79話 レイリー博士の再出発
レイリー博士の家の片付けは投入したマンパワーにより簡単に終わった。
その後、レイリー博士の私物や研究品を積んだトラック類は、アキヅキ研究所敷地の偽装倉庫の一つに止め置かれることになった。
ちなみにこの倉庫、偽装工場の隣にある。と言うか偽装研究所/工場類の建物は大体まとまって建造されている。
「いやー、凄いねー。簡単に片付いちゃった。」
「まあ、皆働き者ですしね(スペックも高いし)」
その後、家で仕事後のコーヒーを飲みつつ雑談。
「レイリー様、少々こちらへ」
「ん、分かった。」
シアンさんがレイリー博士を呼んだので、俺もついて行く。屋敷を出て向かった先は俺達が購入した広大な敷地、その隅っこにある小さめの家だ。元は貴族などの使用人用の住居だったらしい。
「こちらをレイリー博士の住居として使用して貰おうと考えていますが問題ないですか?」
「え? あ、いいのかい、本当に?」
レイリー博士はよく分からないという風な顔で俺を見てくるのでちゃんと言っておく。
「別に使っていない家なので問題ないです。勿論お金は取りますよ。支払期限無し、利息無しで結構ですが……ちゃんと払ってくださいよ」
「もちろんだよ!」
これはシアンさん達とも話して決めていたことだ。一方的に与えたり与えられるというのは対等な立場とはいえない。募金程度ならともかく、一軒家をポンと与えたりするほどお人好しでも無い。
レイリー博士とは今まで通り良き関係でいたいのだ。なので、お金関係はちゃんとすることにしようと思っている。先ほどの期限と金利については、特にこの件でお金儲けをする必要も無いし、レイリー博士が借金を踏み倒して逃げたりしないだろうという信用による物だ。
後、この家は地下施設と干渉していないため、レイリー博士が使っても問題ないと言うのもある。
ちなみにレイリー博士の元の借家より敷地面積、床面積、部屋数、全てにおいて勝っている。大人数が住むことを考慮して頑丈でもある。
「持ってきた荷物については、後でこちらに運ばせておきます」
「何から何までありがとう! この恩は絶対返すよ!」
「必要以上に返す必要ありません。主様の研究において最大限の優遇処置をお願いします。」
「主様ってケイタ君のことだよね。任せておいてよ。一宿一飯所じゃ無いからね。恩はちゃんと返すよ!」
「それであれば問題ありません」
そうして話し合いは終わった。
さてその後であるが、昼食を皆でとった後……
「美味しいよ! 最近は研究にかかりっきりで、まともなものを食べていなかったからね!」
ガツガツと女性にあるまじき食べ方で食事をかき込んでいるがまあいいだろう。なんとなくこういう人だというのは分かっていたし。
さてその後であるが、昼食を皆でとった後、今日の予定はレイリー博士からオートマタのコアユニット部分について学ぶ予定だったのだが……
その前に、研究開発ギルドへと足を運ぶことになる。
レイリー博士が俺のところにいると言う事でアキヅキ研究所への一時的な移動など書類を整理するためだ。
勿論、最終的にはレイリー博士は自身の研究所に戻るのだが、今のところ新研究所(俺達が紹介した物件)を購入するだけのお金が無く、返済の目処が立っていない。
そこでお金を少しでも工面するため、一時的に俺の研究所へと移籍する事になる。表向きはアキヅキ研究所に期間的に所属すると言う事になる。
レイリー博士クラス(国立大主席研究者)となると給料や技術料など、結構な金額になるらしい。まあ、それウチが払うんですけどね。
なんで貧乏研究所なんてやっていたんだろう。この人のスペックや肩書があればもっと稼げるはずなんだけれど。
「めんどくさいな~。書類の書き方なんてもう忘れちゃったよ」
そうブツブツと言いながら、書類に記入していくレイリー博士。たまに俺(アキヅキ研究所所長として)のサインが必要なので俺も一緒にいる。
ここにはA1ちゃん運転の高機動車でやってきた。珍しいだけの魔導馬車だと思っているレイリー博士はもはや何の疑いも無く高機動車に乗っている。
「あ、これもお願い」
そう言って又サインの必要な書類を渡される。内容を見ると、『技術研究ギルド発表会にて合同研究を行う』とか『展示スペース変更』とかあった。
「発表会の展示品はおシャカになっちゃったからね。ケイタ君に教える傍ら私も一緒に作り直そうと思うんだよ」
「なるほど……」
一ヶ月後(既に1ヶ月を切っているが)の発表会となると、おそらくレイリー博士はアキヅキ研究所で働いている途中であろう(働くようなことがあるのかどうかは別として)。書類は、アキヅキ研究所のスペースの隣にレイリー博士の展示スペースを持ってきてさらにスペースを合体させてしまおうと言う物であった。
これで広さは2~3畳から6畳程度の大きさになることになる。
元々オートマタの制作についてはレイリー博士からコアユニットの技術供与を受けたことを周知する必要があったし、特に問題ないな。
ちなみにレイリー博士も展示品としてオートマタを制作していたらしいが自宅の崩壊で下敷きになり壊れてしまったらしい。それで俺に教える傍ら新たに作り直そうと言うわけだ。
やはりインパクトもあり各研究所で違いも明確なため魔導人形は展示品としては定番らしい。
その他に多いのが武器関係だ。昔は武器のみの見本市のようになった時もあったらしい。やはり成果が分かりやすく、また商売にもつながりやすいからだ。
逆に論文なんかは敬遠されるらしい。どうも長ったらしく専門用語が入り交じった文章をちゃんと読んでくれる人が少ないことが原因だそうだ。しかし、過去にはそれで有名になった人もいることはいるらしい。個人的には新魔法や新しい発見等、こういった方法でしか展示できない物もあるので重要だと思うのだが。
そうこうしているうちに書類を全部書き終わったようで、レイリー博士は椅子に座りながら伸びをしていた。
そして研究所に戻り、さて、これからオートマタの作成だと言いたいところだが、書類作成に思ったより時間をとられてしまい。もう日も暮れてしまっている。そのため今日はお開きとなった。
「美味しい、美味しいよ!」
「ありがとうございます。」
レイリー博士、自宅があるはずなのに、なぜかウチで夕飯を食べていた。別にいいんですけどね。今日の夕食のメニューはアークさん作のビーフシチューだ。付け合わせにシーチキンサラダ(っぽい物)もある。うん、確かに美味しいね。
「いやー、一人暮らしだとこういうの面倒になっちゃうからね。」
「はあ、まあ分かりますが」
そうして夜は更けていった。
◇◇◇
あ、ちなみに以前シアンさん達に指示していた勇者達の行方だけれどすぐに分かった。
今は俺達のいる、このグローリアス公国の最西にあるアルビオンという城塞都市にいる。そこは魔族との最前線の都市であり、現在、勇者パーティーはこのアルビオンをホームベースにして魔族と戦っていると言う情報だ。アルビオンを訪れていた冒険者や商人など複数筋からの情報なのでおそらく間違いないだろう。
この勇者パーティーにも連絡を取らないと、と言う事で、すぐに手紙を書きアルビオンに向かうという商人に手数料を払って手紙を預けた。一応宛先は“東雲君他勇者パーティー各位”にして差出人は“秋月啓太”と本名をこの世界の文字と漢字の2種類で記載しておいた。“至急”と赤字で記載もしておいたので、これなら彼等の目に触れたら優先的に見て貰えるはずだ。
さらに念のため小型の使い捨てビーコンも一緒に入れておいた。
内容は「当方情報収集に進展有り。至急会って話がしたい。」といった内容だ。ちゃんとした話は顔を合わせて行った方が良いとの判断から詳細は記載していない。場合によっては精神面のケアが必要になるかも知れない。




