95話 友達100人出来るかな? 無理だ!
プロキオンによりスルーズ連邦を含む生存施設が確認された。とはいえ古代魔法文明の技術力は現在の世界から見れば隔絶したものであるが、地球などと比較すれば多少進んでいるといった程度しかない(技術発展の歩みが違うのでマリオネットに代表される人型兵器など一部技術においてはかなり進んでいるが)。
そのため、完全自動化など行われている所は少数で、ほとんどの施設で人が操作しなければならない部分というものがある。特に重整備や修理といったものは人手が必要だった。
そのためプロキオンがいくら宇宙から電子機器を操作しても限界があり、地上のコロッサスにある基地から人員(JC14A1)を送り出し、調査と確認、場合によっては設備類の簡易な復旧などを行っていた。
ちなみに加速空間の発見によって数十年からの時間を手に入れたプロキオンであったが、そもそも彼女 (とシアンたち)は軍属であり技術者やアイデアマンではない。それ以前に軍事基地と戦艦では、本格的な生産/研究設備などあるはずもない。そのため(既存品のコピーなどで)量を増やすことは比較的簡単でも、技術的な発展、進歩は非常に難しかった。
だが、一点だけ技術の転換は起きていた。それは啓太からの聞き取りやスマートフォン等により判明したこの世界に存在しなかった地球技術の解析と導入である。近代文明の要である化石燃料の使用であったり、実弾兵器類、電気エネルギーに関するものなど。
特に運動エネルギー兵器は現状、魔法に比較して防御が非常に難しいという点が確認されたため、基地の兵器群やプロキオン搭載兵器にも一部採用され始めていた。
「46㎝レールガンとか作るの! 機関部に魔法を併用すればイケるの!」
今日も今日とてプロキオンは頑張っていた。
◇◇◇
東雲君達勇者パーティーヘの手紙の返事もまだだ。この世界の郵便の速度がどの程度なのか不明なのでどこで手間取っているのか分らない。こっちも返事が来たらすぐに動けるようにしておかないとな。
そして裏付け(とわずかな希望)のために行っている日本への帰還に関する情報収集だが、こちらも完了した。大きな研究室などに関してはレイリー博士からの情報提供の前後に完了していたのだが、その後は中小研究室から個人研究者にまで対象を広げて情報を集めていた。そして、つい先日だったがコロッサスの全ての研究者から話を聞くことができた。これは個人研究から片手間にやっている人、全てである。
結果として帰還の方法は無い。
研究している人なら数人はいたのだが、最も進んでいるもので紙の上で数字とにらめっこしている状態だ。
この結果を持って、調査を終了。人類側の技術での日本への帰還は不可能という結果となった。(もしかしたら隠れてやっているかもしれないが、そんなものを探すのは不可能に近いし、そもそもそんな秘密研究が国家のバックアップのあるコロッサスよりも優れているという可能性は限りなく低い)
この事実を勇者達に伝えなければならない。
……ヤバい、胃が痛い
◇◇◇
――俺、友達いなくね?
いや、友達というか、(この世界での)気心の知れた同性の知り合いがいないのだ。周囲はシアンさんをはじめ女性ばかり。勿論彼女たちも俺にとって大切な存在であり大変お世話になっているのだが、それはそれ。
現在、同性として一番の知り合いはドットカール博士やベルク伯爵など。だが彼らは年齢や社会的地位から気さくにという感じではない。
もっと馬鹿話で盛り上がれるような友人や知り合いがいてもいいんじゃないかと思うんだ。
とりあえず冒険者ギルドに向かうことにした。同じ仕事をする者同士ということで仲良くなりやすいだろうという短絡的な考えからだが、悪くない気がしている。同業者として付き合いや情報交換は重要だし、受けるクエストによっては臨時のパーティーを組んだりもする。
「あれ、指令、お出かけ?」
家を出る際に巡回中のA2ちゃんとA4ちゃんの2人に出くわした。これから冒険者ギルドに行くと言うとA2ちゃんが付いていくと言った。
いや、一人で大丈夫だと言うが、念のためだと言って譲らない。
いや、察してくれと言いたい。出来れば俺一人で行って知り合いを作りたかったので誰にも言わずに家を出てきたのだ。一人なら類は友を呼ぶというアレで、俺と同じようないい意味で人間臭い奴と話せると思ったのだ。女連れだとそんな奴は寄ってこないから。
「私もいきます。おとーさま。」
「うわっ!」
いきなり横からモリオンに声をかけられた。何時からいたの? 気づかなかったよ。
「あ、今回は俺一人で…………いや、一緒に行こうか!」
やんわり断ろうかと思ったらモリオンにめっちゃ悲しそうな顔された。彼女は腹芸とかそういった計算はできないはずなので多分本気で悲しんでいる。当然、俺は頷くしかなかった。
「じゃあ、私も行くよ」
「いや、だから…………うん、行こうか」
そしてモリオンに次いで一緒に行くと主張するA210ちゃん。
やんわり断ろうかと思ったらA210ちゃんがモリオンと同じようにめっちゃ悲しそうな顔された。君の場合は狙ってるよね?と思わなくもないが、それでもあえて引っかかる。それが俺。自分と身内に甘い男である。
「はあ……、ではそのように報告し来ます。」
そして、A2ちゃんと一緒に巡回していたA4ちゃんは、A2ちゃんが抜けて俺について行くことを報告に行くという。彼女のこの反応……苦労人の匂いがしますね。
まあ、2人ぐらいならいいか? ……いやダメだろう。リア充が爆発する。この場合、俺が爆発する。とはいえ俺ごときではどうしようも無かった。
なお、装備はA2――A210ちゃんはいつものシャツにジャケット、下はスカートにブーツ。武器はハンドガンとアサルトライフルが各1丁+ナイフ。(ちなみに巡回中のA4ちゃんも同じ。)
ただの巡回警備で軍用アサルトライフルを持っている意味が分からない。ハンドガンで十分じゃないのか?
モリオンは発表会の後に服を買いに行ったのだが、基地での生活に慣れてしまった俺たちには市販品は値段の割に質が悪い。そのためJC14ちゃん用の服を仕立て直して着用しており、服装の組み合わせとしてはJC14ちゃん達と同じだ。ただ色や細部は異なる。外見が全く違う上に服の色合いも違うので、コーディネイトがカブっているとかは全然気にならない。あと、関節などメカ部分がほぼ隠れてしまっているので見た目が人間に近くなっていた。
ところでモリオン、そのオープンフィンガーグローブどうしたの? かっこよくない? 俺の分は? 無い? そうですか……
そしてさらに気になる事があるのだが、モリオンがでっかいケースを背負っているのだ。何それ? 楽器ケース?
その後、モリオンが背負っている四角いケースは武器だと判明した。
ところで、俺はこれからギルドで依頼を受けると分かっていたので、武器のほかに食料とか夜営の準備等もしてきた――といってもリュック1つに収まる程度の簡易なもの――のだがモリオンたちは大丈夫なのだろうか?
「こんなこともあろうかと車を用意しております」
なんということでしょう。目の前には高機動車(自衛隊ではなくアメリカ軍テイストな奴)が鎮座している。
そしてドヤ顔で出てきたシアンさん。
……え? なんでいるの?
「勿論連絡を受けたからです。一人で行くとは水臭いですよ。」
ああ、A4ちゃんから連絡を受けた後、ダッシュで準備してきたらしかった。車の後部荷室には夜営装備類が積んであった。
「いや、あのね……あまり大人数で行くのはどうかと思うのですよ……」
必死の抵抗。しかし逃げられない。
「主様は私が邪魔だとおっしゃるのですか?」
そう言う顔はモリオンやA2ちゃんのような悲しそうでもあざとくもなく、ただただ真顔であった。そして目のハイライトが非常に薄い。
――いったい彼女に何があったのだろうか?
とはいえ、そんな顔をされたら俺は頷くしかない。(本日3回目)
ああ、本来の目的が実行不可能になってゆく……
「やっぱり俺一人で行こうかなー……なんて」
「おとーさまはモリオンがじゃまなのですか?(悲しそうに)」
「主様……なぜそのような事をおっしゃるのです?(真顔でハイライト無し)」
「今更だよ?」
ああ、A210ちゃんが一番マシな反応……惚れそう
そうしているうちにも高機動車に乗り街中をギルドに向けて移動する。
平民では保有することが非常に困難な(価格的な意味で)魔導馬車に乗り、脇に3人の女性を侍らせて移動する俺。
傍から見れば非常に嫌な奴ではなかろうかという疑念が生まれた。




