76話 元気いっぱい
「この世界は素晴らしい!!」
起き抜け一番感嘆の声を上げる俺。起きたら、朝方でレイヴンさんとヴァーミリオンさんはもういなかった。
父さん、母さん、俺この世界で生きていくよ。
ええ、見事にハニートラップに引っかかりましたが、何か?
ぐぅぅぅ……
いきなりお腹が鳴った。そういえば昨日は何も食べていないくせに運動をしたからな。
……運動をしたからな!(キリッ
俺は普段着に着替えてから、キッチン/ダイニングに向かった。
「あら、主様。おはようございます。」
キッチンにはシアンさんがいて、朝食の準備中だった。アークさんもいて一緒に手伝っている。レイヴンさんとヴァーミリオンさんはまだ来ていないようだ。
「あらー……けいちゃん、何か臭うわね」
俺の近くにきたアークさんがそんなことを言ってきながら顔を寄せてスンスンと鼻を動かす。俺はビックリしたので一気に離れた。
「あ、ああ、依頼から帰ってきた後、風呂に入らず寝ちゃったからじゃ無いですかね? 汗臭いですか?」
まあ、汗臭いのは本当だ。理由は……
「主様、昨日は食事もとっていませんでしたね。朝食は少し多めにしておきました。」
「あ、ありがとうシアンさん。確かにお腹減ってるね。」
「うーん、……そういうことにしておくわね~」
シアンさんが絶妙なタイミングで話に入ってきてくれたのでそれに乗っておくことにした。アークさんは……何も言ってこないし黙っとこう。
「おーす……」
「おはよー」
ちょうどいいタイミングで、レイヴンさんとヴァーミリオンさんもやってきた。レイヴンさんは少しけだるげでラフな服装をさらに着崩している。ヴァーミリオンさんはいつも通り元気いっぱいといった感じだ。
その顔を見た俺は顔を真っ赤にし……って思春期の中坊かよ。クールだ俺!
レイヴンさんとヴァーミリオンさんはそんな俺の反応をよそにさっさと自分たちの席に着いてしまった。
俺も慌てて自身の席に着くと、シアンさん達によって朝食が並べられていく。シアンさんが言っていたように朝食にしては量が多めだ。
「いただきます」
そのかけ声と共に皆が食事を始めた。
ちなみに『いただきます』は俺が広めた。
◇◇◇
「主様、お疲れのところ申し訳ありませんが、こちらを。研究開発ギルドからの連絡です。」
食事を終えて、食後のコーヒータイムとしゃれ込んでいるときに、シアンさんから何かが書かれた紙を渡された。内容を見ると、研究開発ギルドからのお知らせ用紙だった。
え? 「お疲れのところ」ナンノハナシカナー? (なお、シアン的には精神的ストレスの話のつもり)
「何々……研究開発発表会?」
そこに書かれていたのは、研究開発ギルド主催の発表会が約1ヶ月後に行われると言うお知らせだった。内容を良く読むと、大規模な会場(露天)で研究発表を行うらしい。現代で言う見本市のようなもので、出展者側の他、一般人も見学にやってくるらしい。最新の技術発表の場として他国の重鎮や軍関係者等も大勢来るようだ。
そこで見いだされたり目をつけられたりして、大規模な出資や商談などにつながることも多々あるとのこと。
基本的には研究開発ギルドに登録している研究機関は参加資格がある。参加するかどうか、スペースはどの程度必要かというのはかなり前に申請が必要らしいのだが、どうもシアンさん達が行ってくれていたらしい。俺達のアキヅキ研究所は会場の端の方に小さなスペースを貰っている。シアンさん曰く、申請日が遅かったので隅になったそうだ。スペース自体も小さく2~3畳程度である。
これだと、大型兵器の開発を謳っているウチの研究所は出せるものが限られてくると思うのだが。まあ、ギルド自体への登録が最近だったし仕方ないのか。
「何を発表するのかは決まっているの?」
「いえ、特には。」
「そうか……そうだ、皆そろってるし、ちょっとこの場で言っておこうかと思うんだけれど。」
「何でしょうか」
食後ののんびりタイムとして皆、まだダイニングテーブルにそろっている。
「あーと、皆知っていると思うけど、俺は元の世界に帰れなくなった訳だが……悲観すること無くこの世界で生きていくことを決めました。そこで皆には改めてよろしく頼む。いや、よろしくお願いします。」
そう言って俺は皆に向かって頭を下げた。
そう、俺は心機一転この世界で頑張っていく決意をしたのだ。決して家族よりも女性を取ったわけでは無い。
それを皆は黙って聞いていて、その後一斉に皆から返事があった。
「「「こちらこそよろしくお願いします。」」」
◇◇◇
あの後、シアンさん達に、勇者の情報を集めるように指示を出した。人類側の技術では日本に帰還できないことを伝えるためだ。
勇者なんて有名人、今どこにいるのかぐらいの情報は簡単に集まるだろうと予想している。その後、アポイントメントを取り付けられるかは別にして。
もう一つのほう、研究開発ギルドの発表会については、シアンさん達は新素材を用いた現用の武具類の展示を候補に立てていたらしい。新素材というところがミソで、ようはウチが独占できるようなものであれば安定的な収入源としても期待できるとのこと。
ただ剣や槍の延長線の武器と言う事でインパクトは薄い。まあ、研究所は偽装なのであまり目立つ必要も無いのだろう。
一応、俺の方でも何か出せるものが無いか考えてみると言っておいた。
さて、先ほど決意表明を行ったこの世界で生きていく云々だが、そうなってくると色々と考えないといけないことも出てくる。さっき言った安定的な収入源もそうだ。今この研究所には300人近い人間? がいる。収入は多ければ多いほどいい。
他にも、今後この研究所を終の棲家とするのか、別の住みやすい街や国に移動するのかなど。
古代魔法文明の遺跡や遺産についてもシアンさん達は集めたがっている節がある。その辺りも課題だ。
「家については、当分はここでいいだろう。資金もかかっているし住みやすいし。目下の議題は研究開発ギルド主催の発表会だが……」
ブツブツと声に出しながら確認していく。
単純に、俺も何か作品を発表したいというのがある。この世界との繋がりを持つためにその場で知り合いを増やしたりしたいものだ。
そういえば、元の世界のモーターショーやエアショーなんかではモックアップや模型を展示している企業などもあるよな。単純にこういったものを今後作りますと言ってミニチュア模型を飾るのでもいいかも知れない。
俺も学生時代にはプラモデルなんかを作っていた。某二足歩行ロボットと魔物との戦闘シーンなどのジオラマを作ったらインパクトないか?
……そもそも実用化の目処が立たないな。
あー、でも、魔導人形なら作れないか? 魔導人形についてはドットカール博士に色々教えて貰ったりしてるし。アレを戦闘用に出来ないだろうか。ドットカール博士は戦闘にはあまり適さないと言っていたが。
おお、なんかナイスアイデアのような気がしてきた。
ちょっと、この世界のことを考える意味でも何か没頭できるものがあった方がいいのかも知れないし。少しこの案で話してみようかな。
昔から細かな作業は好きだった。子供の頃は夏休みの自由研究や図画工作の時間など夢中になったものだ。
「よし! そうと決まれば早速」
そう言って俺はシアンさん達のいる地下施設に向かったのだが――
『あー! 艦長がいるのん!』
いきなり地下行きエレベーター脇に設置されたモニターに知らない少女が映し出された。
「……誰だ? と言うかどこにいるの?」
『プロキオンは、プロキオンなの。艦長は何をしているの?』
モニターの少女は元気な声で話しかけてくるようだが、誰だこれ? 艦長?
「あ、えーと、シアンさん達に会うため地下に行こうとしているんですが……あなたは?」
『今名乗ったの。〈プロキオン〉なの!』
プロキオン? 誰?
すると、目の前のエレベーター扉が開き中からA2ちゃんが2人降りてきた。
「あ、司令だ。やほー」
「何してるの、司令?」
相変わらず軽い感じで話しかけてくるA2ちゃん達だ。だがありがたい。
「いや、今ここに知らない女の子が、」
そう言ってモニターを指さす。すると振り向いたA2ちゃん達は
「ん? どこ?」
指さしたモニターはいつも通りの待機画面になっていた。え!? 軽くホラーなんですけど……
ようやくあの子が主人公と絡む時が来た。
あの子が登場人物紹介にまだ記載されていないのは設定が完全に固まっていないからです。設定が決まり次第記載します。




