エルフにはパソコン先生がまだ通用する件
第四六章 日常メイン編 最終話です
最後のスケルトンの頭にピッケルを振り下ろす。
「さーてシズク。そろそろ部屋から帰ろうか」
「はい!」
僕はスケルトン狩りをやめた。
最近は夕食後の寝るまでのちょっとした時間でダンジョン地下三層でスケルトンを狩っている。
三層は他の冒険者も多くいて危険なトラップは潰されているし、僕の部屋と繋がるドアも発見してある。
ほとんど安全な冒険ができる。
「ところでご主人様はなんでダンジョンにシズクと一緒に来てるんですか? レベル上げですか?」
「うーん」
実はほとんど意味はない。
レベル上げをするなら地下五層の敵にパソコントラップを使ったほうが早い。
ちょっとした冒険をしたいだけだ。
「いつでもこっち側の世界を冒険できるようにね」
「なるほど~~さすがご主人様です」
いつものように秘密の鍵を使って部屋に戻る。
「ただいま~」
「おかえりなさーい」
ディートが迎えてくれる。
「リアは?」
「お風呂にはいってるわ」
「そっか」
ミリィは盗賊ギルドの仕事が忙しいと帰っていった。
やはり色々とフルブレム商会と連携した動きがあるようだ。
「ディートはなにしてたの?」
「ランクラ」
「またランクラか」
「ダメなの?」
「ランクラで冒険しなくたってダンジョンを冒険すればいいじゃない」
二人は日本のゲームにかなりはまってディートはパソコンのゲームまでするようになった。
そのため実際にダンジョンに潜って経験値稼ぎをしているところもある。
まあ楽しいからいいと言えばいいんだけど。
ディートがもっぱらハマってるのは通称ランクラ、ランドクラフトというゲームだ。
「冒険してるんじゃないの! おうちを作ってるの!」
「あ~家を作ってるのか」
ランクラは広大な世界がブロックで表現されている。
山や洞窟を探検することもすることもできれば、巨大な建造物を建てることも可能だ。
ランドクラフトで東京ウィッキーランドを忠実に再現したものが製作者とともにテレビで紹介されたほどだった。
今は少し下火になっているが、未だに人気がある。
そういえば昨日ディートは斧で木を切っていた。
木を斬れば、原木のブロックになり、それを木材のブロックにして家を作成するつもりだろう。
「大分出来たよ」
「そっか。みたいみたい」
「え~恥ずかしいなあ」
恥ずかしがっていたが何度か頼むと見せてくれることになった。
「おお! 木の上に家がある!」
これは初心者にしては結構凄い。これは中々苦労してそうだ。
周りは花や動物に囲まれていた。
女の子らしくてセンスも良いと思う。
「動物をもっと集めたいの」
ディートは少し寂しがり屋のところがあるから賑やかにしたいのかもしれない。
「マルチプレイができれば手伝ってあげられるんだけどね」
「マルチプレイ?」
「うんとディートのキャラがいるでしょ? 同時に僕のキャラも同じところに存在できるから協力して家造りとかできるんだよね」
「そんなことできるの!?」
最近のネトゲでは当たり前だけど異世界の人には珍しい……というよりもゲームなんてないしな。
「できるよ」
「本当!?」
「あ、でもマルチプレイができるゲームっていう意味で実際にはパソコンが一台しかないからな」
「え~できないってこと?」
「そりゃ……パソコンがないから」
「なんとかならない?」
うーん。経済事情はかなり回復したし、安いのなら買ってもいいか。
「じゃあ、明日駅前のタナカデンキとグレートカメラ回ろうか」
「なにそれ?」
「電器屋だよ。パソコンも売ってるんだ」
「トオルありがとう!」
よほど一緒にランクラをやりたかったんだろうか。
後ろから抱きつかれる。
「たまには僕のダンジョン探索を付き合ってよ」
「うんうん」
◆◆◆
ディートと二人で朝日を浴びながらグレートカメラに向かう。
ちょうどグレートカメラの折込チラシが入っていたからだ。
税込みで4万9800円のノートがあったのでこれがちょうどいいと思ったのだ。
「最近ノートパソコンは安いんだなあ」
いつもの僕はデスクトップの自作派なのでそこそこ良い性能に思えるノーパソがこの値段で買えるとは知らなかった。
「私達の世界で例えるならどれぐらいなの?」
「うーんわからないけど頑張れば三人分の食費一ヶ月ぐらいかな?」
「パソコンみたいなアーティファクトが?」
「いやアーティファクトじゃないしね」
「あ、そうだったわね。でも家からダンジョンの様子とかも見れるし、レベル上げもできるし」
確かにそうだ。
画像を表示するなんかも凄い技術だと言われた。
そりゃ地図一つ取っても見て書いている世界だしな。
「げっ。結構並んでるな」
「ホントね」
お目当てのノーパソは限定三台だ。10人以上は並んでいる。
他にも限定お買い得商品はあるから並んでる人全員がノーパソ目当てとは限らないが、買えるだろうか?
「開店です~」
店員さんが店を開ける。
すると並んでる人は小走りにエスカレーターを上っていった。
確かパソコンコーナーは二階だったはず。
「うう。こんな世界だったのか。もう買われてるな」
「ひょっとしたらまだあるかもしれないじゃない。行ってみましょうよ」
ディートが慌ててパソコンコーナーの店員さんにチラシを見せる。
「これ! ありますか?」
「も、申し訳ございません。売れてしまいました」
ディートは少しだけおかしい発音の日本語でノーパソを求めると店員さんはいかにも申し訳なさそうに売れてしまったと言った。
店員さんは予算はおいくらですかとかお安く出来ますけどとか言っているが、4万9800円に対して本当に5万円しか持ってきていない。
異世界ではキレのよい値切りスキルを発動させたディートも日本では経済感覚がない。
なんとかく持ってきたお金で買うことが難しいということだけはわかったようだ。
本当に肩を落としていた。
「よし!」
「ん? どうしたの?」
余ったケースと電源とOSはあったはずだ。外付けドライブもある。
ここはパーツが売っているし、モニターも中古なら安くあるはずだ。
サブマシンとしては十分だろう。
「ディート。別のコーナーに行こう」
「え?」
パーツコーナーに引っ張る。
「これなに?」
CPU、マザーボード、メモリと……。
バルク品のむき出しのパーツだからなんというかパーツパーツしている。
何の知識もないディートにはこれがまさかパソコンになるとは思わないだろう。
「ふふふ。内緒」
「まあパソコンが買えなかったんだから代わりになにを買ってもいいけど」
◆◆◆
ディートは帰るなり洋室のパソコンでランクラをはじめた。
僕は和室でパソコンを組み立てていた。
シズクがやって来て僕の作業を見る。
「ひょっとしてそれパソコンですか?」
「しっ。ディートに内緒で作ってるんだ」
「そうなんですか。どうして?」
僕は顔をシズクに近づけて小さな声で話す。
「あ~そういうことですか!」
「そういうこと」
ちょうどパソコンが出来た。さっそく新しいIDを取る。
そしてディートが席を外すのを待つ。僕のIDを招待する。
ランクラのマルチプレイは招待した人としか出来ないからだ。
そしてランクラ内でのディートキャラを見つけた。
相変わらず家の周りに動物を集めているようだ。
僕のキャラがディートのキャラに近づく。
『ディート。僕も動物集め手伝うよ』
チャットで話しかけた。
ディートのキャラが止まる。
シズクと顔を見合わせて微笑む。
和室の引き戸がパシーンと空く。もちろんディートだ。
「驚いた?」
「ど、どうしたの? そのパソコン」
「あー店で細かい部品買ってただろ。あれがパソコンの部品だったんだよ」
「ト、トオルが作ったの?」
ディートが目を白黒させて驚いている。
「凄いわね……」
パソコンの自作なんて今はプラモデルを組み立てるようなものだ。
色を塗らないだけむしろ簡単かもしれない。
「大したことじゃないよ」
「そんなことないよ。ありがとう」
スマホやタブレットの時代にパソコン先生をして美人のエルフに感謝されてしまった。
「ま、まあランクラやろうよ。よし一旦電源落として洋室で並べてよう」
「やーよ」
「え?」
「せっかく離れたところから同じゲームのなかで遊べるんだから洋室と和室でやりましょう」
そんなもんだろうか。
ゲームのなかのディートはいつもより甘かった。
WEB連載型のコミカライズはじまっています。
次章からまた冒険メイン編になります。
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