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86話 技術研究ギルド発表会 3

 さて、周辺スペースに挨拶するわけだが、まあ特に手土産も無いし2言3言交す程度だろう。

 俺達やレイリー博士の隣や前など空き、もしくは人がいないスペースが目立つ。まずは隣……は空きなので2つ隣のスペースに顔を出す。尚、俺達のスペースは一番端なので逆隣は突き当たりとなっている。


「こんにちは」

「ふぁぁ……あっ?」

「俺達向こうのスペースの者なんですけど、今日はよろしくお願いします。」

『よろしくお願いします。』

「え? あ、うん、よろしく……お願いします」


 そのスペースにいたやる気のなさそうなおじさんに声をかける。学者っぽい服装でキッチリと決めているようだが、顔はだらしなく大口を開けて欠伸をしていた。

 彼は一瞬ギョッとしたような顔をしたが話しかけると返事は返してくれた。だが、何というか少し胡散臭い者を見る目をしている。

なんだろう。何か間違えたか? この発表会については初めてなのでマナーや暗黙の了解とかそういった部分が何かあるのかなと考える。勿論考えたところで思い浮かぶものでも無いので、適当に濁して次にいってしまおう。


「もし時間があればウチの製品も見ていってください。キッチン用品なんか扱っているんで」

「あー、うん。暇なら行きますよ」


 明らかに現在暇なのだが、まあ社交辞令だろう。

 そう言って俺達は斜め向かいのスペースから移動していった。男性は終始胡散臭そうな目で俺達を見ていた。

 今度は俺達の斜め向かいのスペースに顔を出す。ここはバイトだろう、チャラい青年が番をしていた。斜め向かいだというのに通路が広くとってあるので、さっきのおじさんと距離的には変わらない。


「こんにちは」

『こんにちは』

「うぃーす」


 その青年は近づいてくる俺達の方に気付いていてすぐに挨拶を返してくれた。同じような挨拶をすると彼は「あ、俺バイトなんで」と返してきた。ここの主人は昼ぐらいに来るらしい。青年それまで展示物の見張りを頼まれているらしかった


「にしても兄さん、その……やるっすね」


 青年は俺と横に視線を行ったり来たりさせながらそう言ってきた。何がやるのだろう?


「彼女さんとコスプレデートっすか? マジ羨ましいっす。 あーあ、俺も彼女欲しいなー」


 そんなことを言ってくる。コスプレ……何を言っているのだろうか?この人は……独り言だろうか。

 隣のスペースには小学校低学年ぐらいの子供がいて聞き耳を立てていた。


「君もよろしく」

「あ、はい。よろしくお願いします!」


 急に声をかけられたからか少し焦ったような声で返事を返す子供。


「えっと君は……」

「あ、ケインと言います。お父さんが学者なんです。僕はその……まだそこまで詳しくなくって。」


 そう言いながら、手に持った紙を渡してくる。

名前を聞きたかったわけでは無くどういった展示か知りたかったのだが……この紙に書いてあるのかな?


「これ、お父さんの研究の成果で……あの……」

「そうなの? ありがとう」


 渡されたA4ぐらいの紙をざっと斜め読みすると、どうやら古代魔法文明時代の研究らしく各地に残る遺跡を元にした独自の見解等が書かれていた。


「へえ、ケイン君のお父さんは古代魔法文明の研究をしてるのか」

「そ、そうなんです」

「後でちゃんと読ませて貰うよ。あ、俺達はあそこでキッチン用品なんかを展示しているんだ」

「キッチン用品ですか?」

「ああ、もしお母さんも来るなら見に来てくれ。良く切れる包丁とか軽い鍋とか置いているから」

「へぇ、そうなんですか。後でお母さんと一緒に行きます!」


 そう元気よく答えてくれるケイン少年。心なしかキョドっている。知らない人に声をかけられたから緊張しているのかな。


「あ、あのそっちの彼女さんはどうしてそんな格好をしているんですか?」

「お、無邪気な質問頂きましたっす。でも坊や、世の中にはいろんな人がいるんっすよ。このお兄さんはちょっと変態だがそこに触れちゃ不味いっすよ」


 ケイン少年が意を決したかのように、質問をしてきた。さらにそれに乗っかってさっき挨拶した隣のバイト青年が少年に何かを言っている。(スペース的にはかなり近いので普通に会話できる距離にいる)

 て言うか彼女さん? 少年の視線の先を追ってみる。


 横に視線を向けているな。横にはモリオンがいる。そういえばずっと腕を組んだままだった。本当は女の子にこんなことをされれば意識したりするのかも知れないが、モリオンは触れている腕や胸がメカなのでそこまで気にならなかった


 再度少年の方を見て、視線を確認。バイト青年の方の視線も確認。視線の先には……モリオンがいるな。


「彼女さん……よく分からないけれど。この子はモリオンて言うんだ」

『よろしく願います。』

「あ、は、はい。よろしくお願いします。」


 少し緊張したような面持ちで返事をする少年。モリオンが俺と組んでいる手と反対の手を差し出すとおずおずとその手を握り返す。


「兄さん、ダメっすよ。変態コスプレデートとか子供に見せつけちゃ」


 バイト青年がなぜか注意してくる。何を言っているんだろう。コスプレデート……彼女さん……


「オゥ、イェ……いや、モリオンは俺の研究所で作った魔導人形(オートマタ)だよ! よく見りゃ分かるだろ。ほら関節とか。」


 ようやく分かった。モリオンをSF水着のおねーちゃんだとでも思っていたのだろう。いや、確かに人間に近いがよく見りゃすぐ分かるだろ!?

 そう言って俺は組んでいた腕を外すとモリオンの関節などを指差す。その際にモリオンがとても名残惜しそうな顔をしていた。


「「え? えー!?」」


 ケイン少年とバイト青年がそろって驚いている。やはり勘違いしていたのか。


「え、え、マジッスか!? オートマタってもっと、こうノッペリと……」


 そう言いながら両手でジェスチャーをするバイト青年。まあ、分かるよ、アレだろ。デッサン人形の事を言いたいんだろ。


「ぼ、僕、オートマタって近くで見るの初めてなんですけれど、人間じゃ無いんですか?」

「違うよ。ほら握手した手をもっと見て。モリオン、ちょっと腕関節とか見せてやって」

『はい、おとーさま』


 そう言ってモリオンの掌や肘などを持って少年の方によく見えるようにしてやる。

 それをまじまじと見ている少年。


「ほら、関節とか触ってみ……胸とかも触ってみ」


 少年に触るように促すと、恐る恐ると言った表情でその腕を触り始める。隣のバイト青年ものぞき込んでくる。


「……硬い、本当だ……」

「マジスゲぇッス」


 どうやら理解してくれたようだ。さすがに胸は触らなかった。


「ちなみにこの魔導人形(モリオン)もウチの展示品なんだよ。非売品だけど。」

「ひ、非売品なんすか……確かにこれぐらい人間に近かったらメッチャ高そうっすね」

「凄いです!」


 モリオンの凄さがようやく分かってくれたようだ。俺も鼻が高いよ。


「ち、ちなみにナンすけど……え、エロいことなんかは……」


 おっと、バイト青年がさっそく欲望に忠実な質問をしてきた。


「いや、見て分かるとおり胸も股間も金属だから出来ない。」

『私に生殖機能はありません。……ですので、おとーさまの子供がうめません』

「そ、そうっすか」


 そう言った瞬間、バイト青年が一気に落胆した表情をした。ケイン少年のほうは質問の意味が分かっていないようだ。ところで生むとかちょっと直接的すぎやしませんか、モリオンさん。


「ま、まあ、俺のところ、番の女の子も可愛いから後で見に来てよ」


 ここぞとばかりにウチのアピール。シアンさん、ごめん。ちょっと客寄せに使っちゃったよ。可愛い女の子が番をしているとなるとやっぱり来てくれる人も多くなると思って。


「わ、分かったっす! 絶対行くっす!」

「ぼ、僕もお父さんとお母さんが来たら行きます!」

「おう、待ってるぜ……そういえば聞き忘れたがそっちは何を展示しているんだ?」


 そう言って去ろうと思ったが、バイト青年の方のスペースをよく見てなかったと思い確認してみる。


「さあ? 俺、そこまで聞いて無いっす」


 展示内容を見てみると数式などが書かれた論文が掲示板のような物にびっしりと張られていた。タイトルは『古代には月に文明があった!』……胡散臭いオカルトの類いだろうか?

 まあいいや。後にしよう。


 とりあえず挨拶はこのぐらいで良いだろうと思い、自分達のスペースに戻った。

始まったばかりな上、端の弱小サークルなので今のところ見物人は0

コ○ケとかだと端は有名サークルのスペースらしいですね

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