71話 依頼
依頼の村は馬車で半日から1日程度かかると書かれていたが、車で行けば2時間もかからなかった。さすがは軍用車、オフロードでもパワフルに走れる。ほとんど人が居なかったのでスピード出しても問題ないし。
そうしてやってきたのは山間部の小さな村。正直100人居るかどうかと言う規模だ。なお村の位置はレイヴンさんが依頼を受けた際にちゃんと説明を受けていた。俺たちの持っている地図ではこういった小規模な村は記載されていないからな。出発してからそのことに気付いて少し焦ったのは内緒だ。
その村であるが、高機動車で乗り付けたので少々騒ぎとなり、武装した老人に囲まれることになった。
「冒険者様でしたか。これはとんだ失礼を。村長ー、冒険者様が来てくれただよー!」
対応したお爺ちゃんはすぐに武器を下ろし村長さんを呼んでくれた。依頼主である。
その後、村長さんの家にお邪魔して状況を説明して貰った。
事の起こりは30日ほど前、家畜が被害に遭った事。最初は害獣だろうと放置したが、その後何度も同様の事件が発生したため村全体で巡回等を行った結果、村人がオーガとゴブリンと思われる個体を目撃したらしい。(目撃者が冒険者ギルドの魔物図鑑にて確認)
村長が冒険者ギルドへと依頼を出したのが20日前。
最初はすぐに冒険者が来てくれると思っていたが、待てども、待てども、来ない。そんな中、「もう待てない」と勇んで出て行った村人2名が犠牲となったのが5日前。その後さらに2名が犠牲となり現在に至る。
尚、村の年頃の男達は現在、多くが出稼ぎに行っているため村として組織的な抵抗は無理。
冒険者が来てくれなかったのはおそらく依頼料の問題だろう。正直ショボい。小さな村と言う事でこれが精一杯だとのことだが、オーガは体が大きく非常に強い力を持つモンスターであるため冒険者としても3名以上であたりたいところ。さらにゴブリンとはいえ取り巻きがいるのでそこそこの人数が必要だろうが依頼料が必要経費で消える程度しか無いので誰も受けてくれなかったのだろう。
目撃情報としてオーガは1匹でゴブリンは最大12匹。出没日時は「そういえば夜が多い」程度。出現場所として山の方から来ると言うことだけは分かっている。
一通りの情報を聞き出した俺たちは装備を調えるため車に向かう。
「あのう、冒険者様は女子が多いようですが大丈夫でしょうか?」
「ああ、大丈夫ですよ。彼女たち強いんですよ。オーガでも1対1で勝てますよ。」
「そうでしたか。では、おねげーしますだ。」
村長さんは女性が多いので少し心配しているようだったが、俺が問題ないと言うとすぐに信じたようで頭を下げてきた。
ゴブリン程度なら不意打ちだろうが攻撃を食らおうがシアンさん達なら問題ない。
そんなやり取りの間にもそれぞれの準備を整えていく。
A1、A2ちゃん達はいつも通りのアサルトライフルと拳銃装備だ。
レイヴンさん12.7㎜対物ライフルを装備している。今回はこれを使うらしい。
シアンさんはA1ちゃんと同じアサルトライフルを装備。
アークさんとヴァーミリオンさんは車両の見張り兼、万が一入れ違いに村が襲われた際に備えて村で留守番である。ただしアークさんについては無線の指示などを中継する役割を担ってもらわなければならない。
俺は……拳銃1丁といつものミスリルソード。と言ってもゴブリンならこれでもオーバースペックである。オーガにはどの程度の効果かは不明。
そして準備が出来たので村人の案内の元家畜などが襲われたという現場に行くこととなった。
オーガ達が来る方角はある程度決まっているので見回りも限定することが出来る。
「ここら辺ですだ。あっちと、あっちの家の家畜もやられました。あの家は……家人が殺されまして……」
そう、悲しそうな表情をしながら説明してくれる。
「分かりました。この辺りを中心に巡回して、見つけ次第排除しますので。安心して待っていてください。」
「よろしくおねげーしますだ。」
そう言って説明してくれた村人は戻っていく。
俺たちは車のところに戻って作戦タイムだ。
まずアークさんは車の番なので村の待ち伏せ位置で留守番。
オーガ達が来る方角はある程度開けているので巡回と行ったが、待ち伏せでも問題ないだろう。
対象がこの村へと来た場合、まず1番初めにオーガを仕留める。その後、ゴブリンを1匹ずつ仕留めていき、逃げ出したら攻撃をやめる。
これはゴブリンの数が日によってまちまちであるため、わざと逃がして合流させ、そこを一気に叩くという作戦である。またオーガやゴブリンは多少の知能があるため、山の中に巣がある可能性が高い。そこまで案内して貰い対象を殲滅。もし何か巣の中にあった場合(遺品や盗品など)、村長に相談して適切に処理して貰わなければならない。
ちなみに巣の可能性を含めた作戦立案は俺が行った。
そう、俺がやった。
もう一度言おう、俺が立てた作戦だ!
◇◇◇
午後、ある程度開けて見通しの良い場所で待ち伏せしていたが、やってこなかった。まあ、村人の話でも夜が多いということだったし仕方ない。ただし、頻度としてはほぼ毎日出没しているということなので今夜には決着をつける予定だ。
一応、監視漏れがないように順番に夕食をとっていく。村人にはこの位置で張り込むことを知らせ、万が一違う場所で目撃したら知らせてくれるようにお願いした。その際には俺たちが対処するため手出ししないようにとも言い聞かせて(これは村人に被害が出たり乱戦になったりといったことを心配している)。
高機動車を建物の陰に隠れるように配置し、中にはアークさん。建物の上、高い位置からA1103ちゃんが監視中。
そうして山の方を見つめること数時間、夕食も全員とり終わり、辺りも暗くなっている。
村の家々も明かりが消えだした頃、それらはやってきた。
『来ました。前方の森、1時の方向。木々の間から出てきました。』
確認しているのはシアンさんだろう。その声が無線機を通じて聞こえてくる。
そう無線機。現代軍には欠かせない機械である。アークさんがオートドールの管制機能を持っているので高度な通信機能があるのだ。シアンさんたちもそれに相乗りする形で使用している。マリオネットやオートドールは外部端末がなくても無線通信が可能だ。なのでイヤホンのような目に見える形の無線機をつけているのは俺だけだったりする。
『オーガ、1。ゴブリン、6。』
『ゴブリンは全部そろっていませんね。事前の作戦通りに』
『了解』
そういったやり取りをしながら、それぞれが配置につき銃火器を構える。
オーガたちは待ち伏せされていると知らないのか、全く気にしたそぶりも見せずこちらに向かってきているようだ。
ちなみに俺、真っ暗でよく見えません。月明りで数百メートル先は見通せない。暗視ゴーグルは持ってこなかった。というか忘れていたといった方がいい。
魔導ランタンは持ってきているが、つけると気づかれるのでつけられない。
そうしてオーガたちが村にある程度入り込んだところでゴーサインを出す。
『こちらレイヴン、オーガをやる。3…2…1』
12.7mm対物ライフルを持っているレイヴンさんが最初にオーガを倒す。
ドンッ! という音が響いた。続けて2発目、またドンッ! と響く。結構な音量で腹に響く音だ。
なぜ2発かというと、初めて使う武器のため念のため1発目は胸部を狙いどの程度ずれるか確認したらしい。2発目でヘッドショット。レイヴンさん曰く「うひょー! スゲー! いいなライフル!」だそうだ。
『仕留めた。』
『了解。シアンさん、ゴブリンを……左から』
『了解』
ダンッ! ダンッ! ダンッ! と銃声が響いていく。サプレッサーをつけているとはいえ音がここまで聞こえてくる。尚、どうなっているのかは全然見えない。左からと指示を出したが大丈夫だろうか。
「ギギィッ! ギィッ! ギィッ!」
ゴブリンがいる(と思われる)方から鳴き声らしき物が聞こえてくる。同時にバタバタと行った足音も聞こえる。相当慌てている様子だ。
『撃破。撃破。……撃破……右3匹が逃走を開始』
シアンさんの淡々とした声が聞こえてくる。狙い通り射殺したらしい。
『了解しました。アークさんは待機。ヴァーミリオンさんは村長に状況を報告。レイヴンさん、A2ちゃんはこの場で警戒待機。俺、シアンさん、A1ちゃん達で追跡を開始してください。』
そう俺が指示を出すと、全員から了解の返事が聞こえてきた。……やっぱりA1ちゃんの声が聞こえない……
そうして深夜の追跡劇が始まった。




