91話 技術研究ギルド発表会3日目
さて、ギルドの発表会も3日目――最終日だ。今日なら主要なスペースを見終わった専門家が奥の方のスペースまで来てくれる。
……あれ? 今日忙しくなったら、ドットカール博士のスペースに行く暇が無くなるんじゃ?
あと、技術研究ギルドに広場上空を飛行して良いか聞きに行ったら、「このクソ忙しい時に冗談につきあう暇は無いっ!!」と追い返された。解せぬ……
まあとにかく飛行の許可は取れていない。勝手に飛んだら怒られそうだ。ホバー移動くらいなら許されるだろうか?
せっかく昨日テストしたのに無駄になってしまった。
……ちぇっ
結局、モリオンとラリマーには昨日レイリー博士に薦めたタダのオシャレ装甲を着せておく。まあこれなら素体の良さも出るし展示だけなら問題ない。今日も一日突っ立っているだけなのだろうか……
そう思い自身のスペースで朝から待機していた。
今日も開始時間前から並んでいた人がいたようで、開始と同時に入り口付近は混雑しているらしい。
そうして少しするとまばらにだが人がやってきはじめた。昨日一昨日よりも早いし数も多い。平日のデパートぐらいの人口密度で、そこそこと言ったところ。昨日よりは断然多い。
奥の方である俺達のスペースにいるのは服装などから大体が政府関係者や軍人、研究者のようで、一般市民はあまり見当たらない。まあ、市民にとってみれば研究発表はお祭りの一種で、盛況で無い奥の方までやってくる人は少ないのだろう。
お、早速こっちにやってくる人が。服装からどうやら軍人のようだ。
「君、この金属について聞きたいのだが――」
「はい、こちらは――」
アルミニウムのインゴットを手に取った軍人さんがシアンさんの説明を熱心に聞いている。次第に後ろにいた他の軍人さんなんかも興味を持ったようで一緒になって説明を聞いていた。
「――なるほど。アキヅキ研究所か、聞かない名前だが……これの精製法は公開しているのかね?」
「研究開発ギルドに登録してあるので確認して頂けたらと思います。」
「ちなみに卸して貰うとすると、どの程度かね?」
「それでしたら――」
やはりアルミニウムとステンレスは人気だ。その特性を述べた辺りから軍人さんの目の色が変わったのがハッキリ分かった。「○○に使える」とか「○○が出来るのでは?」などブツブツ独り言を言っている人もいる。
その後、周囲の軍人さんを巻き込んで、後日、アキヅキ研究所に正式に金属の売却を持ちかけるかどうかを検討するそうだ。
ふと目を向けると、向かいのスペースであるケイン少年やバイトくんのスペースにも人がちらほらとやってきている。あちらは研究者らしき人が多めだ。やはり論文だからだろう。
そうしていると、不意に周囲がざわつきだした。何事かと思えば、
「まあ、こんな奥でしたのね。探してしまいましたわ。」
やってきたのは何かとお世話になっているベルク=ゴッドハート伯爵の娘さん――クリスティーヌさんであった。
「おお、これはクリスティーヌ様。お久しぶりです。お知り合いですか?」
先ほど金属を見ていた軍人さんや周囲の政府関係者が挨拶している。それを慣れた手つきで手で制するクリスティーヌさん。やはり貴族の令嬢と言うだけあって顔が広いのだろう。
「ええ、こちらの方達とは個人的に良くして頂いていますの。お久しぶりですお姉様、それに啓太様」
周囲への説明もそこそこに俺達のスペースに近づいて挨拶をしてくるクリスティーヌさん。
「お久しぶりですクリスティーヌさん。」
俺達も挨拶を返す。貴族の挨拶マナーとか知らないので、お辞儀をして挨拶の言葉を発するだけだが。
ちょいちょいと袖を引かれる。そちらを視線だけ見るとレイリー博士がコソッと耳打ちしてきた。
「ねえ、貴族様と知り合いなの?」
「ああ、ちょっとね……貴族のご令嬢だけれど」
それだけ言ったところでクリスティーヌさんから声をかけられる。
「それで、お姉様方は何を展示されているのですか?」
「あ、この……新しい金属になります。今さっきそちらの方々に説明していたところです」
「これですか? 確かに鉄などとは違うようですが……うん、彼女は?」
クリスティーヌさんの視線がレイリー博士に向く。
「レイリー・サンダルフォンと申します。ケイタとは大親友で今は同じ研究所で研究させて貰っています。よろしければこちらを」
レイリー博士が緊張した面持ちで挨拶すると同時に説明用に持っていた自身の研究結果を纏めた紙を渡す。
「これはご丁寧に。私はこういった専門的なことはあまり分かりませんが、頑張ってください。あ、これは後でお父様に見せてみますわ」
「あ、ありがとうございます!」
レイリー博士が勢いよく返事をした。やはり権力者に自身の研究結果を売り込めたのが嬉しいのだろう。
そういえば、ベルク伯爵はオートマタ収集家でもあったな。クリスティーヌさんの方はそこまででも無かったが、モリオン達にも興味を示してくれるだろうか。もしかしたら1、2日目にドットカール博士等のスペースで見飽きているかも知れないが。
「そういえば、1日目にお父様と一緒にドットカール博士のスペースに寄らせて貰ったのですが、お父様がとてもはしゃいでらっしゃいましたわ。仕事の都合でこちらにまでは顔を出せなかったようですが。まったくお父様にも困ったもので――」
クリスティーヌさんは伯爵様とともに既にドットカール博士のスペースを見てきたらしい。
俺も後で行くつもりなのでネタバレは止めてね。
ベルクさんは今日は仕事があるので来ていないそうだ。
「――と言う事がありましたの」
一通り父親の愚痴を語り終えた所で一息ついた。伯爵様はさすがに収集家と言うだけあってドットカール博士のスペースでテンションマックスお祭り状態だったらしい。
「ドットカール博士と話をしている際に、啓太様のところでも魔導人形を作っていると聞いたのですが? お父様は行けないからと私に報告して欲しいと頼まれていますの。」
どうやら、俺の所のオートマタ――モリオン達を見に来たらしかった。
「ほう、こんな弱小のところが」
「小さい研究室ですし、大したものでは無いでしょう」
周囲がその話題に様々な反応を見せる。大半はあまり期待していないようだ。
「そこ、うちのラリマーを見て驚くなよ!」
そんな観客にレイリー博士が啖呵を切っている。まあ、俺も多少自信があるんですよね。
「魔導人形には研究所ごとにそれぞれの特色があるそうですのでその辺りを報告すればお父様も喜んでくれるでしょう。私も個人的に興味がありますわ。」
一応クリスティーヌさん自身も興味があるようだった。
対して周囲の大人達は弱小研究所だしどうせ大したことないんだろ的な反応だ。
いやいや、スペース内にいるよね、モリオン。見える位置にいるんだからそんなあからさまに「期待してません」て顔で見なくても良いじゃん。モリオンも悲しむだろ? ……あれ、モリオンどこ行った?
……あ、いたわ。後ろでラリマーとレイヴンさん、ヴァーミリオンさんでトランプ(っぽいカードゲーム)をやっている。ここからだとレイヴンさんとヴァーミリオンさんの影でよく見えない位置にいるが、なにやら難しそうな顔をしてカードを凝視していた。
「おーい、モリオン、ラリマー。こっち来てー、お客さんだよ。」
俺が呼ぶとモリオンとラリマーが手元のカードから顔を上げる。あとレイヴンさんとヴァーミリオンさんも振り返った。
「おお、客か? おう、行ってこいよ」
そう言って、モリオンとラリマーの持っていたカードを取り上げてくれるレイヴンさん。そうしてこちらにやってきたモリオンとラリマー
『おとーさま、呼びましたか?』
『おかーさま、呼びましたか?』
次の瞬間、やってきたモリオン達を見たクリスティーヌさんが目を見開いた。




