【拷問日誌】
━━━○○○年〇月〇日
レティシンティア王国【勇者】:マイス=ウォントをガブリエル様が捕えたらしい。
━━━○○○年〇月〇日
俺が、勇者の拷問官に任命された。
初対面の印象は普通だった。
こんなのに同胞が何人も殺されてきたのかと、拍子抜けした。
「好きにしろ」と奴は言った。
すべてを諦めたようで、それでいてすべてを悟ったような。
まるで、聖人気取りの笑顔。
そこに恐れはなかった。
絶対に歪ませる。
拷問官としての務めを果たすだけだ。
━━━○○○年〇月〇日
爪を剥がした━━━悲鳴なし。
熱湯を浴びせた━━無言。
鞭で皮膚を裂いた━━━息を殺すだけ。
生意気な瞳は健在だ。
━━━○○○年〇月〇日
今日は趣向を変えて、宴だ。
【勇者】に恨みを持つ魔人どもが集まり、「最初に殺してくれと懇願させた奴が優勝」というゲーム。
道具は自由。手段も問わず。
俺は鞭を選んだ。鋼線入りの、よく裂けるやつを。
骨が鳴る音、肉が捩れる音。
いい音だった。
だが、叫ぶことはなかった。
━━━○○○年〇月〇日
連日連夜、宴は続いた。
嬲られ続ける【勇者】は俺たちの娯楽用の玩具。
だが、面白くない。
あの男、叫ばないのだ。
興覚めだ。
━━━○○○年〇月〇日
ガブリエル様が【勇者】の指を斬り落としてしまった。
欠損すると、回復魔法じゃ戻せないから、困るんだよなぁ……
━━━○○○年〇月〇日
【勇者】が気絶してしまったので、雷魔法で目を覚まさせる。
魚みたいで面白い。
まだ壊れてもらっては困るから、回復魔法で癒してやる。
━━━○○○年〇月〇日
一月経った。
中々強情で、情報を漏らさない。
【勇者】の名前は伊達じゃないらしい
認めたくはないが、こいつは本物の【勇者】だ。
━━━○○○年〇月〇日
【勇者】が吠えた。
「【星屑の集い】が全滅ってどういうことだ!?」
同僚と話しているのが聞こえたらしい。
真実を告げると、膝から崩れ落ちた。
なるほど。
こいつの強さの源はそこにあったのか。
━━━○○○年〇月〇日
今日は、素晴らしい日だった。
ようやく、悲鳴を聞けた。
胸が震える。
報われた瞬間だった。
━━━○○○年〇月〇日
命乞いをするようになった。
当然、無視。
━━━○○○年〇月〇日
再び、ゲームが再燃する。
皆が笑う。【勇者】は泣く。
満足そうで何よりだ。
━━━○○○年〇月〇日
それでも情報を漏らさない……
まだ、何か折ってやらないといけないのか……
━━━○○○年〇月〇日
お偉いさん方も拷問に飽きてしまったらしい
殺してはいけないというルールがどうにも窮屈過ぎる。
もっと残虐なことをやりたいのだろう。
気持ちはわかる
それだけの屈辱を魔人族は受けてきた。
━━━○○○年〇月〇日
あ、あのお方がここに来た!?
俺の膝が自然と震えていた。
「【勇者】を借りる」
その一言を告げて、出ていかれた。
━━━○○○年〇月〇日
【勇者】が返却された。
見た目はあまり変わっていないが、中身は人とは大きくかけ離れているらしい。
その改造の内容を聞いて驚いた。
それじゃあ、人間というよりも、むしろ魔人に━━━まぁどうでもいいか。
【勇者】がどうなろうと配慮する必要はない。
大事なのは、あのお方がこの【勇者】を死なない人形に作り替えたことだ。
試しに致死性の魔法を放ってみた。
半信半疑だったが、マジだった……
死の手前で、無理やり引き戻された。
壊れない。壊れそうで壊れない。
すっげぇ……
一体、どんな魔法を使ったんだ。
━━━○○○年〇月〇日
何をやってもいい!
壊れても死なない!
楽しい、楽しすぎる!
━━━○○○年〇月〇日
面倒な回復魔法もかける必要がなくなったから、俺としては仕事が一つ減った。
あのお方に感謝を。
━━━○○○年〇月〇日
最近、訪問者が増えた。
魔法の試し打ち、ストレス解消、人体実験。
壊れない人形で遊ぼうと連日連夜人が訪れた。
こんなに大盛況な牢屋ってあるのか……?
━━━○○○年〇月〇日
【燃やす】【凍らす】【溺死させる】【刺す】【斬り刻む】【殴る】【剥す】【締める】【蹴る】【痺れさせる】【飲ます】【悪夢】【自殺させる】【潰す】【炙る】【溶かす】【折る】【喰わせる】【侵す】【犯す】
……改めてえげつねぇことしてるな、俺たち。
まぁ、楽しいからいいけどさ。
━━━○○○年〇月〇日
そろそろ心が折れただろう。
喉を回復させて、囁いた。
「情報を出せば、生かしてやる」と。
当然、食いついてくると思った。
……がダメだった。
何なんだ、コイツ。
━━━○○○年〇月〇日
上司に相談した。
「やれることはもうやった」と。
すると、興味深い話が舞い込んだ。
【勇者】を戦場に連れて行くらしい
何でも実験したいことがあるんだとさ。
そして俺に、命令が下った。
【勇者】にかけられている枷の交換。
あのお方の特製の品らしい。
いや、オリハルコン製やん……
━━━○○○年〇月〇日
転移魔法で【勇者】を戦場に連れて来た。
転移魔法は便利だが、一度その場所に赴かなければならない。
間者をレティシンティア王国の中枢に送り込めれば、勝利なのだが、中々ガードが堅い。
あの王女はやはり危険だ
━━━○○○年〇月〇日
転移先は【勇者】の故郷の近くらしい。
それに気付いたのか、【勇者】の瞳に生気が戻り、隙をついて村へ走り出した。
泣きながら、喉を震わせて。
俺はすぐに追いかけようとしたが、上司に肩を抑えられた。
「面白いものが見れるぞ」
だとさ。
身体強化の魔法を使い、視力を上げる。
すると、【勇者】が大勢に囲まれていた。
一番最初に抱き着いたのは家族だろう。抱きしめ合って、震えていた。
クソつまらん。
感動の再会を見て、何が面白いのだろうか。
そう思った瞬間━━━爆発が起きた。
火の粉が舞い、村がまるごと吹き飛んだ。
燃え上がる炎の中で、叫び声が消えていく。
それを見た魔人たちは笑っていた。
「自分の故郷を滅ぼしてやがる!」
「ははは、感動の再会が台無しだぁ!」
俺は何が起こったのか分からないでいると、上司が教えてくれた。
あのお方は【勇者】を不死の存在に改造した時に、魔術回路に手を付けた。
詳しい理論はよくわからなかったが、魔術回路は【勇者】が爆発するための”導火線”に変えられたようだ。
再会の温もりが、滅びの起爆剤。
なんて……なんてッ!素晴らしいんだ!
俺は、一生、あのお方について行こうと決めた。
俺は故郷を前に、火傷だらけになった【勇者】を回収した。
顔が焼け、喉が焼け、それでも確かに震えていた。
激痛が走っているはずなのに、倒れることはない。
そして、ふと俺と目があった。
だから、俺は言ってやった。
「どんまい☆」
━━━○○○年〇月〇日
今日からお前は【自爆人形】だ。
いい名前だろ?
誇れよ。俺たち、魔人のために働けることをさ。
━━━○○○年〇月〇日
【自爆人形】の移送任務に任命された。
拠点から拠点に、【自爆人形】を連れていく。
泣きながら、もうやめてくれと嘆願されるが、こんな面白い……ゲフンゲフン、大事な任務を途中で投げ出せるわけがないだろ?
お前の手で救った人間を殺しに行けるなんて最高じゃないか?
━━━○○○年〇月〇日
魔人という脅威を退けたということで英雄になった【自爆人形】を村に放り込む。
皆が、帰還を喜んだ━━━からの、ドン!
全部、爆発。
俺たちは椅子から転げ落ちるほど笑った。
━━━○○○年〇月〇日
難攻不落の城があった。
もう何度も攻めているのに落ちない。
そこに【自爆人形】を投入するらしい。
数秒後には瓦礫すら残っていなかった。
━━━○○○年〇月〇日
今日は変わり種だ。
【自爆人形】をダムに沈める。
ここはかつて【勇者】が自分の資金を出して、造ったダムなんだってさ。
自分の手で自分の功績を消せるんだぞ?
素晴らしいな!
あ、下流の村は沈んだらしいよ?
━━━○○○年〇月〇日
俺、忙し過ぎるだろ……
週七で働いてる……
イラついたから、【自爆人形】を殴ってストレス解消。
はぁ、癒されるわ。
━━━○○○年〇月〇日
【自爆人形】が人間たちに【焔滅】と呼ばれて恐れられているらしい。
まぁ、こいつを投入してから、確かに侵攻スピードが上がったのは事実。
命を焼き尽くす絶望の象徴として、二つ名がつくのは……百歩譲ってまだ許せる。
ただ、異名が格好良すぎだ。
とりあえず、燃やそう。
━━━○○○年〇月〇日
反応が鈍くなってきた。
殴っても、斬っても、叫ばない。
人間を殺したときに、罪の意識に苛まれることもなくなってきた。
やり過ぎたか……?
━━━○○○年〇月〇日
絶対、怒られる……
━━━○○○年〇月〇日
案の定お叱りを受けたが、許された。
【自爆人形】の情報を吐かせる努力はしろと言われた。
━━━○○○年〇月〇日
【自爆人形】を戦場へ、次々に送り出している。
俺たちの勝利はもう少しだろう。
人類はもう終わりだ。
━━━○○○年〇月〇日
次の戦場は【封樹海】
そこに、四天王ガブリエル様自らが指揮を取って、攻め入るらしい。
それなりに面倒な場所らしいから、【自爆人形】も連れていく。
とはいっても、森を焼き尽くすのではなく、森を攻略した後にある【炎の里】を滅ぼすために投入されるらしい。
━━━○○○年〇月〇日
攻略がうまくいかないらしい。
レティシンティア王国側も、冒険者を集めて、森に配置したらしい。
地の利は完全に向こうにある。
こちらの損耗も洒落にならない。
面倒な……
━━━○○○年〇月〇日
ガブリエル様が出陣なさるらしい。
うわぁ……可哀そう……
これは終焉だ。
━━━○○○年〇月〇日
ガブリエル様自らが動いた今、人類に勝ち目はない。
俺たちはようやくレティシンティア王国の喉元まで差し掛かった。
さぁ、いよいよ俺たち魔人の世がくる!
……って余韻に浸ってるのに、外がうるせぇな!
ああ、そうそう。この任務が終わったら、休暇を貰えることになったんだ。
故郷にいる家族に会いに行こう。
給金はたくさん貰ったからな。たまには親孝行しよう。
それじゃあ、俺たちも&&$%&&'&%$$$%%$$$$&&&'''''(((((%%$##$%%%
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