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93話 技術研究ギルド発表会3日目 3

 アキヅキ研究所(うち)のオートマタが売れた。

モリオン達を売ったわけでは無く、これからモリオン達のデチューンバージョンを作る予定。納期は1ヶ月。初期量産品の在庫があったためと言う事になっており、それでも1ヶ月がかかるという。

実際にはモリオン達の設計図を流用して今から作るのだが、ウチにある機械を使用すれば1ヶ月も掛からない。ただし、それをそのまま正直に言ってしまうと色々混乱を招くので対外的にはそういうことにしているらしい。オーナーはクリスティーヌ・ゴッドハート伯爵令嬢だ。つまり領主貴族の子供だ。アホみたいな金額を一括でポンとくれたぜ。多分お父さんが支払うんだろうけれど……オリハルコンとか無くても全然安泰じゃないか。

そして、これで俺も貴族とのパイプがさらに太くなる。今後、色々と(権力方面で)助けてくれるかも知れない。


 ソフトウェアはデチューンすると逆に面倒くさくなるため、ハードウェアのみのデチューンだ。まあ、クリスティーヌさんはそもそも戦闘目的で購入するわけでは無く侍女のようなことをさせるつもりらしいのでそれで十分なのだ。



「さて、じゃあちょっとドットカール博士のところへ行ってくるよ」

『お供します。おとーさま』


 お供も何もモリオンに来て貰わないと困るんだけれどね。ドットカール博士には紹介するって言っちゃったし。


「というわけで……ラリマーも来る?」

「ダメだよ、ラリマーは助手として働いて貰うんだから」


 ラリマーも一緒にと思ったが、レイリー博士から待ったがかかった。今日は見学者も多いのでラリマーにも対応させようと言うことらしい。

 実はクリスティーヌさんの後に軍関係者も俺達のオートマタに興味を示してくれたのだがコストパフォーマンスが合わないと購入を断念している。といってもスペック、価格、納期など全て適当な数字なのだが。……いや、価格は適正なのか。

 ハイクオリティ、ハイコスト、デリケートと、とにかく戦場で運用しづらい上にコスト面で数も揃えられないとなると軍事用としてはあまり魅力が無い商品になる。まあそんなことで今のところはクリスティーヌさんに1体作る契約のみとなっている。

 ただ、それでも何かヒントになることはと色々と聞きに来ている人がいてかなり賑わっていた。まあウチは最初から新金属の方をアピールしていたのでそっちで人が来ているんですが、それらも俺じゃ無くてシアンさん達の方が説明が上手いし、女性に相手して貰える方がやってくる人にとっても良いだろう。


 さて、そんなことはともかくドットカール博士のスペースへゴーだ。ドットカール博士は張り切っていたしどんなロボットがあるのか楽しみだ。

 大型ロボットもそうだけれど、やっぱり人型ロボットってロマンがあるからね。こっちの世界のロボット(オートマタ)は魔法がある関係で文明のわりに妙に進んでいる。


 楽しみにしながらドットカール博士のスペースに向かう。ドットカール博士など大御所のスペースも3日目ともなるとさすがに空いている……と思っていたがそうでもないようだ。まあ、1日目ほどでは無い。お祭り騒ぎも比較的落ち着いてきているし民間の見物客もそれぞれのスペースへとある程度に散らばっている。


「「「うぉー!」」」


 と歓声の聞こえてきた方を見ると、何か魔法の実演をやっている最中のスペースだった。

 ……あれ? あのスペースって確かバフ系の魔法の実演をやるって言っていたオッサンがいたところだったはず。なぜバフ系の魔法であんなに盛り上がっているんだろうか。

 少し覗いてみると……オッサンが口から火を噴くというパフォーマンスをやっていた。あれぇ?


「あの、すいません。ここ何やっているんですか?」

「何だ知らないのか? ここのオヤジ、人が集まらないからって大道芸をやってるんだよ。もうすぐ指導が入るんじゃないかな」


 人寄せのために芸をやり始めたらしかった。そうしてしばらくすると見物客の予想通り、スタッフと思われる人がやってきて観客を散らしはじめた。散っていく観客の隙間からチラリと見えたのはスタッフにペコペコ謝っているオッサンだった。


 うーん、一応来てくれって誘われていたんだけれど、この様子だと別に良いかな。というか、オッサン、常習犯らしくスタッフから退去命令を出されて物理的に見れなくなってしまったのだが。


 何はともあれドットカール博士のスペースである。遠目に見ると、やはりと言うか見応えのある看板などが配置されスペース中央には数体の魔導人形が立っていた。魔導人形は準備中に見た執事服やメイド服などに身を包んでいたり、裸のままであったりと色々な種類がある。それを周囲に集まった人達に説明している下っ端研究員。ドットカール博士は……見える範囲にはいないな。どこだろうか?


「見学の方ですか? こちらはドットカール研究所のスペースとなっております。こちらに展示されている最新の魔導人形は当研究所の最新作となっております。」


 見学者に混じっていたため研究所員に呼び止められ、ドットカール博士の魔導人形について説明をされてしまった。まあ、見に行くつもりだったしどういった物があるのかも興味があったので研究員の説明を大人しく聞く。

 説明している所に魔導人形の1体がやって来て、会釈してくれた。


 ドットカール博士の魔導人形だが見た目はマネキンで色が塗ってあるため人間に似ている。見学者の応対をしているそれ(・・)を見る限り表情に動きはないが、口が分割線に沿って開閉している。話を聞いていると口は動くそうで(腹話術の人形みたいに)、違和感なく会話が出来るらしい。その他伸縮性のある素材を用いることで肌の質感を人間に近づけたとか、出力を増大させているとか色々と説明している。

 見た目は子供用の着せ替え人形のようで可愛らしい感じだがやはり人形っぽさが抜けていない。皮膚は見た感じソフビとかゴムとかの素材で柔らかいのだろうが人間の皮膚とは明らかに違う。まあこれはこれで興味深いし、違う技術が使われた複数の人形が見えるのは面白い。ネックは値段が高いところか。説明していた研究員が価値についても言及していたが目ん玉が飛び出るほどだった。てか、さっきウチで売ったオートマタと同じかそれ以上だよ。

 なお、高性能なオートマタであれば単純作業が可能であるにもかかわらず、軍事やその他民間などであまり使用されていないのは性能に見合わない高価格が原因の一つである。


「所でそちらの女性ですが……」


 俺が視線をドットカール博士の魔導人形に向けている内に説明を終えた研究員は俺の傍らの女性――モリオンに視線を移す。


「……彼女は……えっと、人間ではないですよね?」


 まあ、さすがに人間ですというのは無理があるよね。服装はコスプレで通せるとしても、顔に分割線がうっすらと見えているし、髪も人間の物ほど細くない。関節も機構部がむき出しの部分がある。とは言え表情は豊かだし、ちょっとした仕草も人間っぽいから研究員は何か迷っているようだ。


「そうですね。ウチで作っている魔導人形です。あ、アキヅキ研究所って言うんですけど」

『モリオンといいます。』


 そう答えると研究員の目が驚きに見開かれた。


「ドットカール博士とは少々面識がありまして……、博士にお会いしたいのですが可能でしょうか?」

「少々お待ちください!」


 そう言うと研究員はダッシュでいなくなった。


 その後、スペースの奥の方で背を向けていた男性――おそらくドットカール博士だ。後ろを向いていたので気付かなかった。服装もいつもの白衣ではなくスーツ姿だ。――に耳打ちすると男性がこちらを向いた。

 やっぱりドットカール博士だった。服装が違うから雰囲気が違うな。金持ち紳士って感じで似合っていますね。

 そうしてドットカール博士はそのまま早足で俺の側まで来た。


「やあ、よく来たね。そちらが君が作った魔導人形かい? ……ほう……」


 挨拶もそこそこに、ドットカール博士の視線はモリオンに注がれる。


「モリオン、こちらドットカール博士。俺が魔導人形に興味を持つきっかけにもなった人だよ」

『はじめましテ。モリオンと申します。』


 俺がモリオンに説明してモリオンがドットカール博士に挨拶する。

 その様子を目を見開いて見ているドットカール博士。


「まるで人間だ……自然な表情、自然な動作、関節部こそ機構が見えるが上手く人型として融合させている……」


 何やらモリオンを注視しつつブツブツともらすドットカール博士。


「あの、ドットカール博士……」


 俺が声をかけてもブツブツと言ったままモリオンを注視している。と思ったらクワッと顔を上げて大声で喚きだした。


「ちくしょー!! こんなん反則じゃねーか!! 私の長年にわたる研究成果がー!!」


 とか喚きながら回れ右してダッシュで去って行った。


 ……何だ? イケオジのドットカール博士らしくない。体調が悪かったのだろうか。何か涙と鼻水を流していたみたいに見えたし花粉症かも知れない。花粉症か、異世界にもあるのかな?


 ドットカール博士はそのまま戻ってこなかった。




 後日、ドットカール博士から「先日は失礼したね。柄にもなく取り乱してしまったようだよ。ハハハ、ところで魔導人形だが是非君の所と共同で研究したいのだが、大丈夫だよね。」とか言う共同研究のお誘いが来た。

 ウチのモリオンたちはドットカール博士のところの最新型よりも段違いに高性能だということだった。まあ、途中から薄々気づいていのだが。


 そして、ウチは魔導人形はメインで扱っているわけではないし、ソフトウェア関係はレイリー博士の技術なのでレイリー博士と相談の上、魔導人形に関してはレイリー博士主導で行うことになっていた。そもそもからして、俺も魔導人形一本で食っていくわけでもないし、シアンさん達からもそれ色々とやることがあると聞いているので、『レイリー研究室』の方に窓口を作りレイリー博士に一本化することにしたのだ。


 何気に働かなくても食っていける地盤が出来始めている俺だった。

 だからと言ってニートみたいなことをするのはおすすめできないということだ。やはり人間は人生の目標に対して精力的に取り込んでいたほうが精神も肉体も健全な状態を保てるということらしい。――ということを誰かが言っていたそうだ。

レベルやステータス、スキルといったファンタジー要素が最近仕事をしていません。


モリオンの主人公の呼び方とラリマーのレイリー博士の呼び方を修正しました。(お父様→おとーさま、お母様→おかーさま)まだまだ学習途中ということでやや幼い感じに修正。

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