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74話 残酷な現実

 あの後、着替えてからロープを腰に巻き付けると上で待機していたレイヴンさんが引っ張り上げてくれた。

 シアンさんは着替えを持ってくるために降りてきてくれたそうだ。


 その後、村に戻り成果を報告。村人から依頼達成の確認と感謝の言葉をいただいた。


 ちなみにあの遺体の女性であるが、村にたまにやってくる行商人らしい。名前なども村人が知っていた。遺体は村で埋葬して、俺達はギルドに報告することになった。

 生きていた女性は――



「いやー、助かったよ」

「災難でしたね」


 帰路の途中。彼女も行き先はコロッサスだというので一緒に高機動車に乗っている。

 今、俺は2号車に生存者の女性とシアンさんと乗っている。運転は同じくA1、A2ちゃん達だ。

 生存者である彼女、コロッサスで研究している学者兼技術者だという。名前はレイリー=サンダルフォン。外見は10代半ば程度に見えるが25歳らしい。この国にある超有名な教育機関を主席で卒業したと言う事で、その筋では有名らしい。


「それにしてもなぜあんなところに?」

「いやー、フィールドワークの途中だったんだけれど、一緒に来ていた人達とはぐれてしまってね。」


 はぐれた後、一人でいたところをゴブリンに見つかってさらわれたらしい。とはいえ、今回はオーガを頂点とした縦社会を形成していたため、即襲われずに洞窟でオーガの食料として手を出されなかったと思われる。


 まあ、この辺りはデリケートな話題なので触れない方がいいのだろうか。少し話題をそらすことにした。


「そういえば、サンダルフォンさんは学者と言うことですが、やはりコロッサスに研究室を?」

「なんだい。レイリーでいいよ。ケイタ君。私と君の仲じゃ無いか。」


 そんな仲になった覚えなど無いのだが。と言うか出会って未だ数時間しか経っていないはずだ。やけに馴れ馴れしいなこの人。


「まあ、小さなものだが自分の研究所を持っているんだよ。」

「そうなんですか。それで何の研究をしているんですか?」

「色々やっているね。多く時間を割いたのは、魔導人形(オートマタ)や古代魔法文明関係、後は空間渡航に関する研究だね。」


 聞いてみると、小さな研究所のため金策で色々手を出しているらしい。国の教育機関(大学相当)を出ていてそれなりに知識はあるのでちょっとしたことでもお金になるそうだ。

 専門は……3つほどあげていたがそれぞれの関連性が薄いような気がする。


「オートマタですか。俺達の研究所でもそういったことをしようかと思っていたんですよ」

「なんだい? 君も研究者か技術者なのかい?」

「いえ、そこまで深い知識は無いんですけれどね。本業は冒険者なんですけれど、一応、対魔族用兵器の研究所所長って言う肩書きも持っています。」

「へぇ、兵器関連かい。その辺りは扱いが難しそうだね。下手すると貴族に目をつけられたりするしね。」

「ハハハ……」


 と言っても俺は本物の研究者ではないし、研究所もダミーなので曖昧な返事しか出来ない。一応、大学は出ているので、この世界の一般人よりは頭が良いはずなのだが、実際にその知識が役に立つかというと微妙だ。

 貴族に目をつけられると言うのは、人間同士の戦争で使われるかもしれないと言うことだ。この世界では魔族相手だろうと人間同士だろうと戦争というのは武功をあげるチャンスなので。


「えっと、古代魔法文明って言うと、3000年前に滅びたって言う?」

「ああ、遙か昔、魔法により栄華を誇っていた文明が突如滅びた。原因は未だ分かっていない。彼等の文明は今の我々など比較にならないほど発展していたらしい。興味をそそられるよね。各地で遺跡なんかも見つかっているようだけれど、解析はそれほど進んでいない」


 やはり得意分野になると饒舌になるのだろうか。古代魔法文明時代についての見解を述べてくれるのだがいずれも可能性の高いであろう推測でしか無い。

 今周りにいる人達とか乗っているものが古代魔法文明のものだと知ったらどうするのだろうね。まあわざわざ明かす必要も無いのだろうけれど。


「えーと、あと、空間渡航……ですか? それはどういったものなんですか?」

「空間渡航に関する研究かい? まあ転移って言った方が分かりやすいかな。遠くの場所まで一瞬で移動する方法を研究しているんだよ。」


 おお! これって元の世界に関する手がかりになるんじゃ無いの。ちょっと詳しく聞いてみよう。


「へぇ、そういうことって実際に出来るんですか?」

「いや、まだ研究段階で実用化にはほど遠いね。私が知っている限りだと誰も成功していないはずだ。」

「そうなんですか? ちなみに実用化するとすればどのぐらいかかりそうですか?」

「そうだね。早くても後10年はかかるだろうね。」

「そ、そうなんですか……」


 ワープ技術の実用化はまだ先らしい。一応こんな見た目でもこの国最高レベルの頭脳の持ち主らしいし、そこまでずれた予想では無いのだろう。

 うーん、ここで異世界の話を出しても大丈夫だろうか。勇者(東雲君)がいるしそれに関連付けて聞いてみようかな。


「そういえば、アーガス聖王国の勇者の話はご存じですか?」

「ああ、知っているが……今までの話とどういう関係が?」


 やっぱり急な話題転換に戸惑っていらっしゃる。


「勇者って別の世界から来たそうじゃ無いですか。別の世界から移動する技術はあるんじゃ無いんですか? アーガス聖王国と教会がやっているみたいですけど?」

「あー、そのことか」


 レイリー博士が少し渋い顔になる。何かを言おうかと迷っている顔だが、少しした後声を潜めて……声を潜めてもここには俺達以外いないのだが……話し始める。


「……他では言わないでくれよ。ここだけの話、あれインチキなんだ。」

「どういうことですか?」

「実は私の師事していた人がアーガス聖王国の勇者召喚の間を見た事があるんだけれど、古代魔法文明の遺産をそのまま使っているらしいんだ。つまり我々の技術では無いんだよ。」


 な、何だと……


「そ、……それでは、その、今の技術で別の世界に行ったり来たりというのは……」


 恐る恐る聞いてみる。これを聞くと俺にとって不都合な真実というものにぶち当たるかも知れない。だからといって先延ばしにしてもいいものでも無い。


「ああ、研究はしようとはしているらしいんだけれどね。そもそもどこから初めていいのか分からない。1から始めるのに、その1が何か分からないと言った状況で研究を始めるどころじゃないらしいよ。…………どうしたんだい? そんな顔をして?」


 俺はレイリー博士に心配されるような顔をしていたらしい。

 喉が渇いてきた。鼓動も早くなっている。


「い、いや、その……そ、それはレイリー博士の知る限りですよね。知らない国とかで研究が進んでいる可能性は……」

「いやー、無いと思うよ。言ってもここは大陸一の学術都市だしね。」

「そ、そうですか……」


 最後の返事はもう何を言っているのか聞き取れないほどか細い声だった。背もたれに背を預け天井を仰ぐ。あー……手段は無いのか。そうか、無いのか……

 今度は背を丸めて手で頭を支え下を向く。暗い足下が見える。


 泣きたい気分だ。でも泣けない。そういえば最近、泣いたこと無かったな。と取り留めも無いことを考える。


「どうしたんだい、本当に?」

「いや、その…………」


 もう言っちゃうか? 正直に話して協力を仰げば何かしら研究の進展につながるかも知れない。横に座っているはずのシアンさんは何も口を出してこない。

 ここはやはり自分で判断しなければならない。シアンさん達にとってはある意味他人事である。それに困ったときに何でもかんでもシアンさん達任せにするというのも不甲斐ない。


 もう一度天井を仰ぎながら、大きく息を吐き心を落ち着かせる。

 ……落ち着き……はしなかったが多少冷静になれただろう。相変わらず心臓はバクバク鳴っている。


 人間側の技術では別世界の移動方法など夢の又夢らしい。となると後は東雲君達が魔王を倒してくれるのを期待して待つことになるのか。


「なら、魔王を倒すしか無いのか?」

「ん? 魔王?」


 ぼそっと声を出したのを聞かれたらしい。レイリー博士が聞き返してくる。


「あ、その、勇者達は魔王を倒すと元の世界に戻れるみたいな事を聞いたので……」

「何の繋がりがあるのか知らないが、それって『勇者は魔王を倒して元の世界に帰っていきました。めでたし、めでたし』ってヤツだろ。あれ、嘘っぽいよね。誰がどうやって確認したのか不明だし。あそこだけ作り話っぽいし。」

「…………」


 お先真っ暗……


「シアンざーん。うぅ……」


 もうダメだ。耐えられない。心細くなって普通ならあり得ないような行動……シアンさんに抱きついて胸に顔を埋め涙ぐむ。


「主様……お可哀想に……フフフ」


 そう呟き、俺の頭を撫でてくれるシアンさん。その際、シアンさんの目が怪しく光っている事に俺は気付かなかった。


「本当にどうしたんだい?」


 全く訳の分からない俺達の行動に疑問を呈するレイリー博士。


「主様? どうされます?」

「あ、うん。ごめん。それと、ありがとう。」


 俺は一度シアンさんから離れる。心なしかノドがつっかえ鼻の奥がツーンとする。そうしてレイリー博士の方を向くと全てを白状する決心をする。


「実はその、俺、勇者達と同じ世界から来たんです」

「頭大丈夫かい?」


 ガチで頭の心配をされた。心外だ。


「ひどいっ! じゃなくて、本当なんですよ。勇者と一緒に喚ばれた人達が勇者パーティーとして魔王討伐に言っているでしょう。俺も一緒に喚ばれたんですよ!」

「……もし、それが本当だとして、そもそもどうしてこんなところにいるんだい?」


 全く信じていない様子で、まっとうなことを聞いてくるので、俺の現状を説明する。


「えーと、ステータスが低かったんですよ。それで足を引っ張るといけないから自発的に勇者パーティーを抜けたんです。その後は別行動して、現在、元の世界へと変える方法を探している最中なんです! コロッサスへも元の世界へと変える方法を研究していたり実用化していたりする人を探して来たんですよ。」

「ふーん……」


 レイリー博士は半眼でとりあえず頷いている感が半端ない。


「……別に信じなくていいです。信じなくていいですけど、別世界との移動方法について何かご存じありませんか?」


 信じて貰うことは諦めよう。別にどの世界の人間だっていいじゃないか。肝心なのは日本に帰る方法があるかどうかだ。


「いやー、それはさっきも言ったとおり無理。少なくとも向こう100年は無理だろうね。」

「……」


 終わった

はい! と言うわけで少なくとも当分は日本に戻れない事が決定しました。

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