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12/16

魔人襲来

━━━あの日から、一週間が過ぎた。


「体長はどう?痛いところはない?」


「だいぶマシになったよ。そろそろ回復魔法をかけてくれても大丈夫そうだが……」


「ダメよ。まだ、貴方の身体が耐えられないわ」


サナリーはいつも通りの口調で答えたが、その声音にはどこか張り詰めたものがあった。


笑おうとしているのもわかるが、その笑みは仮面のように、どこか冷たく、脆かった。


俺は自爆して以来、ずっとベッドに縛り付けられるような生活が続いている。


絶対安静だと何度も言い聞かせられている。


「それより、何かしてほしいことはありませんかぁ?」


ミリーが明るい声を上げて、俺の枕に頬杖をついて微笑んできた。


その表情もまた、完璧すぎるほどだった。


「いや、大丈夫だ。いつもありがとな、ミリー」


「いえいえ、私は後輩ですから、当然です」


言葉の軽さとは裏腹に、ミリーの瞳には深く差し込んだ翳りがある。


気づかれないように必死で取り繕っているのが分かって、少しだけ視線を逸らしてしまった。


すると、アレスティが部屋の壁にもたれたまま、頬をわずかに染めて小さく口を開いた。


「トイレに行きたくなったら……その、私に言えばいい……」


「「変態」」


間髪入れずに、サナリーとミリーが揃って呆れ顔で乾いたような声とともにジト目で告げた。


「なぜ、そうなるんだ!?私はただ、遠慮せずに頼ってほしいという意味で……!」


「それでも最初に出てくるのがそれってどうなのよ……」


「アレスティ先輩って本物の女騎士ですよね。本物の」


「~~~ッ!ミリレーラ!表に出ろ!今日と言う今日は、貴様に騎士とは何なのかを叩き込んでやる!」


「ははは、お前ら仲良くしろよぉ」


昔のようなやり取り。


いつも通りで懐かしいのに、笑い声はどこか空虚な響きが混じっていた。


あの頃のように、と、過去に縛れているようで、張り裂けそうになるほどに胸を締め付けた。


カン……カン……


外から昼を告げる鐘の音が聞こえてきた。


「……昼か。買出しに行ってくる……」


アレスティがため息をつきながら、そう告げた。


「了解で~す!私は先輩の子守してます」


「私も、マイスの傍にいるわ……」


アレスティに任せて二人は残るらしい。


けれど、


「いや、お前らも行ってこい」


俺は何でもないように、努めて普通に告げた。


「たまには空気を入れ替えてこいよ。こんな場所にずっといたら、気が滅入るだろ?」


「そんなことは……」


サナリーが躊躇うように言いかけた、その曖昧な返事が、返って、肯定のように聞こえた。


「それにさ、俺も少しは動けるようになったしさ。ほら」


ベッドの縁に手をつき、立ち上がる。


焼け爛れた皮膚を引きずり、鈍い痛みが走る。


それでも、何気ない素振りでアレスティに目を向けると、頷いた。


「二人とも、マイスの言う通りだ」


「で、でも、もし何かあったら……!」


「ミリレーラ」


アレスティの低く、静かな声にミリーがしぶしぶ口を閉じる。


わずかに唇を噛んで、名残惜しそうに立ち上がった。


「……二時間ほどで戻る」


「おう、ゆっくりしてこいよ」


「何かあったら、ちゃんと叫んで。いい?」


「俺は子供か!」


サナリーたちが扉の向こうに消えていく。


最後まで、振り返るたびに心配そうに振り返るその姿に、俺はそっと目を伏せた。


そして、静寂が戻った部屋で、俺は重力に身を任せるようにベッドに倒れ込み、微睡みに身を預けた。


誰もいない孤独。


今は、それが何よりも安心できた。



「ふぁああ」


欠伸を一つ。目を覚ますと、既に三時間ほどが経っていた。


部屋は静まり返り、まるで時間が止まったかのようだった。


サナリーたちはまだ戻ってきていない。


ずっと、ここにいればストレスも溜まるから、解消がてら、外出を楽しんでいるのだろう。


ベッドの上、俺は天井を仰ぐ。


「……まったく、サナリーも、ずいぶんと嘘付きになったもんだ」


回復魔法がまだ使えない?


そんなわけがあるか。


確かに、サナリーの回復魔法には毒が混じっている。


それゆえに、そのささやかな刺激に耐えられない身体ではサナリーの回復魔法は害をもたらすが、今の俺は立ち上がるくらいはできる。


そこから導き出される答えは━━━


「俺を治したくないんだ……」


そのことに気付いた瞬間、胸の奥に鈍く重い何かが落ちた。


あいつらの眼差しを憐れみだと思った。


俺はかつての人類の希望、【勇者】などではない。


名もない抜け殻。燃え尽きた骸。


だから、証明しようと思った。


昔以上の強さを見せて安心させようと。


不死の肉体に、自爆という武器。


考えうる限り最強で最凶の組み合わせ。


破壊という一点においては最も合理的で恐るべき力。


誰にも真似できない俺だけのオリジナルティ。


だけど、それは違った。


あいつらが求めていたのは、「強さ」なんかじゃなかった。


もし本当に俺に強さを求めていたのなら、回復を引き延ばす理由がない。


苦しむ姿を見せ続ける理由もない。


さっさと俺を戦場に引き戻して、今度はレティシンティア王国側の【自爆人形】として活躍するべきなんだ。


じゃあ一体何なんだ?


髪の色?


「黒の方が似合ってるのに~♪」


そんな冗談で済むような話なら、どれだけ救われただろう。


かつてのように、俺は振舞っているつもりだ。


ただ、そこに色がない。感情がない。心が付いてこない。


同じ景色をみていても、かつての俺と今の俺では同じ感想を抱けない。


魔法への感謝こそあれ、興味がない。


剣への憧れはあっても、そこにあるのは退屈だけ。


そして、仲間たちも━━━笑っているようで、笑っていない。


”形”だけは昔と同じだ。


けれど、”何か”が致命的に足りていない。


「俺は一体、何を忘れた。何を置いてきた。何を取り戻せば━━━」





「魔人だあああああ!」





突然、怒号のような悲鳴が【炎の里】を貫いた。


瞬間、空間が軋む。


空そのものが悲鳴を上げたような、異様な圧が襲い掛かってきた。


「……ったく、タイミングが悪いな」


思わず、零れた言葉に感情はなかった。


驚きもしなければ、慌てるわけでもない。


何の感情も伴わぬまま、幽霊のように、ただ窓際へと歩いていった。


開け放った窓の向こうから、焦げた木の匂いと、遠くの悲鳴が風に乗って流れ込んでくる。


商人も、母親も、子供も、冒険者でさえ何も関係なかった。誰もが、命という同じ一点に縋りつきながら、走っているのが遠目に見える。


一斉に悲鳴を上げ、泣き、ぶつかり合い、逃げ惑っていた。


【封樹海】の方向に視線を向ければ、曇天を赤く染め上げていた。


燃えるはずのない【封樹海】が一直線に燃えていた。


それを割って進む黒い一団。異形の影が炎と煙の奥から、まっすぐにこの里へと迫ってくる。


その足取りは、ゆっくりと、しかし確実だった。


まるで、滅びそのものが歩いているようだった。


その主は間違いなく━━━【灰燼】ガブリエルだ。


「……何も感じないな」


こんな時だっていうのに、俺の心は凪いでいた。いや、冷めていた。


心は波一つ立てず、ただ、音だけが耳の奥で反響している。


逃げ惑う人々を見ても、何を怖がっているのか分からない。


どうせ、死ぬだけだろ?


俺にはそれすら許されないのだから、少しだけ羨ましく感じた。


焼かれても、裂かれても、潰されても、死ぬことはできなかった。


痛みと絶望だけが蓄積し、終わりだけが遠ざかっていく。


「俺は、何のためにこの人たちを守ってたんだ?━━━何のために【勇者】を演じてたんだ?」


恐怖と絶望の炉の中で、俺はただ、凪いでいた。


それらすべてがモノクロの記憶だ。


ただ、風のように。


ただ、灰のように。


俺は━━━



時は魔人侵攻の少し前にまで遡る。


私たちはギルドで依頼を受けて、【封樹海】とは反対方向にある辺境地帯で魔獣退治をしていた。当初の目的は買い物だけのつもりだったが、せっかく外に出たのだからと、少しでも資金を稼いでおこうという話になったのだ。


いずれ、この地を離れなければならない。


魔人の侵攻は着実に迫っているし、里が戦火に包まれた時、すぐに脱出できるように準備しておかなければならない。


「終わったぞ、サナリー」


「こっちもで~す!」


アレスティとミリーがそれぞれ処理を終えた素材を袋に抱えて戻ってきた。私は、軽く頷くと、肩の力を抜いた。


「お疲れ様。それじゃあ、ギルドへ報告に行きましょう」


三人で歩く帰り道。けれど、その道中で交わされる言葉は一つもなかった。


風の音と靴音だけが無言の時間を埋めていた。


ふと、ミリーが立ち止まった。


「私たち、これでいいんですかね……」


そのか細い声に、私とアレスティは自然と足を止め、振り返る。俯いたままのミリーの顔は見えなかった。


「……信じるって決めたでしょ?時が解決してくれるのを、祈りましょう……」


マイスは戻ってくる。元の彼に戻る日がきっと来る。私は自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


けれど━━━


「やっぱり、『ゆうしゃ』のことを━━━」


「黙れ」


私の言葉に殺気が宿る。


鋭く、容赦のない刃のように。


沈黙を貫くアレスティも私と同様の感情をミリーに向けた。


仲間に向けるものではない感情でありながら、心の底から湧き上がる苛烈な感情が、どうしても抑え込めなかった。


「……それ以上、喋るなら、それ相応の覚悟を決めて頂戴」


私たちの中に渦巻く殺意と沈黙を破ったのは、それでも怯まぬミリーの言葉だった。


「━━━自爆を躊躇わない人間が、こんなおままごとで……本気で、元に戻るって思ってるんですか……?」


「……ッ」


心臓を針で貫かれたような感覚が走る。


「私たちは一体何をしてるんです?これって……ただの現実逃避で、自己満足じゃないですか……」


━━━痛かった。


あまりにも真っすぐな言葉は、私たちが避けてきた現実を容赦なく抉ってくる。


ミリーはかつて、どこか頼りなかった。


けれど、この一年で誰よりも成長したのかもしれない。


「……真実を告げれば、マイスは元に戻るかもしれないわ」


「だったら……ッ!」


「でも、マイスの心をさらに追い詰めることになるわよ?」


私はミリーの言葉を遮り、静かに断固たる口調で断言した。


「責任は、私がッ……!」


「取れるわけがないじゃないじゃない……ここにいる誰も……それはミリーも分かってるでしょう……?」


「……ッ」


ミリーはそれ以上何も言えなかった。


いや、言わなかった。


━━━私は卑怯者だ。


自分の弱さを押し殺すこともできず、後輩に八つ当たりすることしかできなかった。


本当は怖いだけだ。


真実を口にすれば、マイスの眼が、私たちを見る眼が変わってしまうのが。


「……ん?」


その時、アレスティが眉をひそめ、周囲に耳を澄ませた。


「街道が、騒がしいな」


私たちは反射的にローブを整え、様子を伺う。すると、山道を走ってくる里の人々の姿が目に入った。誰もが、顔を真っ青にして、荷物を引きずるようにして逃げている。


「魔人が攻めてきたぞ!」


叫び声が響いた瞬間、私たちは弾かれたように駆け出した。


魔法で身体強化の魔法を全身に纏わせ、私たちは全力で山道を駆ける。


途中でローブが剥がれ落ちたが、そんなことに構っていられない。


息も切らせず、十分足らずで、家へと戻り、二階へと駆け上がる。


勢いのままにドアを開け放つとそこに━━━マイスの姿はなかった。


「……ッ!私は、下を見るッ!」


「で、では私は外を……ッ!」


「待って!」


慌てて外に飛び出そうとする二人を、私は制止した。


ベッドの上にぽつんと置かれていた、一枚の紙きれ。


私はそれを手に取り、記された文字を読む。


『俺がなんとかする。信じてくれ』


「あの……馬鹿ッ!」


私たちは窓から飛び出して、マイスのいるであろう【封樹海】へと走り出した。



「さ、流石です。ガブリエル様……まさか、この厄介な【封樹海】を焼いてしまわれるなんて……!」


燃え上がる森を前に、側近のグリモア思わず息を呑んだ。


魔法が通じぬはずの古の巨木群が、見るも無残に崩れ去り一直線に炎の道ができる。


一切の技巧も回り道もしない。


ただ、圧倒的な魔力で焼いていく。


それだけだった。


「━━━」


すると、大地を揺るがす業火が一瞬、止まる。


休憩かと思ったグリモアがすかさず近付くと、ガブリエルは動かず、ただ一点をじっと見つめていた。


その視線の先に釣られるようにグリモアも向ける。そこには━━━


「はぁはぁ……くっそ痛ぇ……無理にでも、サナリーに回復してもらうべきだったな……ッ!」


白髪の青年が炭煙の向こうからよろめきながら姿を現した。


全身、古傷だらけで傷のない部分を探す方が難しい。


そして、魔人の軍勢を見つけると、無理やりに笑顔を浮かべた。




「よぉ、久しぶり。元気だったか?」





あまりにも場違いな、その言葉。


あまりにも静か過ぎる、その声音。


その瞬間、周囲の空気が歪んだ。


「【自爆人形】……?」


グリモアが低く唸ると、ガブリエルが嘲笑を浮かべた。


「……ふ、わざわざ自分から捕まりに来るとはな。よほど独房の居心地が気に入ったと見える」


その口調は軽蔑に満ちていた。


「……何の用だ。そんな小汚い装備で、まさか我らと戦う、と言うつもりではあるまいな?」


「ん、そのまさかだ━━━お前らを止めに来た」


すると、魔人の間で爆笑が起こる。


「流石勇者様(笑)だ!」

「魔法もないのにどうやって俺たちと戦うんだぁ?」

「最高だ!」


魔人たちの嗤いは、冷たく、醜悪で、どこまでも愚弄に満ちていた。


だが、俺はそれにも動じなかった。そして、虚空に向かって、独り言のようにポツリと漏らした。





「……目が覚めてから何もかもがちぐはぐなんだよ」


「ああ?」


「何をしても、されても何も感じねぇ。お前らからのプレゼントで俺は壊れちまったらしい……」


俺の心には恐怖も怒りも恨みもない。


ただ、焼け焦げた灰のように佇んでいた。


「だけどさ、皆が泣くんだよ……俺を見るたびにさ……昔みたいに振舞っているはずなのに、俺の何が変わっちまったんだろうな……」


敵だった魔人の軍勢に縋るように問いかける。


すると、ガブリエルは落胆のため息をついた。


「くだらん……」


鼻で笑って一蹴した。


「貴様はあの時から何一つ変わっていない。身を犠牲にして、仲間を庇い、自らの甘さを捨てきれぬ、救いようのない愚か者だ」


「━━━!」


その言葉に、俺はは目を見開いた。


沈黙。刹那の停止。


そして、感情が━━━爆ぜた。


「やっぱりそうだよな!ははははは!」


喉の奥からとめどなく笑いが込み上げてきた。


変わらない(・・・・・)


敵の言葉であったとしても、今はその言葉が何よりも嬉しかった。



「さて、やるか……」




ゆっくりと腰の剣を抜き、その刃を構える。


【無垢ナル白瞳】(イノセント・ホワイト)━━━


魔人の身体に白いモヤが浮かび上がる。


けれど、己が視るべきは魔人じゃない。自分自身だ。


己の身体に張り巡らせられた白い導火線が浮かび上がる。


「何をする気だ……?」


ガブリエルの言葉に警戒心が含まれる。


だから、俺は獰猛な笑みを浮かべた。


「な~に。お前らに頂いた力だ。しっかり返してやるから、その身で味わってみろよッ!」


胸元に集中する導火の結節点に、刃を深く突き立てた。


「さぁ、くたばれッ!クソ共ォ!」


瞬間、大地が一瞬白く塗りつぶされ、【封樹海】が、爆発に包まれた。


轟音と共に、天を貫く光の柱がそびえ立ち、大気が震え、すべてを吹き飛ばした。







白い渦が空へと巻き上がる。


爆炎ではない。赤でも、黒でもない、真っ白な爆発。


その中心に、確かに【勇者】がいた。


「マイス……!」


「先輩!」


私たちが駆け付けた時、【封樹海】の森の一角は、根こそぎ消し飛んでいた。空間ごと抉り取られたかのような穴の中央に、彼はいた。


立ったまま気絶していたが、その姿は何よりも痛々しかった。皮膚は焼け爛れ、骨が覗き、内臓は露出し、血が大地を濡らしていた。それでもマイスは死ねない。死ぬたびに、生へと無理やり引き戻される地獄。


私たちがその姿に息を呑み、抱き起こそうとしたその時だった。


「チッ、半数ほど持ってかれたか」


煙の帳が静かに晴れ、白い煙が徐々に黒みを帯びてきた。


「……中々、見事な火力だ。それでこそ、我らの【自爆人形】だ……ん?」


低く、地を這うような声。振り向けば、立っていたのは━━━【灰燼】ガブリエル。


その背後には生き残っていた魔人の軍勢が黒い波のように控えていた。


そして、ガブリエルと目が合った。


「貴様らは……やはり、生きていたのか」


「━━━久しぶりね、【灰燼】ガブリエル」


静かにかつての仇敵に視線を向けた。


「ふっ、今日は運がいい。【自爆人形】を取り戻し、レティシンティア王国蹂躙の手筈が整った。そして、【星屑の集い】の全滅に立ち会えるのだからな」


ガブリエルは腰の剣を引き抜き、こちらに向けてきた。


「……貴方には、【白剥の呪縛】(ホワイト・チェーン)がある。私たちに手は出せないはずでしょう?」


「その呪いなら、すでに意味を成さん。魔王様が解除してくださった。もはや、貴様らに配慮する必要は微塵もない……」


魔人たちがじりじりと距離を詰めてくる。戦意と殺意が一斉にこちらへ向けられた。


「……一ついいかしら?」


「命乞いか?」


「……マイスを……どうして、こんな風にする必要があったの?」


マイスは魔人にとって死神も同然だった。家族を殺された者もいるだろう。愛する者を殺された者もいるはずだ。マイスに憎悪を抱くこと自体は否定しない。


━━━それが戦争なのだから。


けれど、


「必要?そんなの余興以外になんだというのだ?心を折り、身体を壊し、魂を弄ぶ。それだけだ」


「━━━」


「そういえば……こいつは【星屑の集い】が全滅したという知らせを聞いてから壊れていったな」


知っている。


拷問日誌(・・・・)】にもそう書いてあったのだから。


「貴様らも愚かなことだ。大人しく死亡したことにして、生き延びればいいものを……」


「━━━」


「マイス=ウォント。貴様が命を賭して守りたかった【星屑の集い】は今から、蹂躙され、辱められ、尊厳すら奪われる。いや、生かして【星屑の集い】全員を【自爆人形】にしてやろうか……」


沈黙を貫くと、何も答えない私たちに興味を失くしたのかガブリエルは嘆息した。


「恐怖で何も言えないか━━━やれ」


魔人たちの殺気が爆発する。そのすべてがこちらに向かって来た。








「━━━ねぇ先輩方……」


ミリーがフードを脱ぎ、顔を上げる。


そこにあったのはかつて見たことないほど、無垢で美しく、だが、決意に満ちた笑顔だった。


「一年……長かったですね~」


その声に呼応するように、自然と口角が上がった。


「ああ、やっとだッ……!」


アレスティはデヴォラーを引き抜くと歓喜に溺れる。


「そうね。壊して壊して壊して殺して殺して殺して━━━やっとたどり着いたわ」


煙が完全に晴れ、曇天の空が顔を出す。青空ではないけれど、暗闇の底から突き抜けた気持ちよさがあった。


あの日のように、私たちは【灰燼】ガブリエルとその軍勢に囲まれている。


私たちは無力だった。怖かった。


マイス一人を犠牲にして、生き延びて、地獄を背負わせた。


その悔恨と罪悪感に何度も心が砕けそうになった。




魔力が高まる。


空気が振動する。


私たちの手の甲に、紋様が浮かび上がる。





━━━ああ、やっと報われる日が来た。















「「「【勇者解放】(デスペーロ)」」」

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