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51 エピローグ



 それから、武装組織の兵士達は無力化されて、王立魔法騎士団に捕縛されることになった。


 ヴィンセントの工作によって、今回の一件はすべて私たちSクラスの生徒たちのお手柄ということになって。


 私たちは武装組織を撃退した子供たちとしていろいろな人に褒められたり、記事が新聞に載ったりした。


「みんなで力を合わせた結果です」

「クラスメイトを助けなきゃって思って」


 弾んだ声でそれっぽいことを答えるクラスメイトたち。


(やれやれ、これだから自分の言葉を持っていないお子様は)


 メディア的にはうれしい対応なのかもしれないけど、カリスマである私としてはやはり、他の人とは違う私だけの言葉で人々を惹きつけないといけない。


 私は脳内でインタビューへの回答を考えた。


 しかし、誰に話を聞かれることもなくインタビューの時間は終わった。


「あの子は一番小さいし、何もしてないだろう」


 そんな声が聞こえた。


(ぐぬぬ……私だってかなり活躍したのに……)


 愚かで見る目がない大人を睨んでいると、クラスの子たちが私の肩をたたいて言った。


「今回俺たちのリーダーとして一番活躍したミーティアです」


 予想外の言葉にびっくりする。


 戸惑う私に、記者たちの視線が注がれる。


「ミーティアって近頃リネージュを立て直したって話題の」

「リュミオール家の天才少女領主」

「すみません、少しだけでもお話を聞かせて下さい」


 私は囲まれてたくさん取材を受けた。


 有名人になったみたいでなかなか気分がよかった。


 何を話したかは覚えてないけれど、私らしいカリスマ感ある感じの受け答えができたんじゃないかと思う。


 インタビューを終えた私を、クラスメイトたちはあたたかく迎えてくれた。


「作戦立ててくれてありがとな、ミーティア」

「今度また、戦い方とか作戦の立て方教えてくれよ」


 なんだか随分評価されている様子。


 他にも話したことが無かったクラスの子たちが入れ替わり立ち替わり声をかけてくれる。


(あれ、私なんだか人気者みたい)


 みんなに褒められたり、感謝されたりしてなかなかにうれしい。


 荒れ狂う承認欲求モンスターを制御するのが大変だったけど、これもありがたい悩みだと前向きに捉えることにしようと思う。


 うれしいことは他にもあった。


 月末のクラス替えでクラリスがSクラスに昇格してきたのだ。


 特別実技試験での活躍と、新しく使えるようになった光魔法の力によってSクラス入りが決まったとのこと。


「あんなすさまじい魔法を子供が使うとは」

「彼女はうちの学校創設以来の天才かもしれない」


 先生たちは目を丸くしていたけど、クラリスはそんなことよりも私とケイトと一緒に過ごせる時間が増えたことを喜んでいるみたいだった。


「私、学校がこんなに楽しいの初めてです……!」


 良い子だ。


 すごく良い子だ。


 本来私とは相容れない主人公ポジションのクラリスだけど、友達の幸せの方が大切なので特別に仲良くしていこうと思う。


「その……悪かったわね」


 カミラに言われたのはそんなある日のことだった。


 勇気を出して私を呼び止めたらしい。


 もう一度ちゃんと謝っておきたかったとのこと。


「私は気にしてないから。それより、クラリスにちゃんと謝って」

「……わかったわ」


 それから少しして、カミラはクラリスに謝っていた。


 いじめっ子をそそのかしてクラリスをひどい目に遭わせたことは今でも許せないけれど、ちゃんと筋を通して謝ろうとしたことは評価してやるか、と思う。


 私を避けていたフェリクスとの距離も、あの一件のあとは元通りの感じに近づいた。


 なんだか様子が変なときがあって、顔が赤くなったり、声が上ずったりしてるけど。


 たたき返すと少しうれしそうだったり、叩いてくるのをためらったりもしてるあたり、あの一件の恐怖が影響して少しおかしくなってるのかもしれない。


 最近は、掃除の時間に私の机を運んでくれたり、私が日直の仕事をしていると必要ないのに手伝ってくれようとしたりする。


「なんで手伝ってくれるの?」


 聞くとフェリクスは顔を真っ赤にして後ずさった。


「べ、別に気が向いただけというか」

「その割には随分手伝ってくれてる感じがするけど」

「誤解するなよ。お前のことなんか全然好きじゃないからな」

「知ってるけど」

「本当に本当に好きじゃないから」

「だから知ってるって」

「…………そうか」


 なんだか、ほっとしたような残念そうなような複雑な顔をしていた。


 ちなみにこれは私だけが知っている秘密なのだけど、そんなフェリクスには近頃好きな人がいるらしい。


 風よけで付き合ってる感じを出している昼休みに、「あんたって好きな人とかいないの?」と聞いた私に、「……いないこともない」と答えたのだ。


『いないこともない』という言葉を、思春期男子的に翻訳すると『めちゃくちゃ好きな人がいる』という意味になる。


「誰が好きなの?」

「お前には絶対に言わない」


 視線を彷徨わせながらそんなことを言う。


 いったい誰のことが好きなのか。


 答えはわからない。


 でも、最も可能性が高い答えらしきものを知ったのは数日後のことだ。 


 噂になっている最有力の人物がSクラスにいたのだ。


 最近、今までよりさらに近い距離感でフェリクスに接している人物――ロイ・エドウィルド。


 どんなときも常に一緒にいようとしているし、その距離感も主従はおろか友達さえ超えて、もはや恋人かと見まがう域。


 王子の学園生活のサポートを頼まれているのに、今回の一件で守り切ることができなかったことが強い後悔として彼の中にあると言っていたが、その献身ぶりは単なる主従の域を超えているように見える。


 あまりの光景に、一部のSクラス女子たちは目をぐるぐると回していた。


「フェリクスもロイくんもかっこいい……ダメ……いけない扉が……」

「禁じられた恋こそ美しいの。ミーティアとの交際はそのためのカモフラージュだったのよ」

「私、男の子は男の子と恋をするべきだと思うんですよね」


 何かとんでもないことが起きている気がしたけれど、理解すると脳の情報処理に重大なエラーが発生してしまいそうだったので、深くは考えないことにする。


 最後に、転校が決まったケイトについて。


 今回の一件でケイトの土魔法も見直され、クラスでの評価もずっと良くなった。


 クラスで浮いているということもなくなって、


 ――それでもケイトの転校を止めることはできなかった。


「既にママが話を進めちゃってるみたいで。お父さんがいない王都ではもう暮らしたくないって言ってるの」


 肩を落としながらそう教えてくれた。


 地元である地方都市に移り住む計画とのこと。


 まだ子供なケイトだから、自分一人で住む場所を決めることはできない。


「最後にたくさん思い出を作ろう」


 そう言って、クラリスと三人で今まで以上にたくさん一緒に過ごしながら、私は何かできることはないだろうかと考えた。


 ケイトのお父さんについての情報を集めてみた。


 自分一人では限界があったので、ヴィンセントに相談した。


「ヴィンセント。この事件について調査をお願いしたいんだけど」

「この事件をですか? 承知しました」


 ヴィンセントは『なぜこの事件を?』と不思議そうだった。


 数日後、調査を終えたヴィンセントは感心した顔で私に言った。


「さすがですね、ミーティア様。あの巧妙な偽装に気づくとは。例の不正は《三百人委員会》の大物に繋がるものでした。必ず全貌を明らかにして見せます」


 私は何を言ってるのかわからなかったけど、


「当然よ。私の目は誰も欺けない」


 とそれっぽい言葉を返しておいた。


 ヴィンセントはさらに感心していた。


「あとはあの王子さえ……王子さえ処理できれば……」

「絶対にダメですからね、ヴィンセント」


 悔しげなヴィンセントに、静かな声で言うシエル。


 迎えた週明けの学園前。


 校門で私を待っていたケイトは、声を弾ませて言った。


「聞いてミーティア! お父さんの罪が無実だって証拠が出てきたんだって!」


 お父さんが帰ってくる可能性が出てきたことによって、転校の話もなくなるとのこと。


「お別れ会の予定はキャンセルね。代わりに、お別れキャンセル会の開催よ」


 いつもの屋上前に三人で集まる。


 先生たちに内緒で作った秘密基地。


 こっそり持ち込んだトランプで遊んだり、妄想小説の設定をみんなで考えたりする。


 窓から夕暮れの橙色が射し込んで、ほのかに赤く私たちを染めている。


 不意にケイトが涙ぐむ。


「友達になってくれてありがとう」


 ふるえる声でそんなことを言う。


 なんだかくすぐったい気持ちになる。


 つられてクラリスも涙ぐんでいる。


『なに恥ずかしいこと言ってんの』


 そんな言葉を違うなと思って飲み込む。


 ケイトとクラリスはまだ十一歳で。


 だから、恥ずかしいことを言うくらいできっとちょうどいい。


 それから、私たちはたくさん恥ずかしいことを言い合う。


『生まれてきてくれてありがとう』とか言ってしまう。


 赤く滲んだ視界。ちらちらと舞う光の欠片。長い影。


 それは思わず言葉が出なくなってしまうくらい素敵な時間で。


 私はどうしようもなく幸せな気持ちになって、笑った。






以上、『華麗なる悪女』二章でした。


個人的に好きなラストシーンなので、皆様にも楽しんでいただけてたらうれしいなと思いつつ。


この章のテーマはノスタルジック。


子供たちの物語は描いていてとても楽しかったです(またやりたい)。


続きを書くかどうかは今のところ未定です。


『ブラまど』の次巻が諸事情により少し先になるので、その間にやりたい新ネタを一本書きたいなって。


秋頃に投稿するかなと思うので、よかったらそちらも楽しんでいただけるとうれしいです。


あたたかい感想、いいねなどの反応にすごく元気をもらっていますし、反応せず読んでくださる方の存在も本当にありがたいです。

(いつも本当に感謝……大感謝……!)


今よりもっと面白い小説が書けるように精進していきますので、よかったら応援していただけるとうれしいです。


見つけてくれて、二章も読んでくれて本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
コミックから来ました。 続き楽しみにしています
楽しく拝見させていただきました!三章も楽しみにしています。
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