70話 一狩り行こうぜ! 3
ヴァーミリオンさんがいきなり「ダーリン!」とかいいながら抱きついてきた物だからビビったわ。その後なぜかアークさんも反対側から抱きついてきたし、その後顔を赤くしたシアンさんもやってきた。何があった!?
周りから「なんだアイツ!」「リアルハーレムかよ!」「何、あの冴えない男」とかヒソヒソ話し声が聞こえるし、いたたまれない。
シアンさん達に話しかけていた男性――おそらく初対面――は放心したような顔でこちらを見ていたと思ったらなんか顔真っ赤で怒ったような表情になるし。
依頼も受けたのでそそくさとギルドを後にした。出てくる際に早足だったのは周りの目が気になったからだ。
あと、A1101ちゃんがA220ちゃんの真似をして、背中におぶさってきたのだが……重いのでそろそろ離れて欲しいなぁ
クンクン!
そして、なぜ俺の首の辺りの匂いを嗅いでいるのでしょうか。
そしてギルドから出てきたら――
「おいっ、さっさとしろ!」
高機動車に縄をかけて移動させようとしている集団がいた。
すわっ、レッカー移動か! ……なんて2回目だしさすがに思わない。だって、見たことのある顔がいるんだもの。チョビ髭にカールした髪、太った体に豪華な服。
「あ、悪太!」
ヴァーミリオンさんがその人物を指さしながら名前を呼ぶ。
そう、以前装甲車を持って行こうとしたりヴァーミリオンさんにちょっかいかけたりしたワルターなんとか伯爵だ。
「むっ、貴様等は…………キサマァ!!」
こっちに気付いたワルター伯爵がなんだかいきなり怒り出した。
「お久しぶりです、伯爵。あの、そちらの車は俺たちの物でして持って行かれると困るのですが……」
まあ一応貴族だし、丁寧に話しかける。
そう、この貴族、性懲りも無くまた車を持っていこうとしていたのだろう。今まさに馬に繋ごうかという最中だった。
しかし、俺の方も両腕にヴァーミリオンさんとアークさん、背中にA1101ちゃんがひっついているのでかなり締まらない。
「また貴様かぁっ! 何だ、それは、増えているでは無いか! その首はねてやる! ここで会ったが百年目! 覚悟ぉ!」
そう言うと周囲にいたゴロツキっぽい人達(私兵と言うヤツだろうか?)が携帯している剣を抜いた……って、覚悟!とか言っときながらお前は見てるだけかい!
「まあまあ、お待ちください。実はゴッドハート伯爵からの書状をですね……あれ……ちょっと……動けないので、離れてください。」
俺とて問題を放置していたわけでは無い。ちゃんとゴッドハート伯爵になんとかしてくださいと言いに行った。勿論伯爵本人は仕事で忙しくて対応してくれたのはセバスチャンさんだったが、対応は丁寧で、後日、伯爵の署名の入った書状が送られてきた。
内容は『貴族だからって、私の領地で勝手なことするなよ?』的なことが書いてある。
それを鞄から出そうとしたのだが、両腕をがっちりと固められていてなかなか取り出せなかった。なぜ味方に邪魔されているんでしょうねぇ。
そんなもたついている俺を見逃してくれるはずも無く、
「フフフ、この辺りは警邏はあまりないぞ。残念だったな。だが私も鬼では無い。お前が土下座すれば、そこの娘達を我が側室として迎え、この魔導馬車を迷惑料代わりとし手打ちとしてやってもよい。」
そう言いながら、面識のあるヴァーミリオンさんを最初に眺め、逆隣のアークさんとなめ回すように見ていく。「ウホッ!」とか「うひょひょ!」とか声が漏れている。そうしてシアンさん、レイヴンさんと見て、JC14ちゃん達……も、どうやらストライクゾーンらしくだらしない視線は変わらない。「これはこれで」とか言っている。
「あ、ありました。あのこれを、ゴッドハート伯爵の書状です。」
ようやく鞄から取り出せたゴッドハート伯爵からの書状を、ワルター伯爵に渡す。周囲の私兵は警戒しているようだが、とりあえず危険物では無いと判断されたようで見守られている。
「フンッ! 貴様ごときが貴族と繋がりがあると言うのか!」
怒った風な口調ながらもちゃんと内容を確認したようで、次第に書状をもつ手がプルプルと震えてきた。やがて顔を真っ赤にして怒鳴り散らした。
「クソッ! ゴッドハートのヤツめ! 儂の邪魔ばかりしおってからに! こんな物こうしてくれる!」
そう言うと書状を地面に叩きつけた後、ご丁寧に何度も踏みつけた。
「フンッ、いい気味だ。何が贔屓の冒険者だ! こちらには先生がいるんだ! 先生、出番です!!」
ワルター伯爵は喚き散らした後、声を張り上げて誰かを呼び始めた。先生って言うと時代劇等ではおなじみ、用心棒的なアレだろうか。
私兵の一番後ろにいた人物が人を割り前にやってくる。……うーん服装は私兵の人とは違うようだがどの程度の人物なのかが分からない。
余裕の歩みで前に出てきたというのであれば相応に腕の立つ人物なのだろうか? 真顔でこちらを睨んでいるし顔に刀傷のような物もあるが。
「あー、報償はずんでくださいよ伯爵。てーワケだ。悪いな青年。おとなしく言うこと聞いてりゃ痛い目見ずにすむぜ。」
そう言う先生とやらは非常に落ち着いてこちらに語りかけてくる。おそらく自身の腕に相当な自信があるのだろう。
スキル〈鑑定〉が使用できれば大体の強さが分かるのだが、このスキル、人物に使用する際は緊急時を除き相手の同意が必要になる。もし勝手に〈鑑定〉で相手のステータスを見るのは御法度で、貴族や機密情報を扱う人物に使用した場合、罪に問われたりする。
とはいえ、俺は落ち着いたものだ。だって、目の前の人物。腕に覚えはあるのだろう。
ステータス100(有名人レベル)はあるかもしれないがそれであれば問題ない。強装歩兵で対応できる。
もし、まかり間違って、英雄(ステータス300越え)なんて言われるような人物ならばシアンさん達に対応して貰えばいいし、そもそもそんな人物ならば伯爵程度に仕えているわけは無いのだ。
「〈鑑定〉を使用してもいいですか? もしかしたら戦意喪失するかもしれませんし。」
「そっちからそんな事を言い出すのか? まあいいぜ。」
ダメ元で許可を取ったら、オッケーだった。おそらく相手側は戦力差を理解して戦わなくてもよくなると思っているのだろうが。
そうして〈鑑定〉を使用してみた結果は、なるほどさすがは先生などと呼ばれるだけはある。ステータスはたったの100前後である。
この中で俺にしか勝っていない。まあ胸を張って言うことでも無いが。
「で、どうする? やるのか?」
そう言いながら、先生とやらは腰に差した剣を抜く。比較的細身の剣を両方の腕にそれぞれ持つという、二刀流スタイルのようだ。
「そうですね。大切な人を奪われるのを黙っていられるほどお人好しでは無いので。」
そう言って小首をかしげてみる。
「あ、主様……♡」
「へぇ……//」
「ポイントアップかな……」
「あらあら~」
『大切な人』発言辺りで周りから色々声が聞こえてきたがまあスルーしていいだろう。
「はっ、好きだぜ、そう言うヤツ。……コイツは俺がやる。お前達は周りのヤツを取り押さえろ!」
そう言い切ると先生は両手の剣を構え、こちらにじりじりと近寄りつつ、周囲の私兵に声を投げかける。
その声に周囲の私兵もこちらに攻撃を加えるのか取り押さえるのか分からないが位置取りをし始めた。私兵の方は計5人と多いのか少ないのか分からない。
「主様、ここは我々が」
「そっちの嬢ちゃんが相手をするのか? 冗談か何かか?」
シアンさんが俺に言ったことが耳に入ったらしい。先生とやらが疑問を浮かべる表情をするが足はゆっくりと移動させている。
「あーと……悪いな、俺は指揮官なんだ。A220は“先生”を。A1は私兵! 殺すな! マリオネット組は待機!」
今の指示、めっちゃリーダーっぽくね?
俺は空中で人差し指をクルクルとさせ少し考えると、指揮官として働こうと考えた。格好を付けたいからと言ってステータス100に単騎で挑むほど愚かでは無い。俺はバトルジャンキーや自殺志願者では無いのだ。
リーダーとして適切な判断の元、各員に指示を出す。
「「「了」」」
タタタタッンッ……!!
JC14達は指示の元すぐにホルスターから拳銃を抜き私兵の脚部を打ち抜き無力化していく。
驚いたのは先生とやらだ。A220ちゃんが銃を構えると同時に、すぐにその射線上から回避をし始めた結果、1発目を外したのだ。銃というものを知っているとは思えないが、長年の経験とか言うヤツかな。いずれにしても凄いことである。
「何だっ!? ガッ!」
ただし、すぐに狙いを修正したA220ちゃんにより2発目3発目は足に命中。私兵達と同じように膝を折ることになった。
「な、ななな……」
その光景にワルター伯爵は腰を抜かしたのか尻餅をつき驚愕……いや、恐怖か? 何かそんな表情を浮かべている。
「一応正当防衛なんで。この人達ちゃんと連れて帰ってくださいよ、伯爵」
俺がそうワルター伯爵に言うが、彼は俺の声が聞こえていないのか返事をしない。
もういいや、さっさと行こう。
俺たちは高機動車にかけられていた縄を取り外し、ワルター伯爵をそのまま放置して、いざ依頼の村へと向かうことにした。
とその前に、ワルター伯爵の足下にあったゴッドハート伯爵の書状を拾い上げ土を払う。踏みつけられてクシャクシャになってしまったが、これ再利用できるだろうか?
ちなみに、銃声を聞きつけてギルドから出てきた野次馬が結構居て、俺たちとワルター伯爵のことを噂し始めたりした。




