80話 オートマタ制作 3
「凄い! 凄いね! なんだいこれは!?」
翌日、レイリー博士からオートマタのコアユニットの講義を受けようとして、なんとはなしにアキヅキ研究所に招いてしまったのだが、そういえばここは偽装の自動化工場施設として稼働していたのだった。
今現在、俺達は偽装工場のコントロールセンターにいた。ここから工場各所へと指令やデータを送ったりするため、部屋の内部はコンピューター類が並んでおり、それらを保護するための空調設備も稼働している。清潔、快適な部屋だ。又この部屋のコンピューターは別の建物にあるスーパーコンピューター(地下施設の型落ち品)にもつながっている。極端な話この部屋から出ずにシミュレーションから製造まで全ての作業を行うことも出来る。
ここにいるのは俺とレイリー博士、それとA201ちゃんとA202ちゃんだ。A201ちゃんは俺の、A202ちゃんはレイリー博士の助手兼サポート要員として、シアンさん達が手配してくれた。皆……なんて気が利く女性達なんだ。
ちなみにA2ちゃん達はサポートのため服装はいつの通りだが武器の類いは携帯していない。
プロキオンちゃんはレイリー博士がいるためか、今のところ話しかけてきたりしていない。持ってきた端末のモニターにも映っていないが、ここには監視カメラもあるし多分モニターはしているのだろう。
「凄い! 高度な機械類がいっぱいだ。あっちは……触っていいのかい? これはどう使うんだい!」
「少し落ち着いてください、順に説明しますので」
「私はいつだって落ち着いているよ。」
ウッソだー。興奮しっぱなしじゃないか。
まあある程度技術を開示するのは別にかまわない……と思う。レイリー博士を信用している証だ。……信用できるよね?
まあ、それ以外にもこの国やこの都市、研究開発ギルドは研究者や技術者の権利や資産の保護に積極的だ。無意味に接収されたり、理不尽な要求をされることはほとんど無い。この国は対魔族の最前線であり技術立国でもあるので優秀な研究者に逃げられるのを何より恐れていると言う事情がある。と言ってもたまにワルター伯爵のように勘違いする権力者もいるが。
「えーと、まずこの子、A202ちゃんと言います。この子がレイリー博士のサポートとしてついてくれます。専門の研究者ではありませんので基本的にはレイリー博士の補助として使ってやってください。」
「そうなのかい? よろしく。レイリー・サンダルフォンだ。」
「A202だよ。よろしく。レイリーちゃん? さん? あ、年上だから“さん”か」
お互いに挨拶して握手をする。名前が番号のところなどもう気にもしないんですね。「おそらくこれらはケイタ君の管理下にあるんだろう。なら私が教えて貰ったところで、私は感想以上の口出しは出来ないだろう。なら秘密のままというのも面白い」とかなんとか。
「この辺りの機械については――」
そうしてそれぞれの機械についての説明を行っていく。と言っても俺からは大体の役割や使用用途についてのみだ。
「――使用方法の詳細についてはA202ちゃんよりその都度説明を受けてください。」
「分かったよ。ところで私、ここに永久就職したくなってきたんだけれど……」
「その辺りは俺の一存では答えられないので、又今度。」
「そうかい、期待して待っているよ。それじゃあ始めようか。」
そう言って、レイリー博士は背負っていたリュックをテーブルの上に置いた。そこから出てくるのはオートマタのコアユニットの部品だ。以前はレイリー博士の研究所で教えて貰っていたが、今は無いのでここで学ぶことになる。
そうして今日もレイリー博士の講義が始まる。講義は実践的で、実際の部品を使って行われる。ここがこういう役割だとか。これはこういう意味だとか。
コアユニットの中は複雑な魔方陣が何重にも描かれており、さらに複数の材質や魔石、魔法液等により構成される。これらが人間の脳の役割を果たすらしい。電子機器のCPUや基板の役割のようである。
レイリー博士は複数のモデルを持ってきており、それぞれの違いを説明する。
「これが私オリジナルのコアユニットだね。で、こっちがギルドが公開している汎用モデル。後こっちはドットカール氏がお金を取って公開している改良モデル」
そう言って、色々と並べてある分解されたコアユニットを差していく。確かにそれぞれ魔方陣であったり各部品であったりの配置が違う。
ギルドの汎用モデルというのが一番シンプルなのだが、これが基礎モデルと言うことなのだろう。
「見て貰ったら分かるようにここの魔方陣の記載や構成物が異なるだろう。ここが知能に影響してくると言われる部分で、ここの洗練具合によってより人間に近づくと言われている。さらに――」
そうしてある程度話が一段落したところで、
「今日はこのぐらいにしておこうか? 理解したかい?」
「ええ、あらかたは。分からないところは後日まとめて聞きますよ。」
そう言って講義は終了になった。
その後は、オートマタの製作になるのだが、
「そういえば、レイリー博士のオートマタは壊れてしまったんですよね。又新しく作り直すんですか?」
ふとした疑問を聞いてみる。発表会までもう時間があまりないと思うのだが、どうなのだろう。俺はこの施設でオートマタの部品を製作しているので、他の研究所のことは分からないのだが、オートマタ1体作るのにどの程度の時間がかかるんだろうか知らないんだよね。
「ああ、そのことか……もう時間も無いし、発表する新技術の部分や改良部分の他は汎用品で間に合わせようと思っていたんだ。後は論文形式にして発表かな。」
「新技術ですか?」
「そう、一つはこのコアユニットのさらなる洗練化による表現や応対範囲の拡大。それと動力炉と動力源にも新しい技術を使おうと思っているんだ。」
「なるほど、コアユニットと動力ですか。内臓部分ですね。なら外側はあのデッサン人形に?」
「そう思っていたんだけれど……ねー」
そう言いつつ、ススッと距離を詰めて、腕に抱きついてくるレイリー博士。あいにくと体つきは幼く、起伏も少ないが……女の子の体って柔らかいよね!
「ねぇ、ここの施設使わせて欲しいなぁ~」
抱きついたまま、そんなことを猫なで声で言ってくるレイリー博士。俺の胸に“の”の字を書いているのだがこれは何の意味があるんだろう。
「えっとその……」
これらは使わせてもいいんだろうか? 当てもなくさまよっていた視線がふと講義中、しゃべりもせず、壁に背を預けスマホをイジって待機していたA2ちゃん達に向かう。時間の潰し方がリアルJKの様だ。(実際には端末のカメラで講義風景を撮影していたのだが)
まあとにかく、A2ちゃん達がしゃべり始めた。
「地上施設であれば問題ないってさ。ただし言いふらして問題を呼び込まないようにとの条件付きだけどね。」
そうA201ちゃんが答えてくれた。
「だそうです。別にいいそうです」
「本当かい! やったー! じゃあ早速取りかからないとね!」
レイリー博士は俺からぱっと離れると両腕を宙に突き出してガッツポーズ。そしてA202ちゃんの元によっていって肩を抱いた。
「なら早速使い方を教えてくれたまえ。時間は有限なんだ。頼むよ!」
「はあ、分かりました。」
そう言ってA202ちゃんの手を引き、近くのコンピュータデスクに座ったので俺もその近くのデスクに座る。A201ちゃんはサポートをする気で俺の背後についてきた。
「ではまず――」
『話は聞かせて貰ったのん!』
ヴン! と何もしていないのにモニターが起動し少女の顔がアップで映る。
「わっ! プロキオンちゃん、いきなり出てこないでよ」
「誰だい?」
モニターに映ったのは、プロキオンちゃんであった。当然のことながら、誰か聞いてくるレイリー博士。
「あー、彼女はプロキオンと言って……ここの主です」
「そうかい。よろしく。プロキオンちゃん。レイリー・サンダルフォンだ。」
あれ? とっさに考えた適当すぎる言い訳を信じたぞ? いいのかそれで?
『よろしくなの。プロキオンはプロキオンなの!』
相変わらず元気のいい少女だ。ところで何をしに出てきたのであろうか。俺はモニターに向かって……違うな。その上についているウェブカメラ(だと思う)に向かって話しかけた。
『プロキオンの予想では時間が足りないの』
「そうなの?」
『レイリー博士とやら、さっき言っていたことを纏めるとプロキオンの推測では時間が全く足りないの。まず、コアユニットの最適化はどの程度出来ているの』
「え、ああ、9割方は出来ているね。あと数日もあれば完成させられるよ。」
『では、次に言っていた動力炉についてはどうなの』
「そっちは……まだ実機は出来ていないね。いや、でも理論は完璧なんだよ? 論文としては発表できると思う。」
『ということなのん』
なるほど。新技術の方も作っていかないといけないのに、合わせてガワもとなると時間が足りないのか。でも、ここの施設を使えばおそらく簡単なマネキン程度ならすぐ出来ると思うんだが?
『艦長の考えが手に取るように分かるの! それではダメなの! プロキオンが関わった以上今まで以上を目指すの!』
「そ、そうですか……でプロキオンちゃんはどうするつもりなの?」
モニター内の十代前半の少女にダメ出しされた。
『まずボディーについてはちょっと残念だけど妥協して、艦長と共通のフレームを使用するの。それで時間短縮を行うの。それと、コアユニットと動力炉についての全てのデータをこっちに渡すの。プロキオンが理論検証からシミュレートまで全部やっておくの。試作機を作らずコンピューター上でシミュレートして時間をさらに短縮するの』
「え? あの、一応新技術って私のオリジナルで部外秘なんだけど……これでお金を稼ぐつもりだし……」
レイリー博士は尻すぼみになりながらも、さすがに全ての技術開示は出来ないと言うが
『つべこべ言わないの! プロキオンに任せておけば素晴らしい作品が出来ること請け合いなの。ちんけな金儲けなんか比にならないぐらい儲けさせてやるの!』
プロキオンちゃんがさっさとよこせと催促するが、レイリー博士は疑問顔だが最終的にはその勢いに折れる事になった。
「本当に儲かるんだろうね? ダメだったら技術料と慰謝料貰うよ!」
『任せておくなの!』
ちょっと涙目になりながらも渋々新技術を公開するレイリー博士。それに対してプロキオンちゃんはどこまでも自信満々だった。
書き溜め分を利用して週一定期更新を少しやってみましたが、自分には合っていないような気がします。なのでまた不定期更新に戻るかも。




