87話 技術研究ギルド発表会 4
昼近くになると、端っこの俺達のスペースにもちらほらと人がやってくるようになった。と言っても今のところ全員一般人で興味本位で見に来たと言ったところだ。
「おう、きれーなねーちゃんじゃねぇか。ここは何をしてるんだ?」
いかにもお祭りを楽しんでますと言った感じのオッサンがやってきて展示物に目を留める。
「はい、こちら新素材で制作された調理器具を展示しております。」
「何だぁ、それって使えんのか?」
「勿論です、こちらの包丁など切れ味抜群。こちらの鍋などは軽くて丈夫です」
試し切りとばかりに持ってきた野菜を切る実演を行うシアンさん。それをニヤニヤしながら見ていたオッサンだったが実演が終わると、
「こいつぁマジスゲぇぜ! 母ちゃんに知らせてこきゃ!」
とか言いながらどこかへと行ってしまった。何だったんだろう。冷やかしかな?
そして少し後、そのオッサンが中年の女性を連れて戻ってきた。奥さんらしい。
「こちら、凄い包丁なんですって?」
「はい、このようにですね――」
また同じように実演をするシアンさん。
「まあ! 凄いわ! 売っているのかしら?」
「多少在庫もございます。」
とかなんとかやり取りしながら値段を提示する。
ちなみにこの発表会は展示品の売買は禁止していないが、一応発表がメインなのであからさまなのは注意される。
結局その夫婦は包丁と鍋を買っていった。最初のお客さんだ。
その後、同じように何人か女性が来て、「凄い切れ味!」とか「軽いわ!」とかやり取りをしていた。
「順調だね」
『そうなのですか?』
俺は奥の椅子に座りながらその光景を眺めていた。モリオンにも椅子を用意したのだが、なぜか俺の膝の上に座っている。ちょっとモリオンさん、重いんですけど(失礼)
見に来てくれる人は数えられる程度ではあるが、まあ配置的にはこんな物だろう。開始前に外にいた人混みを見る限り、有名所はもっと混雑しているだろうけれど。初参加で端スペースなのだから贅沢を言っちゃいけない。来てくれる人がいるだけありがたい。ゆくゆくはこの人達がリピーターになってくれたりするともっとありがたい。
「しかしアレだな、モリオンは手足とか、もっと柔らかい方が良かったか? 女の子だし」
『出来れば胸と股間の機能を制作して欲しいです。おとーさまと睦言ができません』
「…………あ、ケイン君の所、両親が来たみたいだぞ。」
秘技、話題そらし。
いや、斜め向かいのスペースにいたケイン少年に両親が合流したのは確かなので。
それと、バイト青年のところにもおそらく発表者が来て交代し……なかった。バイト君が相変わらず受付をして、その発表者は40代ぐらいのおじさんだったが、後ろの展示物を何やら弄っているようであった。
その後は何事も無く過ぎていき、俺も持参したお昼ご飯を食べた。シアンさんと昼休の間交代していようかと言ったが、別に必要ないと言われた。1食抜いたぐらいでどうと言うことは無いとか言っていた。忘れがちだが彼女たちはマリオネットなので、たとえ2,3日食べなくても全く問題ないのだ。
レイリー博士もいつの間にか戻ってきておりポツポツと来る人の対応をしている。ただあまり成果は芳しくないようだ。彼女の作品は新型エンジンであるので一般市民にはあまり関係ないからだろう。
「ラリマーもこっち来て対応して」
『はい、おかーさま』
「お母様! アンタ、若いのにこんな大きなお子さんがいるのかい!?」
ラリマーがお母様呼びしたことで子供連れのおばさんに驚かれていた。
「違うよ。この子はオートマタだよ。ほらラリマー、子供と握手でもしてやって」
『はい』
「うぉ! すげー! おねーちゃん、おっぱい見せて」
ラリマーと握手した子供がはしゃいでいた。そして子供らしい無垢なお願い? をしている。だが残念、おっぱいは見せられないのだ。無機物なので。
それを聞いた子供は非常に残念そうな顔を見せていたが、そのままおばさんに引っ張られて去って行った。
ちなみに、ケイン少年とバイト青年のスペースもあまり人気が無いようだ。まあ、あっちも論文メインだしね。お祭り気分の一般客の気分とは合わないのであろう。
その後は、ケイン少年もちゃんと尋ねてきてくれた。
「挨拶が遅れて申し訳ありません。ウチの子と親しくしてくれたそうで、ありがとうございます」
「こんにちは、お姉さんも」
「いえいえ、展示物なども見せて頂きましたし。あ、こっちのも見ていってください。」
『こんにちわ』
ケイン少年は母親とやってきて一通り挨拶した後は、シアンさんがする調理器具の説明を興味深く聞いていた。その間、ケイン少年と「人が来ないね」とか少し話した。
少しすると、説明が終わったらしくケイン少年の母親もいくつか買っていってくれた。彼等は父親に番を任せて、これから他のスペースを回るらしい。
バイト青年もバイトが終わった後にちゃんと挨拶に来てくれた。俺は男、モリオン達はオートマタだと分かっているので最低限の挨拶のみで、一生懸命にシアンさんやレイヴンさん、ヴァーミリオンさんをナンパしていた。レイリー博士はナンパされなかった。展示内容はあまり興味が無いようで、この後は家に帰って寝るそうだ。
そうこうしているうちに、1日目は終わってしまった。まあ人の入りは少なかったが無名なので、この程度なのだろう。ケイン少年に聞いたら去年もこの辺りのスペースはこんな感じだそうだし。
そうして2日目開催。
1日目と同じようなものかと思っていたが、割と早い段階から人が来てくれた。シアンさんが説明の合間に聞いた話だが、物珍しいものを探したり人混みを嫌ったりする人達らしい。
そうしてポツポツと人が来てくれる。と言っても劇的に増えるわけでも無いのだが。
ドットカール博士の所を尋ねてみようか? 向こうから来てくれる気配は無い。多分シャッター前サークルみたいなものだから忙しいのだろう。ドットカール博士がどういった物を発表しているのか気になる。
そういえば、魔法実演のおっちゃんにも来てくれと言われていたんだった。
出来れば空いているときに行きたいのだが、何分初参加なのでそういったことが分からない。同じ展示内容なのでおそらく3日目が一番空いているだろう。昼時は混んでいそうだ。
となると今はどうだろう。2日目午前。まあ、混雑時間帯は避けているものと思われる。とはいえモリオンと一緒に行ってもインパクト的に薄いかも知れない。あちらは大御所だし。オートマタ一体だけ連れて行ってもドットカール博士なら馬鹿にしないだろうが、その他の研究員の人は分からない。「ショボい」とか思われたら悲しい。こう見えても渾身の作品であり、娘である。
「よし! モリオン、一旦研究所に帰って装甲の調整をするぞ! ラリマーもだ!」
『ハイ、おとーさま!』
『はい、確認します。よろしいですか、おかーさま?』
椅子から立ち上がり、今から帰ってモリオンに装甲を着せてこよう。あれ見た目はゴツいしインパクトはありそうだ。ただし調整が済んでいないので未だ飛行能力は獲得していない。今から帰って調節すれば明日3日目には制限付きでのアクロバット飛行が可能になるかも知れない。
ラリマーも誘う。ドットカール博士に紹介するなら2機一緒の方が良いだろう。そう思い誘ったのだが、レイリー博士も一緒に来るようだった。
「あ、今から帰るの?」
「はい、ちょっと装甲を着せてこようかと。裸のままだし。今から調節すれば明日に間に合うかと思ったので。」
「なら、私も行くよ。行こうかラリマー」
『はい、おかーさま』
「良いんですか。あの……ビタミンエンジンの説明とか」
「ああ、専門家が来るのは3日目の午後だろうから多分大丈夫だよ。」
やはり、一番奥の場所と言うことでメインの層が来るのは最後の方になるらしい。お客さんも特に目的のある人は別だが、そうで無ければ、入り口に近いところから順に回るのが通常らしい。ちらほらと人は来ていたが数えられる程度であったしね。
「シアンさん、悪いけど店番よろしく。」
「はい、いってらっしゃいませ。」
そう言ってシアンさんに番を任せる。特に混んでいないし、台所用品目当ての人ばっかりだしメイン展示物が抜けても良いだろう。
「レイヴンさん、ヴァーミリオンさん、悪いけれどここ見ていてくれない?」
「はいよー」
「分かったよ」
レイリー博士のスペースはレイヴンさんとヴァーミリオンさんに見ていて貰うようだ。まあ、隣だし人も少ないので、シアンさんだけで対応できる気もするが。
「よし、一端戻るぞ!」
「おー」
『『はい』』
そう言って俺達は……入り口の方は混んでいるので、広場の柵を越えてショートカットして戻っていった。ちなみにマナー違反である。
今年ももうすぐ終わりですね。
また来年お会いしましょう。ではでは(・ω・)ノシ




