再び、お金の問題を解決したい件
玄関でつい引き止めてしまう。
「別に遠慮しなくていいのに……」
「遠慮しているわけじゃないけど安宿にごちゃごちゃと私物が沢山あるから整理しないとね」
ディートにここに住んでもいいよと提案したけれどもやはり一度異世界に帰って安宿の物を整理してくるらしい。
ここ数日、ディートと二人で暮らしていた。
バイトから帰ってくるとディートがいたのだ。なんだか少し寂しい。
「僕も物の整理を手伝いに行こうか? 2日ぐらいバイト休んで」
「バイトのシフトちゃんと行っておいたほうがいいよ」
確かにその通りだ。なんだかんだお金を使いすぎて経済的にかなりピンチだ。
一応、異世界の金貨や金製品を日本円に変える方法もあるがあまりやるのはどうかと思う。
大手チェーン店は毎日のように持ち込まれているだろうからそれほど心配する必要はないかもしれないけど、またあの人と顔を覚えられることはあるだろう。
僕のバイト先にもそういうお客さんは結構いる。
「それに私の部屋、散らかってて恥ずかしいしね」
ディートが僕の首に手を回して引き寄せた。
唇に柔らかいものが触れる。
「レベル制限解除ね」
ディートはニカッと笑って出ていった。
僕はふらふらと洋室のベッドに倒れ込み、ディートが寝ていた辺りの空気を胸いっぱい吸った。
「ご、ご主人様。ディート様に変身しましょうか?」
「いやいいよ」
そもそも、ディートにお金の心配をさせていたような気がする。
木村さん。元不動産屋のそんなに美味しくないラーメンを無料で食べに行こうと3日連続で行ったしな。
ディートは意外と義理堅いところもある。
「ちゃんとしたところで働いて……いやそれだと異世界に行ったり来たりできないしなあ」
今のバイト先は居心地もいいし、店長も同僚も仲が良いからシフトを融通し合える。どうしても異世界で長期の冒険が必要な時などは最悪シズクに任せることもできる。
他のとこではそうはいかないだろう。
「やっぱなんか他の方法で日本のお金を稼ぐ方法を考えないとディートも安心して来れないよね」
う~ん。
日本から異世界へ価値のある物を持っていくのは文明の差があるから比較的簡単なんだけど。
逆に異世界のマジックアイテムを売るわけにも行かないしなあ。
ディートが寝ていた場所に顔をつけたままそんなことを考えていると。
「ぐえあ」
「トオル~遊んで遊んで遊んでよ~」
急に背中に重みを感じる。
振り返るとミリィだった。どうやら勝手に入ってきたようだ。
「な、なんだなんだミリィ?」
「ノエラがノエラが~」
「ノエラさんが?」
話を聞いてみると、どうやらノエラさんがミリィに盗賊ギルドの首領になるため色々勉強をさせているらしい。
「そりゃ勉強したほうが良いんじゃないの?」
「そんなこと言ったって~。お金がいくらで、設備はいくらになって商品の在庫がこんだけあるとか紙に書いて」
ミリィに帳簿でもつけさせようとしてるのかな。
確かに向き不向きがあるような気もする。
まあ、そういうのが得意な人にやらせても良いかもしれないけど、代表だったら見れるようになっとくぐらいは意味があるか。
「トオルの部屋にも遊びに来なかったでしょ。ずーっとずーっと閉じ込められて勉強させられて」
「そ、そうなのか」
やっぱり少し可哀想になってきた。
僕も気分転換がしたかったところだ。
天気もいいしな。
「じゃあちょっと外に出かけるか」
「やったー」
「少ししたらノエラさんのところに帰るんだよ」
「うんうん」
ミリィが首を上下に振る。
「じゃあシズク少しだけ出かけてくるよ」
「はーい行ってらっしゃい」
シズクと話して街に出る。
「にゃ~。いつ見ても日本の町は凄いなあ」
「……」
「ん? トオル」
何か異世界のものを日本のお金に出来なだろうか。
もちろん大々的にやればいくらでもあるんだろうけど……。
「トオルっ!」
「うわっ」
ミリィが顔を近づけて僕の名を呼んでいた。
「どうしたの?」
「あ、いや……」
まあ隠すようなことじゃないか。
僕は今自分の経済事情について話した。
「トオルは盗賊ギルドが儲かるように色々考えてくれたけど日本では貧乏なのか~」
「かなりのね。だから異世界のものでなんとか稼げないかなと思ってるんだけど」
「そっか~じゃあ盗賊ギルドのお礼もあるし、一緒に考えてあげるよ」
ミリィが考えてくれてもなあ。
でもよく考えたら僕が異世界のことは考えられたように、違う世界の人間のほうが良いアイディアを思いつくかもしれない。
「うーん。そうだ。マジックアイテムを日本で売ったら? ファイアーロッドとか薪に火をつける時便利だよ」
「ダメダメ。日本では魔法とか無いから大騒ぎになるよ。ってか火事になって損害賠償を請求されそう。そもそも暖を取る時も炊事でも薪なんか使わんし」
「そういえば……コタツとかエアコンとかコンロとかあるね。そうだ! モンスター肉を売ったら良いんじゃないの?」
「いや~日本では肉とかの販売には許可がいるんじゃないかなあ。でもイノシシとかなら大丈夫かな。ジビエとか流行っているし。いやいやなんかの間違いでDNAとか調べられたら言い訳できないぞ」
「そっかー。ヘラクレイオンの市場ではモンスター肉結構売ってるんだけどね」
「せめてイノシシとかにしてよ。でも食費は浮きそうだなあ。売れはしないけど異世界のものを食うか!」
「うんうん。俺、買ってきてあげるよ」
食費はかなり浮きそうだぞ。
しかし、お金を増やすためのアイディアでないと根本的な解決にならない。
「これからも異世界のちょっとした支援に日本のものを使ったりするだろうしなあ」
「俺の世界でも日本でも価値があるものってないの?」
「うーん。それほど価値があるものは金ぐらいしかないんだよね。もちろん服、いや革製品なんかはネットで少しなら売っても大丈夫だと思うけど」
そんなにお金になるようには思えない。
「食べ物もダメなんだよね」
「衛生がうるさいしね」
「剣とか武器は?」
「それ一番ダメ」
「じゃあ私がトオルみたいに飲食店で働いてトオルにお金をあげたら? 盗賊ギルドを儲けさせてくれてるんだから私も働くよ」
「いや~それも不法労働とかで多分ダメなんだよねえ。日本はうるさいんだよ。というかそもそも猫耳ついてる女の子は働けないんだよ」
「にゃっ! 差別! なんで猫耳がいけないんだにゃ!」
ミリィが帽子を取って怒る。
「ママ~あのお姉ちゃん猫の耳が生えてるよ~」
「コスプレかしら。よく出来てるわね」
僕は慌ててミリィの頭の上に帽子を置く。
「いやいや。だからそういうんじゃなくて日本には猫型獣人とか居ないんだって」
「あ、そうだった。ごめん」
ちょうどその時、野良猫がいて鳴いた。
「なんか話しかけているみたいな鳴き方だったな」
僕にはこちらを見て話しかけてきたように見えたのだ。
「そうだよ」
「え?」
「私に話しかけてきたんだよ。可愛い耳だね~って言ってくれたよ」
「そ、そうなの? 猫の言葉がわかるの?」
「うーん。言葉って言うよりは気持ちかな。動物は一方的に言いたいことを言ってくるだけだから会話ができるって訳じゃないし」
なるほど。テレパシーの様なものなのだろうか。
確かに異世界にはテレパシー言語も存在している。
「ん? 猫だけじゃなくて動物全般に出来るの?」
「ん~全部じゃないけど大体……できるかな。ある程度、頭の良い動物なら多分」
ひょっとしてこれを使って儲けることが出来るんじゃないか?




