が来てしまった。


「これは大賢者様とディートさん。ご機嫌いかがですか?」


 目の前から笑顔のテシオがやってきた。


「あ、どうもテシオさん」


 まずい。僕達はテシオに対してフルブレム商会と反撃の機会を窺っている。察知されてはならないのだ。

 振り向いてディートの顔を見る。

 心配したが、ディートは貼り付けたような笑顔をしていた。


「お二人も見に来たんですね」


 まだ建物が開いてから三日目だった。だからテシオに出くわしてもおかしくない。


「ええ、まあ」


 いつディートが爆発しないかとハラハラする。

 適当に挨拶して離れようと思う。

 ところがテシオが言った。


「お時間あるなら私の店で食事でもしながら少し話しませんか?」


 探りを入れたい気もするが、おそらく向こうも同じ目的だろう。

 それにいつ爆発するかわからないディートが居る。

 断ろう。


「ちょっと寄らないといけないところが……」

「いいんですか? 是非。ね? トオル」


 僕が断ろうとすると、ディートがテシオの申し出を受けてしまった。

 小さい声で耳打ちする。


「お、おい」

「探りを入れられるでしょ」


 そ、そりゃそうなんだけど。きっと向こうもそれが目的で。

 テシオが慇懃に言った。


「こちらになります。お二人に満足していただけるかどうか」


◆◆◆


 歓楽街の様相もていする地下階なので高級クラブのような店に連れて行かれると思ったが、テシオが案内した店は落ち着いた雰囲気のレストランの個室だった。

 メニューは異世界語で書かれていて値段も書いてない。

 落ち着いた雰囲気で高級そうだが、個室でも他の客の声も聞こえていて繁盛しているので本当に高級でもないのかもしれない。


「すいません。かなり繁盛しているみたいで。おい!」


 個室についている給仕にテシオが一言言うとなぜか辺りは静かになった。


「あわわわ。ワイバーンの卵のオムレツがある。紅龍海老のスープとローストドラゴンも……」


 メニューをみたディートが慌てていた。


「た、高いのか?」

「高いなんてもんじゃないわよ……」


 二人でヒソヒソと話していたらテシオに笑われる。


「大賢者様。なんでも好きなものをどうぞ」

「そう言われても安マン……もといダンジョンの地下暮らしが長いのでわからなくて」

「なら私が頼んでしまってもよろしいですか?」

「お願いします」


 コーラは持ってきているから毒の心配はないと思うが、このままではイニシアチブをとられそうだ。

 よほど慎重に話さないとこちらのほうが情報をとられてしまう。

 と思ったが、テシオの会話は特別探りを入れてくるような感じはなかった。


「ともかくモールのビジネスが上手くいきそうでほっとしましたね。ソロッツォがうるさくて一時はどうなることかと思いましたが」


 裏では結託して譲歩を引き出したのに全くそう感じさせない。

 食べてる料理に美味さと相まって本当かと思ってしまうほどだった。

 しかし、テシオはやはり最後に生臭さを出した。


「ところで大賢者様、ディートさんも」

「なんでしょう?」

「お二人は別に盗賊ギルドに所属しているというわけではないのですよね。顧問のようなお立場で」

「ええ? まあそう……ですかね」


 テシオが懐から紙を取り出す。

 これは僕も知っている。この世界の小切手のようなものだったと思う。

 物価とレートとかはすぐにはちょっとわからないが0が沢山書いてある。


「どうですかね。商人ギルドにも顧問としてアドバイスいただけないでしょうか?」

「契約金かなにかですか?」


 テシオがにっこりと笑う。


「いいえ。これはタダのお近づきの印です。よろしければ毎週この店で会いませんか?」


 僕は受け取りそうになるディートの手を引っ張って強引に店を出た。


「す、すいません。楽しくて次の予定が入ってるのを忘れていました」

「そうですか。残念です。来週も来てください」


 商人ギルドの店を出てディートを睨む。


「ご、ごめーん」

「もう。なにやってるんだよ」

「つい……でもやっぱりアイツが黒幕みたいね」

「ああ。そうと分かっても、証拠はなかなか見せそうにないな」

「資金源の麻湯も叩いて繋がりを見つけたいけど、人員不足で無理かも」


 ディートは冒険者歴が長いので、口の固い冒険者を探しているようだが、なかなか見つからなくて難儀しているらしい。

 そうするとゴブリンが作っている麻湯畑も製造工場は叩けない。

 地下ギルドの麻湯に関わっている容疑者の一斉検挙しても、ゴブリンを逃がせばテシオと麻湯の繋がりは見つからないかもしれないとディートは言っているのだろう。


「大丈夫だよ。一斉検挙の日にゴブリンの畑と製造工場を叩ける仲間は見つけたから」

「え? ゴブリンの数は数百はいるわけよ。ひょっとしたら千いるかも。そんなに口の固い冒険者なんか……」

「いるじゃないか。地下六層に」

「地下六層? あ、ひょっとして」

「そうだよ。江波さんとオーク達さ」


 僕はフルブレム商会のビーンさんに依頼されたゴブリンの麻湯畑と製造工場の攻略を江波さんとオーク達に協力してもらおうとしていた。

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