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92話 技術研究ギルド発表会3日目 2

「えっと、こちらここの領主様の娘さんのクリスティーヌさんだ。ご挨拶を」


 そう俺が声をかけると、モリオンとラリマーはまるで鏡写しのような動作で挨拶をする。


『おそようございます。クリスティーヌ様』

『こんにちはございます。クリスティーヌさん』


 言葉の内容は少し違ったが。どっちがどっちかは、まあ関係ないので追求しない。

 そうしてあんぐりと口を開けて……いや、驚いてはいるようだが口は開けていない。驚くときも上品に。それが貴族。


「その、そちらが啓太様達が作られたという魔導人形(オートマタ)ですか?」

「ええ、そうです。なかなかのものだと自負しております。」


 実際はドットカール博士のスペースに行っていないので最先端がどういった物か分からない。ただ平均的なオートマタやレイリー博士から聞いた話などではかなり良い出来だと思っている。やはり手ずから作ったと言う事で愛着もあるしね。


 そういったことを考えながらクリスティーヌさんの方に目を向けると無言であった。

 少し待っていると落ち着いたのかようやくクリスティーヌさんが口を開いた。


「素晴らしいですわ! こちら、私にも作って頂けませんか! 勿論報酬はお支払いいたしますわ!」

「え、あ、あの……」


 困った。これはあれだ、自分用に欲しいといった顔だ。どうしよう。一般販売していないのだが。ソフトウェアはレイリー博士の技術だし。


「シアンさん、どう思う?」


 俺はクリスティーヌさんに詰め寄られたまま首だけを回してシアンさん達の方を向き確認を取る。


「別に、販売すればいいのでは無いでしょうか? 令嬢とはいえ権力者です。パイプを作っておくのは有用と思われます。値段設定も高めにすれば数は揃えられませんし、そこまで問題にならないでしょう。」

「レイリー博士はどうです? ソフトウェアの方は博士の技術ですし」

「お金が入ってくるんなら私は良いよ。元々の目的の1つはお金(それ)だし。」


 シアンさんとレイリー博士に聞いてみるとそれぞれの答えが返ってくる。


「あーとりあえず、モリオン達は見本品みたいなものなので……販売は一応やってます、です。」

「そうですか! では買います!」

「はやっ! いや、もっとスペックとか色々確認した方が良いんじゃ無いですか?」

「何を言うんですか、こんなお買い得品、見逃すわけ無いじゃ無いですか!」

「そ、そうですか」


 戸惑っている俺とレイリー博士をよそに着々と購入手続きが進められていく。値段設定はシアンさんがしてくれたが、これだと高すぎて数が揃えられないと軍の人が言っていた。まあ一応希少金属とかバンバン使っているし、加工精度も段違いだしね。

クリスティーヌさんは買う気満々だ。


 その後、簡単な要望を聞いて見積もりをまとめた。何か車のディーラーみたいだな。

 外見の要望(オーダーメイドで個別制作可能)とオプション価格などは後日話し合われる。一応今は発表会中だし。

 そうしてシアンさんとクリスティーヌさんの間で話がまとまり一通り決まったようだ。


「あ、決まったの?」

「はい、クリスティーヌ様の機体を制作します。価格はこれ。納品は1ヶ月後です。こちらで制作しますので主様達のお手を煩わせることはありません。」


 たっか! え? 高級車どころかプライベートジェット以上じゃないこれ?  いいの?


 別に良いらしい。原価的にも、付加価値――技術料としても文明レベルからすれば破格だそうだ。

 納期の1か月というものが長いのか短いのかは分からない。


 とりあえずアキヅキ研究所(うち)でオートマタを作ることが決まった。


 そういえば話の流れで、ベルクさんの魔導人形(オートマタ)収集癖について聞いていたのだが、以前に「古代魔法文明時代のオートマタを見つけるのが夢だ」とか言っていたのにシアンさん達を見た際には興奮しているようだったがそこまで羽目を外したようでは無かった。だがそれは、単純に人間に近すぎて――と言うか人間にしか見えないほどで、実感が湧かなかったからというのがあったらしい。あと、道具であるのに人間という生物に似せようとするその矛盾が見えるのが良いそうで、人間との外見的差異がほとんど無いシアンさん達はそこまで興味をそそられなかったそうだ。なお、デッサン人形もダメだと。完全な道具では無く、あくまで人間もどき(・・・)であるという絶妙なラインがいいらしい。というような話を聞いた。


「お願いがあるのですが、オーダーした子が来るまでお父様には黙っていてくれませんか?」

「はい? かまいませんが……」


 別にモリオン達は研究所の対外的な実績を示すための物であり、売って利益を上げようというわけでは無い。別に言いふらす必要も無いのだ。


「ふふふ、これでお父様を驚かせてやりますわ」


 どうやらクリスティーヌさんはウチの魔導人形(オートマタ)で父親相手にマウントをとる気だ。

 まあ、別に良いんですけどね。



 結果として、クリスティーヌさんから父親であるベルク伯爵へのアキヅキ研究所(うち)の感想というのは当たり障りのないものになったそうだ。



◇◇◇



 宇宙空間に巨大な人工物が存在した。


……まあ、プロキオンなワケだが。

彼女は同級2隻を取り込むことで350m級宇宙戦艦へと変貌しており、その戦闘力、情報能力など全ての能力が向上していた。さらに加速空間で作業を行うことによりその作業効率を劇的に向上させていた。


「やったの! 『シェアト』大陸のスルーズ連邦軍本部のコンピューターの再起動に成功したの!」

『やったわね~』


 今回の通信相手はアークトゥルスだ。プロキオンは地上との連絡を密に取りつつ惑星『ヘオニス』の調査を進めていた。

 そして今回、古代魔法文明時代――3000年前に存在したスルーズ連邦軍本部の中央コンピューターの再起動に成功した。

 スルーズ連邦の存在した大陸『シェアト』は4割以上の地形変化が観測されており、生存者はおろか設備の類いも絶望的とされていた。

 しかし、軍中枢コンピューターにアクセスできた。


「管理コンピューターは……プログラム類がダウンしているの。でも、その分、掌握が楽なの。」


 コンピューターを管轄するプログラムに人格は搭載されていない。そして自己診断プログラム等の類いもほぼ死んでいた。そのためプロキオンにより次々とスルーズ連邦軍のみならず政府中央コンピューターも制圧されていく。


「地下シェルターの類いにも生存者はいないの……さすがに3000年はキツいの。」

『アークトゥルスよりプロキオンへ、何か分かりましたかー?』

「待つの、……現在スルーズ連邦に生存者はいないの。ただ設備の一部は生きているの。さすがは大国なの。軍コンピューターを介してスルーズ連邦各地の生存設備のネットワークを構築中なの。軍、政府コンピューターも掌握したの。軍事ネットワークからユニオンインダストリー及びフラッグシステムズとの繋がりも確認できたの。そっちも確認するの」


 『ユニオンインダストリー』/『フラッグシステムズ』――スルーズ連邦にある巨大企業であり軍需産業においても大きな企業だ。そのデータネットワークは膨大で政府とも深い繋がりがある。今回はその『つながり』――主に軍事関係だが――を利用して早期にコンタクトを取ることが出来た。

 『ユニオンインダストリー』は空海軍向け大型兵器やスルーズ連邦製人型戦闘機(マリオネット)の製造を行っていた。対して『フラッグシステムズ』は陸軍向け武器類や強装歩兵(オートドール)の製造を行った企業である。アークトゥルスやJC14はこれらの企業で製造されたものである。

 ちなみにシアン達、アトランティア王国製人型戦闘機(マリオネット)を作っているのはまた別の企業だ。

 ――まあ、どうでもいい話である。特に啓太などは全く関係ないし今後も関わらない話題である。


 プロキオンが掌握したスルーズ連邦の各ネットワーク群は通信衛星を通じアークトゥルス達のいる地下基地からも観測可能となっていく。


『あら、すごいわね』

「ふふん、プロキオンはすごいの」

『そうじゃなくて、これだけの被害がありながら、生きている施設が予想よりかなり多いわね』


 アークトゥルス達は最初地上の光学観測による地形の変化によりスルーズ連邦の機能はそのほとんどが失われていると考えていた。しかしリスク管理が優秀だったのか、地下施設群に置かれていた設備類は予想を超える生存率を示している。これならば機械のみで最低限、政府/軍機能の復旧が出来るかも知れない。勿論、生き残った人間(・・)がいないので全てコンピューターやロボット任せとなるだろうが。


「でも、今更こんなもの生き返らせてどうするの? 国民がいない国に何の意味があるの?」

『ふふふ~、検討プランだけなら色々あるわよー。』

「ふーん、なの」


 今日も今日とて、プロキオンは宇宙で頑張っている。

軍事企業の名称はそれっぽくつけただけで、実際の命名基準や妥当性などは不明です。

精密機器が3000年も生き残れるわけないだろ!というツッコミは受け付けません。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、現行の電子機器だと早くて数年どんなに遅くとも50年も時間があればほぼ確実に電解コンデンサが液漏れして基板のパターンが腐食して修復不能になりますからねぇ
[気になる点] 現代科学でも、自己修復コンクリートやプラスチックと言った物が有るので 魔法文明なら、三千年保つシステムとか有っても可笑しくないかなぁと。
[一言] プロキオンは大活躍なの
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