82話 “ジェミニ”プロジェクト 2
「いや、無理だよ! なんだいこりゃぁ! 量産できないじゃないかっ!!」
工場の司令センターでの出来事。
それは俺のボディー設計図やらプロキオンちゃんにより洗練化されたソフトウェアを見た際のレイリー博士の悲鳴だ。頭を抱えながら泣きわめいている。
まずボディーについては希少金属や素材を多用しさらに人工筋肉をズレなく人間と同じような配置にした上に高出力のインホイールモーターなどによる関節機構を採用。……したのであるが、この施設って今のこの世界と加工精度が段違いである。1/1000㎜単位で加工されたそれらはこの工場以外で生産不可能。たとえ出来たとしても莫大な費用と時間がかかるため、商品化、量産化した暁にはもれなくメチャクチャ高級品になること間違いなしな代物らしい。
さらにコアユニット。洗練化と言いつつもはや別物。レーザー加工機でナノメートル単位にて刻まれた魔方陣に髪の毛の数分の一という細さの配線群。各種プリント基板。勿論ここ以外では作れない。
「うわぁーん! 私の儲け話がー! 大体なんだい、頭部にコアユニットって、普通は胸に入れるんだよ!」
「いや、コアユニットって人間で言う脳ですよね。だったら頭に入れるんじゃ?」
どうもコアユニットって動力と一緒に胸部に搭載するのが一般的らしい。俺はコアユニットは“脳みそ”だと思っていたので頭部にそのスペースを作っていたのだが。
なるほど確かに各種センサー器官の集中する頭部にコアまで入れてしまってはリスク管理に問題が出るかも知れない。頭が壊れたら終わりだ。……まあ、人間もそうなんですけどね。
かろうじてレイリー博士の新型動力炉――ビタミンエンジン(命名、レイリー博士)――は量産可能な程度まで簡略化されているらしいけれど、やはりこれもプロキオンちゃんが高効率化、高出力化を行った結果、かなりの高額商品になりそうな予想。と言っても魔石を使用した際よりもコストパフォーマンスなど総合的には良いらしいのだが……原子炉積むよりガスタービンエンジン積んだ方がいいよね。と言うような状態らしい。
ちなみにビタミンエンジン。レモン1個で数~十数日稼働するエネルギーを確保できる計算だ。
「うぅ~~~」
レイリー博士がめっちゃ涙目でこちらを見ていらっしゃる。
「いや、ほら性能が上がるのはいいことじゃないですか。高性能高品質で高価格は世の常ですし。もしかしたら国とかから依頼が来るかも。それに動力炉は問題ないんですよね? そっち新エネルギーってだけで注目度ダンチですよ。コアユニットも、これはワンオフ機で実際の商品とは異なりますとか言って、デチューンバージョンとか作ればいいわけですし。」
「技術料ははずんでくれるんだろうね?」
「勿論ですよ! 基礎はレイリー博士の発明ですから。」
そう言ってなんとかなだめすかした。
◇◇◇
さて、レイリー博士の発明した新型動力“ビタミンエンジン”であるが、こちらもシミュレートが終わって実機の組み立ても終了済みとなっている。
と言ってもプロキオンちゃんがレイリー博士の基礎研究スペックを(勝手に)高効率化と高出力化、さらに小型化までしてしまった結果、量産性に多少難のあるものになってしまい、通常の魔導人形に乗せるには少々高スペック、高価格となってしまっている。
『シミュレートは完璧なの。実機で1年以上かかる試験をわずか3日で終えたプロキオンを称えるの!』
プロキオンちゃんは自信満々満面の笑みでそれを提出してきた。
「凄いよプロキオンちゃん。でもこれの低価格版とかも作って欲しいな。天才のプロキオンちゃんなら出来るよね」
『フフン! 仕方ないの。性能を落とすのはイヤだけど天才のプロキオンに不可能は無いの!』
そう言って低価格版も後日作ってくれた。
ちなみに今回の高性能版はレモン1個で “ジェミニ”の機体が一週間以上稼働出来る。通常のオートマタならその数倍の稼働時間が確保できるのだが、低価格版だと性能がその数分の一以下にまで下がってしまった。それでも長期的に見れば魔石よりは良く、カスタマー側の好みの差にまで落とし込むことが出来た。
なお、この後の世でビタミンエンジンはベ○タテープやM○Cパソコンのように一定数の需要はあるもののシェアはかなり低い状態が続くことになる。
◇◇◇
「違うよ! ここだよ! そう、先っちょが……あんっ!」
『艦長は変態なの、こんなことをプロキオンにさせるなんて!』
さて今現在、残りの部分、ボディーを鋭意制作中である。どうもレイリー博士からも外見に注文が入ったので、しょうがなくプロキオンちゃんにも手伝って貰っている。
スローガンは『機械と人間の融合』だ。いかに違和感なく機械パーツと肌パーツをなめらかにつなぎ合わせることが出来るかと言う事で四苦八苦している。
うなじから肩にかけて肌パーツのなめらかな質感に修正を入れ、プロキオンちゃんに再計算させたら、なぜか変態扱いされた。
勿論、以前プロキオンちゃんに言われたことも忘れていない。空いた時間は機体に向かい、AIと話をするようにしてる。
『お とうさま、おはようございました』
「ちがうよ。“おはようございます”だ。それは過去形にはならない。ちなみに今はお昼なので“こんにちは”だ。」
そんな些細な間違いも指摘してやらないとそのままになってしまう。
ボディーの設計図が既にあるので、レイリー博士の機体の頭部と胴体部はすぐ組むことが出来た。この設備ならある程度データを入力すれば基本的に機械任せにしておける。
その結果、偽装工場内に同型機が2機並んでいた。
どちらも頭部と胴体部しか出来ておらず手足については未だ製作途中である。話しかけるに当たって寝かせたままだと対話しづらいと思いハンガーに補助を付け立てさせている。
「凄いね! ここまで人間に近く、そして会話も完璧! これは革命だよ!」
『おかーちゃま、ナニを喜んでいルのでしょか?』
レイリー博士は彼女たちと話すときは終始ご機嫌だ。自分の教えたことをすぐに飲み込んでいくAIに興奮しているのか、自分の作品の出来に興奮しているのか。
まあ、人間に近いかと言われればよく分からない。確かに外観は人型で顔は人間のようだが分割線が入っているし、表情も乏しい。体は相変わらずメカボディーに覆われている部分の割合も多い。
会話も完璧とはほど遠いと思う。少し片言や、言い間違いが入る程度は可愛い方で、分からず黙り込んだり、全く意味不明の言葉を発したりするときがある。アクセントも所々おかしい。だがレイリー博士に言わせればこの程度ですら凄く革命的な事らしい。
ちなみに俺が作った機体はなぜか俺のことを“おとーさま(お父様)”。レイリー博士の機体はレイリー博士のことを“おかーさま(お母様)”と呼ぶ。じゃあコアユニット開発の一翼を担ったプロキオンちゃんは何と呼ぶのだろうかと思ったら“大母上様”とかよく分からない言葉で呼んでいた。
『プロキオンのことを変な名前で呼ぶんじゃ無いの!』
そうして数日が経過する頃にようやくボディーが完成した。動力(魔力電池、ビタミンエンジン共)は既に完成しており胴体に接続済みである。
「よし! 完成したぞ!」
「やったよ! 素晴らしい出来だね!」
『おめでとうございます。おとうさま。』『おめでとうございます。おかあさま』
その言葉に抑揚の少ない言葉で賞賛の声をかけてくれる目の前の2機。
そう、目の前には俺達の集大成である2機の魔導人形が並んでいた。
「おめでとうございます。主様。」
「へぇー、マスターってそう言う外見が好みなのか?」
この2機の正式ロールアウトにシアンさん達もやってきてくれた。
“ジェミニ”プロジェクト
外見的には10代後半程度の女性で体の起伏は少なめ。ショートカットだ。
顔はキリッとした顔立ちにデザインしたつもりだが、表情の再現が難しく少し無表情っぽくなってしまった。体や手足などはメカに覆われているようにしつつも、デザイン的には水着やアーマーを着ているようにみえるようにデザインした。肘や膝、股関節などはインホイールモーターや油圧シリンダー等を使用したロボットボディーであるが、頭部と胴体は人間っぽく人工筋肉により稼働する。頭部は100%近く肌素材を使用しているが、胴体は先ほど言ったように金属部分が覆っており肌の割合は半分程度。首元や腹部等だ。勿論、金属部分を脱がしたら全裸が見れる、などと言うわけでは無い。なお、ロボットなのにヘソがあるのは気にするな。
胸や股間なども金属パーツだ。おっぱいを揉めたりはしない。
その他には肩や太モモなどは肌素材を使用している。
以前も話したロボットを擬人化したような外観だろうか? いや、それよりはスレンダーだ。各金属部も美しい曲線(高級スポーツカーのような)を心がけて製作したはずだし。ロボ娘とサイボーグの中間程度だろうか。遠目に見ればメカスーツを着ている人間のように見えないことも無い。
1番機である俺の機体は金属部分を黒と赤のカラーリングで黒髪。
2番機であるレイリー博士の機体は白と青を基調にしたカラーでスカイブルーの髪を持つ。
動力部分はそれぞれ異なるが、体の造形は同じである。
「やあ、ロールアウトおめでとう。ところで、彼女たちの名前は決まっているのかな?」
そう言ってきたのは、ヴァーミリオンさんだ。彼女などはちょくちょくこの工場に顔を出して、2機の話し相手なども務めてくれた。その他にもJC14ちゃん達もたまに巡回中に2機とおしゃべりしていたりする。そのためこの2機はこのアキヅキ研究所で働く全員の名前を覚えている。JC14ちゃんに関しては俺達同様、個々の識別までは出来ないが。ネルソンにも会わせてやったら10分ぐらいにらめっこをしていた。
「ええ、黒い方が俺の製作した機体で、名称は〈ジェミニ・モリオン〉と言います。」
「そして、白い方が私が製作した……うん、私が製作した機体で〈ジェミニ・ラリマー〉と言う」
『よろしく、お願いします。〈ジェミニ・モリオン〉です。』『よろしく お願いします。〈ジェミニ・ラリマー〉です』
全く同じタイミングで名乗りを上げる2機。やはり元が同じAIなのである程度は息も合うのであろう。
え? こんなカッコイイ名前誰が考えたかって? んんっ~、俺だよ!
なお、レイリー博士の方の機体名称については、俺が〈モリオン〉と名付けようとした時点で、「いい響きだね、どこの言葉だい?」と聞いてきたので黒水晶を意味すると言ったら、「じゃあ白や水色は?」と聞き返されたのでよく知らないと答えた。その後同じような感じにした方が格好いいよねと、白と水色の鉱石の名前を片っ端から言っていったがどうやら〈ラリマー〉が気に入ったらしい。確か水色の石の一種だったはずだ。ただ天然石とか鉱物って混ざり物で色が変わったりするし確実に水色かどうかは知らない。
そうして自己紹介も終わったところで機体を固定していたアームや配線類を外し、いざ正式に稼働となった。
そして――
ガシャン! ガシャン!
――1歩目でコけた。
それぞれのオートマタに名前が付いたので、題名のプロジェクト名は多分今後出てこないと思います。




