84話 技術研究ギルド発表会 1
そうこうしているうちにギルド発表会の日がやってきた。
シアンさん達の当初案である新素材を用いた武具類であるが、その新素材ってアルミ合金とステンレス鋼だった。
確かにアルミニウムって特殊な方法で生産されていたはずだから、この世界では『新素材』になるのか。ステンレスも歴史的には古くないはずだし、この世界では存在しないはずだ。
武器では無く、キッチン用品――ステンレス包丁やアルミ鍋等を展示するらしい。あと、様々なインゴットを並べて重さや強度を見てもらうそうだ。
一応、俺も色々と展示品について考えていた。
こういった場合は元の世界の製品を作ってガッポガッポ儲けると言うのが定番なのだろうが、あいにくとこの世界、何気に充実している。価格は高いし性能も今ひとつだが家電に変わる魔導具と呼ばれる物がある。遊戯関係もこの世界特有のカードゲームやボードゲームが既に存在する。
それに今回は展示スペースも小さいし、研究所の案内看板とキッチン用品を置けば一杯になってしまう。
なので、賑やかし要員兼マスコットとして小さい『招き猫』と『狸の置物』を作った。3Dプリンターで作ったので手間も材料費もそこまでかかっていない。まあ100円ぐらいのお土産や飾りとして使えないかなと思って。
俺達は展示物が少ないこともあり、会場となる広場への搬入は当日の朝で全く問題ない。持って行く物は展示物の他、展示物を飾る折りたたみテーブル(会議室にあるヤツ)とアキヅキ研究所と書かれた看板ぐらいだ。
レイリー博士も、当日の朝に自分で台車を押してくるらしい。展示物であるオートマタは自走可能だし、後はビタミンエンジンの資料を展示するぐらいらしい。本当なら実機も飾りたかったらしいが残念ながら安価なスペックダウンモデルは間に合わなかった。
ちなみに発表会で盗作されそうな物については先に研究開発ギルドに特許登録しておくのでその心配は無いそうだ。なので、ビタミンエンジンも既に登録だけは済ませている。
大きなスペースを貰っている大御所研究機関などは数日前から準備を始めていたりするので会場となる広場は既にかなりの人が出入りしている。
ギルドが用意するスペースはポールを立ててロープで区切ってあるだけの簡易な物だが、研究機関や教育機関によってはそのスペースに絨毯を引いたりテントを張ったり、高いポールを組み立て旗を付けたりと、人目を引くための工夫を色々と創意工夫している。
俺も手が空いたときに見に行ったが、皆せわしなく動いていたり、金槌の音が聞こえてきたりで……あれだ、文化祭前の学校みたいだった。あれって準備期間も楽しいよね。
会場が露天なので雨天延期なのだが、晴れていれば日差しがいくらきつくても決行である。日除けテントぐらい用意しておいた方が良かっただろうか? と思ったが、まあいいか。
あくまで偽装研究所なのだし、今回の発表についても『研究してますよ』と言うことをアピールできれば最低限の目的は達成される。勿論、お金儲け出来るならその方が良いのだが、下手に欲を出してぼろを出すのも困る。
俺も自作の魔導人形を作ることが出来たし。制作している間や〈モリオン〉に物を教えているときは何気に熱中していた。やはり目的があるのは良いことなのだろう。
そうして俺達は朝早くに自分たちの研究所のスペースに行き展示物を並べ始める。来ているのは俺とシアンさん、モリオンだ。一応荷物の運搬でA1ちゃん達が手伝ってくれたが、荷下ろしをしたら帰って行った。
隣のスペースではレイリー博士が同じように持ってきたテーブルの上に展示物であるビタミンエンジンやコアユニットの資料類を並べている。
〈ラリマー〉と〈モリオン〉についてはメイン展示物と言ってもいいので布をかけている。と言ってもオートマタであることは大きさでバレバレなんですけどね。発表会の定番らしいし。
「じっとしているんだぞ? 出来るか?」
『おk。おとーさま。……待機します。』
オートマタは人間と違って疲れを知らないので、エネルギーが切れない限り同じ姿勢で何時間でも待機できる。そしてエネルギーは昨晩満タンにしてきた。ところでそのスラングはどこで学んだんでしょうね?
目の前のテーブルにはキッチン用品が並べ終わったようだ。ここに立っていると、スーパーの実演販売員にでもなったようだ。
発表会の開始まで少し時間があるので、ちょっと歩いてこよう。
「シアンさん。ちょっと歩いてくるから、ここ任せてもいい?」
「はい、分かりました。いってらっしゃいませ」
シアンさんに声をかけて、会場を見て回ることにした。
会場は普段は公園などに使用されている広大な広場だ。街の中心からは少し離れた位置にあり、火災の際の避難場所や兵士の駐留などにも使用されたりする。
こう見て歩いていると、注目を集めようとカラフルな看板や展示品が多い。それと、やはり定番だけあって、見渡すと武器類やオートマタなどがいくつか見える。通路スペースは広く歩きやすい。元が広い敷地なので発表側のスペースを確保しても通路も大きくとっている。
開始前なので今のところ発表側の関係者しかいないが、色々な人がいる。いかにも研究者っぽい人から、学者っぽい人、ガテン系の人までいる。
そんな中一際大きなスペースと看板を見つけた。
「お久しぶりです。あの――」
「誰だい君は? 忙しいから後にしてくれ」
見知った人がいたから声をかけようと思ったのだが、近くにいた研究者っぽい人に邪魔された。
「おお、君はケイタ君だったね。この時間にいるということは君の研究所も発表を行うのだね」
だが、俺が諦めて立ち去ろうかどうか考えているうちに、こちらに気付いてくれた。
「お久しぶりです。ドットカール博士」
「ああ、久しぶりだね。」
「先生、お知り合いですか?」
「ああ、私の知り合いで……確かアキヅキ研究所という研究所の所長だ。」
ドットカール博士である。彼が、疑問を述べた研究者……助手に俺のことを説明してくれた。だが助手は「そんな研究所あったっけ?」と言った風な疑問顔だ。まあ、最近出来た研究所だし知らないのも当然だろう。
それにしても、さすが大御所だけあってスペースが大きくその中には複数の精密なマネキンがいた。男性型、女性型、それと男女の区別のつかない型がありそれぞれが侍従用の服を着ている。やはり用途としてある程度決まっているからだろう。
あと壁のような物を作ってそこに書類なども貼り付けている。ここからでは遠くて文字は読めないが図なども入っている。大きな文字で何とか読める部分……『新技術発見!?』『魔導人形の革命!?』など人目を引きそうなタイトルだ。
「ドットカール博士はやはり魔導人形がメインなんですね。」
「それはそうだよ。ウチは魔導人形で有名になったのだからね。」
「それにしても様々な種類がいますね。知り合いに聞いたのですが対話も比較的スムーズだとか」
俺はレイリー博士に聞いたことを話題に出す。それにドットカール博士は苦笑しながら返事をした。
「ああ、と言ってもまだまだだけれどね。……君の研究所はどういった物を展示しているんだい? 時間が出来たら見に行くよ」
「ありがとうございます。ウチは魔導人形が1体と新金属を用いた調理器具を展示しているんですよ。あ、それとレイリー・サンダルフォンと言う研究者と合同スペースなんですよ。」
「ほう、オートマタか。他人の作品というのはやはり興味をそそられるね。新金属というのも興味深い。後で見に行くよ。と、それとレイリー博士か。優秀な学者だと聞いているが……彼女と知り合いだったのかね?」
「ええ、まあ」
そういった会話をしていると、後ろからドットカール博士を呼ぶ声が聞こえてきた。
「おっと、展示品の最終チェックをしないとね。悪いね。」
「いえ、俺も忙しいときにお邪魔してすいません。」
そう言ってドットカール博士はすぐにチェックに戻っていったので、俺もその場を離れた。
そうして巡っているがやはり論文の類いは少数なのだろう。数カ所、紙を壁のような物一杯に張り出しているスペースを見つけたが、その他は展示するにしても紙1枚に纏めたりレジュメを作っていたりする程度だ。
レイリー博士やドットカール博士もレジュメ方式だったはずだ。確かレイリー博士は百ページ近い詳細資料も持ってきており、希望者にはそれで説明するという話だった。
その他、魔導馬車をスペース一杯に置いているところがあった。モーターショーと言うよりデパートの一角で数台並べている感じのスペースだ。
見た目は普通っぽかったが、『乗り心地が段違い』との謳い文句があった。
新魔法を開発したと言うところもあった。その魔法の実演の時間が書いてある看板が見えた。と言っても限られたスペースで行うので攻撃魔法の類いでは無くてバフ系の魔法だ。
こういった地味なのが何気に役に立つんだよな。と思いつつ、近づいて説明をよく読んでみると、『今までの魔法より詠唱時間を25%短縮!』と書かれていた。
「お、兄ちゃん、興味があるのか?」
展示スペースにいたゴツいおっちゃんが声をかけてきた。どう見ても研究者には見えない。ベテラン冒険者って感じだ。
「魔法の実演はそっちの看板にあるとおりだ。見に来てくれよな!」
「そうですね、時間があれば是非」
そう社交辞令を返して、早々のその場を立ち去った。そうして色々と巡ったが皆違った工夫をしていて歩いているだけでも面白かった。
そうしているうちに発表会の開始時間が迫ってきたため自分たちの展示スペースに戻った。
更新速度がヤバいことに……




