85話 技術研究ギルド発表会 2
「それでは今年も研究開発ギルド主催の発表会を執り行いたいと思います!」
そう言ったギルド長――見た目は普通のおじいさんだった――の開会宣言と共にギルド主催の発表会は始まった。ワッ! と周囲の人達から声が上がる。
広場の外には午前9時頃だと言うのに既に多くの人が待機しており、その外側には屋台なども見える。
一般人入場口と貴族や公務員関係の入場口は別に設けられている。貴族や公務員関係はやはり仕事の側面が強いのでちゃんと区別できるように首から何かタグのような物も下げていた。多分身元を示す者だろう。『○○政府関係者』とか『○○軍属』とか色々な人が来ている。
発表会は一般人にも開放されている。今日は研究者にとって見れば大事な発表の場だが、一般人にしてみればお祭りのような物だ。今か今かと騒いでいる集団や、手に屋台の食べ物を持ったままの奴等などがいる。
ちなみにこの発表会3日間かけて行われる。なぜ3日なのかは不明だ。多分より多くの人に見て貰うとかそういった意図があるのだろう。サービス業など休日が決まっていない人達は予定が合う合わないもある。
ウチはオートマタ〈モリオン〉については非売品だ。渾身の作ではあるが、研究所的には『作っていますよ』アピールに過ぎない。メインは新金属の方だ。ターゲットは……主婦層になるのか? 一応その場での売却も考えており、包丁などいくつかの在庫も持ってきている。あと、マスコットの『招き猫』と『狸の置物』もいくつか作ってきた。
レイリー博士も実はメインは『ビタミンエンジン』の方である。オートマタ〈ラリマー〉は以前から懸念していた通り量産できる物では無いので。勿論、彼女の持つ技術力の高さを示すために活躍してくれる予定だが。
開始の合図と共に、入り口が開放された。すると大勢の人達がワッと会場に入ってくる。まず行くのは入り口近くの比較的大きな――有名な研究機関のスペースであろう。
ドットカール博士のスペースや他の大きなスペースに比較的キッチリとしたおそらく政府関係者が集まっていたり、会話を交わしていたりする。
俺達のような無名の研究機関や弱小教室、端っこのスペースは人が来るにはもう少しかかる。もし盛況になるとしてももっと後、ピークは昼過ぎぐらいである。
シアンさんは真面目で、今も展示品のテーブルについて、いつ人が来ても良いように待機している。俺も自分のスペースに戻ってきて用意しておいた椅子に座る。とその前にモリオンの布をとってやった。
「大丈夫だったか? とりあえず人が来るまでまだ時間があるから、立ったまま待機できる?」
『おとーさまと触れ合っていたいです。』
「……悪いけど頑張って」
『はい』
そうしてシアンさんの方にも声をかける。
「シアンさんももう少し肩の力を抜いた方が良いよ。多分まだ人こないし。」
「ありがとうございます。大丈夫です。」
「そう、休憩したくなったら言ってね。代わるから。」
「大丈夫ですよ、主様。」
一応、ステンレスとアルミ製品の簡単な説明ぐらいなら俺も出来る。アレだろ、通販番組見たいにやれば良いんだろ? 「ヘイ、トム! この包丁を見てくれ!」「どうしたんだいボブ、包丁なんてどれも同じだろ?」「まあ、それは違うわ! トム!」みたいな。
まあ、休憩したくなったら代わるようにシアンさんに言って、俺は今度こそスペース奥に用意していた椅子に座る。
隣を見てみると、一応レイリー博士も展示物の前に椅子を持ってきて、誰も見ていないからかだらけた格好で座っている。
椅子に座りながらリラックスする。今日は天気も良く、日差しも適度で過ごしやすい日だ。こういった日は眠くなってくるな。
ガヤガヤと人の声が聞こえているが全て入り口近くや中心近くの離れたスペースの方からだ。
まだ人は来ないなと思って気を抜いていたら、割とすぐにやってきた。
「おう、やってるな。」
「ああ、レイヴンさんも来たんですか?」
「ボクもいるよ」
レイヴンさんとヴァーミリオンさんが見に来てくれた。
「さっき見てきたけど、入り口付近は盛況だったみたいだね。こっちに来るにしたがって人が減っていたけど」
「まあ、奥の方だしね。入り口付近に行ったって事はヴァーミリオンさん達はもう見てきたんですか?」
「いや、混んでいてよく見えなかったよ。だから、すぐにこっちに来ちゃった。もう少し空いたら見に行くよ。」
まあ、日中3日間開催されるのだし、空いているときに行けばいいのか。俺もドットカール博士のスペースなどには後で行くつもりだし。
「あー、ラリマー、ちょっと」
『はい、おかーさま』
「私ちょっとブラブラしてくるから。人が来たら……以前教えたとおりの対応をすれば良いから」
『分かりました』
早々に飽きたのだろうか、レイリー博士は『発表者、席を外しています』と言う紙をテーブルに置き、後をラリマーに任せるようで、立ち上がり俺達の方に声をかけてきた。
なおラリマーは展示スペースの中心でじっと立ったままだ。そこだけ小さな正方形の台のような物が置かれている。ラリマーのためのお立ち台として用意してきたのだろうか?
「あー、君達も一緒に行くかい?」
「いや、俺達はここにいますよ。今は混んでいるらしいですし、後で行きます。」
「そうかい、じゃあね。あ、悪いんだけどラリマーのことも見てやっていてくれ」
「分かりました」
他の展示物を見に行こうとしていたレイリー博士であるが、そんな彼女にレイヴンさんが話しかけた。
「何だったらオレが見ていようか?」
「本当かい? じゃあお願いするよ」
「ああ、分かった」
「あ、じゃあボクも一緒に行ってくるよ」
そう、俺達の方に声をかけたレイリー博士はヴァーミリオンさんと他の展示物を見に行ってしまった。代わりにレイヴンさんがレイリー博士がさっきまで腰掛けていた椅子に座った。
そういえばラリマー、今日は胴体部はメカボディーむき出しでは無く、その上からメイド服っぽい物を着ている。そういった格好をするとますます人間っぽいが、手や足が機械なのですぐに人間じゃ無いというのは分かるだろう。
モリオンの方はメカボディーむき出しで何も着せていないのだが……考えてみればこれって裸の状態なのか?
まあ気にしても仕方ないか。別に人間みたいに局部が見えているわけでは無いのだから。
それにしても人いないな。周囲の発表スペース側も人がまばらだ。端っこの弱小研究機関だから諦めているのか、ピーク時を理解していて席を外しているのか不明。残っている人も明らかにバイトと分かるチャラ男君ややる気のなさそうなオッサン、子供に番をさせているところもある。
シアンさん達は真面目に待機しているが、観客はまだ来そうに無い。
「……ぐぅ」
……レイヴンさんは椅子に座ったまま居眠りを始めていた。
ピーク時までここでずっと座っているのもな。暇つぶしの本とか持ってきた方が良かったか。
「そういえばシアンさん、周囲の人に挨拶した?」
「いえ、朝は皆忙しそうでしたので特にしていません。」
ふと気になったことを聞いてみると、そんな答えが返ってきた。確かにこの辺のスペースは小さいので今朝準備するところがほとんどだろう。隣なんか空きスペースだし。
「じゃあ、人もいないし今のうちに挨拶回りをしてこようかな」
「私も行った方が良いですか?」
「シアンさんはここで待っていて良いよ。……そうだな、モリオン。一緒に来るか?」
『はい、おとーさま』
「彼女は展示物としての役割もありますが良いのですか?」
「挨拶するだけだしね。観客が来る前に戻ってくるよ」
「分かりました。いってらっしゃいませ」
行こうとすると、なぜかモリオンが腕を組んできた。そこまで身長差もないしバランスは悪くないんだが、妙にピッタリとくっつくため少し歩きにくい。妙に胸を押しつけてくるのだが、モリオンってスレンダー美人って感じで作ったし、そもそも胸部分はメカだから硬いのよね。ちなみにお腹部分は丸く肌が露出している。
「あ、ラリマーも行く?」
『おかーさまにここにいるようにいわれていますので』
「そう、じゃあいってくる。ラリマーも人が来てない間は座っていても良いと思うよ」
『お気遣いありがとごぜーます』
「あ、うん」
ラリマーの方にも声をかけたが彼女は行かないとのことだった。レイヴンさんは……うん、寝てるね。
「じゃあいってくるね」
『いってきます』
「はい」
そうして俺は周辺スペースへ挨拶回りに行くことにした。
勇者達の近況も書きたいのですが……1章で別れてから登場してないはずなので、もうどんな奴等だったか分からなくなってきています。




