表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴルムの世界  作者: 寿和丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

5.野外生活

「あの野郎、逃げやがった」イワンは相当頭に来ていた。

「まあ、相手はロボットだ。怒っても相手にされない。」船長はそれを鎮めるように言う。

船長の対応が素早く、イワンもすぐに静まる、そして、船は速度を落とし、一つの大陸に向かうのが分かる。

「皆、席に戻れ。着陸時に衝撃がくるかも分からない。」そう言って、全員を着席させる。間もなく、わずかな衝撃を伴って、船は着地した。


船内の一行を、船長が操縦席周辺に集める。

「この事態、到底信じられないことばかりで、何をしてよいか皆、考えもできないと思う。ただ、我々はいつまでもショックで立ち止まっているわけにはいかない。

まず、皆で協力をしあおう。各自、自分の持ち物を確認してくれ。破損したり紛失したものがないか。座席の周辺にも注意してくれ。」船長が簡単な指示を皆に与えたのは、何か行動させることでショックを解除するのが目的だった。

船長は月への船を預かっていた立場から、この危急のときに皆を率いていかなければならないと、使命を感じていた。ごく自然の行動だ。

一通りの皆で周囲を確認し合った後、船長が一行を集め、説明をする。

「ロブの言う通りならここの重力は地球の91%、我々の体は1割ほど軽くなったことになる。精密な測定は新たに調べるとして、外の空気を検査してみたが、地球の大気成分と全く変わらないことが分かった。外の景色も温帯の森林地帯で、我々の見慣れた風景が広がっている。一応だが外は安全だと考えられる。

これから、外に出て周りを探索する。ただし船から10m以内で、最低二人で行動すること。船の損傷や倉庫の点検をしてくれ。我々は技術集団だ。各自が専門の知識や経験を持っている。1時間後にまた集まり、情報を確認、共有する。」


再度、船会議が始まる。議長は年長者と言うこともあってビルが務めることになった。

「まずリーダーを決めるのが先決だと思う。」ビルが切り出す。

「本当は選挙で決めるべきだと思うが、この船の責任者は船長だし、すでにリーダーとして実力を発揮している。そこで私からの提案だが、リーダーに船長のルイ・アームストロング氏を推したい」誰もこの提案に反対はなかった。

「船長、リーダーとして皆に今後の方針を言ってくれないか。」

「分かった。まず、我々の現状を再確認する。私から簡単な報告をする。この船の駆動機関は正常だ。しかしこの船のエンジンではこの星の重力に逆らって上昇できる力をもっていない。ここから船を使って脱出することはできないと考えてくれ。エネルギーで持ってひと月。その後は電池のない生活をするしかないと考えてくれ。幸いにも運搬車が2台あり、月面仕様だが走行に問題はないだろう。ただしエンジンは補充がきかない。よくもっても500キロを走行する能力しかないし、乗員は5人がやっとこだ。つまり我々は当分この地から離れることはできないということだ。」

ここまで船は、ヴルムの道の力で運ばれてきたが、自力走行ができないことが改めて確認される。

「問題なのは車内電池の充電量では今の使い方のままで約2カ月しか持たない。食料は月への補給するため大量に積み込んでいたので、ここの人員なら6カ月分はある。水も同様だ。ただ、ここで生き抜くためには食料や水がこの地で得られるか早急に調べないといけないだろう。私の船に関するものはこんな所だ。では、他に各自の持ち物や倉庫の備品に損傷があったら言ってくれ。」

「居住スペースをどうしますか?今は車内の座席で睡眠を摂れますが、長期間暮らすのは無理です。」

「ヒロだったな?居住スペースについて何かアイデアがあるのか?」

「周囲の森に建材に使えそうな木があります。チェーンソーなども工具もあり、ログハウスなら作ることは出来ます。」

「小屋づくりに経験があるのか?あるのなら、やって欲しい。ログハウスが完成するまでは車内の座席で暮らす。他に提案はないか?」

「食糧の事ですが、病原菌の有無の確認が何より大事だと思います。残念ながら顕微鏡などがないので、詳しくは調べられませんが、簡易的な試験はできると思います。」

「サラか、衛生士の資格を持っていたな。専門分野を生かして、ここの生物を調べてくれ。」

その他にも生活に基づいた提案が続く。

「ここを抜け出すことはほぼ出来ない。我々はここで生活するしかない。皆、各自の能力を使って生き抜く術を持ち寄ってもらいたい。何より協力することが大事だ。対立や争いは何の役にも立たない。これからここでしなければならないことを話し合おう。」船長は締めくくるように言った。


その後、船長は主な者を集め4人で会議を開いた。メンバーは船長、月面基地司令官のヨーコ、月面開発発案者ビル、基地保安担当のヘンリーで、挨拶もなく早速切り出す。

「ヨーコ、あなたはロブがロボットであるとすぐに見破ったし、最初からロブに不信感を持っていたようだ。この世界に何が問題であるか最初に確認しておきたい。まずそのあたりの見解を聞かせてください」

「ロブはこの世界のことを丁寧に説明してくれたわ。こちらから質問しなくてもこの世界の成り立ち、歴史まで話してくれた。でもヴルム人についてはどういう者なのか尋ねても全く話さなかったし、今どこにいるかも言わなかった。どうして地球とヴルムにワープ空間を作ったのか、さらに私たちを何故ここに連れてきた理由もほとんど説明になってない。あれほどの科学技術があれば、我々の船が間違ってワープの軌道に入ったとしても、彼らの驚くべき科学ならなんなく避けられたでしょう。衝突を避けなかったことの方が不自然です。だったら、何らかの意図があったとしか思えない。」

「なるほどそうですね。他に何かあります?」

「この地は地球の世界そっくりですが、どうして地球に似せて拵えたのかも言わなかった。なんでわざわざ地球に似せて造る必要があるのです。彼らの技術ならもっと素晴らしい世界を私たちに見せてもよかったはず。ロブの説明は多弁でしたが、肝心なことは隠していたと思います」

「今のあなたの説明を聞いて、抱いていた不信感の原因が分かった。ロブには指摘されたようにいくつもの疑念がある。ロブを迂闊に信じてはならない。他に疑念はありますか?」船長はビルとヘンリーに顔を向ける。

「私からも一言言わせてもらうと、ロブの話で、ヴルム人がここでどのように暮らしているかも話になかった。ヴルム人はとんでもない文明を築いているはずだ。ここに来るまで、何一つ彼らの文明を示す物がなかった。巨大な橋、建物、優れたインフラ何一つ見られなかった。高速で船が動いていたとはいえ、あまりにおかし過ぎる。」ビルが口を挟む。

「それについてだが、船長、ここに来るまでの船外モニターの映像記録が残っているはずだ。その中にヴルム人の文明を示す物が残ってないか確認する必要がある。後で映像を確認したい。」そう言ったのはヘンリー。保安担当として、映像を確認したかったようだ。

「確かにヴルム人がどのような人たちなのか確認しなくてはいけません。私もチェックしてない。後で、皆とチェックしましょう。ともかく、この世界のことは分からないことだらけだ。1個ずつ確認していきましょう。」

船長が4人だけで話をもったのは、全員で話すと不安だけを広げかねないと判断したからでもある。


翌日船長は行動のスケジュールを決める。

「食料確保の次に、生活環境を整えなければならない。当分は船内で居住するにしてもいつまでもいられはしない。船の近くに小屋程度のものを作らなければならない。さらに炊事場、トイレなどすぐに必要となる。」

マルコスがアマゾンの奥地で野外研修をしたことがあり、丸太小屋も作ったことがある。彼を中心にして作業を進めることになった。

「以上の段取りで行う。我々は皆、知識や経験の豊富な技術専門家だ。その点は信頼しているが次のことは守ってもらいたい。

3人以上で行動し、絶対に一人になるな。遠くて離れても船の見える範囲までとする。森や水辺に入るときは細心の注意を払うようにしてくれ。安全が確認されるまで外の水や植物は口にするな。以上だ」

船長は次々と指示を出していく。体を動かすことで一行の中に、異郷で不安を募らせる者を少なくすると判っていた。


翌日の夕暮れになって、焚き火の周りに集まった。

「ひとまず、ここの周囲を探ってもらったが、草原と森が混在する所のようだ。この場所について皆の知識を共有したい。まずジョーここの地形について報告してくれ。」

「船が降下したときの陸地の特徴から、ここは北アメリカ大陸の東海岸、カナダとアメリカの国境近くに着陸したと思われる。しかし、極地を変形したせいか、地形が相当ゆがんでいて我々が覚えているものではありません。特に北西の山脈は高く険ししいものとなっており、地球の地図をそのまま鵜呑みにできないでしょう。1キロほど北に小川が流れていて、そこから水を引くのは難しいことではないと考えられます。」

「次にヘンリーから報告してもらおう。」

「船外モニターの記録から分かったが、船は海岸から20キロ内部に入った所に着地している。海に出るには丸1日を要すると覚悟してくれ。それから全てのモニターを確認したのではないが、ヴルム人の文明を示す物は見つからなかった。つまりヴルム人がどこにいるのか分からないと言おう事だ。」

この話に皆が考えに沈み込む。それを打ち消すように船長が言った。

「次にキャサリンから聞こう」キャサリンは生物が専門で、月面で植物生育の研究を目的にしていた。

「近くの池の水を調べましたが、ミネラルや養分が少ないのが特徴ですが、別にこの点では問題はありません。ですが、顕微鏡で活発に動く細菌を確認しました。地球では見られない種類のものでです。細菌の素性が分らないうちは、生水を口にしないで下さい。それと池や川では泳がないこと、裸足でも入らないで下さい。これから、大腸菌検査で川の水の試験を見ます。正常に繁殖がするのが確認できれば飲み水にして大丈夫と思います。

それから、生えている草を調べたが、人体に害毒を与える可能性があるものは見当たりません。ですがここの植物を口にするのも、試験を見てからにして下さい。それと、もっと重大なことですが、ここの生物は地球由来のものと考えられます。DNA検査しないと絶対とは言えませんが、ここの生物はこの地で発生したものでなく、地球から連れて来られたものと考えられます」

「それは、確かなことですね。」ヨーコが念を押す。

「ええ、これだけ地球のものに似通った植物が宇宙の他の天体に生まれるはずがありません。私たちが連れてこられたように植物たちも同じ運命です。」

「マリア、動物はどうだった。」マリアは動物代謝の専門家だが、ここでは動物の調査を担当した。

「キャサリンと全く同じ見解です。捕まえた昆虫を調べて、地球のものと同じだと分かりました。猿や鹿も見かけましたが地球上のものと変わりないです。いつ連れてこられたかは推測ですが、これだけ植物や昆虫が存在していることから、100年以内ということはあり得ませんね」

「ええ、そうです。森がここまでに成長するのは100年はかかります」キャサリンも追加の説明をする。

「そうすると、ロブの言った1万年前にここを地球に似せて作ったという話を信じるなら、その時に動植物も持ち込んだことになる。ヨーコどう思いますか?」

「ヴルム人がどんな目的でこの世界を作ったのか大きな謎ですね。それと地球から動物を連れてきたなら、人類を連れて来た可能性があります。大型動物も危険ですし、ここの原住民の存在も考えないといけないです」

「確かに、先住民がいてもおかしくありませんね。人は未知の者に対して、多くは敵対的になるものだ。ここには武器になるようなものは持ち込んでない。これから周囲に対してより慎重な行動をとってくれ。

ドクター他に健康に注意すべきものありますか。」

「いや、特にありません。ただここでは未知の病原菌があると考えられます。虫に刺されたり、擦り傷でも注意が必要だ。当分些細な傷でも私に報告してください」ドクターのイルタ・シキムはインド系で、物腰が随分柔和なタイプだった。


1か月は船の周囲を整える作業で瞬く間に過ぎた。最初にとりかかったのが居住するための小屋だった。月面基地での作業のため訓練を受けてきた集団で、協調性のある性格の持ち主を選んでいるが、船の中だけで生活するには限度がある。プライバシーのない船内でいつまでも男女を一緒の空間に身を置くことは、女性にとり耐えられなくなると考えられた。

ここでは精密な加工ツールよりも、単純な道具が必要だった。それでも技術屋たちは使うことのなくなった座席シートを取り外すなどして道具になりそうなものをなんでもかき集めた。100人を超すいろんな分野の専門家がいると様々な工夫の知恵が生まれるものだ。鋼材を利用して斧やナイフをこしらえ、さらに焼きを入れて刃までできるようににした。

「旋盤やボール盤とまでは言わないが、せめてグラインダーでもあれば、もう少しましなものを作れるのだが」と愚痴を言いつつ、それなりの機能を持った道具を作り出していた。

 装置の金属カバーを外し、やすりで目立てをしてのこぎりまで作った。これで、原木から丸太の製材が行えるようになった。小屋づくりの指揮はマルコスが執った。彼はいろいろなとこで小屋を作り寝泊まりしていて、ここでもその経験を発揮した。

「もっと右に寄せてくれ」マルコスが、細かい指示を与えていた。「土台がしっかりしてないと家はすぐ傾くぞ。」機械専門だったが上手く原木の特徴をいかして小屋を造りあげていた。

「マルコスは機械屋ではなくて本当は大工なんだろう」仲間が冷やかすほどろくな道具もないのに小屋を組み上げる手際なかなかのものだった。


まず小屋が数棟完成する。女性の比率は3割でまとまって暮らすようになった。窓やドアは窓ガラス、兆番など部品がなくて不完全ではあるが、やはりあったがどうにか雨風を防ぐ女性たちにとってプライバシーが守られるのは嬉しいことだった。船の周りには炊事場、シャワー室、トイレなど生活に必要なものは少しずつ整えていった。

小川から水を引く作業はイワンが当たった。彼は作業に打ち込むことで、家族と永遠に分かれた悲しみを忘れたいようで、測量から土木作業までなんでもこなせる。取り入れ口と船までの高低差を巧みに利用して、距離1.1キロ幅50センチの水路を作り上げた。浄水のことについては専門家はいなかったが、それでも砂利や砂で濾過する方法を思いつき、飲料水が確保できる目途がつく。

「こんな簡単な方法で水がきれいになるのは意外だった」それが作業に当たった者の感想だった。

「イワン、これで完成なのか」

「いや、たぶん、沈殿池を作っておかないとすぐ、砂地が目詰まりするだろう。取り入れ口の近くにも調整池を用意しとかないと、大雨が降れば水路が持たなくなる」

「まだまだ、やることはあるな」

「そういことさ」地球人は新しい環境に少しずつ慣れていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ