表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/16

【拷問日誌】

━━━○○○年〇月〇日


レティシンティア王国【勇者】:マイス=ウォントをガブリエル様が捕えたらしい。


━━━○○○年〇月〇日


俺が、勇者の拷問官に任命された。


初対面の印象は普通だった。


こんなのに同胞が何人も殺されてきたのかと、拍子抜けした。


「好きにしろ」と奴は言った。


すべてを諦めたようで、それでいてすべてを悟ったような。


まるで、聖人気取りの笑顔。


そこに恐れはなかった。


絶対に歪ませる。


拷問官としての務めを果たすだけだ。


━━━○○○年〇月〇日


爪を剥がした━━━悲鳴なし。

熱湯を浴びせた━━無言。

鞭で皮膚を裂いた━━━息を殺すだけ。


生意気な瞳は健在だ。


━━━○○○年〇月〇日


今日は趣向を変えて、宴だ。


【勇者】に恨みを持つ魔人どもが集まり、「最初に殺してくれと懇願させた奴が優勝」というゲーム。


道具は自由。手段も問わず。


俺は鞭を選んだ。鋼線入りの、よく裂けるやつを。


骨が鳴る音、肉が捩れる音。


いい音だった。


だが、叫ぶことはなかった。


━━━○○○年〇月〇日


連日連夜、宴は続いた。


嬲られ続ける【勇者】は俺たちの娯楽用の玩具。


だが、面白くない。


あの男、叫ばないのだ。


興覚めだ。


━━━○○○年〇月〇日


ガブリエル様が【勇者】の指を斬り落としてしまった。


欠損すると、回復魔法じゃ戻せないから、困るんだよなぁ……


━━━○○○年〇月〇日


【勇者】が気絶してしまったので、雷魔法で目を覚まさせる。


魚みたいで面白い。


まだ壊れてもらっては困るから、回復魔法で癒してやる。


━━━○○○年〇月〇日


一月経った。


中々強情で、情報を漏らさない。


【勇者】の名前は伊達じゃないらしい


認めたくはないが、こいつは本物の【勇者】だ。


━━━○○○年〇月〇日


【勇者】が吠えた。


「【星屑の集い】が全滅ってどういうことだ!?」


同僚と話しているのが聞こえたらしい。


真実を告げると、膝から崩れ落ちた。


なるほど。


こいつの強さの源はそこにあったのか。


━━━○○○年〇月〇日


今日は、素晴らしい日だった。


ようやく、悲鳴を聞けた。


胸が震える。


報われた瞬間だった。


━━━○○○年〇月〇日


命乞いをするようになった。


当然、無視。


━━━○○○年〇月〇日


再び、ゲームが再燃する。


皆が笑う。【勇者】は泣く。


満足そうで何よりだ。


━━━○○○年〇月〇日


それでも情報を漏らさない……


まだ、何か折ってやらないといけないのか……


━━━○○○年〇月〇日


お偉いさん方も拷問に飽きてしまったらしい


殺してはいけないというルールがどうにも窮屈過ぎる。


もっと残虐なことをやりたいのだろう。


気持ちはわかる


それだけの屈辱を魔人族は受けてきた。


━━━○○○年〇月〇日


あ、あのお方がここに来た!?


俺の膝が自然と震えていた。


「【勇者】を借りる」


その一言を告げて、出ていかれた。


━━━○○○年〇月〇日


【勇者】が返却された。


見た目はあまり変わっていないが、中身は人とは大きくかけ離れているらしい。


その改造の内容を聞いて驚いた。


それじゃあ、人間というよりも、むしろ魔人に━━━まぁどうでもいいか。


【勇者】がどうなろうと配慮する必要はない。


大事なのは、あのお方がこの【勇者】を死なない人形に作り替えたことだ。


試しに致死性の魔法を放ってみた。


半信半疑だったが、マジだった……


死の手前で、無理やり引き戻された。


壊れない。壊れそうで壊れない。


すっげぇ……


一体、どんな魔法を使ったんだ。


━━━○○○年〇月〇日


何をやってもいい!


壊れても死なない!


楽しい、楽しすぎる!


━━━○○○年〇月〇日


面倒な回復魔法もかける必要がなくなったから、俺としては仕事が一つ減った。


あのお方に感謝を。


━━━○○○年〇月〇日


最近、訪問者が増えた。


魔法の試し打ち、ストレス解消、人体実験。


壊れない人形で遊ぼうと連日連夜人が訪れた。


こんなに大盛況な牢屋ってあるのか……?


━━━○○○年〇月〇日


【燃やす】【凍らす】【溺死させる】【刺す】【斬り刻む】【殴る】【剥す】【締める】【蹴る】【痺れさせる】【飲ます】【悪夢】【自殺させる】【潰す】【炙る】【溶かす】【折る】【喰わせる】【侵す】【犯す】



……改めてえげつねぇことしてるな、俺たち。


まぁ、楽しいからいいけどさ。


━━━○○○年〇月〇日


そろそろ心が折れただろう。


喉を回復させて、囁いた。


「情報を出せば、生かしてやる」と。


当然、食いついてくると思った。


……がダメだった。


何なんだ、コイツ。


━━━○○○年〇月〇日


上司に相談した。


「やれることはもうやった」と。


すると、興味深い話が舞い込んだ。


【勇者】を戦場に連れて行くらしい


何でも実験したいことがあるんだとさ。


そして俺に、命令が下った。


【勇者】にかけられている枷の交換。


あのお方の特製の品らしい。


いや、オリハルコン製やん……


━━━○○○年〇月〇日


転移魔法で【勇者】を戦場に連れて来た。


転移魔法は便利だが、一度その場所に赴かなければならない。


間者をレティシンティア王国の中枢に送り込めれば、勝利なのだが、中々ガードが堅い。


あの王女はやはり危険だ


━━━○○○年〇月〇日


転移先は【勇者】の故郷の近くらしい。


それに気付いたのか、【勇者】の瞳に生気が戻り、隙をついて村へ走り出した。


泣きながら、喉を震わせて。


俺はすぐに追いかけようとしたが、上司に肩を抑えられた。


「面白いものが見れるぞ」


だとさ。


身体強化の魔法を使い、視力を上げる。


すると、【勇者】が大勢に囲まれていた。


一番最初に抱き着いたのは家族だろう。抱きしめ合って、震えていた。


クソつまらん。


感動の再会を見て、何が面白いのだろうか。


そう思った瞬間━━━爆発が起きた。


火の粉が舞い、村がまるごと吹き飛んだ。


燃え上がる炎の中で、叫び声が消えていく。


それを見た魔人たちは笑っていた。


「自分の故郷を滅ぼしてやがる!」

「ははは、感動の再会が台無しだぁ!」


俺は何が起こったのか分からないでいると、上司が教えてくれた。


あのお方は【勇者】を不死の存在に改造した時に、魔術回路に手を付けた。


詳しい理論はよくわからなかったが、魔術回路は【勇者】が爆発するための”導火線”に変えられたようだ。


再会の温もりが、滅びの起爆剤。


なんて……なんてッ!素晴らしいんだ!


俺は、一生、あのお方について行こうと決めた。


俺は故郷を前に、火傷だらけになった【勇者】を回収した。


顔が焼け、喉が焼け、それでも確かに震えていた。


激痛が走っているはずなのに、倒れることはない。


そして、ふと俺と目があった。


だから、俺は言ってやった。


「どんまい☆」


━━━○○○年〇月〇日


今日からお前は【自爆人形】だ。


いい名前だろ?


誇れよ。俺たち、魔人のために働けることをさ。


━━━○○○年〇月〇日


【自爆人形】の移送任務に任命された。


拠点から拠点に、【自爆人形】を連れていく。


泣きながら、もうやめてくれと嘆願されるが、こんな面白い……ゲフンゲフン、大事な任務を途中で投げ出せるわけがないだろ?


お前の手で救った人間を殺しに行けるなんて最高じゃないか?


━━━○○○年〇月〇日


魔人という脅威を退けたということで英雄になった【自爆人形】を村に放り込む。


皆が、帰還を喜んだ━━━からの、ドン!


全部、爆発。


俺たちは椅子から転げ落ちるほど笑った。


━━━○○○年〇月〇日


難攻不落の城があった。


もう何度も攻めているのに落ちない。


そこに【自爆人形】を投入するらしい。


数秒後には瓦礫すら残っていなかった。


━━━○○○年〇月〇日


今日は変わり種だ。


【自爆人形】をダムに沈める。


ここはかつて【勇者】が自分の資金を出して、造ったダムなんだってさ。


自分の手で自分の功績を消せるんだぞ?


素晴らしいな!


あ、下流の村は沈んだらしいよ?


━━━○○○年〇月〇日


俺、忙し過ぎるだろ……


週七で働いてる……


イラついたから、【自爆人形】を殴ってストレス解消。


はぁ、癒されるわ。


━━━○○○年〇月〇日


【自爆人形】が人間たちに【焔滅】と呼ばれて恐れられているらしい。


まぁ、こいつを投入してから、確かに侵攻スピードが上がったのは事実。


命を焼き尽くす絶望の象徴として、二つ名がつくのは……百歩譲ってまだ許せる。


ただ、異名が格好良すぎだ。


とりあえず、燃やそう。


━━━○○○年〇月〇日


反応が鈍くなってきた。


殴っても、斬っても、叫ばない。


人間を殺したときに、罪の意識に苛まれることもなくなってきた。


やり過ぎたか……?


━━━○○○年〇月〇日


絶対、怒られる……


━━━○○○年〇月〇日


案の定お叱りを受けたが、許された。


【自爆人形】の情報を吐かせる努力はしろと言われた。


━━━○○○年〇月〇日


【自爆人形】を戦場へ、次々に送り出している。


俺たちの勝利はもう少しだろう。


人類はもう終わりだ。


━━━○○○年〇月〇日


次の戦場は【封樹海】


そこに、四天王ガブリエル様自らが指揮を取って、攻め入るらしい。


それなりに面倒な場所らしいから、【自爆人形】も連れていく。


とはいっても、森を焼き尽くすのではなく、森を攻略した後にある【炎の里】を滅ぼすために投入されるらしい。


━━━○○○年〇月〇日


攻略がうまくいかないらしい。


レティシンティア王国側も、冒険者を集めて、森に配置したらしい。


地の利は完全に向こうにある。


こちらの損耗も洒落にならない。


面倒な……


━━━○○○年〇月〇日


ガブリエル様が出陣なさるらしい。


うわぁ……可哀そう……


これは終焉だ。


━━━○○○年〇月〇日


ガブリエル様自らが動いた今、人類に勝ち目はない。


俺たちはようやくレティシンティア王国の喉元まで差し掛かった。


さぁ、いよいよ俺たち魔人の世がくる!


……って余韻に浸ってるのに、外がうるせぇな!


ああ、そうそう。この任務が終わったら、休暇を貰えることになったんだ。


故郷にいる家族に会いに行こう。


給金はたくさん貰ったからな。たまには親孝行しよう。


それじゃあ、俺たちも&&$%&&'&%$$$%%$$$$&&&'''''(((((%%$##$%%%


━━━


━━


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ